三十路の恋はもどかしい~重い男は好きですか?~

キツネ・グミ

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出会い編

1.プロローグ~ある晴れた日の朝

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まだ朝早い時間。ふと目を覚ました男は時間を確認しようと枕元に置きっぱなしにしていたスマホを手に取った。

「まだ五時か、」

まだ一眠りできそうな気がして、実際、二度寝を決め込もうとしていたが、メッセージの受信サインを見つけ、何とはなしに開いてみた。

『明日、会えませんか』

知らない女性からだった。
いや。知らなくはない。
頭の片隅の記憶の中から、かなり以前にしばらくの間付き合っていたことのある女性であることが思い出された。
女性からの猛烈なアタックから始まった関係は、獅朗シーランがあまりにも仕事を優先させる姿に女性が嫌気を差し、その後あっさりフラれた記憶をうっすらと残していた。風の噂だと確か、結婚して子どもがいるはずだが・・・今さら何の用があると言うのか。
日付を見ると、昨日送られたメッセージのようだった。削除ボタンを押してメッセージを消去する。

また寝ようと思って枕に顔を突っ伏したのになんだか寝れなくなってしまった。
最近、ストレスの貯めすぎなのかもしれない。おまけに嫌な記憶も思い出した。

ふぅ。
ひとつため息をつくと、寝るのを諦めてむくりと起き出しキッチンへ向かう。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しごくりと一口飲み、窓から射す朝日に目を向ける。

今日くらい都会の喧騒を離れようか。週末くらいは誰に気兼ねすること無く過ごしたい。どこか郊外の静かなところにでも出掛けるのも良いだろう。

そう思ったらいてもたってもいられなくなって、先ほどまでの眠気や送られてきたメッセージも忘れて出かける準備を始めた。

動きやすいスポーツウェアに着替えるとクローゼットの奥の方からリュックサックを取り出す。念のため、雨が降ったら困るだろうとレインウェアをリュックに詰め込む。
その他、タオルやらティシュやら替えの靴下やら必要そうなものを詰め込む。
食料は、、、途中でコンビニにでも寄れば良いだろう。

あっという間に準備ができたので、玄関に向かおうとしてひとつ忘れていることを思い出す。

ジン(以後、ジン表記)に朝ごはんあげないと。

ベッドに戻り、布団の中のどこかに寝てるであろう犬を探す。探したけれど見つからず、おや?と思って辺りをキョロキョロしてみると、いつ起き出していたのか、すでに寝室から出ていたようで、リビングの方からトコトコとやってくるコーギー犬を見つけた。

「お前も一緒に行こうか?」

ジンは主人の獅朗が散歩に連れていってくれるのかと、喜んでお尻をフリフリする。実際にお尻は振っていないけれど、しっぽの短いコーギー犬なので、そんな風に見えてしまうのだ。

「お前の朝ごはんが済んだら出発しよう」

急いでキッチンに行くと、ドッグフードを取り出し、ジン専用のお皿に入れる。
朝ごはんが待ちきれないジンは獅朗のすぐそばでそわそわしている。

「はい。ご飯だよ。」

いつものことだけれど、あっという間に平らげてしまったジンは、もう無いの?と言う顔で獅朗を見上げる。

ご飯はもう無いけどこれがあるぞと、リードをちらつかせると、ジンは出掛けられることに興味を示し、玄関に向かう獅朗にトコトコと付いていく。

「さあ、行こうか」
ジンにリードを付けて駐車場まで降りる。エレベーターに乗っている間、ガラス張りの向こうの景色を眺める。いつもの見慣れた景色が今日は霞んで見えた。きっと今日はもっと良い景色が眺められる前触れかもしれない。

駐車場に着いて車のドアを開けると同時にジンが真っ先に車に乗り込む。助手席が自分の特等席だと知っていて陣取り目を輝かせているジンを見てると、こちらも早く出掛けたくなる。

用意した荷物を後部座席に放り込むと獅朗も乗り込みエンジンをかける。

「さあ、出発だ。行こう。」



……...

車を走らせること二時間ほど。風景が都会のそれとはだいぶかわり、山合いの田舎らしい風景になった。
途中、コンビニらしき店で食料と飲み物を買うのも忘れずに目的地へ走らせる。

着いた先はちょっとしたハイキングが楽しめる登山口だ。それほど標高は高くないので一時間もあれば頂上に着けるだろう。

「さぁ、行くよ」
隣のシートで外に出ることが待ちきれずにウズウズしているジンに話しかけるとドアを開ける。

外に出ると樹木の良い匂いを肺いっぱいに吸い込む。やはり都会と違って空気が美味しい。ジンもそう感じているのか、獅朗と登山口の間を何度も行ったり来たりしている。

後部座席に置いた荷物を取り出し背中に背負うと、逸る気持ちで落ち着かないジンを追って獅朗も軽やかや足取りで登山口へ向かった。
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