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発展編

33.親バカと大切な人

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何気ないいつもの日常の話になります。


......




少しは自分の思いが美云に届いただろうか?これまでからかうようなことばかりしていた自分を獅朗は後悔する。

大切にしたいのは養父母だけじゃない。美云も大切にしたいと今でははっきりと自覚している。
時間がかかっても良いから思いを美云に伝えよう。偽りの無い姿で。

「獅朗さん、おはようございます」

「おや、㬶天君。早いね」

少し早めに出勤した獅朗は人気のない執務室で海外の取引先とウェブ会議をしていたのだが、これまた早く出勤してきた㬶天に声をかけられる。

「来月から新卒の説明会が始まるので、その手伝いも兼ねて」

㬶天は来年四月に入社希望の学生向けのオリエンテーションで一役買う予定だ。面接もしたいと張り切っている。

研修が始まる前は㬶天が果たして上手くこなせるかどうか疑問だったが、やはりあの社長と社長夫人の血を引いているだけある。きっと次世代の社員をグイグイ引っ張ってくれる良きリーダーとなってくれるだろう。

「おはようございます」

始業時刻が近くなり、どんどん人が執務室に入ってくる。
眠たそうにしている暁丹、なぜかニヤニヤ顔をこちらに向けてくる佳敏、どうやら走ってきたらしい美云がはぁはぁと息を切らしながら入ってくる。

「お、おはようございます」

「あ、美云さん、おはようございます」

ちらりと獅朗の方を見る美云に会議中のため手を振って挨拶すると、美云は㬶天に話しかけられて何やら熱心に話し始める。きっと㬶天の質問責めにあってるのだろう。二人とも、仕事に貪欲な姿勢が周りに良い刺激を与えていると思う。



……


昨日の今日で、獅朗に対する意識が良い意味で変化した美云は、出勤すれば獅朗に会えることを楽しみにしていた。
社内恋愛のできる会社で本当に良かったと思う。

デスクに着いてすぐに㬶天に話しかけられ質問責めにあうも、質問に答えている時ですら昨夜のことを思い出してニヤニヤしそうになる。いけない、いけない。気を引き締めないと。

獅朗の方へ目を向けるとヘッドセットを付けて会議中のようだ。海外の時間に合わせて早朝だったり夜だったり、相手先の都合に合わせてやる場合がある。いずれ、㬶天にも実践してもらうことになるだろう。

毎年行う学生向けの会社説明会での営業一課の担当は、いつもなら一課に異動したてのルーキーや、三年、五年と腰を落ち着けている者が担当する。加えて、今年は将来会社を引っ張っていく㬶天がいるわけだから、もちろん㬶天にも説明する側として参加してもらうことになった。

「そう言えば、うちの姪っ子もここの面接受ける予定だって言ってたな」

来月から四年生になる思玲は美云と路臣がいるこの会社に興味津々だ。

「何課希望なんですか?」

「よりにもよって秘書課希望よ。もしかしたら将来、㬶天君の秘書になるかもね」

「美云さんのご親戚なら期待できそうですね」

でも大威ダウェイの娘だ。親バカな大威が娘に悪い虫が付かないようにと就活すら阻止しようとするかもしれない。美云はあとで李莉に話して釘を刺してもらうことにした。


……


海外の取引先との会議が終わりティーブレイク中の獅朗は久々に養父母の元へ帰った日のことを思い出していた。

二人は獅朗が家に入ってきたとたんに両腕を広げて大歓迎をしてくれた。二人に同時に抱き締められてどれだけ養父母たちに愛されていたのか、いや愛されているのかやっと実感ができた。

二人に思いきって、大切に思える人ができたことを知らせると目を丸くして驚いた後に、心なしか喜んだ顔で互いを見合っていた。

驚くのは無理もないだろう。これまでそんな話を一度もしたことがないし、心の傷を隠すため周りに壁を作っていたのだから、大切だと思える人など作れなかった。

それがここに来て突然息子がこんなこと言えば二人の反応は想像できたことだ。
相手についてたくさん根掘り葉掘り質問責めにあったが、こんな時間を獅朗は嫌いではないと思った。何より、美云について二人に話をできることが誇らしいと感じたくらいだ。

養父にはぜひ連れてきなさいと言われたし、養母は目にうっすらと涙を浮かべて養父の言葉に相槌を打つようにうんうんと頷いていた。

美云に一緒に実家へ行ってくれないか誘ったらどんな反応を示してくれるだろうか。きっと、目を真ん丸にして驚くだろう。たぶん、もう少し絆すことの方が先かもしれない。

獅朗はそんな思いを抱きながら美云の席まで行こうとするが、その姿を目ざとく見ていたのか佳敏が忍者のように忍び足で近づいて来るのが見えた。

「ちょっと、ちょっと、獅朗、昨日のおデートはどうだったのよ?」 

なぜかコソコソと小声で佳敏が話しかけてくる。

「ふふ。なんのことでしょう?」

「ちょっと、何よしらばっくれちゃってかわいくない」

「私にかわいげがないのはいつものことでしょう?」

ふふっと獅朗が笑えば、佳敏はキョトンとした顔をしたあとにプッと吹き出す。

「ねぇ、その顔、自分で見てごらんなさいよ。獅朗、アンタ、すごくかわいい顔してるわよ。ねぇ、美云?」

えっ何?と振り返る美云は獅朗の顔を見てプッと笑う。

「本当だ。子どもみたいな笑顔でかわいいです」

いったい、今までと何が違うのか獅朗自身分からなかったけど、今までだったら"何を考えているのか全く分からない笑顔"という称号をもらっていたので、子どものような笑顔と言われても悪い気はしなかった。

で?どうだったのよ?としつこく言ってくる佳敏から逃げるため、と言うよりも美云と他愛ない話をちょっとでもしたくて、獅朗は美云の手を引いて執務室から逃げ出した。

その姿をあっけにとられて見ている佳敏と㬶天をその場に置いて。


その後、二人はなんだかちょっと良い関係らしいと言う噂が聞こえてきたのはそう遠くない未来でのこと。


……


まだ付き合ってない・・・


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