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6. ダイアローグ

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「ああ、もう本当にやめてよね」
「腹が減ったから要求しているだけだ」
「いやいや、体は共有してるんだから、あんたが食べたら私の肉にもなるでしょうが」
「俺が腹減ってるんだから、お前も腹減ってるだろうが」
「例えそうだとしても、要求通りに食べ続けたらブクブクになっちゃうでしょうが!」
「……腹が減っているということは消費してるということで」
「却下、却下ぁ!」

 そんな対話を毎日繰り返しているのは、人間だけれど妖怪に近い礼子れいこだ。
 誰と押し問答のような対話を繰り返しているのかというと、彼女の膝にできている人面瘡だ。普段は黒いサポーターで見えないように隠しているけれど、今は教室に誰もいないため少しずらされている。
 妖怪たちは誰が妖怪なのかを基本的に把握しているので、礼子も私に人面瘡を隠したりしない。
 隠さないのは構わないのだけれど、一応誰か来たときのために声は控えめにしてた方が良いと思うんだよね。授業終わったといっても、誰か来るかもしれないし。
 しかし、そんな私の気持ちとは裏腹に、二人はどんどんヒートアップしていく。
 毎日毎日同じ話をしてて、飽きるかどっちか折れそうなもんなんだけれど。

「もうね、毎日米を二合も食べたりとか駄目だから! あんたの口から食べたって、私の体に蓄積されるから」
「腹が減るんだから仕方ないだろうが!」
「うっさいわね。私と体を一緒に使ってんのに文句言わないでよね! 主導権は私にあるんだから!」
「……俺が言うのもおかしいが、普通は妖怪と共存しようとしないんだよ。怖がったり、剥がそうとしたりするもんだろ。だから、主導権とかそういうのわかんねーし」

 途中から、ばつが悪そうにモゴモゴと人面瘡が呟く。
 そう、そうなのだ。私も思ってたんだけれど、人間の方から歩み寄るのって珍しいんだよね。ましてや、相手は人面瘡だし。ちょっとただれたような皮膚になって、人の顔が浮き出ている状態って気持ち悪いと感じそうなのに、礼子は気にした様子もなく日々過ごしていた。
 イケメンが膝に付いていたって話ならときめく人も居るかもしれないけれど、付いている顔は厳ついし、やっぱりただれている。まあ、食べ続けないと耐えがたい痛みが襲ってくるっていう話なんかもあるけれど、礼子が受け入れていることもあってかそういったことは起きていないから食べ続ける必要はなさそうだ。

「仲いいよね」

 思わず口から出てしまった。
 それを聞いた礼子が体ごと私の方を向く。あまりにも勢いよく振り返るから、驚いて椅子ごと後退ってしまったじゃないか。

「こんなに毎日喧嘩してるのに?」
「喧嘩っていうか……じゃれ合ってるようにしか聞こえなくてごめん」

 言った私が申し訳ない気持ちになっている。でも、本当に痴話喧嘩っぽいよ? 妖怪と対話してるってだけですごいことだよ。

「あのね、私たち妖怪を悪く思う人はたくさん居るけれど、礼子はとっても優しいなって思う。妖怪は共存したいって思ってるからここで人間社会を学んでいるわけだけど、結局こっそりしか生きられないわけ。礼子みたいな人は一握りなんだよ」
「私はなんかそういうの嫌だったし。だって、剥がしたら消えちゃうって。消滅したらどこへいくの?」
「んー……少なくとも人間と同じ所へは行かないんじゃないのかなあ」
「いや、消滅って死ぬってことでしょ。なんか愛着湧いてきちゃってるのに、そんな勝手に消えられても困るし」
「愛着ぅ?」

 私と人面瘡の声が重なった。まさかの発言に私と人面瘡は笑い出してしまう。

「害がなければ共存したって構わないの。食べ続けないと痛みが襲うって聞いたけど、拒否反応でじゃないの? 私、痛み感じたことないし。それに、なんか悩み事があってもこいつと話してるだけで元気になるし。私には合ってるんだよね」

 人面瘡を、こいつ、と指さしながら礼子は告げる。指さされた人面瘡はむくれた顔をしているが、まんざらでもないのだろう。口の端だけが上がっている。
 礼子が合ってるというならそうなんだろう。確かに、対話することで自分の考え整理する人っているわ。

「そっか。人面瘡も良かったね。だから共存するために、腹八分目で頑張って」
「う、うるせえ! それとこれとは話が別なんだよ。好きなぐらい食わせろ!」
「いーやーでーすー! こっちこそ、それとこれとは別問題ですー。私がブクブクになってもいいわけ? 私は嫌。せっかく維持してきたのに耐えられない」

 ああ、せっかく静かになったのにまた騒がしくなってしまった。
 私は苦笑しながらも、楽しそうに話す二人を見つめるのだった。
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