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同棲編
48.海外研修
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「きゃあ、虫よ!虫!!ジェイク、虫よ!」
「ふふふ。佳敏さん、その虫は無害なので気にしなくて良いですよ」
今、佳敏たちは㬶天の研修も兼ねた海外出張(とは言っても直ぐ近場)で、茶畑を運営している小さな農園にお邪魔している。
先ほど、事務所での話し合いが一通り終わり、今はみんなで茶摘みの体験をさせて貰っているところだ。
茶葉一枚一枚を丁寧に手摘みし、摘んだ茶葉は持たされたかごにどんどん入れていく。
摘みながら、たまにお茶の木にとまって羽を休めている虫たちと遭遇するので、佳敏の叫びはそんな虫を見つけての叫びだ。ちなみに佳敏がジェイクと呼んだ相手はこの農園の当代頭首で、本当の名は杰克という。盧 杰克その人が佳敏にとって目下の想い人である。
「ねぇ、ジェイク、私たちはどれだけ茶葉を摘んでも大丈夫ですか?」
虫を見て思わず地が出てしまった佳敏は慌てて丁寧な言葉で杰克に質問する。
「どれだけでも構いません。人手はいくらあっても困らないので。と、言いたいところですが、みなさん馴れないことでお疲れでしょう?なので飽きてしまったら手を止めていただいて大丈夫です」
「飽きるなんてことを言ったら、ゆくゆく出来上がる美味しいお茶に失礼です。なのでこのカゴいっぱいに入るだけでも手伝わせてください」
謙遜する杰克に獅朗が答える。美云たちも獅朗の意見に賛成し茶摘みを楽しむことにした。
何より、とても良い天気だし暑くも寒くもない日和なので、外で身体を動かすことが気持ち良い。
「ねぇ、獅朗」
「なんですか、美云?もう飽きちゃいましたか?」
美云が小声で話しかけてきたので、獅朗も小声で応答する。
「違う、違う。あのふたり、どう思う?」
美云が言う"あのふたり"とはもちろん佳敏と杰克のことを指す。
「どうって・・・杰克さんはとても芯がしっかりしていていい人ですね」
「まだ会って数時間なのにそんなことわかるの?」
「美云、営業一課で花形社員をしていたあなたが何を言うんですか?」
確かに、と美云は気づく。恋愛ではことさら空気を読めない美云でも、ビジネスでなら鼻が利く。初対面の印象や話し合いでの杰克は素朴ながらも芯の強さがあり、また従業員を何より大事にしている。
「あっ、杰克さんは我が社の理念と同じ意識を持ってるわね」
「ふふ。じゃあ、あとは佳敏さんの頑張り次第じゃないでしょうか?」
「あの僕思ったんですけど・・・」
美云と獅朗の声が聞こえてきたのか、㬶天が二人の近くに寄ってくる。㬶天は何やら言いたいことがあるようだ。
㬶天曰く、今夜は自分達と佳敏さんは別行動にしたら良いんじゃないか?と。
「あら、それ良いかもね。二人きりにしてあげたら喜ぶかも」
と言うことで、美云は一緒に来ている春紅と暁丹の意見も聞くことにし、二人も㬶天の意見に賛成した。
……
「今日はとても貴重な体験ができて良かったです」
茶摘みが終わった後、杰克からお茶に加工するまでの工程を見学しませんか?と誘われて、誘われるがままに見学した後の㬶天が嬉しそうに杰克に感謝を伝える。
「いえいえ。こちらこそ。みなさんが上手に茶摘みをしてくれたので美味しいお茶が作れそうです」
「今日の茶葉がお茶に加工できたらぜひ知らせてください。自分達が摘んだ茶葉が少しでも入ってるお茶なら余計に美味しい気がします」
佳敏も相変わらずビジネスライクな話し方ではあるけれど、杰克と半日一緒に過ごせてご機嫌だ。
「ええ。ぜひ、完成したら佳敏さんにお知らせしますね」
「ありがとうございます!」
「そう言えばみなさん、今日はこちらに滞在するそうですね。良かったら、一緒に夕食いかがですか?」
きっと佳敏が茶摘みをしている間にでも伝えたのだろう。杰克の方から夕飯に誘ってきた。
「折角なんですが、私たちはホテルのディナーを予約してしまっていて。でも、良ければ佳敏さんだけでもお誘い下さい」
獅朗がやんわりと杰克の誘いを断る。
「そうだったんですね。それは残念です。では、良かったら佳敏さんだけでもどうでしょう?」
あまり残念そうではない感じに杰克が言うと、佳敏だけを夕飯に誘う。
「ええ。もちろん、喜んで!ちょっと、ディナーのことなんて・・・」
佳敏は杰克に誘われて喜びつつも、ホテルのディナーの件については聞かされていなかったため獅朗に突っかかろうとする。
だけど、そんな佳敏を見て、獅朗は佳敏にしか分からないようにウインクをする。
「えっ、もしかして、」
「幸運を祈ってますよ」
苦手だった男にウインクをする時が来るとは。
