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発展編
19.押し問答
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「やだぁ。酔っぱらっちゃたぁ。二次会はマドンナの家でしましょ。」
美云の一課復帰祝いのパーティの間中ずっと上機嫌だった佳敏は、終わる頃には酔っ払ってさらに上機嫌だった。
それはなぜかと言うと、戦友でもあった美云に執着しているらしい男がいることを知ったからだ。
情報源は路臣だからきっと、間違いではないと思う。
現に食事の間ずっと、佳敏は美云にドレッシングとって~、取り皿もらってぇ、フォークちょうだい、などなど自分でできることをお願いするたびに獅朗が割り込んで渡してきていた。
なんでこんな分かりやすいことするのに美云は気づかないのか?と少々、いやだいぶ恋愛が遠のいている元戦友を心配してしまう。
「佳敏さん、今日はもうお開きにしましょう。明日も仕事ですから。」
「何よ、獅朗。アタシのこと心配してくれてるわけ?」
「いえ。私が心配してるのは美云さんと暁丹さんです。」
「ふん!何よ、かわいこぶっちゃって。もう、わかったわ。今日は解散ね!また明日。と言うことで、マドンナ泊めて。」
だからぁ~と若干キレ気味の獅朗は、美云に抱きつく佳敏を引き剥がそうと佳敏の背後から引っ張る。
数秒押し問答が続いた後に、
「獅朗さん、はたから見ると今の三人の構図がすごく怪しいです。」
暁丹が三人を眺めながらクスクス笑う。
あ~本当だね。これ、見ちゃダメなやつじゃ無いかな?と路臣が呟けば、だったら早く止めさせてよ!と先頭にいる美云が叫ぶ。面白いから写真撮っちゃおうかな~と春紅はスマホを取り出す始末。
「もう、いい加減にして、キャット!」
美云が声を荒げた瞬間、動きを止めた佳敏はそのまま獅朗にスルスルと引きずられる。あ~シャッターチャンスがぁとしょんぼりする春紅。
しょうがないから俺が佳敏さん連れて行きます。と路臣が佳敏を半ば引きずるように駅に向かえば春紅と暁丹も一緒に着いていく。
嵐が過ぎ去った場所には美云と獅朗が取り残された。
「美云、佳敏さんはいつもあんな感じなんですか?」
「場所が外だからまだ良い方です。家に来ると・・・もっとダイナミックよ。」
淋しがりやの大きな猫は宅飲みになると始終ジャレてきて仕舞いには抱き枕にされてしまう。人畜無害であることはわかりきってるので美云としてはもう慣れてしまっていた。
そんなことよりも、今は隣に立ってる獅朗がなんとなく怖い。
ディナーの席では始終笑顔でいたけれど、その笑顔がなんとなくウソっぽいと言うか、取って付けたような仮面のような笑みと言えばお分かりになるだろうか。
とにかくあの席で一番楽しんでなかったのは獅朗だろう。
「獅朗は無理してませんか?」
「えっ?無理なんてしてませんよ。ただちょっと女性にあそこまで馴れ馴れしい佳敏さんを見るのが初めてで、面食らいました。」
「あはは。キャットは猫だから。いつもなら男性にするようなことを私にしてただけです。」
「でも、見ていて気持ちの良いものではありませんでした。」
元戦友だから女ではなく男と対等に見ているんだと説明した美云に、こちらがドキリとするようなことを獅朗はポツリと洩らす。
えっ?と驚く美云に、じゃあ私たちもそろそろ帰りましょうかと獅朗に腕を取られ歩きだす。何線ですか?駅はどこまで?と訊ねられれば、歩いて帰れる距離なので大丈夫と美云は答える。
「毎日歩いて出勤してるんですか?」
「ええ。ほぼほぼ歩いて出勤してます。」
「じゃあ、あの日は?」
「あの日?」
はて?あの日とは?と美云が首を傾げる。
「A山で出会った次の日は?」
「ああ、あの日は確か寝坊して電車に乗りました。」
気分転換に登りに行ったA山で獅朗と出会ったことを思い出す。その日の夜はよっぽど疲れていたのか中々寝付けず、翌朝寝坊してしまったことを思い出す。
挙げ句、通勤ラッシュの電車に乗ってしまったところ、普段使ってない通勤路だったため道に迷い、余計に時間がかかってしまったのだ。そんなことを獅朗に話して聞かせているうちに駅に到着した。
「じゃあ、私はこれで。」
美云が歩いて帰ろうとすると同時に獅朗が声をかける。
「じゃ、次は宅飲みで。」
「えっ?」
獅朗はいつもこちらが思ってもないことを口にする。驚きつつも美云は答える。
「良いですよ。でも、獅朗を誘うならキャットも誘わないと、きっと暴れます。」
それは怖いですね、では。と言葉を残して獅朗は改札の向こうへ姿を消した。
………
人畜無害な人だと思われてるなぁ。
電車に揺られながら獅朗はついさっきまで美云と交わしていた会話を思い出す。
自分はそんなに魅力の無い人間だったろうか?と車窓に写る己を見つめる。と、隣に立っている女性と窓越しに目が合う。その奥の方にいる女性とも目が合う。うん。たぶん魅力はあるはすだ。
じゃあ、なんだろう?この残念な気持ちは。まだ初日だと言うのに今日は始終、佳敏に対してイライラしっぱなしだった。
佳敏にはあまり美云に構って欲しくないとさえ思ってしまった。
何か、認めたくない気持ちがノドの辺りでぐるぐるしているのを飲み下す。
今はまだ考えたくない。そう思ってしまう。
だけど、とも思う。
そろそろ、女性とお付き合いしても良いんじゃないかという気持ちがそこにあった。
........
