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9出発

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牛の帽子亭のおばちゃんが、



「ディグがあんなに本気になるのは初めてだから、5年後にまだレーナさんの事を想っていたら考えておくれ。わたしたちは一妻多夫制に賛成だよ」



って胸にドンと手を充てて笑顔で言われても!



「俺は嫌や。夫婦は、二人でえぇやん」



珍しく意見が合うね。私も逆だったら凄く嫌だもん。

ギィギィ草の部屋に戻った私達は、一つのベッドに並んで腰掛け、笑顔のカサトが両手でピースサインを作って私に向ける。それダブルピースだからね。4だからね。



「この話はとりあえず置いといて…。日記見たいんやろ?旅の準備出来次第向かうか?ちょっと、いやかなり遠いけど」



カサトは顎に手をあてて眉を寄せる。



「そうだね。見たい。遠くてもいいから行きたいな。この国から早く出たかったから、準備出来たらすぐ出発したい」



ニコリと笑顔を返した筈だった。



「…そういえば、召喚に巻き込まれし者言うてたな。何でこんなとこにおるん?勇者は一緒におってくれんかったんか?」



作り笑顔がバレた。カサトって人の事よく見ているんだよね。しかも見事に核心をついている。



「…言わなきゃだめ?」

「…言わへんかったらあんな事やこんな事する」

「なにそれ…。そうだな、最初から話すね」



茶化してくれて助かった。カサトは本当に聞き上手だな。

私はここに召喚されてから宿に来るまでを話した。

勝手に召喚したくせに、黒髪黒目のせいで国王たちに忌み嫌われた事。

クラスメイトの少女は勇者で、髪色と瞳の色がこちらに来て変わっていた事。

助けようとしてくれたけど、無理だった事。

広場で出会った少年少女に冒険者ギルドを教えて貰い、色のせいで嫌われた事。

ギルドで宿を教えて貰い、創造魔法で色を変え、生まれ変われた事。



「あ~…創造魔法とか…色々ツッコミたいけど…とりあえず…」



俯いて頭を掻いた後、顔を上げたカサトの目がすっごく怖い事になっている。睨みだけで人が殺せそうだ。

そのままフラリと立ち上がって、



「国王とか殺してくるわぁ」

「ちょー!」



必死に腰に抱きついてもう一度座らせる。

ストンと大人しく座ったから意外だ。



「もういいの!どうして黒目黒髪が嫌われているのかわかったし、創造魔法で色を変えれて、色んな人に優しくして貰った。私は生まれ変わったのよ!国王はまだ憎いけど…!」



どうしてカサトが、傷ついた顔をするの?

私の頭を胸に寄せて優しく抱きしめてくれるの?



「…わかった。俺が勝手にレーナの分まであいつら呪っとく。やから俺の前ではどんなレーナでもえぇんやで。絶対受け入れるから」



駄目だ。涙腺弱くなってるのか、カサトが優しすぎるのか。わからない。

だけどこれだけは言える。カサトは、この世界で私だけの理解者であり、味方だ。





落ち着いた私を見計らって、お互いの事を教え合う事にした。



・カサト:オームラ・人族・28歳・Lv63

・HP3400 ・MP200

・剣士

・ATK5600 ・DEF5100

・INT20・MGR200 



職業:冒険者(Bランク)

スキル:身体強化、剛力、生活魔法、鍛冶、解体

加護:戦神の加護





「どうよ~?中々強いやろ?これに鎧に付与されとる防御力とか剣の攻撃力とか入れたらもうちょっと上がるで」



上機嫌に教えてくれる。名字?がオームラってことは勇者の名前が大村だったからかな。加護持ちは世界にはそんなにいないけど、勇者の子孫だから村のみんなは戦神の加護を持っているらしい。

きっと私の事教えたら腰抜かしかねないな。うん。ちょっと少なく教えよう。



「…自分、異界渡ってんの、俺知ってるんやからな。嘘言いなよ」



うわー!心読まれた。仕方ないか。



・レーナ ・人族 ・15歳 ・Lv1

・HP50(+10000) ・MP100(+15000)

・魔法使い(火・水・風・土・聖)

