13 / 26
13. くじ
しおりを挟む
人を揶揄うのが得意な狸が、近くの商店街でバイトをしているらしい。
「今、商店街で買物した人を対象にくじ引きやってるから来てくれよなー」
調子よくそんなことを告げて去って行ったけれど、何か裏がありそうと思ってしまうのは私の心が汚れているのだろうか。でも、あの化け狸の緑は愉快犯なのだ。また何かやらかしそう、と思ってしまっても仕方が無い。
前は祭りで集まった屋台の手伝いをしていて、お金をちょろまかしたり、幻を見せて子どもを迷子にしたりと問題になっていた。学校の役員をしている妖怪の偉い人に呼び出されてたっぷり絞られたらしいけれど、おそらく懲りてはいないだろう。
化け狸は猫又や妖狐と同じく、人間を化かす能力を持っている妖怪と名高い。まあ、猫又はその三つの中でも一番下なんだけれども。狐は七変化、狸は八変化なんて言われているしね。私は太刀打ちできないので、関わり合いにならないでおこうと思っている。
「ねーねー、商店街で買物する?」
振り返って声をかけてきたのは洋介だ。慣れてきているけれど、急に声をかけられるとビックリする。私は今机に突っ伏してお昼寝をしていたのだから。
「私の家とは逆方向だから行かないな」
「あ、そーなんだ。でもさー、くじ引きってわくわくしない?」
いや、特に。そう言葉が出かかったけれど、すんでの所で飲み込む。普通は楽しみにするものだよね。当たるも八卦当たらぬも八卦みたいなものだけど、当たるかもしれないって期待してわくわくするものだもんね。
くじ引きにあまり興味は無いけれど、言っていったのが化け狸じゃなければほんの少しは期待したかもしれない。そのくじ引きは当たるのか、というのが本音だ。全然当たらないままにくじ引き期間過ぎそうだよね、と思っていたりもする。
「何が景品になってるのか分からないけど、まあ、くじ引きして当たったら嬉しいだろうね」
「だよねー。俺、ちょっと行ってみよー」
「うんうん、行っておいでよ。当たるように祈っておくね」
「祈ってくれんの? そりゃもう当てなくちゃでしょ!」
妙に張り切っている洋介を、私は冷めた瞳で見つめる。会話を早く切り上げたいときにするリップサービスなんだよね。ごめんね、悪い奴じゃないと思ってもあまりお近づきになりたくなくて、やっぱり距離を置いてしまう。頼むから早く種明かしをして欲しい。
翌日、隣のクラスから悲しい叫びが聞こえてくる。昨日も聞いた化け狸の声だ。
そのうるさい教室から逃げてきた綾が、いつものように私の首に腕を回して抱きついてきた。癒される、今日もかっこよくて可愛い。
「あの嘆きはどうしたの?」
「なんか、くじ引きがどうのこうのと……」
綾から見聞きしたことを教えてもらっていると、そこへ洋介がやってきた。
手にしているのは封筒だ。
「やっほー! 見てみてー! 昨日とっちゃったー!」
「……もしかして、くじ引きの?」
「そうそうー! 一等当たっちゃってさー、ラッキー! 澄ちゃんが祈ってくれたからじゃね?」
「そんな、まさか」
祈った、って言葉に綾が食いついて私を睨んでくる。いやいや、神頼みとかそういうのじゃないから。リップサービスだけで、全然祈ってませんから。
封筒の表書きをよく見てみると、『一等 遊園地ご招待券』と書いてある。
「ねーねー、これ一緒に行こう?」
「澄は忙しいので無理」
「綾ちゃんには聞いてないし。良いよねー、一緒に遊園地」
「いや、私は何もしてないので結構です」
「そんなこと言わずにさー」
面倒くさい。なんでこんなあやしい人物と一緒に遊園地に行かないといけないんだろう。意味が分からなくて綾に目で助けを求める。綾は小さく頷いてくれた。
「あっちの教室で一等とられて悲しみに暮れてるヤツがいるから、その人と一緒に行ったら良いと思う」
あれは絶対に一等が当たらないように細工していたに違いない。そうでなければ、あんなにワンワンと嘆いていないだろう。最後に自分が引いて、残り物には福があるとかやる予定だったんだろうな。でも、そうなるとどうやって洋介はこの一等を手に入れたのだろう。こっちも何かイカサマをしたんだろうけれど、狸と何が化かし合いをしたのか。怖すぎる。
でも、もっと怖いのは無理矢理連れて行こうとしている目の前のこの男だ。
「え、やだよ。男でしょ? 俺は澄ちゃんと……」
「私の休日はすべて綾と一緒って決まっているので無理」
「そんなーひでー!」
勝手に行くことにされてる私のほうが可哀想だよね。
私はなんとかその場を逃げ切り、遊園地のお誘いをなかったことにしたのだった。
「今、商店街で買物した人を対象にくじ引きやってるから来てくれよなー」
調子よくそんなことを告げて去って行ったけれど、何か裏がありそうと思ってしまうのは私の心が汚れているのだろうか。でも、あの化け狸の緑は愉快犯なのだ。また何かやらかしそう、と思ってしまっても仕方が無い。
