上 下
22 / 26

22. いつわり

しおりを挟む
【綾のターン】

 私がこの世界で偽りの姿で生きているのには訳がある。
 それはもちろん妖怪という本性を隠すためというのが一番だけど、人々からの信仰心を集めやすいというのもある。妖怪としての位を上げるためには、多くの信仰心が必要になる。さらに神を目指すためには善行を積んだり、人々の願いを叶えたりすることで貯める必要もある。しかし、それでは目標までの道のりがあまりにも遠すぎるため、手っ取り早く集められる方法をとったのだ。
 それが美少女姿で学校に通うことだった。
 特にこの学校は女子生徒の数が少なく、男子生徒の数が多い。年齢的にも思春期真っ盛りの者が溢れているため、皆が虜になるわけではないけど、美少女という肩書きはとても強いカードになるのだ。
 常に猫を被っているわけではなく、偽っているのはほぼ見かけだけなので生活も苦ではない。頼まれごとをこなすのも、笑顔を振りまくのも問題はなかった。皆を虜にして、信仰心を集めることに罪悪感もない。見た目を偽ってはいても、多様性を重視するようになった今、男の娘も存在しているし、そもそも妖怪だということを隠すための偽りの姿なのだから悪いことはしていない。性別のことを聞かれたこともないし、わざわざ言う必要はないだろう。それに気に入っている澄には本当の姿を見せているけど、事情があると知ってるし。

 ただ面倒だと思っていたのは、幼馴染である洋介の存在だ。最近までは接点もなかったため、すれ違っても無視をしていたけど、何の因果か澄の前の席になってしまいそうもいかなくなる。
 私のお気に入りの澄にちょっかいを出しまくり、周りを引っ掻き回す。こういうのが面倒だから、近付くのが嫌だったんだと溜息を吐く。本当に面倒くさい。
 ただ、私よりも力が強く頼りになる。そこは間違いないので今の状況を考えると邪険にもできない。
 先日、澄が捕らわれてしまったとき、洋介がいなければもっと大変なことになっていただろう。
 自分の力不足を感じて、唇を噛みしめる。うっすらと血がにじんだのが分かっても止められなかった。
 その時、後頭部を軽く小突かれる。噂をすればだ。

「せっかくの顔が酷いことになっちゃうよー」
「どうせ皆見るのは幻だし」
「まあ、大半がそうだろうけど、俺と澄ちゃんは見えちゃうよねー」

 ここで澄の名前を出すのは狡い。反論できなくなるのを分かってやっている。心配はさせたくないので、おとなしく唇を噛むのを止める。
 そんな私を眺めニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、洋介は目の前にあった椅子に腰掛けた。

「さてさて、そっちはどんな感じー?」
「変わりなしってところだ。今のところ澄を捜しているようなあやしい動きをしている者はいない。そっちは?」
「こっちもって言いたいところだけど、末端も末端の方であやしいヤツがいたから投獄中」
「そっちだったか」
「えー、俺の方が悪いみたいな言い方するけど、今はこっちで見つかっただけで、そっちでまだ隠れてる可能性大だからね」

 澄のように突然妖怪になったものもいれば、代々妖怪の家系も存在する。私と洋介は後者だ。幼馴染という関係も、そんな繋がりから来ている。お互い後継者という立場で引き合わされ、今に至る。
 多くの妖怪を束ねているのが、私たちのような家というか組織で、この学校もその一環だ。人間との共存を望み、それぞれが時代に合った形で生き延びようとしている。しかし、それをよく思わない者達がいるのも確かで、妖怪側はその者たちが今回の騒動を起こしていた。
 澄の能力は猫又の持つそれで特に珍しくないが、突然変異と言っても良いほど妖力が桁違いに多い。その膨大な妖力に目を付けられ、妖力の差で勝てない者たちへの秘密兵器として目を付けられたのだ。
 たいした能力もないくせに、澄の妖力で自分たちの不足分を補おうとするところにも腹が立つし、使い勝手の良い妖力生産器にしようと考えている時点で死に値すると思う。
 人間があふれかえるこの世界で妖怪が生き残ることを大前提として動いているのに、同族で殺し合うのは頭が悪すぎると思うんだけど、奴らはそうは思わないらしい。愚かだ。

「大元を捕まえないと意味ないから、口を割らせるように頑張ってるけどどうかなー。下っ端過ぎて教えられてないかも」
「芋づる式に引きずり出すしかないだろうね」
「そうなんだけど、効率悪いよねー。でも今のところそれしかな……くもないんじゃない?」
「──人間側から捜すのか。少なくとも澄を狙っていたことを知ってるということは情報を持ってるな」

 澄を狙っていた人間側は、人間に害を与えようとしている者たちを排除しようとしていた。敵の敵は味方にもなる。私たちはその方向で動くことにし、計画を立てるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...