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15. 書く

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 手紙を読んでしまってから数日経ったけれど、私は元気だった。特に変わったこともなく、日々を過ごしている。
 呪詛を受けたのなんて夢だったんじゃないかと思ったけれど、綾のガードが日に日に強まるのを見て、それはないなと溜息を吐いた。
 そんなある日、いつもより少し遅く教室に着くと、こめかみを押さえながら辛そうにしている花澄がいた。

「どうしたの?」
「最近偏頭痛酷くて。元から偏頭痛持ちではあるんだけどねー」
「……それって酷くなったのいつ頃?」
「五日くらい前からかな」

 花澄は目も苦しいのか机に突っ伏しながら言う。偏頭痛の時は光も刺激になるもんね。
 って、五日前って私が手紙を読んだ日だ。花澄に、お大事に、と告げると私は教室を飛び出して綾の元へと向かう。
 私が隣の教室に顔を出すと、瞬時に笑顔になった綾が入口まで走ってくる。わんこみたいで可愛いんだけど、ちょっと今はそれどころじゃない。聞きたいことがあるんだから。

「ちょっとだけ良い?」

 一も二もなく頷いた綾は私に手を引かれ、空き教室に入ると扉を閉める。聞きたいことは一つ。

「もしかして、私の呪いって仲の良い人たちにばらまくタイプだった?」
「どういうこと?」
「私が手紙を読んだ日から、花澄が体調崩してるみたい。そんなに強いものではなさそうだけれど、普段から調子の悪い部分を悪化させるような感じなのかも」
「あー……ごめん。それだと私は気付かなかったかもしれない。小さな呪いは私には無効だから」
「綾のせいじゃないし。ただね、私久々に頭にきちゃったから、どうにかして手紙の主を見つけ出したいんだけれど」

 私だけならまだしも、ばらまきタイプを寄越すなんて許せない。私を狙ったのかすら分からないけれど、無関係の人にまで巻き込むのはどうなんだろう。ニッコリと笑った私の顔を眺めた綾は、これまた美しく冷たい笑みを浮かべる。

「お灸をすえてやらないとね」
「そうでしょ? 手紙の痕跡は難しいって話だったけど、ロッカーになんか残ってないかな。まあ、あったら見つけてるか」
「いや、ロッカーを開けてまでは見てないかもしれない」

 顔を見合わせた私たちは同時に頷いて、手紙の入っていたロッカーへと向かう。使うものは持ち歩いていたから、あれからロッカーは一度も開けていない。
 ロッカーを開けるのは綾に任せる。力の強い綾の方が、気付くことがあるかもしれないからだ。扉を開ける前に外回りを確認するけれど、扉自体にはなんの細工もされていないらしい。けれど、扉を開けた瞬間、綾は勢いよく開けた扉を閉めた。

「え、なに?」
「澄、あれから一回も開けてないよね」
「うん。開けてないけど……まずい感じ?」

 綾は頷いて、すぐにどこかに電話をかけ始めた。わー、これはなんか本格的にまずそうだ、と私はたった今閉められた扉を見つめる。そして、綾が電話を切ったのを確認し、声をかける。

「で、どんな感じ?」
「ドロドロだった」
「ドロドロって? 中に入ってたものすべて?」

 なんか実習着とか入れてたような気がしたけれど、手紙の主に慰謝料を請求しても良いんじゃないだろうか。でも、痕跡が残るどころかべったりってことだから、手紙の主を探せるんじゃないかな?

「ねえ、他の手紙もらった人たちのロッカーもこんな感じ?」
「今、もう一度確認してもらってるけど、多分澄だけだと思う。手紙をもらったのって澄が一番最後みたいなんだよね。その前にもらってる人のロッカーは調べたけど何も出なかったから、澄のも出ないだろうということで見てなかったって」

 ごめん、と綾が謝るけれど、悪いのは手紙の主だけだから。ドロドロ気持ち悪いし、多分にして呪いが実体化してるってことだよね。そして、おそらく私が真のターゲットだったんじゃないかと思う。他の所に痕跡残ってないから、手紙の主もこちらと同様に、私の所にも残ってないと思ったに違いない。本命ならちゃんと確かめなよー。でも、こちらにとってはラッキーなのでありがたく使わせてもらう。

「よし、そのドロドロは手紙の主に送り返そう。おそらく、ここにあるって気付かれてないから残ってるんだよね。気合いを入れて呪い返ししよう!」
「澄、とっても悪い笑顔だよ。可愛いけど」
「可愛いかは分からないけど、ちょっと怒ってるから今回は容赦しないでいこうと思う」

 拳を握りしめ、ポケットからメモ帳を取り出す。紙なんて、この際何でも良い。

「私書いたやつで勝てるか分からないんだけど、どう思う?」
「澄、自分で思っている以上に強いから大丈夫だと思うよ。それに呪いをかけられた本人の方が良いはず」
「綾のお墨付きもらえたから頑張るね」

 気合いを入れ、私は出したばかりのメモ帳に、呪いを送り返す文言を書いた。
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