前は祭りで集まった屋台の手伝いをしていて、お金をちょろまかしたり、幻を見せて子どもを迷子にしたりと問題になっていた。学校の役員をしている妖怪の偉い人に呼び出されてたっぷり絞られたらしいけれど、おそらく懲りてはいないだろう。
化け狸は猫又や妖狐と同じく、人間を化かす能力を持っている妖怪と名高い。まあ、猫又はその三つの中でも一番下なんだけれども。狐は七変化、狸は八変化なんて言われているしね。私は太刀打ちできないので、関わり合いにならないでおこうと思っている。
「ねーねー、商店街で買物する?」
振り返って声をかけてきたのは洋介だ。慣れてきているけれど、急に声をかけられるとビックリする。私は今机に突っ伏してお昼寝をしていたのだから。
「私の家とは逆方向だから行かないな」
「あ、そーなんだ。でもさー、くじ引きってわくわくしない?」
いや、特に。そう言葉が出かかったけれど、すんでの所で飲み込む。普通は楽しみにするものだよね。当たるも八卦当たらぬも八卦みたいなものだけど、当たるかもしれないって期待してわくわくするものだもんね。
くじ引きにあまり興味は無いけれど、言っていったのが化け狸じゃなければほんの少しは期待したかもしれない。そのくじ引きは当たるのか、というのが本音だ。全然当たらないままにくじ引き期間過ぎそうだよね、と思っていたりもする。
「何が景品になってるのか分からないけど、まあ、くじ引きして当たったら嬉しいだろうね」
「だよねー。俺、ちょっと行ってみよー」
「うんうん、行っておいでよ。当たるように祈っておくね」
「祈ってくれんの? そりゃもう当てなくちゃでしょ!」
妙に張り切っている洋介を、私は冷めた瞳で見つめる。会話を早く切り上げたいときにするリップサービスなんだよね。ごめんね、悪い奴じゃないと思ってもあまりお近づきになりたくなくて、やっぱり距離を置いてしまう。頼むから早く種明かしをして欲しい。
翌日、隣のクラスから悲しい叫びが聞こえてくる。昨日も聞いた化け狸の声だ。
そのうるさい教室から逃げてきた綾が、いつものように私の首に腕を回して抱きついてきた。癒される、今日もかっこよくて可愛い。
「あの嘆きはどうしたの?」
「なんか、くじ引きがどうのこうのと……」
綾から見聞きしたことを教えてもらっていると、そこへ洋介がやってきた。
手にしているのは封筒だ。
「やっほー! 見てみてー! 昨日とっちゃったー!」
「……もしかして、くじ引きの?」
「そうそうー! 一等当たっちゃってさー、ラッキー! 澄ちゃんが祈ってくれたからじゃね?」
「そんな、まさか」
祈った、って言葉に綾が食いついて私を睨んでくる。いやいや、神頼みとかそういうのじゃないから。リップサービスだけで、全然祈ってませんから。
封筒の表書きをよく見てみると、『一等 遊園地ご招待券』と書いてある。
「ねーねー、これ一緒に行こう?」
「澄は忙しいので無理」
「綾ちゃんには聞いてないし。良いよねー、一緒に遊園地」
「いや、私は何もしてないので結構です」
「そんなこと言わずにさー」
面倒くさい。なんでこんなあやしい人物と一緒に遊園地に行かないといけないんだろう。意味が分からなくて綾に目で助けを求める。綾は小さく頷いてくれた。
「あっちの教室で一等とられて悲しみに暮れてるヤツがいるから、その人と一緒に行ったら良いと思う」
あれは絶対に一等が当たらないように細工していたに違いない。そうでなければ、あんなにワンワンと嘆いていないだろう。最後に自分が引いて、残り物には福があるとかやる予定だったんだろうな。でも、そうなるとどうやって洋介はこの一等を手に入れたのだろう。こっちも何かイカサマをしたんだろうけれど、狸と何が化かし合いをしたのか。怖すぎる。
でも、もっと怖いのは無理矢理連れて行こうとしている目の前のこの男だ。
「え、やだよ。男でしょ? 俺は澄ちゃんと……」
「私の休日はすべて綾と一緒って決まっているので無理」
「そんなーひでー!」
勝手に行くことにされてる私のほうが可哀想だよね。
私はなんとかその場を逃げ切り、遊園地のお誘いをなかったことにしたのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
傭兵アルバの放浪記
有馬円
ファンタジー
変わり者の傭兵アルバ、誰も詳しくはこの人間のことを知りません。
アルバはずーっと傭兵で生きてきました。
あんまり考えたこともありません。
でも何をしても何をされても生き残ることが人生の目標です。
ただそれだけですがアルバはそれなりに必死に生きています。
そんな人生の一幕
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる