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発展編
25.不可抗力
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キャットが佳敏だったり、キャットだったり、わかりづらかったらごめんなさい。
キャットと佳敏は同一人物です。
.........
「あらぁ」
噂をすればなんとやらだわ。と佳敏は前方から走ってくる獅朗を見る。仕事中の会話からどうやら家が近いようなことは知っていたけど、偶然に会うのは初めてだった。
「なぁに?飼い犬にフラれたわけ?」
「ちょっと、キャット!」
「まぁ、そんなものですよ」
息ひとつ上げず美云たちのもとにやって来た獅朗は、見ると肩から何かを背負っていた。聞けば、犬用のスリング(抱っこ紐)だという。
「散歩中に急に歩かなくなる時があって。抱えるよりも、これの方が楽なんです」
今日も散歩途中に飽きたのか歩くのを止めて仕舞ったので、スリングで抱っこして帰ろうとしたら急に走り出してしまったという。
「あらぁ、それって美云の匂いを嗅ぎとって走ってきちゃったのかしらね?」
「犬は人間の何倍も鼻が利くようなのでそうかもしれません」
ちょっと、やけに素直じゃない?かわいいわ。と佳敏は獅朗の返答にニヤリとする。まぁ、ちょうど良いかもね。と獅朗が胸に垂らしているスリングに美云が一生懸命にジンを入れようとしている姿を見やる。
「ねぇ、ちょうど良かったわ。今から美云と食事に行くんだけど、獅朗、アンタもどう?」
「ご一緒したいのはやまやまですけど、ジンを連れてますから。ペットOKじゃないと・・・」
もちろん、佳敏たちが行こうとしていた店はペットは入れない。さて、どうしようかしらね。と頭を捻って何か案を出そうとしたら美云が口を開く。
「じゃあ、ペットOKなお店に行けばいいんじゃない、キャット?イケメンのお店はまた今度にして」
「イケメン、ですか???」
胡散臭そうな表情で獅朗が佳敏を見る。そんな店に美云まで連れてく気だったのか?とひとこと言いたそうな顔をして。
「そぅよ。アタシの好物はイケメンだってアンタも知ってるでしょ?もう。しょうがないわね。じゃあ、獅朗、アンタがいつも行くとこ行きましょ。」
もしかしたら、イケメンがいるかもしれないし~と佳敏が目をキラキラと輝かせている。
ため息をつきつつ、じゃあこっちです。と獅朗が二人を案内する。
「そう言えば、プライベートで獅朗に会うのは初めてね。なんか、アンタも人だと分かって安心したわ」
「ちょっと、キャット!失礼でしょ?」
「だってぇ、仕事中はいつも表情ひとつ変えないロボットみたいなんだもの」
でも確かに。仕事中は優男スマイルが顔に張りついているのか、そもそも元から笑ってるような顔立ちなのか、怒ってる時すら笑顔に見える。と美云は獅朗をチラリと見ると、やっぱり笑顔だしスリングにぶら下がってるジンもうれしそうにこちらを見ている。
「私も佳敏さんはプライベートでも佳敏さんなんだとわかってうんざりしてますよ」
「ふふん。何言われても怖くないわよー」
まるで子どもがケンカしてるように大人の男たちが言い合ってるうちにだいぶ景色が変わり、人ゴミから静かな路地に入っていく。
まだ少し明るいけれど直に夜になれば歩きにくそうだなぁと美云はキョロキョロしながら男二人の後ろを歩いていく。
「美云、夜になればランプシェード型のかわいい街灯が着くので安心ですよ」
ほらそこに、と頭上を指差す獅朗。
獅朗の指差した方向を見ながら歩いていた美云は、不意に何かに足をとられ転けそうになる。
きゃあと言いながら転ばないように何かに掴まろうと咄嗟に手を伸ばしたと同時に獅朗が振り向きざまに受け止め事無気を得た。
・・・のは良いのだけど、なぜかそのままの勢いで美云はジンを間に挟むかたちで獅朗の胸に思いっきりダイブしてしまい、結局、二人と一匹が一緒に道の真ん中にずっこけてしまった。
衝撃に驚きつつも、ふと唇に何か暖かいものを感じる。そう思った美云はあわててガバッと起き上がると、獅朗の片方の口角にバッチリと口紅の跡を残していた。
運良くなのか運悪くなのか、獅朗を下敷きにして道の真ん中に倒れた挙げ句、おまけに不可抗力とは言えキスまでしてしまうとは。
「ちょっとぉ、そこのお二人さん、何ラッキースケベ楽しんでるのよ?」
全くもう、と言いながら佳敏は顔を真っ赤にしている美云を獅朗からひっぺがす。
「獅朗、アンタも早く起き上がりなさいよ」
ワンワン!と吠えるジンは何か楽しいことが起こるのかとひとり楽しそうだ。
確かに美云は恋をしたいとは言った。
言ったけれど、恋仲ではない相手に自分からキスしてしまってひどく動揺し、獅朗の顔をまともに見れなくなって佳敏の背中に隠れる。
獅朗はそんな美云をかわいいと思った。
改めて考えてみると、今まで付き合ったことのある女性に対して一度も思ったことのない感覚が現れて驚く。
先ほど佳敏に自分も人だと分かって安心したと言われた訳が何となく理解できた気がした。
キャットと佳敏は同一人物です。
.........
