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出会い編
13.お茶目な内通者
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美云はかなり狼狽していた。
慌ただしく始まった月曜日。
獅朗と言う男との出会いからの一課への引き抜きの話。
そして、今は金曜日の昼下がり。
ランチタイムが終わる頃の美云は完全に狼狽していた。
なぜなら先ほど、食後のコーヒーどうぞと獅朗にコーヒーを握らされたからだ。もちろん、コーヒーは獅朗が好きだと言うコーヒーショップのものだ。
だが、それだけじゃない。
水曜日のランチタイムからずっと、行くところどこでも獅朗と鉢合わせした挙げ句に、相席になり、かつ勝手に奢られてしまったからだ。
そしてこのコーヒー。
先ほど、エレベーターを降りるまで一緒だったその人は涼しい顔で自分の場所へ戻って行った。
一度だけの鉢合わせなら気にしない美云も、木曜日にまた鉢合わせすると落ち着かなくなり、今日は完全に狼狽してしまった、
これは誰かが獅朗に内通しているとしか考えられない。
美云自身のタイムスケジュールを知るものがっ!!
誰だ?
ふと、成徳がウインクしてる姿が脳裏に浮かぶ。
だからなのか?毎日のようにランチタイムはどこに行くのか?と聞いてきたり、逆に新しくできたお店を教えてくれたり、美云も知らないような美味しいお店を教えてくれたりと用意周到だったことを思い出す。
うっ。
敵はすぐ近くにいた。
と言うか、敵ではないし美云自身も一課へ戻る決心は付いていた。
ただひとつ付いてなかったのは、獅朗の行動パターンについての学習能力だった。
「成徳さんですか?」
「なんだい?」
何食わぬ顔して美云を見る成徳の顔と言ったら!
「絶対、おもしろがってますよね?」
「だって、しょうがないじゃないか。教えて欲しいなんてお願いされたら。」
お願い聞いちゃうでしょ?と言いたげにおどけた顔をしてこちらを見る成徳の茶目っ気はいつもなら美云も一緒に楽しんでいたけれど・・・ため息をひとつつくとスマホを取り出す。アドレス帳を開いて目当ての人をみつけると迷わず電話を掛けた。
「引き受けます!」
相手が出た瞬間、言うだけ言って切る。成徳には返事は来週以降なんて言われていたことを思い出すけどもうそんなことに構っていられなかった。
優男に追いかけられているという現状が美云の中では信じられず、お姫様風のかわいらしいお嬢さんを追いかけるならともかく、36歳にもなる自分が追いかけられている図はあまりにも滑稽だった。
1コールで出たと言うことは、相手は美云が電話を掛けてくる筈だと確信していたのだろう。
成徳と言う男はいったい、獅朗をどんな人間に育てたのか。成徳を見てると少し分かる気がした。
ピロン、とメールの受信音が鳴る。確かめなくとも獅朗からのメールだと分かった。
………
己のデスクでスマホとにらめっこをしていた獅朗は数分後にやってきた電話に出た瞬間、ニヤリとする。
相手が一方的に話して切れたにも関わらず、こんなにうれしいことは無かった。
そう言えば先ほど、美云のための報酬が算出された報告を思いだし確認する。
一課にいたころの業績を鑑みた報酬は今より少し多くなる程度だが・・・
場合によっては昇給あり。と最期に付け足して美云宛にメールを送信した。
さてと、問題はひとつ片付いた。でも安心してはいけない。と肝に銘じる。来月から美云には一課で研修の準備を始めてもらうわけだが、ご令息とは研修が始まる前に一度会ってもらおうと思っている。
ご令息の研修期間は一年間。どんな風に研修を進めていくか、全てご令息の能力次第だ。能力次第で研修の内容は変化するし、能力が高ければそれだけ研修のレベルも高くなる。
