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13. くじ

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 人を揶揄うのが得意な狸が、近くの商店街でバイトをしているらしい。

「今、商店街で買物した人を対象にくじ引きやってるから来てくれよなー」

 調子よくそんなことを告げて去って行ったけれど、何か裏がありそうと思ってしまうのは私の心が汚れているのだろうか。でも、あの化け狸のみどりは愉快犯なのだ。また何かやらかしそう、と思ってしまっても仕方が無い。
 前は祭りで集まった屋台の手伝いをしていて、お金をちょろまかしたり、幻を見せて子どもを迷子にしたりと問題になっていた。学校の役員をしている妖怪の偉い人に呼び出されてたっぷり絞られたらしいけれど、おそらく懲りてはいないだろう。

 化け狸は猫又や妖狐と同じく、人間を化かす能力を持っている妖怪と名高い。まあ、猫又はその三つの中でも一番下なんだけれども。狐は七変化、狸は八変化なんて言われているしね。私は太刀打ちできないので、関わり合いにならないでおこうと思っている。

「ねーねー、商店街で買物する?」

 振り返って声をかけてきたのは洋介だ。慣れてきているけれど、急に声をかけられるとビックリする。私は今机に突っ伏してお昼寝をしていたのだから。

「私の家とは逆方向だから行かないな」
「あ、そーなんだ。でもさー、くじ引きってわくわくしない?」

 いや、特に。そう言葉が出かかったけれど、すんでの所で飲み込む。普通は楽しみにするものだよね。当たるも八卦当たらぬも八卦みたいなものだけど、当たるかもしれないって期待してわくわくするものだもんね。
 くじ引きにあまり興味は無いけれど、言っていったのが化け狸じゃなければほんの少しは期待したかもしれない。そのくじ引きは当たるのか、というのが本音だ。全然当たらないままにくじ引き期間過ぎそうだよね、と思っていたりもする。

「何が景品になってるのか分からないけど、まあ、くじ引きして当たったら嬉しいだろうね」
「だよねー。俺、ちょっと行ってみよー」
「うんうん、行っておいでよ。当たるように祈っておくね」
「祈ってくれんの? そりゃもう当てなくちゃでしょ!」

 妙に張り切っている洋介を、私は冷めた瞳で見つめる。会話を早く切り上げたいときにするリップサービスなんだよね。ごめんね、悪い奴じゃないと思ってもあまりお近づきになりたくなくて、やっぱり距離を置いてしまう。頼むから早く種明かしをして欲しい。


 翌日、隣のクラスから悲しい叫びが聞こえてくる。昨日も聞いた化け狸の声だ。
 そのうるさい教室から逃げてきた綾が、いつものように私の首に腕を回して抱きついてきた。癒される、今日もかっこよくて可愛い。

「あの嘆きはどうしたの?」
「なんか、くじ引きがどうのこうのと……」

 綾から見聞きしたことを教えてもらっていると、そこへ洋介がやってきた。
 手にしているのは封筒だ。

「やっほー! 見てみてー! 昨日とっちゃったー!」
「……もしかして、くじ引きの?」
「そうそうー! 一等当たっちゃってさー、ラッキー! 澄ちゃんが祈ってくれたからじゃね?」
「そんな、まさか」

 祈った、って言葉に綾が食いついて私を睨んでくる。いやいや、神頼みとかそういうのじゃないから。リップサービスだけで、全然祈ってませんから。
 封筒の表書きをよく見てみると、『一等 遊園地ご招待券』と書いてある。

「ねーねー、これ一緒に行こう?」
「澄は忙しいので無理」
「綾ちゃんには聞いてないし。良いよねー、一緒に遊園地」
「いや、私は何もしてないので結構です」
「そんなこと言わずにさー」

 面倒くさい。なんでこんなあやしい人物と一緒に遊園地に行かないといけないんだろう。意味が分からなくて綾に目で助けを求める。綾は小さく頷いてくれた。

「あっちの教室で一等とられて悲しみに暮れてるヤツがいるから、その人と一緒に行ったら良いと思う」

 あれは絶対に一等が当たらないように細工していたに違いない。そうでなければ、あんなにワンワンと嘆いていないだろう。最後に自分が引いて、残り物には福があるとかやる予定だったんだろうな。でも、そうなるとどうやって洋介はこの一等を手に入れたのだろう。こっちも何かイカサマをしたんだろうけれど、狸と何が化かし合いをしたのか。怖すぎる。
 でも、もっと怖いのは無理矢理連れて行こうとしている目の前のこの男だ。

「え、やだよ。男でしょ? 俺は澄ちゃんと……」
「私の休日はすべて綾と一緒って決まっているので無理」
「そんなーひでー!」

 勝手に行くことにされてる私のほうが可哀想だよね。
 私はなんとかその場を逃げ切り、遊園地のお誘いをなかったことにしたのだった。
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