人生は不思議だ、と思いながら獅朗は美云達を連れて農園を後にした。
「ふふふ。佳敏さん、その虫は無害なので気にしなくて良いですよ」
今、佳敏たちは㬶天の研修も兼ねた海外出張(とは言っても直ぐ近場)で、茶畑を運営している小さな農園にお邪魔している。
先ほど、事務所での話し合いが一通り終わり、今はみんなで茶摘みの体験をさせて貰っているところだ。
茶葉一枚一枚を丁寧に手摘みし、摘んだ茶葉は持たされたかごにどんどん入れていく。
摘みながら、たまにお茶の木にとまって羽を休めている虫たちと遭遇するので、佳敏の叫びはそんな虫を見つけての叫びだ。ちなみに佳敏がジェイクと呼んだ相手はこの農園の当代頭首で、本当の名は杰克という。盧 杰克その人が佳敏にとって目下の想い人である。
「ねぇ、ジェイク、私たちはどれだけ茶葉を摘んでも大丈夫ですか?」
虫を見て思わず地が出てしまった佳敏は慌てて丁寧な言葉で杰克に質問する。
「どれだけでも構いません。人手はいくらあっても困らないので。と、言いたいところですが、みなさん馴れないことでお疲れでしょう?なので飽きてしまったら手を止めていただいて大丈夫です」
「飽きるなんてことを言ったら、ゆくゆく出来上がる美味しいお茶に失礼です。なのでこのカゴいっぱいに入るだけでも手伝わせてください」
謙遜する杰克に獅朗が答える。美云たちも獅朗の意見に賛成し茶摘みを楽しむことにした。
何より、とても良い天気だし暑くも寒くもない日和なので、外で身体を動かすことが気持ち良い。
「ねぇ、獅朗」
「なんですか、美云?もう飽きちゃいましたか?」
美云が小声で話しかけてきたので、獅朗も小声で応答する。
「違う、違う。あのふたり、どう思う?」
美云が言う"あのふたり"とはもちろん佳敏と杰克のことを指す。
「どうって・・・杰克さんはとても芯がしっかりしていていい人ですね」
「まだ会って数時間なのにそんなことわかるの?」
「美云、営業一課で花形社員をしていたあなたが何を言うんですか?」
確かに、と美云は気づく。恋愛ではことさら空気を読めない美云でも、ビジネスでなら鼻が利く。初対面の印象や話し合いでの杰克は素朴ながらも芯の強さがあり、また従業員を何より大事にしている。
「あっ、杰克さんは我が社の理念と同じ意識を持ってるわね」
「ふふ。じゃあ、あとは佳敏さんの頑張り次第じゃないでしょうか?」
「あの僕思ったんですけど・・・」
美云と獅朗の声が聞こえてきたのか、㬶天が二人の近くに寄ってくる。㬶天は何やら言いたいことがあるようだ。
㬶天曰く、今夜は自分達と佳敏さんは別行動にしたら良いんじゃないか?と。
「あら、それ良いかもね。二人きりにしてあげたら喜ぶかも」
と言うことで、美云は一緒に来ている春紅と暁丹の意見も聞くことにし、二人も㬶天の意見に賛成した。
……
「今日はとても貴重な体験ができて良かったです」
茶摘みが終わった後、杰克からお茶に加工するまでの工程を見学しませんか?と誘われて、誘われるがままに見学した後の㬶天が嬉しそうに杰克に感謝を伝える。
「いえいえ。こちらこそ。みなさんが上手に茶摘みをしてくれたので美味しいお茶が作れそうです」
「今日の茶葉がお茶に加工できたらぜひ知らせてください。自分達が摘んだ茶葉が少しでも入ってるお茶なら余計に美味しい気がします」
佳敏も相変わらずビジネスライクな話し方ではあるけれど、杰克と半日一緒に過ごせてご機嫌だ。
「ええ。ぜひ、完成したら佳敏さんにお知らせしますね」
「ありがとうございます!」
「そう言えばみなさん、今日はこちらに滞在するそうですね。良かったら、一緒に夕食いかがですか?」
きっと佳敏が茶摘みをしている間にでも伝えたのだろう。杰克の方から夕飯に誘ってきた。
「折角なんですが、私たちはホテルのディナーを予約してしまっていて。でも、良ければ佳敏さんだけでもお誘い下さい」
獅朗がやんわりと杰克の誘いを断る。
「そうだったんですね。それは残念です。では、良かったら佳敏さんだけでもどうでしょう?」
あまり残念そうではない感じに杰克が言うと、佳敏だけを夕飯に誘う。
「ええ。もちろん、喜んで!ちょっと、ディナーのことなんて・・・」
佳敏は杰克に誘われて喜びつつも、ホテルのディナーの件については聞かされていなかったため獅朗に突っかかろうとする。
だけど、そんな佳敏を見て、獅朗は佳敏にしか分からないようにウインクをする。
「えっ、もしかして、」
「幸運を祈ってますよ」
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人生は不思議だ、と思いながら獅朗は美云達を連れて農園を後にした。
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