ふと獅朗はこの会社に入りたてのころの王財閥の親睦会に参加したことを思い出す。
その時、居合わせた令息はまだ中学生くらいでとても物静かで大人しいと言う印象だった。もしそのまま大人になっているとしたら・・・営業課での研修はあまり向いてない。
だが、営業課での研修を望んだのは令息本人なわけだから、美云には一課のやり方を叩き込んで欲しいと願っている。
それに・・・獅朗自身も美云の手腕を楽しみにしているところがあった。今は三課にいるとはいえ、もともとは実力で一課の第一線にいた美云がどんな風に活躍してくれるのか気になってしょうがなかった。
「ふふ。期待していますよ、美云。」
………
くしゅんっ
ずっと放置していた獅朗からのメールを開いたとたん、美云の口からくしゃみがこぼれる。
誰かが自分の噂をしているに違いない。いや、誰か、ではない。獅朗以外にいないはずだ。
メールの内容はおおよそ予想していた通りだった。
場合によっては昇給あり。と言うのは、つまり昇給を望むならそれなりの働きをすれば良いと言うことだ。
ただ、引き受けた仕事は美云ひとりがすれば良い仕事ではなく、研修を受けるご令息がいるわけだから自分だけががんばれば良いと言うわけにはいかない。
ご令息にはどんな才能があることやら。もって生まれた才能であったり、まだ眠っている才能であったり、それを掘り起こして最大限に活かすきっかけを作れるように努力しよう。
ピロン。
仕事用ではないプライベート用のスマホの音が鳴る。
「美云姐、夕飯一緒に食べよう!」
姪っ子の思玲からのメールだった。
なぜかホッとしてる自分に気付き笑ってしまう。姪っ子なら勝手に奢ったりしないからだろう。
美云は、女二人で美味しいディナーを食べる計画を始めた。
.......
◆次話以降の投稿について◆
ここまでご拝読いただき誠にありがとうございます。
感謝感謝の感謝しかありません。
次話以降の投稿についてですが、今後毎日投稿ではなく不定期投稿となります。
予めご了承ください。よろしくお願いいたします。
恐らく、週に2話~3話の投稿予定と考えています。
慌ただしく始まった月曜日。
獅朗と言う男との出会いからの一課への引き抜きの話。
そして、今は金曜日の昼下がり。
ランチタイムが終わる頃の美云は完全に狼狽していた。
なぜなら先ほど、食後のコーヒーどうぞと獅朗にコーヒーを握らされたからだ。もちろん、コーヒーは獅朗が好きだと言うコーヒーショップのものだ。
だが、それだけじゃない。
水曜日のランチタイムからずっと、行くところどこでも獅朗と鉢合わせした挙げ句に、相席になり、かつ勝手に奢られてしまったからだ。
そしてこのコーヒー。
先ほど、エレベーターを降りるまで一緒だったその人は涼しい顔で自分の場所へ戻って行った。
一度だけの鉢合わせなら気にしない美云も、木曜日にまた鉢合わせすると落ち着かなくなり、今日は完全に狼狽してしまった、
これは誰かが獅朗に内通しているとしか考えられない。
美云自身のタイムスケジュールを知るものがっ!!
誰だ?
ふと、成徳がウインクしてる姿が脳裏に浮かぶ。
だからなのか?毎日のようにランチタイムはどこに行くのか?と聞いてきたり、逆に新しくできたお店を教えてくれたり、美云も知らないような美味しいお店を教えてくれたりと用意周到だったことを思い出す。
うっ。
敵はすぐ近くにいた。
と言うか、敵ではないし美云自身も一課へ戻る決心は付いていた。
ただひとつ付いてなかったのは、獅朗の行動パターンについての学習能力だった。
「成徳さんですか?」
「なんだい?」
何食わぬ顔して美云を見る成徳の顔と言ったら!
「絶対、おもしろがってますよね?」
「だって、しょうがないじゃないか。教えて欲しいなんてお願いされたら。」
お願い聞いちゃうでしょ?と言いたげにおどけた顔をしてこちらを見る成徳の茶目っ気はいつもなら美云も一緒に楽しんでいたけれど・・・ため息をひとつつくとスマホを取り出す。アドレス帳を開いて目当ての人をみつけると迷わず電話を掛けた。
「引き受けます!」
相手が出た瞬間、言うだけ言って切る。成徳には返事は来週以降なんて言われていたことを思い出すけどもうそんなことに構っていられなかった。
優男に追いかけられているという現状が美云の中では信じられず、お姫様風のかわいらしいお嬢さんを追いかけるならともかく、36歳にもなる自分が追いかけられている図はあまりにも滑稽だった。
1コールで出たと言うことは、相手は美云が電話を掛けてくる筈だと確信していたのだろう。
成徳と言う男はいったい、獅朗をどんな人間に育てたのか。成徳を見てると少し分かる気がした。
ピロン、とメールの受信音が鳴る。確かめなくとも獅朗からのメールだと分かった。
………
己のデスクでスマホとにらめっこをしていた獅朗は数分後にやってきた電話に出た瞬間、ニヤリとする。
相手が一方的に話して切れたにも関わらず、こんなにうれしいことは無かった。
そう言えば先ほど、美云のための報酬が算出された報告を思いだし確認する。
一課にいたころの業績を鑑みた報酬は今より少し多くなる程度だが・・・
場合によっては昇給あり。と最期に付け足して美云宛にメールを送信した。
さてと、問題はひとつ片付いた。でも安心してはいけない。と肝に銘じる。来月から美云には一課で研修の準備を始めてもらうわけだが、ご令息とは研修が始まる前に一度会ってもらおうと思っている。
ご令息の研修期間は一年間。どんな風に研修を進めていくか、全てご令息の能力次第だ。能力次第で研修の内容は変化するし、能力が高ければそれだけ研修のレベルも高くなる。
ふと獅朗はこの会社に入りたてのころの王財閥の親睦会に参加したことを思い出す。
その時、居合わせた令息はまだ中学生くらいでとても物静かで大人しいと言う印象だった。もしそのまま大人になっているとしたら・・・営業課での研修はあまり向いてない。
だが、営業課での研修を望んだのは令息本人なわけだから、美云には一課のやり方を叩き込んで欲しいと願っている。
それに・・・獅朗自身も美云の手腕を楽しみにしているところがあった。今は三課にいるとはいえ、もともとは実力で一課の第一線にいた美云がどんな風に活躍してくれるのか気になってしょうがなかった。
「ふふ。期待していますよ、美云。」
………
くしゅんっ
ずっと放置していた獅朗からのメールを開いたとたん、美云の口からくしゃみがこぼれる。
誰かが自分の噂をしているに違いない。いや、誰か、ではない。獅朗以外にいないはずだ。
メールの内容はおおよそ予想していた通りだった。
場合によっては昇給あり。と言うのは、つまり昇給を望むならそれなりの働きをすれば良いと言うことだ。
ただ、引き受けた仕事は美云ひとりがすれば良い仕事ではなく、研修を受けるご令息がいるわけだから自分だけががんばれば良いと言うわけにはいかない。
ご令息にはどんな才能があることやら。もって生まれた才能であったり、まだ眠っている才能であったり、それを掘り起こして最大限に活かすきっかけを作れるように努力しよう。
ピロン。
仕事用ではないプライベート用のスマホの音が鳴る。
「美云姐、夕飯一緒に食べよう!」
姪っ子の思玲からのメールだった。
なぜかホッとしてる自分に気付き笑ってしまう。姪っ子なら勝手に奢ったりしないからだろう。
美云は、女二人で美味しいディナーを食べる計画を始めた。
.......
◆次話以降の投稿について◆
ここまでご拝読いただき誠にありがとうございます。
感謝感謝の感謝しかありません。
次話以降の投稿についてですが、今後毎日投稿ではなく不定期投稿となります。
予めご了承ください。よろしくお願いいたします。
恐らく、週に2話~3話の投稿予定と考えています。
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