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25. 耳
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森のお社での生活というか、額縁の中の生活はとても楽だった。必要なものは揃っているし、太郎も毎日元気いっぱいで可愛い。
外敵から隠れているけれど、普通に暮らすより快適っていうのはどうなんだろう。
でも、淋しいこともある。綾たちに会えない。ほぼ毎日顔を合わせていたのに、会えないのはやはり悲しいものがある。
そんな日々を三日ほど過ごしていたら、お社の外が騒がしくなった。綾たちが来たのかもしれないと思ったけれど、声が違うし人数も多い。綾が来るとしたら洋介と二人で来るだろう。
耳を澄まして太郎と二人で聞いていると、男女含めた六人ほどが外にいるようだ。
「ねえ、外を見ることができる場所ある?」
「手水舎の水を通してなら見れたはずだよ」
太郎に手を引かれて水がめのある部屋に行き、覗き込む。すると手水舎の流れ落ちる水口から外にいる人物を見ることができた。そこにいたのは人間に擬態しているけれど、おそらく妖怪だ。鈴たちの仲間に違いない。けれど、そこに鈴の姿はなかった。
水がめから声も一緒に聞こえてくる。
「ここにいると思う?」
「どうだか。痕跡はなかったし、この社もハズレじゃねーの?」
「でも見てこいっていうからなー……」
「とりあえずこの周りにはいねえな」
そんなことを言いながらお社に侵入した妖怪たちは、内部を見渡していた。扉全開のまま捜索してくれてありがとうと思わずにはいられない。声は水がめを通さなくてもなんとなく聞こえるけれど、手水舎から見える範囲じゃないと視覚による状況把握がむずかしかった。
額縁の中で動いたら見つかってしまう可能性があるため、二人で息を殺して観音様にお祈りする。お社内部は観音様の神気が満ちているため、妖気は漏れていないはずだ。
「やっぱりなにもないんじゃない?」
「こんな昔の立て看板みたいなのはどこにでもあるしなー」
「やっぱり無駄足か。でも、あの結界から逃げ出して痕跡も残さず、どこに消えたんだろうな」
「遠くに行けば行くほど、痕跡を消すのは難しい。だから近場だろうっていうのは間違っちゃいない気がするんだけどなあ」
怖い、この人の予想的中ですよ。
でも私は捕まるわけにはいかないので、観音様が隠し通してくれることを祈り続けるしかない。私が捕まったら、綾たちが不利になるんでしょ。私はそんなの望んでない。
抜け道や隠し部屋などを探していた妖怪たちは、やがて諦めたのかお社を去る。
でも完全に気配が消えるまで安心はできない。帰ったと見せかけて、様子を窺っているかもしれない。
「お姉ちゃん、あの人たちに追われてるの?」
「多分ね」
実際に追っ手を見て、自分が追われているということを実感する。数日前まで、まさかこんなことになるとは思ってなかった。小さな溜め息が漏れる。
そんな私の手を、安心させるように太郎はギュッと握ってくれた。そして小声で耳打ちする。
「きっとね、大丈夫だよ」
「そうだといいな」
「僕も応援するし」
「それはとっても頼もしい」
顔を見合わせて同時に笑う。
その頃には、境内の辺りからあの者たちの気配は消えていた。
観音様にも太郎にも、そして綾たちにも助けてもらっている私は、改めて幸せだなあって思った。
外敵から隠れているけれど、普通に暮らすより快適っていうのはどうなんだろう。
でも、淋しいこともある。綾たちに会えない。ほぼ毎日顔を合わせていたのに、会えないのはやはり悲しいものがある。
そんな日々を三日ほど過ごしていたら、お社の外が騒がしくなった。綾たちが来たのかもしれないと思ったけれど、声が違うし人数も多い。綾が来るとしたら洋介と二人で来るだろう。
耳を澄まして太郎と二人で聞いていると、男女含めた六人ほどが外にいるようだ。
「ねえ、外を見ることができる場所ある?」
「手水舎の水を通してなら見れたはずだよ」
太郎に手を引かれて水がめのある部屋に行き、覗き込む。すると手水舎の流れ落ちる水口から外にいる人物を見ることができた。そこにいたのは人間に擬態しているけれど、おそらく妖怪だ。鈴たちの仲間に違いない。けれど、そこに鈴の姿はなかった。
水がめから声も一緒に聞こえてくる。
「ここにいると思う?」
「どうだか。痕跡はなかったし、この社もハズレじゃねーの?」
「でも見てこいっていうからなー……」
「とりあえずこの周りにはいねえな」
そんなことを言いながらお社に侵入した妖怪たちは、内部を見渡していた。扉全開のまま捜索してくれてありがとうと思わずにはいられない。声は水がめを通さなくてもなんとなく聞こえるけれど、手水舎から見える範囲じゃないと視覚による状況把握がむずかしかった。
額縁の中で動いたら見つかってしまう可能性があるため、二人で息を殺して観音様にお祈りする。お社内部は観音様の神気が満ちているため、妖気は漏れていないはずだ。
「やっぱりなにもないんじゃない?」
「こんな昔の立て看板みたいなのはどこにでもあるしなー」
「やっぱり無駄足か。でも、あの結界から逃げ出して痕跡も残さず、どこに消えたんだろうな」
「遠くに行けば行くほど、痕跡を消すのは難しい。だから近場だろうっていうのは間違っちゃいない気がするんだけどなあ」
怖い、この人の予想的中ですよ。
でも私は捕まるわけにはいかないので、観音様が隠し通してくれることを祈り続けるしかない。私が捕まったら、綾たちが不利になるんでしょ。私はそんなの望んでない。
抜け道や隠し部屋などを探していた妖怪たちは、やがて諦めたのかお社を去る。
でも完全に気配が消えるまで安心はできない。帰ったと見せかけて、様子を窺っているかもしれない。
「お姉ちゃん、あの人たちに追われてるの?」
「多分ね」
実際に追っ手を見て、自分が追われているということを実感する。数日前まで、まさかこんなことになるとは思ってなかった。小さな溜め息が漏れる。
そんな私の手を、安心させるように太郎はギュッと握ってくれた。そして小声で耳打ちする。
「きっとね、大丈夫だよ」
「そうだといいな」
「僕も応援するし」
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顔を見合わせて同時に笑う。
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