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出会い編
16.駄々っ子
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恋をしたことがないけど、相手に不自由してもいなかった。寄ってくるからと外に探しにも行かなかった。そう言えば寄ってくる子はみんな似たり寄ったりだったなぁ。女の子たちがみな同じ顔に見えてた時もあった。
でも今、隣に座ってランチを頬張る美云には興味を惹かれている。と言うことは、一応自分はサイコパスではないということになる。
じゃあこの気持ちはなんなんだろう・・・
「獅朗、食べないんですか?」
食べてる姿をあまりにもガン見してくる獅朗に落ち着かなくなり、美云が話しかけるとまるで白昼夢でも見ていたのか獅朗の焦点が定まる。
「えっ?」
「寝てました?」
「いえ。」
心ここにあらずだし、よく見るとなんだか疲れてそうに見える獅朗が少し心配になる。マネージャーなんてのは体力勝負だ。チームの責任がどっと押し寄せてくるわけだから肝の太さが重要になる。とは言え、申し訳ないけれど繊細な人には見えない。
「今日は早退してよく寝たら良いんじゃないですか?」
「美云が添い寝してくれますか?」
「ぶふっ」
口からランチが出そうになる。うん。この人はこういう人だ。なんだかずっとからかわれている気がする。
「しません。」
「じゃあ、仕事します。」
駄々っ子か。
「三課での引き継ぎは順調です。みんなベテランなので不安材料は無しです。」
「あともう少しで異動ですね。期待していますよ。」
獅朗が口を開くといつもどう切り返したら良いのか返答に困ることが多いけど、仕事の話をすればきちんと真面目な返答が返ってくる。いったいこの人の頭の中はどうなってるんだろう?と不思議でしょうがない。
あと、どう見ても路臣が言うように獅朗が自分に気があるような感じは全然しない。たぶん、路臣でも外すことがあるんだろう。
まるで身体だけ大きくなってしまった子どもに懐かれた気分で昼休みは終了した。
………
あっという間に引き継ぎの期間が過ぎていき、次の週からはいよいよ一課での勤務が待っている。
勤務時間が終る頃、たいした荷物はないけれど、使いなれたステーショナリーや引き出しに隠し置いている食糧を段ボールに積める。階が変わるだけで勤務地は同じなので、荷物はとりあえず月曜の朝まで三課に置かせてもらってあとで運ぶことにする。
「美云くん。」
成徳がいつもと変わらぬ笑顔で話しかけてくる。
「成徳さん、お世話になりました。一課に戻るために背中を押してくれたこと、感謝しています。」
「一緒に働いている人たちに申し訳ないけれど、君は三課にはもったいないと思っていたよ。それと・・・」
「はい?」
「あの子を支えてやってくれ。」
「あの子、ですか?」
「ああ。獅朗を支えてやってくれ。」
美云が支えなくてはならないほど、獅朗にはダメなところがあるだろうか?考えてみても何も思い浮かばない。むしろ要領が良くて気持ち悪いぐらい気が利いて、面倒臭いくらい執着してくる姿しか思い出せなかった。
釣った魚に餌をやるタイプらしく、毎日ではなくなったがランチタイムにはストーカーよろしく姿を現して一緒に食べる機会が何度かあった。
不意打ちが苦手な美云はそのうち面倒臭いながらも自分から誘うようになったし、こちらから誘っても都合が悪くて一緒にランチを取れなければ、後日、獅朗から誘われたりと、あれ?これってもしかして支えてることになるかな?と成徳が言いたいことは言葉の通りなのか訝る。
「獅朗はね、辛くとも辛いと言わないんだよ。いつも澄ました顔でいるもんだから、昔はよく人の仕事を押し付けられてたよ。」
でも、押し付けられた仕事でもトップの成績を取るもんだからね。余計に言えなくなったのかな。それに、美云くんの引き抜きの話だって康宇から押し付けられたはずだよ。他にもマネージャーはいっぱいいるって言うのにね。
だから一課を正してまともな仕事の仕方をするように変えてくれ。と締め括られた。
「壮大すぎます。」
「ふふ。美云くん、君は自分の力を見くびり過ぎてるよ。」
成徳の話があまりにも飛躍し過ぎて面食らってしまったが、美云自身はいつも自分の出きることをやってきたつもりだ。
そう言えば、獅朗は過去はよく人の仕事押し付けられてたって今、成徳さんが言っていたけど、今回は美云にその役が廻ってきたということは・・・遅い歩みではあるけれど成長しているということか。
「成徳さん、獅朗も少しは成長していると思いますよ。だって私に仕事押し付けてきたんですから。」
そうだねぇ。少しは成長してるねぇ。と成徳は自分の顎に手を掛けて何かを考える仕草をする。
「ところで、美云くん。」
「はい。」
「君たちは付き合ってるの?」
「はっ、えっ?!」
ほら最近、二人でランチに行ったり仲良しじゃない?と、もともと自分が獅朗に内通していたことを棚に上げて、ほっほっほっと笑う。
