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発展編
30.愛が途方に暮れるから
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前半重いですが、後半から軽めにいきます!
……
結局、獅朗は火曜日と水曜日も休み、木曜日にやっと出勤する気になった。
休みの間は、妙にソワソワして片時も側を離れないジンとドライブしたり、カフェで寛いだり、映画を観たり普段通りのことをしていたが、気を抜くとつい美云のことを考えていた。
ハイキングに出かけた山の麓でなぜかこの人を見失ってはいけない気がしたこと。
翌日にはまさかの職場で美云を見つけたこと。
ご令息の研修を押し付ける名目でやたら執着したこと。
おまけに・・・成徳の言葉。
愛したって良いんだ・・・
ずっと目を逸らしてきた愛をどう手に入れたら良いのか。
答えが見つからない。
いや、それとも自分が難しく考えすぎているだけなのか。
獅朗は、珍しく自分が途方に暮れていることに気がついた。
「母さん、愛するって苦しいね」
「父さん、人を愛する方法を教えてもらえば良かった」
もちろん二人から返事は返ってこない。そんなことは分かりきっているけれど、どうしても声に出して言いたかった。もし二人が生きていたのならどんな助言をくれただろうか。
幼い頃の記憶が曖昧になっていてもなお両親が恋しくてしょうがなかった。
ピロン
獅朗が空に放った問いに答えるようにスマホから通知音が鳴る。見てみると、養父からのメールだった。
"獅朗、最近、元気にしてるかな?母さんが顔見たがってるからたまには帰っておいで"
養父母は母方の遠い親戚で子どものいない夫婦だった。十年がんばったけどできなくて、もう夫婦二人だけで生きていこうとしていた時に、獅朗の両親が不慮の事故で亡くなったことを知ったという。
その後、祖父母が小さな男の子の面倒を見るには体力に限界を感じていたところに手をさしのべて来てくれた。
いやむしろ逆で、養父母からは獅朗の両親から大切な子どもを任されたと言っていた。
とても温和な夫婦でまるで本当の息子のように愛してもらったと思う。いや、それ以上に愛されていたはずだが、もうその頃には獅朗の心は閉ざされて、養父母から注がれる愛を、偽の笑顔を顔に貼り付けて捨ててしまっていた。
なんてバカだったんだろう。
追い求めているものはもう一生手に届かないところへ行ってしまったと言うのに。
一心に愛を注いでくれる養父母を裏切るようなことをずっとしていたのだ。
心の傷を隠すため。
笑顔の仮面を貼り付けて。
でもこれからは。
生きている限り、一生をかけて養父母を愛そうと心に誓った。
"週末帰ります。ジンも連れていきますが犬は大丈夫ですか?"
養父にメールを返信するとずっと待っていたのか直ぐに返信が来る。
"ああ。お前の愛犬に合うのも楽しみにしているよ"
養父とのやり取りを終えると、獅朗は会社に行く準備を始めた。
………
見られている?
いや、気のせいかな?
いや、やっぱり見られている!
獅朗が半休を取った日から二週間程が経ったある日、美云はずっと見張られているような視線を感じてソワソワしていた。
㬶天が一課で研修中のため稀に社長が遊びに来ることがあり、社長がまた来たのかと視線を感じる方向へ目を向ければ獅朗と目が合う。
あれ?社長は来てないらしいとまた仕事に戻るもやはり視線を感じる。で、再び視線を向けると獅朗と目が合う。いったい何なんだろう。
「よっ!姉貴!」
路臣が手を振りながらやって来るのが見えた。
「美云さんには弟さんがいるんですか?」
㬶天は似ても似つかない二人を交互に見やる。
「正確には甥っ子です。年が近いのでおばさんではなく姉扱いになってます」
「そうなんですね」
「て言うか獅朗さん大丈夫なの?魂どっか行ってるみたいになってるけど」
路臣が獅朗を指差す。
ああ。それは気づいている。何か心ここにあらずだったり、美云を穴が空くくらいに一心に見つめていたり。
「たぶん、お疲れなのよ」
「そう言うこと?」
まぁ、良いか?と路臣は大好きな春紅の元へ行ってしまった。
そうこうしているうちに㬶天が獅朗の元へ行くと何やら少し話をした後に獅朗の肩を揉みだした。その姿は母親を気遣う大きな子どものようで、もしかしたら独りっ子の㬶天は獅朗を兄のように慕っているのかもしれない。
だから一課での研修を自ら望んだのかな。美云には何となくそんな気がした。
その後、美云は路臣が自分の部署へ戻る時に、今夜一緒にご飯食べようかと誘ってみたら、路臣からは春紅と約束があるからと断られてしまった。
ちょっと残念だったけど、路臣の恋路の邪魔はしたくないし、良い具合に二人の関係も進んでいるようだ。
じゃあ、どうしようかな?と悩んで自分もデートみたいなことをしたいとスマホを取り出す。
『今夜空いてますか?』
『はい。空いてますよ』
『一緒に食事に行きませんか?』
しばらくしても返事が来ず、あれダメだったかな?とスマホを眺めているとメールを送った相手が目の前にいた。
「良いですよ」
何だか子どもみたいな笑顔の獅朗が目の前に立っていた。
......
