人間と共存したい妖怪たち

黒鉦サクヤ

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19. なぜ?

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 なぜ? どうして? 私は何なの?
 そんな疑問がぐるぐると脳内を巡る。私は力も無い猫又でその前はただの黒猫だったのに、なんのために捕獲されたのだろう。そして、どこかに連れて行かれるならともかく、捕らえた本人も私の場所が分からずそのまま放置なんて許せない。捕まえたくせにそれはあんまりだと思う。
 不安なのか怒っているのか、自分の中に色々な感情が渦を巻いていて私は混乱していた。目の端に洋介が見えたけれど、今は綾の温もりに包まれていたい。絶対的な安心が欲しかった。
 綾に背を何度も優しく撫でられているうちに、だんだんと落ち着いてくるのが分かる。小さく息を吐いて、私はようやく綾から離れることができた。

「良かった」
「うん。ただいま」
「はーいはいはい。感動の再会はここまで。とりあえず場所移して話そー」

 涙ぐみながらの再会を邪魔した洋介は、移動しようと声を上げた。でも、本当に私を捕まえた人だか組織だか分からないけれど、私を連れていくために戻ってこないのだろうか。不安な気持ちが顔に出たのか、綾が私の手を握る。手から伝わる温もりが温かくてホッとした。

「あー、そっか。心配かー。多分、戻ってこないと思うよー。そんなに心配なら……そうだ、綾ちゃん森まで道作ってよ」
「オマエに言われて作るのは癪に障るけれど、澄もその方が良いだろうし」

 森は校舎の裏にある。ここは街や駅に近い場所にあるが、実験的に作られた特殊な学校ということもあり、妖怪のために森や緑の多い場所に位置していた。

 綾が窓と森を繋げる準備をしている間、私は床に転がっていたあめ玉の欠片を見つけて手に取った。あめ玉の形をしていたあめ玉ではないもの。途中で文字が浮かび上がっていたけれど、あの時は読む余裕なんてどこにもなかった。今見ている欠片は、文字どころか効力を失っているからか不透明に濁っている。

「そうだ。これ、届けてくれてありがとう。助かった」
「いえいえー。いやー、教室入ってきたら宙に浮いてたからビックリしたよねー」
「私も頭撫でられてたら浮いて驚いたよね」
「澄ちゃん、隙だらけだからだよー」

 そんなことはない。しかし、ここでそう思っているのはどうやら私だけで、綾も大きく頷いていた。そんな馬鹿な。
 私以外は満場一致なので、これからは少し気をつけようと思う。見境無く頭を撫でてもらうのは止めよう。気持ちいいんだけれど。
 準備ができたのか綾が私に手を伸ばす。その手を握ると、ベランダに繋がる窓を開けて一歩進んだ。私も引かれるままに歩を進める。そして、次の瞬間には見慣れた森の中に居た。

「お見事お見事ー」

 軽口を叩きながら窓を越えて森に降り立った洋介は、私たちに笑顔を向ける。やっぱり人間じゃないんじゃない? 驚きもしないし、当たり前のように隣にいるし。

「ここなら澄ちゃんも見慣れてるから安心でしょ」
「確かに。あの、二人に聞きたいことたくさんあるんだけれど」
「えー、俺だけじゃないの?」
「だって、二人で私に隠し事してるでしょ。もちろん、隠してること全部教えてって話じゃなくて三つだけ。私が狙われてるのはなぜか、洋介の正体、あとは二人はどんな知り合いなのか」
「やったー! 俺に興味津々ー!」

 ばんざーい、と両手を挙げる洋介の後頭部を綾が殴っている。教室にいるときよりも気安い感じがするのはなぜだろう。少し淋しい。

「でもねー、俺の正体はまだ内緒だからー、代わりにあめ玉がなんなのか教えてあげる」
「正体の方が知りたいけれども」
「謎多き男の方が面白いよねー」

 そういう問題ではないんだけれど。いつまで隠されるんだろう。まあ、でも敵ではないのは確かっぽいからいいか。

「まず、澄ちゃんは妖力の量が半端ないので狙われてまーす」
「まさか。普通でしょ」
「澄、自分では気付いてないだけで本当に多いよ。あれを割れる量注ぎ込めるのって数えるほどしかいないから」

 ふむ。妖力無くなったらどうしようって思った時に、でもまだまだ平気だなと感じたのは間違いじゃなかったのか。

「で、二つ目。あめ玉はお察しの通り、妖力をため込める容器。んで、三つ目は幼馴染?」
「は? 幼馴染って小さい頃から一緒でした、な?」
「そうそれー!」
「綾、嘘じゃなく?」

 酷いー嘘じゃないのにー、と洋介が騒いでいるのを無視して綾を見つめる。嫌そうな表情をしていたけれど、綾は頷いた。本当に幼馴染なのか。でも狐じゃないよね、洋介は。

「あと、おまけで教えちゃうけど佐々倉と天見は手を組んでないよ。あれは別々の組織が動いてる」
「二つの組織から狙われてるの? そんな馬鹿な」

 嘘でしょ、と綾に縋るけれど残念そうに首を左右に振り、本当だから気をつけて、と言う。嫌だー、という私の悲痛な声が森に響いた。
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