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14. 読む
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ロッカーを開けたら、手紙が一通入っていた。
これはいわゆるラブレターというものだろうか、それとも果たし状とかその類いのものだろうか。
どちらにせよ、初めてもらったものだから、ほんの少しわくわくする。
そっと手に取り裏表を眺めてみると、宛名も差出人の名前もない。怪しさが一気に増した。
古の嫌がらせの手紙には、カッターの刃が付けられていたりすると聞いたから、縁の辺りを手で触ってみたけれど、特にそういったものは装着されていないようだ。
そのまま手紙を鞄の脇に突っ込み、トイレへと向かう。自分の席で読んでも良かったけれど、すぐに振り返って声をかけてくる洋介がいる。手紙を読むのも一苦労しそうだから早々に諦めた。
そそくさとトイレに入り、先ほどの手紙を開け読んでみる。するとそこには、よく見掛ける定型文が書いてあった。
『三日以内にこの手紙と同じ文章を、あなたの友人十名に出さないと不幸になります』から始まるこれは、典型的な不幸の手紙だろう。よくない類いのものと分かったからか、気分的に手紙の重量が増したような気がする。
「これ、今でも出す人いるんだ……」
手紙を出すこと自体減ってきているこの世の中で、これは生き残っているのかと感心した。変わらないものなんてないと思ってるけれど、不幸の手紙は昔から人数や日数などには変化があってもほぼ変わらない。文章は何パターンもあるけれど中身がほぼ変わらないのは、一字一句変えるなって言葉が入っているのもポイントだろうなあと思う。幸福の手紙なんて名のものもあるけれど、あれだって不幸の手紙と中身は同じだしね。
それにしても、このご時世、これをもらった人でちゃんと手紙の通りに出す人がいるんだろうか。そう思ったけれど、読んだ後に不安になって誰にも相談できない人は手紙の通りに動いてしまうのかもしれない。
この不幸の手紙も、どうしようもなくなった人が出してしまったものなのかもなと思った。
まあ、私で止めちゃうけど。
でも、このまま見える状態でゴミ箱に捨てるのもなあと思い、破ってしまおうと手紙の縁に手をかける。その時、トイレに勢いよく駆け込んでくる音が聞こえた。
「澄、いる?」
「へ? いるけど。どうしたの?」
荒い足音でやってきたのは綾だった。私はこれまで綾が慌ててやってきたときのことを思い出す。私がピンチのときに綾はいつも現れた。もしかして、と私は手元の手紙を見つめる。
「なんかもらったでしょ。今、手に持ってる?」
「あー、持ってるね。ちょっとまって、今ここ出るから」
私は手紙を持ったまま、扉を開けて綾の前に出る。綾のきれいな顔が、その手紙を見て歪んだ。
「それ、手渡しだった?」
「ロッカーに入ってたんだよね。名前もないし、誰が置いたのかさっぱり。でも、中身は読んでしまいましたー」
「そうだよね、読んだよね。それ、呪い」
「うん、呪いの手紙だった」
そうじゃなくて、と綾は説明してくれる。ただの呪いの手紙なら良かったけれど、これは読んだ者に本当に呪いが降りかかるらしい。手紙に書いてある内容は無害な呪いの手紙に見せるフェイクで、その下に本当の呪いが隠されていたらしい。もしかして、読んだ後に重くなったのもそれのせいなのでは。
「今、破って捨てようと思ったんだけれど……」
「やらなくて正解。やってたら、呪いが完成して二度と目覚めなかったかも」
良かったー、と綾は私のことを抱きしめた。少し震えていたから、本当に間一髪だったんだろう。
「これはどうしたらいいのかな。犯人捜しして呪い返せるのかな」
「少し難しいかも。他にももらった人がいて破ってしまったんだけど、現在意識不明で入院中。捜そうにも、手紙に残る痕跡が薄すぎて今のままでは追えないみたい」
「そんな……」
読むことで呪い発動ってだいぶ悪質。だって、手紙が入ってたら中身が気になって、そのまま読んでしまう。なんてことだ。
「とりあえず、呪いは発動したけど完成はしてないからまだ大丈夫ってことだよね」
「いまのところは。でも……」
綾が歯切れ悪く話しているときは、あまり大丈夫ではないときだ。タイムリミットはいつなのだろう。もし知ってたとしても教えてくれないと思うけれど。
「澄がそれを受け取ったことは周りには内緒にしておいて」
「分かった。手紙は持ち歩いた方が良い? それとも綾に渡した方が良い?」
「私が責任を持って預かる」
その言葉に私は大きく頷いた。他人に命を預けることになるけれど、綾は私を裏切ったりしない。それだけは分かるから、預ける理由には十分だ。それに、綾のところには色々と動いてくれる機関がある。
「ひとまず授業に出ないとね」