・ATK5(+10000) ・DEF10(+10000) 

・INT5(+a) ・MGR10(+15000) 



職業:精霊術士

スキル:言語理解、創造魔法、鑑定、隠蔽、生活魔法、回復魔法、危険察知、威圧、魅了、魅了耐性、恐怖耐性、酒豪、睡眠、防壁、遮音、平常心、効果付与、呪詛、採取職人、マッピング、隠密、魔法解除、魔法相殺

加護:創造神の加護、神々の恩恵、精霊女王の加護

称号:世界を統べし者、やさぐれ者



「ちょお待ってや…多すぎやろ…いや…召喚されてるから…古の勇者なんてもっとスキル持ってたし…」



何やら考えこんでしまった。

Lvがまだ1な所がなんとも情けない。

というか、いつの間に覚えたんだろう?この防壁と遮音。覚えがないなぁ。いつの間にかギフトも増えてるし。精霊女王の加護ってなんぞや?

それと今のセリフ、聞き捨てならないなぁ!



「古の勇者って、どうやってスキル覚えたの?」

「ん?日記には図書館で調べたら…って、まさか…!」

「私も覚えたい!今から図書館行ってくる!」

「待って!それ以上俺より強くならんといて!」



静止も聞かず、部屋を飛び出す。ブーツに疾走を付けていて正解だった。

守られるだけじゃ嫌だもんね。覚えられる事は全て覚えたい!使いこなせるかはわからないけど。

一人残されたカサトは心得た。レーナをその気にさせてはいけないと。

ステータスのどの数値も勝てていないのに、少女を惚れ直した事は、言うまでもない。

暇を持て余したくなかったカサトは旅支度をする為、一人寂しい面持ちで商業区へ向かった。





図書館に着き、受付のお姉さんにスキルの本の居場所を聞く。

棚に向かい、『失われたスキル』という本を手にした。

いっぱいあるなー!



『失われたスキル』

・空間転移

・心眼

・無詠唱

・痛覚耐性

・状態異常無効

・即死無効

・気配遮断

・攻撃力倍加

・魔法威力倍加

・杖術



とりあえず役に立ちそうなスキルの文章を、読み、理解しただけで次々と獲得していく。

現在存在していて役に立ちそうなスキルも覚えておこう。



『基本的なスキル』

・魔力察知

・罠察知

・身体強化

・剛力

・調理

・調合



カサト驚くかなー!ルンルン気分で宿へと戻る。





「だから、やりすぎやって、ほんまに勇者さまわぁー!」

「いや、私勇者じゃないし。称号違うでしょ?」

「じゃあ世界を統べし者ってなんやねん」

「…さあ?…もしかしたら私がまっくろドラゴンなのかも…?」

「そ、それはないわ。人族やろ、自分」



称号の事も調べれば良かったかな。

部屋に戻った時はカサトの姿はなく、待っている間に創造魔法で作った衣服を畳んでいたら、帰ってきた。

どうやら旅支度をしに商業区へ手配してきてくれたらしい。

流石に量が多いので、明日取りに行くとのこと。





「そんな強うなってどうするん?俺を守ってくれるんか?」

「そうだね。大事な人は守ってあげられるように強くなるよ」

「…やっと認めてくれたか…」



座っていた手を引かれ、立たされる。

優しい笑顔のカサトと顔が近づいて、キスをされた。





夕食を済ませ、何もしないと言うカサトを信じ、同じ部屋で寝る事にする。

猫の部屋は引き払い、差額の銀貨を受け取る。

何故か涙目のディグに早い方がいいという事で明日旅立つ事を告げると、涙腺が決壊した。5年くらいはここを拠点にしてくれると思っていたみたいだ。それは流石にない。ごめんね、ディグ。

ディグならきっといい人見つかるよ。

ギィギィ草の部屋に入り、カサトの事は、本当に信じているけど。自分の寝るスペースに防壁を使ってみた。



「信用してないわけじゃないからね?」

「…わかっとる」



あまり反発しないって事は、手を出すつもりだったのかな。それとも信じてくれなかったから拗ねたのか。

どちらにせよ心の片隅には信頼度が基準値を達していない。二人きりになったら抱きしめたりキスしてきたり、そんなんで信じられるわけない。好き嫌いで言えば、好きなんだけどな。全てを捧げたいとはまだ思えない。

