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出会い編
6.中間管理職
しおりを挟むエレベーターが止まる度に人々がどんどん出ていく。いったい女性は何階で降りるのだろうと観察していると、女性は獅朗の所属部所の二つ下の階でエレベーターを降りていった。
その階は営業三課のフロアになる。営業三課が女性の職場だったとは。
二人が勤めている王財閥の貿易会社には営業課は三つあり、獅朗が所属しているのは営業一課だ。
営業一課はいわゆる営業課の中で花形の部所になり、海外派遣も含め出世街道を突き進む野心家たちの集う部所になる。
一方、営業三課は出世街道から外れていると言えば語弊かもしれないが、例えば新卒で入社してきたものは全て三課に所属となる。そこから篩にかけられて、一課まで上り詰めるもの、とどまるもの、営業課以外の部所へ行くものと岐路が出来上がる。
またそれだけではなく、一課の第一線でキャリアを積んだ後にリタイアし嘱託として新人教育に関わるものや、家族の看病等自分以外の都合でキャリアを退き、比較的一課より時間に余裕のある三課に入るものなど、様々だ。
基本、王財閥の経営理念として、取りこぼしはしない。社員は家族同然の意識で受け入れられるため、様々な形態の働き方が存在する。
現に獅朗が一課に配属された当初にお世話になった大先輩は今、嘱託として三課でのんびりやっているようだった。
女性はいつから三課にいたのだろうか?もし入社してからずっと三課にいたのであれば獅朗とも出会っているはずだ。
だが、これまで出会うことは全く無かった。
そう言えば、今日の女性の両眼は同じ色だったようだから普段はコンタクトでもしているのか?
女性のことを考えていると、獅朗の所属する部所の階にエレベーターが止まり、静かに降りると己のデスクへと歩いていった。
………
仕事を開始してから一時間程経ち、ティーブレイクで雑談していると、ゼネラルマネージャー(以後、GM表記)が獅朗の席にやって来るのが見えた。
やぁ、獅朗。と手を上げて話しかけてくるのは去年GMに成り立ての康宇だ。何か話があるようでちょいちょいと手招きしてくる。
部下と雑談していた獅朗は断りを言って康宇のもとへ行く。
「ちょっと伝えたいことがある。」
「何でしょうか?」
「今日、GM会議があったことは獅朗も知っていると思うが」
歩きながら話す康宇は小さなミーティングスペースへと獅朗を促す。
ちなみにGMは会社の役員を兼任しているのが殆んどで、毎週月曜の朝に各部所のGMと社長、時には会長も交えて会議を開いている。
「ずっと決まらなかった例の話が決まってな、」
「ええ。ずっと話し合ってましたね。」
嫌な予感を感じながら席に着くと獅朗は康宇に話の続きを促す。
「社長のご令息の研修は我が営業一課が受け持つことになった。」
それを聞いて心の中でがっくり肩を落とす獅朗。何でよりによってうちなんだと、また面倒事が増えることにため息をつく。
社長のご令息はまだ大学四年生で三月に卒業となる。その後、大学院に進んで更に勉強をするよりも、早く実地で仕事を覚えたいとして研修生として受け入れることが決まった。決まったのは良いものの、どの部所が受け持つことになるか決めるのに難航し、やっと決まったのが今朝と言うことになる。
「受け入れるのは百歩譲って善しとしましょう。ですが、誰が担当するんですか?」
「それなんだよな。勝手に来て勝手に職場の雰囲気感じ取って勉強してくれ、とは言えないしなぁ、相手が相手なだけに。」
四十を少し過ぎた男が適当なことを言ってくる。
「獅朗、君なら誰か思い当たらないか?」
「思い当たらないから聞いているんですよ。」
「はっはっ。そうだよなぁ。あ、うちが担当って言ったけど何もうちの人間じゃなくても良いぞ。元うちの人間とかでも問題ない。」
要は一課を知っていて、一課の仕事の邪魔にならないようにご令息の研修を任せられる人と言うことになる。
「成徳さんはどうでしょうか?」
「三課で嘱託してる成徳さんか?ん~悪くはないけど、あの方は病気でリタイアした人だろ?たぶん断られると思うなぁ。」
確かに。と獅朗は同意する。成徳は長年、一課で仕事をしていて、獅朗が一課に異動してくる前からずっと獅朗が加わったチームのマネージャーをしていた。
色んなことを教わり、どんな世界を渡り歩いても恥ずかしくないように獅朗を育ててくれたのも成徳だった。生憎、病には勝てずリタイアをしてしまったのは勿体なかった。
成徳がリタイアして三課に移る時に、マネージャーの印籠を託して行った相手が獅朗だ。
そんな経緯もあり、できれば獅朗自身も仕事がやり易い相手を、と思っていたのだが・・・
「思い当たらないなら人事に行って適当なの選んでもらったら良いんじゃないか?この際。」
また適当なことを言ってくれる。康宇の言う適当とはもちろん適任者のことを指す。そう簡単には見つからなそうだ。
「とりあえず人事に行って、それでもダメなら誰か当てがいないか成徳さんに聞いてみます。」
あぁ。これだから中間管理職なんてなるもんじゃない。次から次へと問題がやってくる。
獅朗の苦悩を知ってか知らずか、康宇は適任者は旧暦の正月が終わるまでに決まれば大丈夫だからな。と一言言うと手を振って去って行った。
まずは人事課から行こう。ため息をつくと獅朗は今日これからのスケジュールを考える。
ついでに例の女性のことも調べよう。
中間管理職の特権はこんなところくらいでしか発揮できないのだから。
………
午後に7話投稿します。
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