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同棲編
42.お茶の美味しい漢方薬局
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本日は思玲の小噺になります。
......
「こちら本日のお薬になります。お大事になさってください」
「思玲、お茶にしようか?新しい茶葉を仕入れたから味見をしよう」
「はーい。やったー!」
ここは漢方薬の薬局で思玲のバイト先でもある。漢方医を目指すわけでもない思玲ではあるが、母親の李莉が病気療養中に何か少しでも元気になれるものを求めていたらこの薬局に辿り着いた。
先生はまだ子どもだった思玲の話もバカにしたりせずに真剣に聞いてくれ、どんな植物にどんな効能があるか、幼い思玲にも分かるように丁寧に教えてくれた。
それから薬局にちょいちょい遊びに来ては勉強させてもらい李莉への薬を買っていく。そんな日々が続いたある日、たまたま受付係りの人が辞めることになり、その後任として思玲が引き継ぎバイトを始めてからもう四年ほど経つ。
「はい、お茶どうぞ」
小さな茶器に注がれる琥珀色のお茶からなんとも良い香が漂う。
「うーん。美味しい」
「うふふ。そうかい、そうかい。美云ちゃんが勤めてる貿易会社が輸入したお茶だよ」
「へぇ。良い仕事するねぇ。あはは」
佳敏さんが張り切ってたのはこのお茶だったのかな?と顔見知りの佳敏を思玲は思い浮かべる。
「そうだねぇ。王財閥のお墨付きになりそうだね」
「そうだ!先生、私その貿易会社の面接受けることにしたんです」
思玲は以前、美云たちの勤める会社で出会った次期社長を思い出す。あれからもちろん連絡はしていない。勿論、㬶天からも連絡は無い。
本気でこの会社で働きたいと言う気持ちがあるのでふざけたことをするのは止めようと誓ったからだ。それに既に働いている美云や路臣に申し訳が立たない。
「そうかい?あそこだったら間違いないねぇ」
「受かったら、ですけどね」
「おや、そんなに弱気な子だったかな思玲は?」
「絶対受かります!」
「そうそう。その意気だよ」
ちなみにこの漢方の先生も元々は財閥の傘下の大きい病院で医師として働いていた。だけど、もっと自分らしく生きたい、もっと東洋の医学を広めたいと独立して現在に至る。
今では逆に財閥から贔屓にされる薬局としてのんびりとやらせてもらっている。
きっとこのお茶も高価なお茶なんだろうなぁと香り高いお茶を口に含みながらひとりごちた。
カラン
入り口に付けている鳴子が来客を知らせる。ちょうど良い。このお茶がウケるかどうか試飲してもらおう。
「思玲、お茶を今入ってきたお客さんにも試飲してもらって」
「はーい」
思玲は奥から新しい茶器を出してくるとお茶を注ぐ。
「いらっしゃいませ。良かったらお茶どうぞ。あっ!」
店内をキョロキョロ見ていた客が振り向いた瞬間、思玲は驚く。なんとそこには㬶天がいたからだ。
「君か」
「はい。あの、お茶良かったら・・・」
ありがとうと礼を言って㬶天がお茶を口に含む。大男の割には動作が美しいと㬶天の所作に思玲はつい見入ってしまう。
「おや、㬶天君かい?いらっしゃい。今日もいつもので良いのかな?それとも少し変えるかい?」
㬶天がいつもので大丈夫と言うと、じゃあ作ってくるから座って待っていて。と先生は奥に引っ込む。
店内には思玲と㬶天の二人きりになった。
「「あのっ」」
しばらく無言が続いてから二人同時に口を開いて言葉がシンクロしてしまったものだからお互いクスリと微笑む。
「思玲さんは今日、仕事終わったら予定はある?」
「無いです」
「じゃあ、嫌じゃなければ僕に付き合ってもらえませんか?」
僕に付き合う?!
㬶天の言葉が思玲の頭の中で何度もこだまする。こ、これはもしかしてデートの誘い??
「私で良ければ喜んで!」
思玲は顔がニヤニヤしそうになるのを必死にこらえてクールに見えますようにと祈りながら答えた。
「良かった!」
うれしそうにしている㬶天は先ほどと一転して子どものように見える。
「おや、お出掛けの予定かな?思玲、良かったら今日は早めに上がっても良いよ。お得意さんは午前中にみんな来たから、後は任せて」
「先生ありがとうございます!では、お言葉に甘えて今帰る準備してくるので㬶天さんは座って待ってて下さい」
まさかこんなところで会うなんて。お得意様なら今まで会わなかったのが不思議だと思いながらも誘われた嬉しさからメイク直しに気合いを入れて㬶天が待ってる店内へ急いだ。
店内に戻ると先生がちょうど調薬が終わったところだったようで会計をしているところだった。
「先生、お先に失礼します。また来週よろしくお願いします!」
思玲は先生に挨拶をするが早いか妙に浮かれた足どりで㬶天と一緒に薬局をあとにした。
「出会いの春だねぇ」
ちなみにこの薬局の名前は『金漢方薬局』
金さんの薬局だから当たり前と言えば当たり前過ぎる名前なのだが、立地が風水学的に良い場所になるようで来るお客さんに幸運をもたらすことが多々あることで有名になってしまった。宝くじが当たったり、良いとこの人と結婚が決まったりと幸運を引き寄せるので長く贔屓になってくれるお客様が多い。
かくいう金先生も宝くじを当てて最近店を新しくしたばかりだ。
思玲も幸運を引き寄せたのかな?人が幸せにしてるのを見るのが一番の好物の金先生は明日もみんなが幸せでありますようにと祈りながら店仕舞いをした。
......