ま、襲われたら『睡眠』使えばいいんだけど。



「おやすみー」

「おやすみ」



誰かと一緒に寝るのはいつぶりかな。

召喚されて3日。

何故か婚約者が出来てしまったのでした。





朝の気配に目が覚めて。伸びをして目を開ける。

ぐっすり眠れた私の顔を、カサトが覗き込んでいた。



「きゃっ!ちょっと!脅かさないでよ!」

「…だって~…ほんまに寝るんやもん。俺ずっと起きて待ってたのに…初夜ちゃうん、昨日は…」

「違います!大体結婚式もしてないし、指輪の交換だってしてない…!」

「指輪?!そうや、親父とか従兄弟とかもしてたわ…何で忘れてたんやろ…」



口に出して初めて気がついたけど、私って結構ロマンチスト?結婚式挙げたいと思ってるんだ。

カサトがうんうん唸り出したので放っておく。

防壁を解除し、顔を洗った。



「朝食食べて、早く荷物取りに行こう!そのまま出発でしょ?」



昨夜少し打ち合わせして、ちゃんと眠るようにと言っていたのに。

俺は一日くらい寝んでも大丈夫!とかふんぞり返るから、その言葉は信じてローブを羽織った。

フードは外したまま、ディグの元へと向かう。



「…本当に行っちゃうの?」

「うん。部屋の残りの代金、ディグにあげる」

「でも…!」

「色々と迷惑料だから、貰って?」



どうしようかと悩んだ末、私の願いは受理された。

と同時に、



「じゃあ、ドラコにあげたやつ僕にも頂戴!それ持って5年、レーナお姉さんの事ずっと想ってたら、僕の事も考えて!」



最後に爆弾投下された。

実は渡そうと思って昨日作ってはいた。

でもその台詞はカサトの前では言って欲しくなかった!



「ドラコって…ブルードラゴンの?!言い寄られてたんってドラコの事かいな!」



カサトは絶対嫉妬深いと思う。それに束縛も凄そう。



「あげる!けどそういう意味じゃなくて、置き土産みたいな物だから…!…だからね?!」

「うん!ありがとうお姉さん!」



目に涙を溜めて、受け取ったゴムを素早く手首に通す。何の変哲もない黒いゴムだ。嬉しそうに翳したり引っ張ったりする。



「じゃ、ディグ、またね!」

「うん!またね!レーナお姉さん!ついでにカサト!」

「ついでてなんやねん!それに俺は“また”する気ない!」

「大人気ない…後であげようと思ってたのに…」

「え!ほんま?!それはでも他の奴にあげたのと違う種類の……」



階段を降りていく。ディグは見えなくなるまで手を振ってくれていた。



朝食を食べ、おばちゃんと料理を作ってくれていたおじさんに挨拶し、宿を後にする。ついでにギルドにも寄り、ザイードさんに挨拶する。



「…まさかカサトと一緒になるとは…」



頭を掻いて唸っていたけど、カサトが絡みだしたのですぐにギルドを後にした。

旅支度を手配してくれたお店に顔を出し、マジックバックに入れていく。

二人用の広めのテント、携帯食にお水、何故かワイン。お皿にコップ、ナイフ、フォーク、大きめの桶。

全て2つずつというのが何だか照れくさい。

創造魔法で作れそうだけど、それに甘えたらあかんと言われ、この世界にない物は作ろうと留めておく。

でもマジックバックはえぇなぁー!と物欲しそうに言われたので効果付与を使ってカサトが持っていたカバンをマジックバックに変え、数量無限大にする。時間停止は流石に怪しまれるから付けんとってと言われたから、時間経過半減をこっそりつけておいた。私のマジックバックには食料を、カサトのマジックバックには魔物やギルドの依頼分を入れる事にした。



「じゃあ、最初はプロチュインを目指すで!しっかりついてきてや!」

「うん!」



門番にギルドカードを見せ、王都モンデセントを後にした。
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