16 / 52
出会い編
16.駄々っ子
しおりを挟む
恋をしたことがないけど、相手に不自由してもいなかった。寄ってくるからと外に探しにも行かなかった。そう言えば寄ってくる子はみんな似たり寄ったりだったなぁ。女の子たちがみな同じ顔に見えてた時もあった。
でも今、隣に座ってランチを頬張る美云には興味を惹かれている。と言うことは、一応自分はサイコパスではないということになる。
じゃあこの気持ちはなんなんだろう・・・
「獅朗、食べないんですか?」
食べてる姿をあまりにもガン見してくる獅朗に落ち着かなくなり、美云が話しかけるとまるで白昼夢でも見ていたのか獅朗の焦点が定まる。
「えっ?」
「寝てました?」
「いえ。」
心ここにあらずだし、よく見るとなんだか疲れてそうに見える獅朗が少し心配になる。マネージャーなんてのは体力勝負だ。チームの責任がどっと押し寄せてくるわけだから肝の太さが重要になる。とは言え、申し訳ないけれど繊細な人には見えない。
「今日は早退してよく寝たら良いんじゃないですか?」
「美云が添い寝してくれますか?」
「ぶふっ」
口からランチが出そうになる。うん。この人はこういう人だ。なんだかずっとからかわれている気がする。
「しません。」
「じゃあ、仕事します。」
駄々っ子か。
「三課での引き継ぎは順調です。みんなベテランなので不安材料は無しです。」
「あともう少しで異動ですね。期待していますよ。」
獅朗が口を開くといつもどう切り返したら良いのか返答に困ることが多いけど、仕事の話をすればきちんと真面目な返答が返ってくる。いったいこの人の頭の中はどうなってるんだろう?と不思議でしょうがない。
あと、どう見ても路臣が言うように獅朗が自分に気があるような感じは全然しない。たぶん、路臣でも外すことがあるんだろう。
まるで身体だけ大きくなってしまった子どもに懐かれた気分で昼休みは終了した。
………
あっという間に引き継ぎの期間が過ぎていき、次の週からはいよいよ一課での勤務が待っている。
勤務時間が終る頃、たいした荷物はないけれど、使いなれたステーショナリーや引き出しに隠し置いている食糧を段ボールに積める。階が変わるだけで勤務地は同じなので、荷物はとりあえず月曜の朝まで三課に置かせてもらってあとで運ぶことにする。
「美云くん。」
成徳がいつもと変わらぬ笑顔で話しかけてくる。
「成徳さん、お世話になりました。一課に戻るために背中を押してくれたこと、感謝しています。」
「一緒に働いている人たちに申し訳ないけれど、君は三課にはもったいないと思っていたよ。それと・・・」
「はい?」
「あの子を支えてやってくれ。」
「あの子、ですか?」
「ああ。獅朗を支えてやってくれ。」
美云が支えなくてはならないほど、獅朗にはダメなところがあるだろうか?考えてみても何も思い浮かばない。むしろ要領が良くて気持ち悪いぐらい気が利いて、面倒臭いくらい執着してくる姿しか思い出せなかった。
釣った魚に餌をやるタイプらしく、毎日ではなくなったがランチタイムにはストーカーよろしく姿を現して一緒に食べる機会が何度かあった。
不意打ちが苦手な美云はそのうち面倒臭いながらも自分から誘うようになったし、こちらから誘っても都合が悪くて一緒にランチを取れなければ、後日、獅朗から誘われたりと、あれ?これってもしかして支えてることになるかな?と成徳が言いたいことは言葉の通りなのか訝る。
「獅朗はね、辛くとも辛いと言わないんだよ。いつも澄ました顔でいるもんだから、昔はよく人の仕事を押し付けられてたよ。」
でも、押し付けられた仕事でもトップの成績を取るもんだからね。余計に言えなくなったのかな。それに、美云くんの引き抜きの話だって康宇から押し付けられたはずだよ。他にもマネージャーはいっぱいいるって言うのにね。
だから一課を正してまともな仕事の仕方をするように変えてくれ。と締め括られた。
「壮大すぎます。」
「ふふ。美云くん、君は自分の力を見くびり過ぎてるよ。」
成徳の話があまりにも飛躍し過ぎて面食らってしまったが、美云自身はいつも自分の出きることをやってきたつもりだ。
そう言えば、獅朗は過去はよく人の仕事押し付けられてたって今、成徳さんが言っていたけど、今回は美云にその役が廻ってきたということは・・・遅い歩みではあるけれど成長しているということか。
「成徳さん、獅朗も少しは成長していると思いますよ。だって私に仕事押し付けてきたんですから。」
そうだねぇ。少しは成長してるねぇ。と成徳は自分の顎に手を掛けて何かを考える仕草をする。
「ところで、美云くん。」
「はい。」
「君たちは付き合ってるの?」
「はっ、えっ?!」
ほら最近、二人でランチに行ったり仲良しじゃない?と、もともと自分が獅朗に内通していたことを棚に上げて、ほっほっほっと笑う。
美云はそんな成徳を薄目で見ながら、いよいよ来週から一課に戻るんだ、と現実味が増してきた。
………
次話は木曜日に投稿予定です。
でも今、隣に座ってランチを頬張る美云には興味を惹かれている。と言うことは、一応自分はサイコパスではないということになる。
じゃあこの気持ちはなんなんだろう・・・
「獅朗、食べないんですか?」
食べてる姿をあまりにもガン見してくる獅朗に落ち着かなくなり、美云が話しかけるとまるで白昼夢でも見ていたのか獅朗の焦点が定まる。
「えっ?」
「寝てました?」
「いえ。」
心ここにあらずだし、よく見るとなんだか疲れてそうに見える獅朗が少し心配になる。マネージャーなんてのは体力勝負だ。チームの責任がどっと押し寄せてくるわけだから肝の太さが重要になる。とは言え、申し訳ないけれど繊細な人には見えない。