明日も早朝6時頃に投稿予定です。
……
結局、獅朗は火曜日と水曜日も休み、木曜日にやっと出勤する気になった。
休みの間は、妙にソワソワして片時も側を離れないジンとドライブしたり、カフェで寛いだり、映画を観たり普段通りのことをしていたが、気を抜くとつい美云のことを考えていた。
ハイキングに出かけた山の麓でなぜかこの人を見失ってはいけない気がしたこと。
翌日にはまさかの職場で美云を見つけたこと。
ご令息の研修を押し付ける名目でやたら執着したこと。
おまけに・・・成徳の言葉。
愛したって良いんだ・・・
ずっと目を逸らしてきた愛をどう手に入れたら良いのか。
答えが見つからない。
いや、それとも自分が難しく考えすぎているだけなのか。
獅朗は、珍しく自分が途方に暮れていることに気がついた。
「母さん、愛するって苦しいね」
「父さん、人を愛する方法を教えてもらえば良かった」
もちろん二人から返事は返ってこない。そんなことは分かりきっているけれど、どうしても声に出して言いたかった。もし二人が生きていたのならどんな助言をくれただろうか。
幼い頃の記憶が曖昧になっていてもなお両親が恋しくてしょうがなかった。
ピロン
獅朗が空に放った問いに答えるようにスマホから通知音が鳴る。見てみると、養父からのメールだった。
"獅朗、最近、元気にしてるかな?母さんが顔見たがってるからたまには帰っておいで"
養父母は母方の遠い親戚で子どものいない夫婦だった。十年がんばったけどできなくて、もう夫婦二人だけで生きていこうとしていた時に、獅朗の両親が不慮の事故で亡くなったことを知ったという。
その後、祖父母が小さな男の子の面倒を見るには体力に限界を感じていたところに手をさしのべて来てくれた。
いやむしろ逆で、養父母からは獅朗の両親から大切な子どもを任されたと言っていた。
とても温和な夫婦でまるで本当の息子のように愛してもらったと思う。いや、それ以上に愛されていたはずだが、もうその頃には獅朗の心は閉ざされて、養父母から注がれる愛を、偽の笑顔を顔に貼り付けて捨ててしまっていた。
なんてバカだったんだろう。
追い求めているものはもう一生手に届かないところへ行ってしまったと言うのに。
一心に愛を注いでくれる養父母を裏切るようなことをずっとしていたのだ。
心の傷を隠すため。
笑顔の仮面を貼り付けて。
でもこれからは。
生きている限り、一生をかけて養父母を愛そうと心に誓った。
"週末帰ります。ジンも連れていきますが犬は大丈夫ですか?"
養父にメールを返信するとずっと待っていたのか直ぐに返信が来る。
"ああ。お前の愛犬に合うのも楽しみにしているよ"
養父とのやり取りを終えると、獅朗は会社に行く準備を始めた。
………
見られている?
いや、気のせいかな?
いや、やっぱり見られている!
獅朗が半休を取った日から二週間程が経ったある日、美云はずっと見張られているような視線を感じてソワソワしていた。
㬶天が一課で研修中のため稀に社長が遊びに来ることがあり、社長がまた来たのかと視線を感じる方向へ目を向ければ獅朗と目が合う。
あれ?社長は来てないらしいとまた仕事に戻るもやはり視線を感じる。で、再び視線を向けると獅朗と目が合う。いったい何なんだろう。
「よっ!姉貴!」
路臣が手を振りながらやって来るのが見えた。
「美云さんには弟さんがいるんですか?」
㬶天は似ても似つかない二人を交互に見やる。
「正確には甥っ子です。年が近いのでおばさんではなく姉扱いになってます」
「そうなんですね」
「て言うか獅朗さん大丈夫なの?魂どっか行ってるみたいになってるけど」
路臣が獅朗を指差す。
ああ。それは気づいている。何か心ここにあらずだったり、美云を穴が空くくらいに一心に見つめていたり。
「たぶん、お疲れなのよ」
「そう言うこと?」
まぁ、良いか?と路臣は大好きな春紅の元へ行ってしまった。
そうこうしているうちに㬶天が獅朗の元へ行くと何やら少し話をした後に獅朗の肩を揉みだした。その姿は母親を気遣う大きな子どものようで、もしかしたら独りっ子の㬶天は獅朗を兄のように慕っているのかもしれない。
だから一課での研修を自ら望んだのかな。美云には何となくそんな気がした。
その後、美云は路臣が自分の部署へ戻る時に、今夜一緒にご飯食べようかと誘ってみたら、路臣からは春紅と約束があるからと断られてしまった。
ちょっと残念だったけど、路臣の恋路の邪魔はしたくないし、良い具合に二人の関係も進んでいるようだ。
じゃあ、どうしようかな?と悩んで自分もデートみたいなことをしたいとスマホを取り出す。
『今夜空いてますか?』
『はい。空いてますよ』
『一緒に食事に行きませんか?』
しばらくしても返事が来ず、あれダメだったかな?とスマホを眺めているとメールを送った相手が目の前にいた。
「良いですよ」
何だか子どもみたいな笑顔の獅朗が目の前に立っていた。
......
明日も早朝6時頃に投稿予定です。
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