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18. 顕す

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 宙から見下ろす教室は普段通りで、そこに私がいないだけ。
 綾は心配そうに私の席を何度も振り返りながら、隣のクラスへと帰って行った。私を閉じ込めた鈴は私がどこにいるのかも分からないようで、怪しまれない程度に視線をちらちらと教室内へ向けている。
 まさか、囚われてこのまま放置されるのかな。誰にも発見されずにこの中で餓死とか最悪の事態になったら笑えないんだけれども。まあ、洋介には見えているから、そんなことにはならないと信じたい。

 呪いも拉致もそうだけれど、黒幕は一体誰なんだろう。あの不幸の手紙は手紙自体を破ったり捨てたりしたら呪いが発動して、覚めない眠りに落ちるものだった。あの呪いも今回のも私を拉致するためのものみたいだ。殺す気はないのだろう。でも、なんのために私が必要なのかは未だに謎だ。
 手にしたあめ玉を眺めつつ、洋介に視線を向ける。すると洋介の手元に文字が見えた。

『澄ちゃんへ。やほー! なんでそんなとこにいんの? 大変だね!』

 ふざけてるのかな、こいつ。
 こんなに軽く言うようなことでは無いでしょうよ。それに、なんで私が宙に浮いてて誰からも認識されてないのに、そんなに落ち着いていられるのだろう。人間ってそんなに高い順応性あったっけ? これは人間の言う、超常現象だよね?
 言葉は届かなくても表情は見えるようなので、あかんべーをして頬を膨らませる。ここは大げさなくらいにやっていこうと思う。
 すると、洋介はまたノートに何かを書き始めた。

『まあ、怒らない怒らない。さっきあげたあめ玉は、この教室から皆いなくなったら使ってみて』

 使ってみて、と言われてもあめ玉は舐めるものなんじゃないのかなあ。なにをどう使うのか。首を傾げてみせると、洋介はさっきの文字の下に付け足す。

『この間は綾ちゃんに止められたけど、そこから出るにはそれが必要だからねー。使い方は授業の間考えてみて。澄ちゃんならできるってー』

 最悪だ。教えてくれる気はないらしい。やり方を書いてくれても罰当たらないと思う。こっちは捕らわれてるというだけで、精神的負担が大きいんですけれども。
 私はあめ玉を手に項垂れる。唯一私のことが見える人物が洋介だということに絶望した。
 洋介は私がこのまま放置されると思っている。そうでなければ、私だけが教室に最後まで残るってこと言わないと思う。こんな状況でも洋介に振り回されてて腹が立つけれど、ここに放置されるのは嫌だから考えよう。

 分かったことはこのあめ玉は舐めるものではないが、私を助けるものということだけだ。あと考えられるのは、私にしかできないことをすれば良いのではないかということ。私が今ここにあるものだけでできるのは、私を閉じ込める結界にあめ玉を叩きつけるとか、あめ玉に妖力を注ぎ込むとか?
 でも、私がそれをできることを洋介は知っているのだろうか。
 洋介は妖怪ではないけれど、人間判定もこの空間にあめ玉を入れることができた時点で止めることに決めた。もし、人間だとしても妖怪と同程度、それ以上の力を持っているのは間違いない。あの綾が私のことを感知できないのに、洋介だけはできるのだから。
 
 洋介からアドバイスもヒントももらえないままに授業中に考え続けた私が出したのは、ありったけの妖力を注ぎ込むことだった。先ほど少しだけ注いでみたところ、うっすらと光り始め、あめ玉が一回り大きくなった。この結界を破るくらい大きくすれば、弾け飛ぶのではないだろうか。どちらかというと脳が筋肉でできているので、力業に頼ってしまう。失敗したら洋介に丸投げすることにしよう、そうしよう。
 教室から人が減っていき、最後の一人になったのは洋介だ。綾ちゃん呼んでくるからやってみて、と書き残して出て行く。どうにか綾が来るまでに脱出したい。
 私は気合いを入れて、あめ玉に先ほどよりも速い速度で妖力を注ぎ込んでいく。
 一回り、二回りと注ぎ込む量に従って大きくなる。私の予想通り、あめ玉は妖力を貯める容器のような役割を持っているようだ。
 うっすらと光り始めていたあめ玉は、しだいに文字のようなものが姿を顕し、ただのあめ玉ではないことが分かる。そして今は目映い光を放っていた。暗闇の中でこんなに光っていたらすぐに怪しまれると思うのに、誰も気にして駆けつけてこないところを見ると、結界の内の光は外へ漏れることはないらしい。
 私は目を開けていられなくなり、あめ玉が吸い込む限りの妖力を目を瞑りながら与え続ける。私の中の妖力がすっからかんになったらどうしよう、なんて思い始めた頃、ようやく結界よりもあめ玉が大きくなったようで、内側からそれを破壊した。
 宙に飛び出した私を、いつの間にか教室内にいた綾が抱き留めてくれる。安堵の溜め息と涙が溢れ、教室に戻った私は綾にしがみついた。
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