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26. 魔法

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 人間なら、今の状況を魔法かなんか特別な力でどうにかできたらいいのにと願ったかもしれない。
 でも、魔法ではないけれど妖力を持った猫又の私も、何もできずこうして額縁の中に匿ってもらっているわけで。結局のところ、特別な力があったところで使いこなせなければ宝の持ち腐れなのだ。
 特にそれは感じていて、急激に増えた妖力や手に入れたらしい上位の力だって私の手には余る。私が扱えるのは、前と同じ簡単な変化の術くらいだ。
 じっとしていろと言われて、本当に太郎と共にのほほんと快適な額縁暮らしを堪能しているけれど、このままでいいんだろうか。

「綾たち、元気にしてるかな」

 ポツリと呟けば、心配そうに太郎が見つめてくる。ああ、いけない。太郎にこんな顔させたくないのに。

「心配?」
「そうだね。私のために頑張ってくれてるから心配。私も手伝えることあればいいのになーって思っちゃうし。太郎の手伝いもしたいけど、外には出れないから掃除や食事の用意しかできないしね」

 外のお掃除とか手伝えなくてごめんね、と言えば勢いよく頭を振った太郎は言う。

「ご飯は美味しいし、たくさんあって掃除できてなかった部屋もきれいだし、お姉ちゃんと一緒にいるの嬉しいし毎日楽しい。だから、謝るのは変だよ」
「そっか、ありがとう。そうだよね、私は考えると駄目なんだよなー」

 どうも周りは考えてから行動してるって思ってるけど、私は脳筋ですから。考えたってどうせ良い答えなんて出てこないんだよね。私はできることをして前に進もう。
 あと、次に綾たちが来たらあの飴玉チックなやつをいくつか置いていってもらおうと思う。
 底なしの妖力製造マシーンになった私。他の人に使われるのはまっぴらゴメンだけど、綾たちのためにそれを使うなら本望だ。私のために頑張ってくれている綾たちに今の私ができることは、そのくらいしか思いつかない。
 まぁ、もはや私のためにっていうよりもっと話が大きくなってて、妖怪と人間の話に近いけれど。それに私を巻き込まないでほしいんだよなー、人間と共存できないと考える妖怪の皆様。おかげで私は、妖力増幅装置みたいな扱いで人間側からも狙われている。最悪だ。
 それこそ、パッとこの状況を変える魔法があればと思う。実際、そんなものはないから私はここに引き篭もっているのだけれど。

「さてと、今日のおかずは何にしようか」
「お魚! 焼き魚がいい!」

 ぴょんと、跳ねながら言う太郎の頭を撫で、私は夕飯を作るために腰を上げる。
 この空間は不思議で、欲しい材料が出てくるのだ。それも、太郎のために観音様が作った仕組みなんだろうけれど。たった一人でこの社を守る太郎が不自由しないように、随所に優しさが見える。
 私はその恩恵にあやかって、太郎と美味しい食事をするのだ。
 機嫌が良くなった私は、二本の尻尾をゆらりと揺らす。ここで暮らすようになってから、太郎が喜ぶので耳と尻尾はそのままにしていた。私たちしかいないのに、変化の術を使う必要はないしね。
 手を繋いで、私たちは台所へと向かったのだった。


 数日後、綾と洋介がやってきた。疲れてるだろうに、そんな素振りを一切見せないのは私に心配させたくないからだろうな。
 でも、いつものように背後から私を抱きしめてくる綾は少しぐったりしている気がして、私は綾の頭をそっと撫でる。なんだか髪の艶も肌もあまり良くない気がして、お疲れ気味なのが分かってしまった。喉元まで、ごめんね、の言葉が出てきたけれどそれを飲み込む。

「綾、来てくれてありがとう」

 それを聞いていた洋介が、ぶーぶーと不満そうに野次ってくる。洋介も動いてくれてるのは分かるんだけど、結局まだ正体教えてもらえてないし、信用度が違う。

「もー、澄ちゃん俺のことガン無視なのひどーい。俺もー!」
「澄と私の再会の邪魔をするな」
「ケチー、今回俺頑張ったよね? 澄ちゃん成分吸っても減んないでしょー」
「減る」

 ばっさりと綾に跳ね除けられた洋介は、叩かれた手を振りながら苦笑している。
 綾が代わりに防いでくれてよかった。成分は減らなくても私の心はすり減るからなー。
 まぁ、それはそれとして。二人と会えたことは本当に嬉しい。大きな怪我もしてなくて安心した。

「二人の顔が見れてよかった。私ここで二人が無事でありますようにって観音様に祈ることしかできないしね。でもこの間はね、太郎と追手の観察したりしてたよ」

 太郎のおかげで見つからずに確認できたよ、と告げれば、二人とも安堵のため息を吐く。

「やっぱりここにも来たか。太郎がここに居てくれて本当に助かった」

 綾に頭を撫でられて、太郎も笑顔になる。かわいいね。
 背後に綾を貼り付けたまま、私も久しぶりの綾の体温を堪能して笑顔になったのだった。
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