美云はそんな成徳を薄目で見ながら、いよいよ来週から一課に戻るんだ、と現実味が増してきた。
………
次話は木曜日に投稿予定です。
でも今、隣に座ってランチを頬張る美云には興味を惹かれている。と言うことは、一応自分はサイコパスではないということになる。
じゃあこの気持ちはなんなんだろう・・・
「獅朗、食べないんですか?」
食べてる姿をあまりにもガン見してくる獅朗に落ち着かなくなり、美云が話しかけるとまるで白昼夢でも見ていたのか獅朗の焦点が定まる。
「えっ?」
「寝てました?」
「いえ。」
心ここにあらずだし、よく見るとなんだか疲れてそうに見える獅朗が少し心配になる。マネージャーなんてのは体力勝負だ。チームの責任がどっと押し寄せてくるわけだから肝の太さが重要になる。とは言え、申し訳ないけれど繊細な人には見えない。
「今日は早退してよく寝たら良いんじゃないですか?」
「美云が添い寝してくれますか?」
「ぶふっ」
口からランチが出そうになる。うん。この人はこういう人だ。なんだかずっとからかわれている気がする。
「しません。」
「じゃあ、仕事します。」
駄々っ子か。
「三課での引き継ぎは順調です。みんなベテランなので不安材料は無しです。」
「あともう少しで異動ですね。期待していますよ。」
獅朗が口を開くといつもどう切り返したら良いのか返答に困ることが多いけど、仕事の話をすればきちんと真面目な返答が返ってくる。いったいこの人の頭の中はどうなってるんだろう?と不思議でしょうがない。
あと、どう見ても路臣が言うように獅朗が自分に気があるような感じは全然しない。たぶん、路臣でも外すことがあるんだろう。
まるで身体だけ大きくなってしまった子どもに懐かれた気分で昼休みは終了した。
………
あっという間に引き継ぎの期間が過ぎていき、次の週からはいよいよ一課での勤務が待っている。
勤務時間が終る頃、たいした荷物はないけれど、使いなれたステーショナリーや引き出しに隠し置いている食糧を段ボールに積める。階が変わるだけで勤務地は同じなので、荷物はとりあえず月曜の朝まで三課に置かせてもらってあとで運ぶことにする。
「美云くん。」
成徳がいつもと変わらぬ笑顔で話しかけてくる。
「成徳さん、お世話になりました。一課に戻るために背中を押してくれたこと、感謝しています。」
「一緒に働いている人たちに申し訳ないけれど、君は三課にはもったいないと思っていたよ。それと・・・」
「はい?」
「あの子を支えてやってくれ。」
「あの子、ですか?」
「ああ。獅朗を支えてやってくれ。」
美云が支えなくてはならないほど、獅朗にはダメなところがあるだろうか?考えてみても何も思い浮かばない。むしろ要領が良くて気持ち悪いぐらい気が利いて、面倒臭いくらい執着してくる姿しか思い出せなかった。
釣った魚に餌をやるタイプらしく、毎日ではなくなったがランチタイムにはストーカーよろしく姿を現して一緒に食べる機会が何度かあった。
不意打ちが苦手な美云はそのうち面倒臭いながらも自分から誘うようになったし、こちらから誘っても都合が悪くて一緒にランチを取れなければ、後日、獅朗から誘われたりと、あれ?これってもしかして支えてることになるかな?と成徳が言いたいことは言葉の通りなのか訝る。
「獅朗はね、辛くとも辛いと言わないんだよ。いつも澄ました顔でいるもんだから、昔はよく人の仕事を押し付けられてたよ。」
でも、押し付けられた仕事でもトップの成績を取るもんだからね。余計に言えなくなったのかな。それに、美云くんの引き抜きの話だって康宇から押し付けられたはずだよ。他にもマネージャーはいっぱいいるって言うのにね。
だから一課を正してまともな仕事の仕方をするように変えてくれ。と締め括られた。
「壮大すぎます。」
「ふふ。美云くん、君は自分の力を見くびり過ぎてるよ。」
成徳の話があまりにも飛躍し過ぎて面食らってしまったが、美云自身はいつも自分の出きることをやってきたつもりだ。
そう言えば、獅朗は過去はよく人の仕事押し付けられてたって今、成徳さんが言っていたけど、今回は美云にその役が廻ってきたということは・・・遅い歩みではあるけれど成長しているということか。
「成徳さん、獅朗も少しは成長していると思いますよ。だって私に仕事押し付けてきたんですから。」
そうだねぇ。少しは成長してるねぇ。と成徳は自分の顎に手を掛けて何かを考える仕草をする。
「ところで、美云くん。」
「はい。」
「君たちは付き合ってるの?」
「はっ、えっ?!」
ほら最近、二人でランチに行ったり仲良しじゃない?と、もともと自分が獅朗に内通していたことを棚に上げて、ほっほっほっと笑う。
美云はそんな成徳を薄目で見ながら、いよいよ来週から一課に戻るんだ、と現実味が増してきた。
………
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