上 下
6 / 52
出会い編

6.中間管理職

しおりを挟む

エレベーターが止まる度に人々がどんどん出ていく。いったい女性は何階で降りるのだろうと観察していると、女性は獅朗シーランの所属部所の二つ下の階でエレベーターを降りていった。


その階は営業三課のフロアになる。営業三課が女性の職場だったとは。


二人が勤めている王財閥の貿易会社には営業課は三つあり、獅朗が所属しているのは営業一課だ。

営業一課はいわゆる営業課の中で花形の部所になり、海外派遣も含め出世街道を突き進む野心家たちの集う部所になる。


一方、営業三課は出世街道から外れていると言えば語弊かもしれないが、例えば新卒で入社してきたものは全て三課に所属となる。そこからふるいにかけられて、一課まで上り詰めるもの、とどまるもの、営業課以外の部所へ行くものと岐路が出来上がる。


またそれだけではなく、一課の第一線でキャリアを積んだ後にリタイアし嘱託として新人教育に関わるものや、家族の看病等自分以外の都合でキャリアを退き、比較的一課より時間に余裕のある三課に入るものなど、様々だ。


基本、王財閥の経営理念として、取りこぼしはしない。社員は家族同然の意識で受け入れられるため、様々な形態の働き方が存在する。


現に獅朗が一課に配属された当初にお世話になった大先輩は今、嘱託として三課でのんびりやっているようだった。


女性はいつから三課にいたのだろうか?もし入社してからずっと三課にいたのであれば獅朗とも出会っているはずだ。


だが、これまで出会うことは全く無かった。

そう言えば、今日の女性の両眼は同じ色だったようだから普段はコンタクトでもしているのか?


女性のことを考えていると、獅朗の所属する部所の階にエレベーターが止まり、静かに降りると己のデスクへと歩いていった。


………


仕事を開始してから一時間程経ち、ティーブレイクで雑談していると、ゼネラルマネージャー(以後、GM表記)が獅朗の席にやって来るのが見えた。


やぁ、獅朗。と手を上げて話しかけてくるのは去年GMに成り立ての康宇カンユウだ。何か話があるようでちょいちょいと手招きしてくる。

部下と雑談していた獅朗は断りを言って康宇のもとへ行く。


「ちょっと伝えたいことがある。」


「何でしょうか?」


「今日、GM会議があったことは獅朗も知っていると思うが」 


歩きながら話す康宇は小さなミーティングスペースへと獅朗を促す。


ちなみにGMは会社の役員を兼任しているのが殆んどで、毎週月曜の朝に各部所のGMと社長、時には会長も交えて会議を開いている。


「ずっと決まらなかった例の話が決まってな、」


「ええ。ずっと話し合ってましたね。」


嫌な予感を感じながら席に着くと獅朗は康宇に話の続きを促す。


「社長のご令息の研修は我が営業一課が受け持つことになった。」


それを聞いて心の中でがっくり肩を落とす獅朗。何でよりによってうちなんだと、また面倒事が増えることにため息をつく。


社長のご令息はまだ大学四年生で三月に卒業となる。その後、大学院に進んで更に勉強をするよりも、早く実地で仕事を覚えたいとして研修生として受け入れることが決まった。決まったのは良いものの、どの部所が受け持つことになるか決めるのに難航し、やっと決まったのが今朝と言うことになる。


「受け入れるのは百歩譲って善しとしましょう。ですが、誰が担当するんですか?」

 

「それなんだよな。勝手に来て勝手に職場の雰囲気感じ取って勉強してくれ、とは言えないしなぁ、相手が相手なだけに。」


四十を少し過ぎた男が適当なことを言ってくる。


「獅朗、君なら誰か思い当たらないか?」


「思い当たらないから聞いているんですよ。」

 

「はっはっ。そうだよなぁ。あ、うちが担当って言ったけど何もうちの人間じゃなくても良いぞ。元うちの人間とかでも問題ない。」


要は一課を知っていて、一課の仕事の邪魔にならないようにご令息の研修を任せられる人と言うことになる。


成徳チェンドゥさんはどうでしょうか?」


「三課で嘱託してる成徳さんか?ん~悪くはないけど、あの方は病気でリタイアした人だろ?たぶん断られると思うなぁ。」


確かに。と獅朗は同意する。成徳は長年、一課で仕事をしていて、獅朗が一課に異動してくる前からずっと獅朗が加わったチームのマネージャーをしていた。


色んなことを教わり、どんな世界を渡り歩いても恥ずかしくないように獅朗を育ててくれたのも成徳だった。生憎、病には勝てずリタイアをしてしまったのは勿体なかった。

成徳がリタイアして三課に移る時に、マネージャーの印籠を託して行った相手が獅朗だ。


そんな経緯もあり、できれば獅朗自身も仕事がやり易い相手を、と思っていたのだが・・・

 

「思い当たらないなら人事に行って適当なの選んでもらったら良いんじゃないか?この際。」


また適当なことを言ってくれる。康宇の言う適当とはもちろん適任者のことを指す。そう簡単には見つからなそうだ。


「とりあえず人事に行って、それでもダメなら誰か当てがいないか成徳さんに聞いてみます。」


あぁ。これだから中間管理職なんてなるもんじゃない。次から次へと問題がやってくる。


獅朗の苦悩を知ってか知らずか、康宇は適任者は旧暦の正月が終わるまでに決まれば大丈夫だからな。と一言言うと手を振って去って行った。


まずは人事課から行こう。ため息をつくと獅朗は今日これからのスケジュールを考える。

ついでに例の女性のことも調べよう。

中間管理職の特権はこんなところくらいでしか発揮できないのだから。






………



午後に7話投稿します。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。

どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。 婚約破棄ならぬ許嫁解消。 外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。 ※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。 R18はマーク付きのみ。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

婚外年下彼氏と淫らな調教レッスン

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
アラフォー女子アキエは、毎日の子育て、仕事、家事にウンザリしていた。 夫とは不仲ではないけれど、出産後から続くセックスレスで欲求不満な日々。 そんな中、マッチングアプリで知り合った10歳年下既婚彼氏と性的なパートナーになることになって?! *架空のお話です。 *不倫に関する独自の世界観のお話です。不快に思われる方はスルーしてください。 *誤字脱字多数あるかと思います。ご了承ください。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

処理中です...