三十路の恋はもどかしい~重い男は好きですか?~

キツネ・グミ

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同棲編

44.キスだけです

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肌色はありませんが、イチャくらいはする感じです。

......




ーある日の休日ー

「あれ?どうしたの?渋い顔しちゃって」


遅めの朝食を終えてのんびりしていると、獅朗が余り見たことのない険しい顔をしながら手にしたスマホを眺めていた。

美云はキッチンで食後のお茶の準備をしながらリビングのソファで寛いでいるはずの獅朗をチラッと見れば、獅朗が険しい顔をしていたものだから心配して声をかける。

「美云、私のこと心配してくれるんですか?」

獅朗は美云から渡されたカップを受けとりながら、心配する美云ににっこり笑って答える。ポンポンと自分の隣を軽く叩いて美云に隣に座るように促す。もとい、ポンポンされなくても座るつもりでいた美云は腰を下ろすと一緒にお茶を食む。
カップの中は佳敏イチオシのお茶だ。ひとくち飲むと茶葉独特の渋みと甘みと柑橘のような爽やかな香りが二人を包む。ホッと一息できるお茶だ。

「優しいんですね、美云は」

とたんに雄の顔になる獅朗は手にしていたカップをわざとらしくテーブルに置くと美云を抱き締め顔を近づけてくる。

「ダメ。今日は今から思玲と会う約束してるから」 

キスを迫ってくる獅朗の口をぺしんと押さえる美云の手はあっという間に獅朗の手に押さえられ、もう片方の手に握りしめていたカップも取り上げられる。
コトっとテーブルにカップが置かれる音が聞こえた。

「ちょっとだけ・・・」

「ダメです」

「キスだけです」

「ダメだってば」

「直ぐ済みます」

「もう!」

ダメだと言ってるのにまるで捨てられた子犬のような目で迫ってくる獅朗にズルい!反則だ!と思いつつも、拒めない美云は結局最終的には折れて獅朗のおねだりを受け入れる。

優しくリードされて交わす口づけはほのかに爽やかなお茶の香りがした。
けれど、獅朗が言う"キス"が唇だけへのキスでないことは重々承知だ。だから、どうしてこうなったのだろう?と、満足した猫のごとく獅朗が美云を解放した後に原因を思い出そうとしたが、美云には獅朗の雄のスイッチの入り具合は分からなかった。ちなみにこんな時の獅朗の"直ぐ済む"は全く当てにはならないことを美云は肝に銘じている。
銘じているつもりだったのに絆されてしまった弱みというものなのか、普段自分が甘やかされている分、甘えられたら律儀にも甘えさせたい気持ちになって許してしまうのだ。

では、こんな弱い自分が嫌いかと言うと、美云的には嫌いではないしむしろ好きだと言うことに気づく。これが世間で言うバカップルと言うものなのか。でも何と呼ばれようが獅朗を好きだと言うことに嘘偽りは無かった。だいぶ成長したものだ。



結局、思玲との待ち合わせの時間には間に合うはずもなく、美云が時間をずらして行くと連絡をしたら思玲はあっさりとOKしてくれた。

大急ぎで美云が出かける仕度をしていると、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした獅朗が待ち合わせ場所まで車で送ると言ってきたので、美云は獅朗の言葉に甘えて送ってもらうことにした。だって、遅刻の原因が獅朗なんだから遠慮無く甘えよう。


車が走り出してしばらくした時だった。

「今度、東部にハイキングに行きませんか?」

獅朗が遠出をしようと誘ってきた。

「東部だと、紋山がある辺りかな?」

「ええ。紋山だとそれ程標高が高くないので日帰りハイキングに良いと思うんです」

確かに。山並みが波模様のように美しい山は眺めてキレイだし、登って登頂から眺める景色も美しい。

「だけど、どうして東部へ?」

「養父母の家が東部にあります」

つまりは幼い獅朗が育った場所だと言うことか。そう思うと美云は俄然、東部へ行きたくなった。子どもだった獅朗の育った場所を知りたいと思った。

「うん。良いね。行こう東部に!」

「ふふ。そうですね。行きましょう。いつか美云の育った場所にもぜひ行ってみたいです」

「ええ。もちろん行こう」


目的地に着くまでの間は、お互いの育った場所の良さを誉めあい、ハイキング以外にも楽しめる場所や地元の人しか知らないような場所を教えあったりした。

ちなみに美云の実家は獅朗とは反対の西部にある。路臣はもともと都会っ子なのだけど、父親が脱サラして農業を始めると言い出した時に、路臣以外の家族は全員、南部へ引っ越した。

南部のこじんまりしたハイキングコースで偶然出会った二人は、あれよあれよと言う間に運命の輪が廻りだし、今こうして二人一緒に生活するまでになった。

もしかしたら南部には不思議な力でも宿っているのかな?だから地産の食べ物はすごく美味しいのかな?と美云は隠れパワースポットかもしれない場所にもまたいつか獅朗と一緒に二人で行きたいと願った。


「あ、あの子かな?」

獅朗がハンドルを握ったまま身を乗り出して前方を見ている。その先には確かに思玲がいて手を振っていた。


そして、なぜか思玲の隣には緊張した面持ちでこちらを見つめる㬶天が立っている。


美云は獅朗と思わず顔を見つめあってしまった。 
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