人間と共存したい妖怪たち

黒鉦サクヤ

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21. 跡

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 私が逃げた跡を、捕らえた人たちは見つけることができたのだろうか。
 観音様の庇護下で、私はそんなことを考える。
 未だに、捕らえたくせに置いていったのはなんの意味があったんだろうと思ってしまうけれど。鈴が連絡して、結界内に閉じ込められた私を見ることができる人が回収しに来る予定だったのかなあ。人気の無くなる真夜中にとか?
 それにしたって酷い話だと思う。
 まあ、跡を見つけられないように綾と洋介があめ玉の欠片の回収もしてたし、窓を森に繋げた痕跡も丁寧に消してたし。追っては来られないだろうから大丈夫だと思うけれど。
 最近のドタバタを考えるだけで憂鬱になる。重いため息を吐き出すと、心配そうに太郎が顔を覗き込んできた。

「お姉ちゃん、大丈夫?」
「ありがとう。平気だよ。ちょっとね、最近疲れることが多くて」
「そうなんだ。でもここは静かだし安全だからゆっくり寝られるよ! 疲れてるなら、今日はもう寝よう?」
「ふふっ、そうだね。お布団並べて寝ようか」
「うん!」

 笑顔の太郎と一緒に布団を敷いて、ごろりと横になる。はしゃいでいる太郎は可愛い。
 この額縁の中には迷路みたいに入り組んだ部屋がいくつもあって、侵入者対策がされている。それに、布団も用意されているし、お風呂や台所、トイレまでついていてビックリした。けれど、ここに住んでいるのは太郎だけだ。
 絵には他の人々も描かれていたからその人たちもいるもんだと勝手に思っていたけれど、太郎だけだったなんて。観音様が一緒でも、添い寝をしてくれるわけでも話し相手になってくれるわけでもない。何百年もずっとここに一人きりで、お社の手入れをしてきた太郎はどれほど淋しかっただろうと思う。
 さっきの、ここにいてくれたら嬉しい、と言う言葉は本心だったんだろう。

「ここのお社って、人間もお参りに来るの?」
「うん、学校に通ってる人とか、近所の人とか来るよ」
「そっか。そういう時は、こっそり眺めてるの?」
「声だけ聞いてるよ。驚かせちゃうから、中に居るんだ」

 声のトーンが少し下がったのは、本当は近くで見たり話したりしたいんだろうな。人懐っこい子だから、人間とも仲良くなれるはずなんだけれど。怪異だとしても害はない子だし、たまに人と話すくらい問題はなさそう。パッと見ただけでは特に人間と違ったところはないから、突然現れたりしなければ怖がられないと思うから話してみれば良いのに。
 でもこれは私の完全な推測だから、本人に確認してみてからかな。本当は仲良くしたいと思ってないかもしれないし。
 私は太郎の方を向くと、視線を合わせて尋ねる。

「ねえ、私は人間と一緒に居てみたくて学校に通ってるけれど、太郎は人間と話してみたい?」

 その問いに太郎は勢いよく頷いた。

「ちょっと怖いけど、話してみたい。僕、話してみても良いのかな」
「観音様はなんて言ってる?」
「えっと、この社を手入れしている家の子どもってことにすれば良いんじゃないかって」

 ここの観音様、話が分かる観音様で大好きなんだけれども。太郎の保護者と言っても良い観音様がオッケーを出してくれているなら、問題ないだろう。

「それじゃあ、私が外に出ても良くなったら一緒に話してみようか」
「いいの? お姉ちゃんも一緒にいてくれるの?」
「もちろん。最初から一人は怖いでしょ? それに、人間にも良い人と悪い人がいるの。それを見分けられるようにならないとね」
「そうなんだ。……むずかしい?」

 やる気は十分だし、観音様もいるから最悪の事態は免れると思う。

「慣れれば分かるようになるし、観音様も見守っていてくれるし、人間には人間のふりをして話してればきっと平気だよ」

 本当のところ、人間と妖怪は能力の差はあるものの生きものとしては大差ない。どちらにも悪い考えを持つヤツはいる。
 その悪い考えを持ったヤツらが、私を狙っているんだよね。
 しんどいなーと思いつつも、隣で嬉しそうにしている太郎に頬が緩む。

「ここに入れてくれて本当にありがとうね」
「えへへ、僕以外がいるの初めてだから嬉しいな」

 とろけそうな笑みを浮かべる太郎の頭を優しく撫でる。いつもは撫でられる側だけど、今日だけは逆。助けてくれたありがとうをこめて、思う存分、太郎を甘やかそうと思った。
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