次話は来週火曜日の投稿予定になります。
美云の一課復帰祝いのパーティの間中ずっと上機嫌だった佳敏は、終わる頃には酔っ払ってさらに上機嫌だった。
それはなぜかと言うと、戦友でもあった美云に執着しているらしい男がいることを知ったからだ。
情報源は路臣だからきっと、間違いではないと思う。
現に食事の間ずっと、佳敏は美云にドレッシングとって~、取り皿もらってぇ、フォークちょうだい、などなど自分でできることをお願いするたびに獅朗が割り込んで渡してきていた。
なんでこんな分かりやすいことするのに美云は気づかないのか?と少々、いやだいぶ恋愛が遠のいている元戦友を心配してしまう。
「佳敏さん、今日はもうお開きにしましょう。明日も仕事ですから。」
「何よ、獅朗。アタシのこと心配してくれてるわけ?」
「いえ。私が心配してるのは美云さんと暁丹さんです。」
「ふん!何よ、かわいこぶっちゃって。もう、わかったわ。今日は解散ね!また明日。と言うことで、マドンナ泊めて。」
だからぁ~と若干キレ気味の獅朗は、美云に抱きつく佳敏を引き剥がそうと佳敏の背後から引っ張る。
数秒押し問答が続いた後に、
「獅朗さん、はたから見ると今の三人の構図がすごく怪しいです。」
暁丹が三人を眺めながらクスクス笑う。
あ~本当だね。これ、見ちゃダメなやつじゃ無いかな?と路臣が呟けば、だったら早く止めさせてよ!と先頭にいる美云が叫ぶ。面白いから写真撮っちゃおうかな~と春紅はスマホを取り出す始末。
「もう、いい加減にして、キャット!」
美云が声を荒げた瞬間、動きを止めた佳敏はそのまま獅朗にスルスルと引きずられる。あ~シャッターチャンスがぁとしょんぼりする春紅。
しょうがないから俺が佳敏さん連れて行きます。と路臣が佳敏を半ば引きずるように駅に向かえば春紅と暁丹も一緒に着いていく。
嵐が過ぎ去った場所には美云と獅朗が取り残された。
「美云、佳敏さんはいつもあんな感じなんですか?」
「場所が外だからまだ良い方です。家に来ると・・・もっとダイナミックよ。」
淋しがりやの大きな猫は宅飲みになると始終ジャレてきて仕舞いには抱き枕にされてしまう。人畜無害であることはわかりきってるので美云としてはもう慣れてしまっていた。
そんなことよりも、今は隣に立ってる獅朗がなんとなく怖い。
ディナーの席では始終笑顔でいたけれど、その笑顔がなんとなくウソっぽいと言うか、取って付けたような仮面のような笑みと言えばお分かりになるだろうか。
とにかくあの席で一番楽しんでなかったのは獅朗だろう。
「獅朗は無理してませんか?」
「えっ?無理なんてしてませんよ。ただちょっと女性にあそこまで馴れ馴れしい佳敏さんを見るのが初めてで、面食らいました。」
「あはは。キャットは猫だから。いつもなら男性にするようなことを私にしてただけです。」
「でも、見ていて気持ちの良いものではありませんでした。」
元戦友だから女ではなく男と対等に見ているんだと説明した美云に、こちらがドキリとするようなことを獅朗はポツリと洩らす。
えっ?と驚く美云に、じゃあ私たちもそろそろ帰りましょうかと獅朗に腕を取られ歩きだす。何線ですか?駅はどこまで?と訊ねられれば、歩いて帰れる距離なので大丈夫と美云は答える。
「毎日歩いて出勤してるんですか?」
「ええ。ほぼほぼ歩いて出勤してます。」
「じゃあ、あの日は?」
「あの日?」
はて?あの日とは?と美云が首を傾げる。
「A山で出会った次の日は?」
「ああ、あの日は確か寝坊して電車に乗りました。」
気分転換に登りに行ったA山で獅朗と出会ったことを思い出す。その日の夜はよっぽど疲れていたのか中々寝付けず、翌朝寝坊してしまったことを思い出す。
挙げ句、通勤ラッシュの電車に乗ってしまったところ、普段使ってない通勤路だったため道に迷い、余計に時間がかかってしまったのだ。そんなことを獅朗に話して聞かせているうちに駅に到着した。
「じゃあ、私はこれで。」
美云が歩いて帰ろうとすると同時に獅朗が声をかける。
「じゃ、次は宅飲みで。」
「えっ?」
獅朗はいつもこちらが思ってもないことを口にする。驚きつつも美云は答える。
「良いですよ。でも、獅朗を誘うならキャットも誘わないと、きっと暴れます。」
それは怖いですね、では。と言葉を残して獅朗は改札の向こうへ姿を消した。
………
人畜無害な人だと思われてるなぁ。
電車に揺られながら獅朗はついさっきまで美云と交わしていた会話を思い出す。
自分はそんなに魅力の無い人間だったろうか?と車窓に写る己を見つめる。と、隣に立っている女性と窓越しに目が合う。その奥の方にいる女性とも目が合う。うん。たぶん魅力はあるはすだ。
じゃあ、なんだろう?この残念な気持ちは。まだ初日だと言うのに今日は始終、佳敏に対してイライラしっぱなしだった。
佳敏にはあまり美云に構って欲しくないとさえ思ってしまった。
何か、認めたくない気持ちがノドの辺りでぐるぐるしているのを飲み下す。
今はまだ考えたくない。そう思ってしまう。
だけど、とも思う。
そろそろ、女性とお付き合いしても良いんじゃないかという気持ちがそこにあった。
........
次話は来週火曜日の投稿予定になります。
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