「こちら本日のお薬になります。お大事になさってください」
「思玲、お茶にしようか?新しい茶葉を仕入れたから味見をしよう」
「はーい。やったー!」
ここは漢方薬の薬局で思玲のバイト先でもある。漢方医を目指すわけでもない思玲ではあるが、母親の李莉が病気療養中に何か少しでも元気になれるものを求めていたらこの薬局に辿り着いた。
先生はまだ子どもだった思玲の話もバカにしたりせずに真剣に聞いてくれ、どんな植物にどんな効能があるか、幼い思玲にも分かるように丁寧に教えてくれた。
それから薬局にちょいちょい遊びに来ては勉強させてもらい李莉への薬を買っていく。そんな日々が続いたある日、たまたま受付係りの人が辞めることになり、その後任として思玲が引き継ぎバイトを始めてからもう四年ほど経つ。
「はい、お茶どうぞ」
小さな茶器に注がれる琥珀色のお茶からなんとも良い香が漂う。
「うーん。美味しい」
「うふふ。そうかい、そうかい。美云ちゃんが勤めてる貿易会社が輸入したお茶だよ」
「へぇ。良い仕事するねぇ。あはは」
佳敏さんが張り切ってたのはこのお茶だったのかな?と顔見知りの佳敏を思玲は思い浮かべる。
「そうだねぇ。王財閥のお墨付きになりそうだね」
「そうだ!先生、私その貿易会社の面接受けることにしたんです」
思玲は以前、美云たちの勤める会社で出会った次期社長を思い出す。あれからもちろん連絡はしていない。勿論、㬶天からも連絡は無い。
本気でこの会社で働きたいと言う気持ちがあるのでふざけたことをするのは止めようと誓ったからだ。それに既に働いている美云や路臣に申し訳が立たない。
「そうかい?あそこだったら間違いないねぇ」
「受かったら、ですけどね」
「おや、そんなに弱気な子だったかな思玲は?」
「絶対受かります!」
「そうそう。その意気だよ」
ちなみにこの漢方の先生も元々は財閥の傘下の大きい病院で医師として働いていた。だけど、もっと自分らしく生きたい、もっと東洋の医学を広めたいと独立して現在に至る。
今では逆に財閥から贔屓にされる薬局としてのんびりとやらせてもらっている。
きっとこのお茶も高価なお茶なんだろうなぁと香り高いお茶を口に含みながらひとりごちた。
カラン
入り口に付けている鳴子が来客を知らせる。ちょうど良い。このお茶がウケるかどうか試飲してもらおう。
「思玲、お茶を今入ってきたお客さんにも試飲してもらって」
「はーい」
思玲は奥から新しい茶器を出してくるとお茶を注ぐ。
「いらっしゃいませ。良かったらお茶どうぞ。あっ!」
店内をキョロキョロ見ていた客が振り向いた瞬間、思玲は驚く。なんとそこには㬶天がいたからだ。
「君か」
「はい。あの、お茶良かったら・・・」
ありがとうと礼を言って㬶天がお茶を口に含む。大男の割には動作が美しいと㬶天の所作に思玲はつい見入ってしまう。
「おや、㬶天君かい?いらっしゃい。今日もいつもので良いのかな?それとも少し変えるかい?」
㬶天がいつもので大丈夫と言うと、じゃあ作ってくるから座って待っていて。と先生は奥に引っ込む。
店内には思玲と㬶天の二人きりになった。
「「あのっ」」
しばらく無言が続いてから二人同時に口を開いて言葉がシンクロしてしまったものだからお互いクスリと微笑む。
「思玲さんは今日、仕事終わったら予定はある?」
「無いです」
「じゃあ、嫌じゃなければ僕に付き合ってもらえませんか?」
僕に付き合う?!
㬶天の言葉が思玲の頭の中で何度もこだまする。こ、これはもしかしてデートの誘い??
「私で良ければ喜んで!」
思玲は顔がニヤニヤしそうになるのを必死にこらえてクールに見えますようにと祈りながら答えた。
「良かった!」
うれしそうにしている㬶天は先ほどと一転して子どものように見える。
「おや、お出掛けの予定かな?思玲、良かったら今日は早めに上がっても良いよ。お得意さんは午前中にみんな来たから、後は任せて」
「先生ありがとうございます!では、お言葉に甘えて今帰る準備してくるので㬶天さんは座って待ってて下さい」
まさかこんなところで会うなんて。お得意様なら今まで会わなかったのが不思議だと思いながらも誘われた嬉しさからメイク直しに気合いを入れて㬶天が待ってる店内へ急いだ。
店内に戻ると先生がちょうど調薬が終わったところだったようで会計をしているところだった。
「先生、お先に失礼します。また来週よろしくお願いします!」
思玲は先生に挨拶をするが早いか妙に浮かれた足どりで㬶天と一緒に薬局をあとにした。
「出会いの春だねぇ」
ちなみにこの薬局の名前は『金漢方薬局』
金さんの薬局だから当たり前と言えば当たり前過ぎる名前なのだが、立地が風水学的に良い場所になるようで来るお客さんに幸運をもたらすことが多々あることで有名になってしまった。宝くじが当たったり、良いとこの人と結婚が決まったりと幸運を引き寄せるので長く贔屓になってくれるお客様が多い。
かくいう金先生も宝くじを当てて最近店を新しくしたばかりだ。
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