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発展編
17.マドンナとキャット
しおりを挟む今話より営業一課編になります。
.........
ピチチ
鳥のさえずりと共に目を覚ました美云は今日から営業一課で勤務を開始する。
実はまだ実感が全然湧いてない。会社に行きたくないと言う思いはないけど、ものすごく行きたい気分でもない。でも行かなくてはいけない。
えいっ、と思い切り掛け布団を足で蹴飛ばすと顔を洗うために洗面所へ向かった。
一方。
いつもなら目覚ましのごとくジンに顔を舐められ起こされる獅朗は目覚ましの鳴る音で目を覚まし、ムクリと身体を起こした。
隣では自分を人間だと思っているらしい愛犬のジンがヘソ天姿でスヤスヤと寝ている。ツンツンとお腹をつついてみれば、寝た振りをしていたのかと思うほど大きな瞳をこちらに向けてきた。
「朝だぞ。散歩に行くよ」
出勤前の散歩に出掛けることにした。
………
ガヤガヤ。
早めに出勤して、三課に預けておいた荷物を手に一課にやってきた美云は、獅朗と獅朗のチームの暁丹に導かれて席に着く。
暁丹は今後、美云の補佐と言う形でご令息の研修に参加していくことになる。
ちなみに康宇はまだ出勤していないとのことで、康宇への挨拶は来てからすることになった。
「みなさーん、注目してください!」
パンパンと手を叩きなから獅朗が執務室中に聞こえるように声を張り上げる。社員たちは今日から美云が異動になったことをとっくに知ってはいたが、嫌な顔ひとつせずに獅朗のチームに注目してくれた。
「今日からご令息の研修を担当してくれることになった尹 美云さんです。」
「尹 美云です。初めましての方が多いと思いますが、どうぞよろしくお願いします。」
獅朗のありきたりな紹介と美云のありきたりな挨拶が終わり、各自が自分の仕事に戻ろうとした時だった。
「みんなあああぁ~拍手でお迎えして!!我らがマドンナの帰還よっ!!」
さぁさぁ、拍手!拍手!と手拍子と共に野太い声が聞こえて来たかと思ったら、やたらデカイ男が執務室の奥の方から、忍者と見紛う素早い動きで内股小走りにやってくるのが見えた。
マ~ド~ン~ナ~と叫びながらやって来た男は美云の目の前までやって来ると、問答無用でむんずと美云を抱き上げ、あろうことか男諸ともクルクル回りだした。
「ちょっ」
美云は一瞬焦るも、仕方なく回されるがままにする。
このガタイの良い男、美云が一課にいた頃に一緒に仕事をしていた、いわば戦友だったのだ。
それからしばらくクルクル回され続けてだいぶ目が回りかけてきたが、男は回るのをやめない。
「キャット!いい加減にしろ!」
美云が飼い猫を叱るようにコツンと男のおでこを押し一喝すると、男は回るのをやめつつもニヤリと笑いだす。
やっと解放されてクラクラしてる美云を獅朗が支えながら、男を呆れ顔で見やる。
「懐かしいわぁ。今じゃアタシのこと誰もキャットなんて呼んでくれないのよぉ」
「佳敏さん、朝っぱらから奇怪な行動とるのはやめてください。」
「ちょっと!!獅朗も獅朗よ!何よ!令息の研修担当勝手に決めちゃってさ!康宇さんも康宇さんよ!」
ちょっと遅れて執務室に入ってきた康宇目掛けて佳敏が人差し指をびしぃっと指す。
佳敏の話はその後も続く。
GMたちがミーティング開くみたいに、私たちマネージャーもちゃんと集まってミーティングすべきだったのよ、それが何?!知らない間に獅朗は勝手に独りで決めちゃうし、アタシたちはお知らせもらって終わりとか、何?!云々
「佳敏さんは美云さんで良かったんですよね?」
「当たり前じゃない?!アタシは、アタシは、、、ずっと美云が一課に戻ってくるのが待ちどおしかったのよぉ。わかる?アタシのこの気持ち?」
獅朗は困り顔で、美云で良かったならじゃあなぜこの男はこんなにも突っ掛かってくるのだろうと朝っぱらから疲れが出てくる。
隣を見ればさっきまでクラクラしていた美云が静かに肩を震わせながら笑っているし。
獅朗は正直、この佳敏と言う男が少々苦手であった。
マネージャーとしての経歴が長いことも去ることながら、自分よりも遥かに背が高く、悠に190を越えた身長に筋肉質の肉体美を誇りつつ、やや人を透かしたような甘いマスクのこの男は何でも取り仕切りたいと言う欲求の強い男でもあった。
パッと見が肉食獣のようなこの見た目でどれだけ多くの女性社員を虜にしたことか。でも、女性たちも一緒に働きだしてしばらくするとあることに気がつく。
佳敏の恋愛対象は"男性"である。と言うことに。その事実に気づいて何人の女性たちが涙を流し、獅朗の肩を貸してやったことだろう。一課に異動になってから数えきれないほど貸してやったことを思い出す。
「もしかして、この前言ってたガタイの良い猫って佳敏さんのことですか?」
年は確か、美云と同じだったような・・・同期入社と言うことか。
「そうよ!」
質問した相手ではない男から答えが返ってきた。
.........
暁丹は女性です。
次話は週明けになります。
なお、週末は先週投稿した『行き遅れでごめん遊ばせ~火遊びはキケンな大誤算~』を投稿予定です。
こちらも合わせてお読みいただけたら嬉しいです。
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