「今日は早退してよく寝たら良いんじゃないですか?」
「美云が添い寝してくれますか?」
「ぶふっ」
口からランチが出そうになる。うん。この人はこういう人だ。なんだかずっとからかわれている気がする。
「しません。」
「じゃあ、仕事します。」
駄々っ子か。
「三課での引き継ぎは順調です。みんなベテランなので不安材料は無しです。」
「あともう少しで異動ですね。期待していますよ。」
獅朗が口を開くといつもどう切り返したら良いのか返答に困ることが多いけど、仕事の話をすればきちんと真面目な返答が返ってくる。いったいこの人の頭の中はどうなってるんだろう?と不思議でしょうがない。
あと、どう見ても路臣が言うように獅朗が自分に気があるような感じは全然しない。たぶん、路臣でも外すことがあるんだろう。
まるで身体だけ大きくなってしまった子どもに懐かれた気分で昼休みは終了した。
………
あっという間に引き継ぎの期間が過ぎていき、次の週からはいよいよ一課での勤務が待っている。
勤務時間が終る頃、たいした荷物はないけれど、使いなれたステーショナリーや引き出しに隠し置いている食糧を段ボールに積める。階が変わるだけで勤務地は同じなので、荷物はとりあえず月曜の朝まで三課に置かせてもらってあとで運ぶことにする。
「美云くん。」
成徳がいつもと変わらぬ笑顔で話しかけてくる。
「成徳さん、お世話になりました。一課に戻るために背中を押してくれたこと、感謝しています。」
「一緒に働いている人たちに申し訳ないけれど、君は三課にはもったいないと思っていたよ。それと・・・」
「はい?」
「あの子を支えてやってくれ。」
「あの子、ですか?」
「ああ。獅朗を支えてやってくれ。」
美云が支えなくてはならないほど、獅朗にはダメなところがあるだろうか?考えてみても何も思い浮かばない。むしろ要領が良くて気持ち悪いぐらい気が利いて、面倒臭いくらい執着してくる姿しか思い出せなかった。
釣った魚に餌をやるタイプらしく、毎日ではなくなったがランチタイムにはストーカーよろしく姿を現して一緒に食べる機会が何度かあった。
不意打ちが苦手な美云はそのうち面倒臭いながらも自分から誘うようになったし、こちらから誘っても都合が悪くて一緒にランチを取れなければ、後日、獅朗から誘われたりと、あれ?これってもしかして支えてることになるかな?と成徳が言いたいことは言葉の通りなのか訝る。
「獅朗はね、辛くとも辛いと言わないんだよ。いつも澄ました顔でいるもんだから、昔はよく人の仕事を押し付けられてたよ。」
でも、押し付けられた仕事でもトップの成績を取るもんだからね。余計に言えなくなったのかな。それに、美云くんの引き抜きの話だって康宇から押し付けられたはずだよ。他にもマネージャーはいっぱいいるって言うのにね。
だから一課を正してまともな仕事の仕方をするように変えてくれ。と締め括られた。
「壮大すぎます。」
「ふふ。美云くん、君は自分の力を見くびり過ぎてるよ。」
成徳の話があまりにも飛躍し過ぎて面食らってしまったが、美云自身はいつも自分の出きることをやってきたつもりだ。
そう言えば、獅朗は過去はよく人の仕事押し付けられてたって今、成徳さんが言っていたけど、今回は美云にその役が廻ってきたということは・・・遅い歩みではあるけれど成長しているということか。
「成徳さん、獅朗も少しは成長していると思いますよ。だって私に仕事押し付けてきたんですから。」
そうだねぇ。少しは成長してるねぇ。と成徳は自分の顎に手を掛けて何かを考える仕草をする。
「ところで、美云くん。」
「はい。」
「君たちは付き合ってるの?」
「はっ、えっ?!」
ほら最近、二人でランチに行ったり仲良しじゃない?と、もともと自分が獅朗に内通していたことを棚に上げて、ほっほっほっと笑う。
美云はそんな成徳を薄目で見ながら、いよいよ来週から一課に戻るんだ、と現実味が増してきた。
………
次話は木曜日に投稿予定です。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
婚外年下彼氏と淫らな調教レッスン
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
アラフォー女子アキエは、毎日の子育て、仕事、家事にウンザリしていた。
夫とは不仲ではないけれど、出産後から続くセックスレスで欲求不満な日々。
そんな中、マッチングアプリで知り合った10歳年下既婚彼氏と性的なパートナーになることになって?!
*架空のお話です。
*不倫に関する独自の世界観のお話です。不快に思われる方はスルーしてください。
*誤字脱字多数あるかと思います。ご了承ください。
寡黙な彼は欲望を我慢している
山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。
夜の触れ合いも淡白になった。
彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。
「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」
すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。
でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる