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発展編
40.お引っ越し
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引っ越すなら雨季が来る前にやってしまおうと言うことになり、美云は荷造り作業を駆け足でやることになった。
途中、ベッドを見に行くことになり、獅朗に連れられて美云も一緒にインテリアショップへ付き添ったが、あれ待てよ?と少し疑問が浮かぶ。
どんな疑問かと言うと、二人は結婚する訳じゃないんだから獅朗が気に入るベッドで良いんじゃないか?と言う疑問だった。他愛もないことではあるが、それとなく獅朗に聞いてみると、例え美云にとっては借り暮らしと言えどしばらくは一緒に住むわけだから買うのも一緒が対等でしょう。と言う返事が返ってきた。
正にこれは美云の誤算であって、獅朗はもとから美云を手離すつもりは毛頭無くて、既にどうやって美云を自分に縛り付けておこうかあの手この手の先の先まで方法を練っていた。
もとい、恋愛に興味の無かった男と恋愛に臆病だった、いやもしかしたら未だに臆病かもしれない女の組み合わせなので、憶測や思い込みで行動するのは間違いや誤解のもとになるだろう。だから、逐一話し合いをしながら二人は手を取り合うことにしている。まだまだ恋人同士としてはよちよちの赤ちゃんだ。
「美云、もうお昼ですよ」
「えっ?もう?」
仕事に集中していたらしい。お腹が空いてることにも気づかずに㬶天と暁丹と三人で熱中していた。
「ほら、ランチに行きましょう」
美云が財布を出そうとデスクの引き出しを開ける間も無く、獅朗は美云の腕を取ると拐うようにエレベーターまで連れていく。
レストランに着けばなぜか楽しそうにしている獅朗と向かい合う形で席に着く。
「獅朗、何か良いことがあったの?」
最近は上司だと言うことも忘れて美云はいつでもどこでも砕けた口調で獅朗と一緒の時間を楽しんでいる。
「ふふ。当ててみてください」
なんだろう?獅朗と知り合って間もなくの時は、美云を一課に引き抜きたくてあの手この手で構われていたけど、今、二人が付き合うようになってからはプライベートでも"構う"を通り越して、甲斐甲斐しく世話を焼かれている。
獅朗の家に泊まれば、朝はコーヒーで起こされるし、服を着せようとするし(断るけれど)、出掛けるときはいつもエスコートしてくれるしで、美云は今まで生きてきた人生で一番に甘やかされていた。にもかかわらず、まるで獅朗が子犬のように懐いてくるイメージがちらついてクスッと笑ってしまう。
「なんですか?笑ってるだけじゃ答えになりませんよ?」
「ふふ。愛されてるなぁって思ったの。当たり?」
「当たりです」
二人して呆けながらこんなくだらない会話をしてる時間がとても愛おしい。それがたまに怖いと思うのは美云が充分に獅朗を愛してないからか?それとも愛しているからなのか?どうか神様、こんなにも楽しい時間を二人から奪わないで下さい。と美云は心の中で何度も祈った。
……
「引っ越し完了!」
「美云、お疲れ様です」
引っ越し当日、長年溜め込んだものをだいぶ捨てたお陰か、荷物もそれほど大量ではなく、なんとか獅朗の家に納めることができた。
「私としては、美云には身ひとつで来てもらっても全然構わなかったんですけどね」
また片付いてない段ボールが置いてあるのを眺めながら二人はキッチンで夕食を取る。
「ダメよ!長く一人暮らしをしていたからお気に入りのものが増えちゃったもの」
「ふふ。そうですね」
「ねぇ、獅朗。ひとつ質問しても良いかな?」
「なんでしょう?」
「その丁寧な話し方はいつから?」
「うーん?自分でもわかりません。でも養父母の家で暮らすようになって、しばらくして気がついたらこんな話し方になってました」
これももとは幼い獅朗にとっての仮面だったのだろうか。
「美云は気になりますか?」
気になると言えば気になる。だけど長い時間をかけて癖のようになってしまったそれはもはや獅朗の一部となっていて、この話し方が獅朗らしい雰囲気を作り出している。
「気にならない、と言えばウソになるけど、この話し方が獅朗らしさになってるから良いんじゃないかな?」
「ええ。それにしても、佳敏さんは今日は遠慮してくれたんですね」
手伝いと称して佳敏が来るのだろうかと思っていたがそうではなかった。大事なところでは大人な対応をしてくれる人と言うことか。
「うふふ。キャットだってそこまで野暮じゃないわ。」
「そうだと良いんですが」
たぶん、これからはちょくちょく佳敏がここにやって来るだろうことを美云は確信している。それを獅朗は気づいているのかいないのか。気づいているとしても今は何も言わないでいた方が良いだろう。
だって今日は引っ越し初日なのだから。
……
発展編はこれにて完了です。
次回より同棲編で二人の物語を紡いでいきます。
途中、ベッドを見に行くことになり、獅朗に連れられて美云も一緒にインテリアショップへ付き添ったが、あれ待てよ?と少し疑問が浮かぶ。
どんな疑問かと言うと、二人は結婚する訳じゃないんだから獅朗が気に入るベッドで良いんじゃないか?と言う疑問だった。他愛もないことではあるが、それとなく獅朗に聞いてみると、例え美云にとっては借り暮らしと言えどしばらくは一緒に住むわけだから買うのも一緒が対等でしょう。と言う返事が返ってきた。
正にこれは美云の誤算であって、獅朗はもとから美云を手離すつもりは毛頭無くて、既にどうやって美云を自分に縛り付けておこうかあの手この手の先の先まで方法を練っていた。
もとい、恋愛に興味の無かった男と恋愛に臆病だった、いやもしかしたら未だに臆病かもしれない女の組み合わせなので、憶測や思い込みで行動するのは間違いや誤解のもとになるだろう。だから、逐一話し合いをしながら二人は手を取り合うことにしている。まだまだ恋人同士としてはよちよちの赤ちゃんだ。
「美云、もうお昼ですよ」
「えっ?もう?」
仕事に集中していたらしい。お腹が空いてることにも気づかずに㬶天と暁丹と三人で熱中していた。
「ほら、ランチに行きましょう」
美云が財布を出そうとデスクの引き出しを開ける間も無く、獅朗は美云の腕を取ると拐うようにエレベーターまで連れていく。
レストランに着けばなぜか楽しそうにしている獅朗と向かい合う形で席に着く。
「獅朗、何か良いことがあったの?」
最近は上司だと言うことも忘れて美云はいつでもどこでも砕けた口調で獅朗と一緒の時間を楽しんでいる。
「ふふ。当ててみてください」
なんだろう?獅朗と知り合って間もなくの時は、美云を一課に引き抜きたくてあの手この手で構われていたけど、今、二人が付き合うようになってからはプライベートでも"構う"を通り越して、甲斐甲斐しく世話を焼かれている。
獅朗の家に泊まれば、朝はコーヒーで起こされるし、服を着せようとするし(断るけれど)、出掛けるときはいつもエスコートしてくれるしで、美云は今まで生きてきた人生で一番に甘やかされていた。にもかかわらず、まるで獅朗が子犬のように懐いてくるイメージがちらついてクスッと笑ってしまう。
「なんですか?笑ってるだけじゃ答えになりませんよ?」
「ふふ。愛されてるなぁって思ったの。当たり?」
「当たりです」
二人して呆けながらこんなくだらない会話をしてる時間がとても愛おしい。それがたまに怖いと思うのは美云が充分に獅朗を愛してないからか?それとも愛しているからなのか?どうか神様、こんなにも楽しい時間を二人から奪わないで下さい。と美云は心の中で何度も祈った。
……
「引っ越し完了!」
「美云、お疲れ様です」
引っ越し当日、長年溜め込んだものをだいぶ捨てたお陰か、荷物もそれほど大量ではなく、なんとか獅朗の家に納めることができた。
「私としては、美云には身ひとつで来てもらっても全然構わなかったんですけどね」
また片付いてない段ボールが置いてあるのを眺めながら二人はキッチンで夕食を取る。
「ダメよ!長く一人暮らしをしていたからお気に入りのものが増えちゃったもの」
「ふふ。そうですね」
「ねぇ、獅朗。ひとつ質問しても良いかな?」
「なんでしょう?」
「その丁寧な話し方はいつから?」
「うーん?自分でもわかりません。でも養父母の家で暮らすようになって、しばらくして気がついたらこんな話し方になってました」
これももとは幼い獅朗にとっての仮面だったのだろうか。
「美云は気になりますか?」
気になると言えば気になる。だけど長い時間をかけて癖のようになってしまったそれはもはや獅朗の一部となっていて、この話し方が獅朗らしい雰囲気を作り出している。
「気にならない、と言えばウソになるけど、この話し方が獅朗らしさになってるから良いんじゃないかな?」
「ええ。それにしても、佳敏さんは今日は遠慮してくれたんですね」
手伝いと称して佳敏が来るのだろうかと思っていたがそうではなかった。大事なところでは大人な対応をしてくれる人と言うことか。
「うふふ。キャットだってそこまで野暮じゃないわ。」
「そうだと良いんですが」
たぶん、これからはちょくちょく佳敏がここにやって来るだろうことを美云は確信している。それを獅朗は気づいているのかいないのか。気づいているとしても今は何も言わないでいた方が良いだろう。
だって今日は引っ越し初日なのだから。
……
発展編はこれにて完了です。
次回より同棲編で二人の物語を紡いでいきます。
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