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出会い編
2.最悪の出会い
しおりを挟む綺麗に整備された山道をしばし歩いていくと、やがて獣道のような道無き道に景色は変わった。
うっそうと生い茂る樹々の間から差し込む太陽の光が獅朗の歩く道を神秘的に照らしている。
一筋の光が道標のように前方を照らしだした。まだ朝も早い時間だからなおのこと、森の精が現れてもおかしくないような雰囲気を醸し出していた。
ふと、サクサクッと言う小気味良い音が何処からか聴こえてくる。なんだろうと耳を澄ましていると、小走りに下ってくる人影が見えた。どうやらこの山道をランニングコースとして愛用している人もいるらしい。
おはようございます。
獅朗が挨拶をするとランナーはスピードを少し緩め挨拶を返してくる。山頂はもうちょっとですよ。と手を振りながらランナーは去っていった。
山では知らない人とも気軽に挨拶ができる。都会とは大違いだなぁ、と急に険しくなった山道に息を切らしながら自然がもたらす意識の変化を不思議に思った。
だいぶ登り続け、はぁはぁと荒い息をつきながら歩く獅朗の隣には、リードをつけられたジンがそ知らぬ顔で歩いている。
四本足の生き物にとってはへっちゃらなようだ。
だが途中途中にある高い岩の塊を登る時は、足の長さが足りないジンにとっては登りがたく、獅朗が抱えて上げてやった。
抱えられると嬉しいのか、ジンはペロペロと獅朗の顔を舐める。
「こら。やめなさい、ジン」
確かにもう少しで山頂らしいけど、一旦休憩してジンに水をやった方が良いかもしれない。と、しばし休憩を取る。
ジンは水分補給で元気が出たのか、元気に走り出した。
ジンの後ろ姿を見ながら周りを見渡すと、先ほどまでの鬱蒼とした樹々が開けて空を仰げるようになった。そろそろ山頂だろう。
五分もすると、それまで坂道だった山道が平坦に変わった。
走りたくてウズウズしているジンを見て、山頂付近なら大丈夫だろうとリードを外す。
犬は嬉しそうに走り出すと、時折、後ろを歩いているだろう獅朗を振り返りまた走り、を繰り返すとあっという間に曲がり角へ消えて行った。
その後を追うように獅朗もしっかりした足取りで歩いていく。
ようやく曲がり角まで来ると『山頂』という衝立てが立っているのが見えた。
ジンが奥の方から走って引き返してきた。それに、、、なにやら困った顔をしているようだ。
ジンは獅朗のところまでやってくると、足元にお座りをして獅朗を見上げる。
「ジン、どうしたの?」
ずっと困ってクゥーンと鳴いているジンの頭を撫でてやると、それが合図となったかのように再びジンが走り出し奥の方へ向かう。
何だろう?
人間の獅朗にはわからない嗅覚で何かを見つけたのだろうか?
ジンの後を追って獅朗が歩き出すと、またジンが戻ってくる。戻ってきたかと思えばまた奥へ走っていく。
どうやら何かを見つけて、それを見て欲しいのかもしれない。
何が見つかるか怖い気もするけれど、念のため見に行くか。
すると、ジンがワンワンと吠え出した。普段はほとんど鳴かないジンが吠えるとは尋常ではない。
しかし、低木が生垣のように生えているため何も見えず、ジンの吠える声しか聞こえない。
やっとジンのすぐ近くまで近づくと、なにやら青いものが見えてきた。
良く見ると、靴下を履いた爪先のようだ。
青いものはどうやら靴下か?となると靴はどこへ?
うーん。
見たくないなぁ。と心の中で思う。
最後の一歩を踏み出そうかどうしようか迷っていると、しびれを切らしたジンが青い靴下を咥え引っ張りだした。
それを見て慌てた獅朗はジンにやめさせようと最後の一歩を踏み出し、ついに青い靴下の正体と対面してしまった。
そこには思った通り、横たわる人がいた。
帽子を顔に被せ横たわるその人は獅朗よりやや低いくらい上背があるようだが胸の膨らみが見えるので、恐らく女性だろう。(獅朗の身長は180cm)
と呑気に観察してる場合ではない。生きてるかどうか確認しなければと横たわるその人へそろりそろりと近づく。ジンは獅朗の後ろから加勢するように?声の限りに吠え続ける。
ふと、それまで微動だにしなかった女性の腕が持ち上がり、顔の上に被せた帽子をふいと摘まむと持ち上げ目と目が合った。
「そのうるさい犬をどうにかしてください。」
それだけ言うと帽子を元に戻し、女は再び動かぬ人になった。
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