「あらぁ」
噂をすればなんとやらだわ。と佳敏は前方から走ってくる獅朗を見る。仕事中の会話からどうやら家が近いようなことは知っていたけど、偶然に会うのは初めてだった。
「なぁに?飼い犬にフラれたわけ?」
「ちょっと、キャット!」
「まぁ、そんなものですよ」
息ひとつ上げず美云たちのもとにやって来た獅朗は、見ると肩から何かを背負っていた。聞けば、犬用のスリング(抱っこ紐)だという。
「散歩中に急に歩かなくなる時があって。抱えるよりも、これの方が楽なんです」
今日も散歩途中に飽きたのか歩くのを止めて仕舞ったので、スリングで抱っこして帰ろうとしたら急に走り出してしまったという。
「あらぁ、それって美云の匂いを嗅ぎとって走ってきちゃったのかしらね?」
「犬は人間の何倍も鼻が利くようなのでそうかもしれません」
ちょっと、やけに素直じゃない?かわいいわ。と佳敏は獅朗の返答にニヤリとする。まぁ、ちょうど良いかもね。と獅朗が胸に垂らしているスリングに美云が一生懸命にジンを入れようとしている姿を見やる。
「ねぇ、ちょうど良かったわ。今から美云と食事に行くんだけど、獅朗、アンタもどう?」
「ご一緒したいのはやまやまですけど、ジンを連れてますから。ペットOKじゃないと・・・」
もちろん、佳敏たちが行こうとしていた店はペットは入れない。さて、どうしようかしらね。と頭を捻って何か案を出そうとしたら美云が口を開く。
「じゃあ、ペットOKなお店に行けばいいんじゃない、キャット?イケメンのお店はまた今度にして」
「イケメン、ですか???」
胡散臭そうな表情で獅朗が佳敏を見る。そんな店に美云まで連れてく気だったのか?とひとこと言いたそうな顔をして。
「そぅよ。アタシの好物はイケメンだってアンタも知ってるでしょ?もう。しょうがないわね。じゃあ、獅朗、アンタがいつも行くとこ行きましょ。」
もしかしたら、イケメンがいるかもしれないし~と佳敏が目をキラキラと輝かせている。
ため息をつきつつ、じゃあこっちです。と獅朗が二人を案内する。
「そう言えば、プライベートで獅朗に会うのは初めてね。なんか、アンタも人だと分かって安心したわ」
「ちょっと、キャット!失礼でしょ?」
「だってぇ、仕事中はいつも表情ひとつ変えないロボットみたいなんだもの」
でも確かに。仕事中は優男スマイルが顔に張りついているのか、そもそも元から笑ってるような顔立ちなのか、怒ってる時すら笑顔に見える。と美云は獅朗をチラリと見ると、やっぱり笑顔だしスリングにぶら下がってるジンもうれしそうにこちらを見ている。
「私も佳敏さんはプライベートでも佳敏さんなんだとわかってうんざりしてますよ」
「ふふん。何言われても怖くないわよー」
まるで子どもがケンカしてるように大人の男たちが言い合ってるうちにだいぶ景色が変わり、人ゴミから静かな路地に入っていく。
まだ少し明るいけれど直に夜になれば歩きにくそうだなぁと美云はキョロキョロしながら男二人の後ろを歩いていく。
「美云、夜になればランプシェード型のかわいい街灯が着くので安心ですよ」
ほらそこに、と頭上を指差す獅朗。
獅朗の指差した方向を見ながら歩いていた美云は、不意に何かに足をとられ転けそうになる。
きゃあと言いながら転ばないように何かに掴まろうと咄嗟に手を伸ばしたと同時に獅朗が振り向きざまに受け止め事無気を得た。
・・・のは良いのだけど、なぜかそのままの勢いで美云はジンを間に挟むかたちで獅朗の胸に思いっきりダイブしてしまい、結局、二人と一匹が一緒に道の真ん中にずっこけてしまった。
衝撃に驚きつつも、ふと唇に何か暖かいものを感じる。そう思った美云はあわててガバッと起き上がると、獅朗の片方の口角にバッチリと口紅の跡を残していた。
運良くなのか運悪くなのか、獅朗を下敷きにして道の真ん中に倒れた挙げ句、おまけに不可抗力とは言えキスまでしてしまうとは。
「ちょっとぉ、そこのお二人さん、何ラッキースケベ楽しんでるのよ?」
全くもう、と言いながら佳敏は顔を真っ赤にしている美云を獅朗からひっぺがす。
「獅朗、アンタも早く起き上がりなさいよ」
ワンワン!と吠えるジンは何か楽しいことが起こるのかとひとり楽しそうだ。
確かに美云は恋をしたいとは言った。
言ったけれど、恋仲ではない相手に自分からキスしてしまってひどく動揺し、獅朗の顔をまともに見れなくなって佳敏の背中に隠れる。
獅朗はそんな美云をかわいいと思った。
改めて考えてみると、今まで付き合ったことのある女性に対して一度も思ったことのない感覚が現れて驚く。
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