授業開始の鐘の音を聞きながら、私は読んでしまった手紙を眺め溜息を吐いた。
これはいわゆるラブレターというものだろうか、それとも果たし状とかその類いのものだろうか。
どちらにせよ、初めてもらったものだから、ほんの少しわくわくする。
そっと手に取り裏表を眺めてみると、宛名も差出人の名前もない。怪しさが一気に増した。
古の嫌がらせの手紙には、カッターの刃が付けられていたりすると聞いたから、縁の辺りを手で触ってみたけれど、特にそういったものは装着されていないようだ。
そのまま手紙を鞄の脇に突っ込み、トイレへと向かう。自分の席で読んでも良かったけれど、すぐに振り返って声をかけてくる洋介がいる。手紙を読むのも一苦労しそうだから早々に諦めた。
そそくさとトイレに入り、先ほどの手紙を開け読んでみる。するとそこには、よく見掛ける定型文が書いてあった。
『三日以内にこの手紙と同じ文章を、あなたの友人十名に出さないと不幸になります』から始まるこれは、典型的な不幸の手紙だろう。よくない類いのものと分かったからか、気分的に手紙の重量が増したような気がする。
「これ、今でも出す人いるんだ……」
手紙を出すこと自体減ってきているこの世の中で、これは生き残っているのかと感心した。変わらないものなんてないと思ってるけれど、不幸の手紙は昔から人数や日数などには変化があってもほぼ変わらない。文章は何パターンもあるけれど中身がほぼ変わらないのは、一字一句変えるなって言葉が入っているのもポイントだろうなあと思う。幸福の手紙なんて名のものもあるけれど、あれだって不幸の手紙と中身は同じだしね。
それにしても、このご時世、これをもらった人でちゃんと手紙の通りに出す人がいるんだろうか。そう思ったけれど、読んだ後に不安になって誰にも相談できない人は手紙の通りに動いてしまうのかもしれない。
この不幸の手紙も、どうしようもなくなった人が出してしまったものなのかもなと思った。
まあ、私で止めちゃうけど。
でも、このまま見える状態でゴミ箱に捨てるのもなあと思い、破ってしまおうと手紙の縁に手をかける。その時、トイレに勢いよく駆け込んでくる音が聞こえた。
「澄、いる?」
「へ? いるけど。どうしたの?」
荒い足音でやってきたのは綾だった。私はこれまで綾が慌ててやってきたときのことを思い出す。私がピンチのときに綾はいつも現れた。もしかして、と私は手元の手紙を見つめる。
「なんかもらったでしょ。今、手に持ってる?」
「あー、持ってるね。ちょっとまって、今ここ出るから」
私は手紙を持ったまま、扉を開けて綾の前に出る。綾のきれいな顔が、その手紙を見て歪んだ。
「それ、手渡しだった?」
「ロッカーに入ってたんだよね。名前もないし、誰が置いたのかさっぱり。でも、中身は読んでしまいましたー」
「そうだよね、読んだよね。それ、呪い」
「うん、呪いの手紙だった」
そうじゃなくて、と綾は説明してくれる。ただの呪いの手紙なら良かったけれど、これは読んだ者に本当に呪いが降りかかるらしい。手紙に書いてある内容は無害な呪いの手紙に見せるフェイクで、その下に本当の呪いが隠されていたらしい。もしかして、読んだ後に重くなったのもそれのせいなのでは。
「今、破って捨てようと思ったんだけれど……」
「やらなくて正解。やってたら、呪いが完成して二度と目覚めなかったかも」
良かったー、と綾は私のことを抱きしめた。少し震えていたから、本当に間一髪だったんだろう。
「これはどうしたらいいのかな。犯人捜しして呪い返せるのかな」
「少し難しいかも。他にももらった人がいて破ってしまったんだけど、現在意識不明で入院中。捜そうにも、手紙に残る痕跡が薄すぎて今のままでは追えないみたい」
「そんな……」
読むことで呪い発動ってだいぶ悪質。だって、手紙が入ってたら中身が気になって、そのまま読んでしまう。なんてことだ。
「とりあえず、呪いは発動したけど完成はしてないからまだ大丈夫ってことだよね」
「いまのところは。でも……」
綾が歯切れ悪く話しているときは、あまり大丈夫ではないときだ。タイムリミットはいつなのだろう。もし知ってたとしても教えてくれないと思うけれど。
「澄がそれを受け取ったことは周りには内緒にしておいて」
「分かった。手紙は持ち歩いた方が良い? それとも綾に渡した方が良い?」
「私が責任を持って預かる」
その言葉に私は大きく頷いた。他人に命を預けることになるけれど、綾は私を裏切ったりしない。それだけは分かるから、預ける理由には十分だ。それに、綾のところには色々と動いてくれる機関がある。
「ひとまず授業に出ないとね」
授業開始の鐘の音を聞きながら、私は読んでしまった手紙を眺め溜息を吐いた。
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