上 下
4 / 26

4. それから

しおりを挟む
 教室の片隅で話している声が聞こえてくる。
 授業が始まらないし暇なんだろうけれど、時間つぶしに怪談っていうのも変な話だ。だって、ここにいる半分くらいは妖怪なんだから。
 怪異なんて日常茶飯事というか、妖怪は怪異を起こす方だしなあ。人間が集まって怪談を、というならまだ分かるんだけど、妖怪同士じゃただの報告会じゃないのかなあと思うんだよね。

 怪談話をしているのは鎌鼬かまいたちの三兄弟と人間の女子二人の組み合わせだ。なんでも鎌鼬の三兄弟は休日に遊園地でバイトをしているらしく、そこでの噂話として自分たちの武勇伝を語っているようだった。
 三兄弟、見た目は爽やか好青年風なんだけど、中身がちょっと残念なんだよな、なんか。
 ほら、そこまでたいしたことでもないのに武勇伝のように語るのって小物臭がするじゃない? それでいいのか三兄弟、ってなるよね。
 ひねくれている私はそんなことを思ってしまうけれど、優しい女子は、それからどうなったのって聞いてあげていてとても優しい。私ももう少し優しさを持とうと思う。

「お化け屋敷の中って暗いから、二人で手を繋いで出口を目指してたんだけど、一人が突然転んじゃって連れの子も一緒に転んじゃったんだってさ」

 あー、一人目が二人とも転ばした訳ね。そして次に切り裂いて、薬を塗って血は出てないよー、すごーいって話ですね。私はそのイタズラにあったことが無いけれど、本当に痛みを感じないのだろうか。痛かったら嫌なので、実演しなくて良いけれど。
 武勇伝なので得意気に話す鎌鼬の話に、女子たちは顔を顰めている。分かるよ、お化け屋敷で転ぶのなんて絶対に嫌だよね。転ぶということ自体嫌だけど、暗くて周りの状況を把握できないのも恐怖心を煽られるし。

「えー、そこにゾンビとか来たら嫌なんだけど」
「それは来なかったみたいだけど、出口に辿り着いてから気付いたんだって。二人とも同じ場所に切り裂かれたような傷が付いていることに」
「やだー、それって確か、かまいたちってやつ?」
「あれでしょ、傷ついてるけど血も出て無くて痛くもないっていう……」
「そうそう、それー!」

 嬉しそうだな、三兄弟。気付いてもらえて良かったね、三兄弟。
 満面の笑みを浮かべているのを横目に、私はお菓子を口に放り込む。何個かつまんでいると、横から手を引き寄せられてそのままお菓子をさらわれた。

「いっただきまーす」
「あっ……」

 チャラ男、許さない。食べ物の恨みは恐ろしいというのは妖怪も同じなんだぞ。
 あと、いつからそんな気安い仲になったのか。チャラ男は他人との距離感がおかしいのだろうか。いや、チャラ男じゃなくて、この洋介という男の距離感がおかしいんだな、きっと。
 少しムッとしていると、コレ上げるからさ、とあめ玉を一つ机の上に置かれる。
 そういうことじゃないんだよねー、と思うものの、先程もう少し優しさを持とうと思ったことを思い出す。仕方ない、一回は許そうとあめ玉を手にしようとしたとき、あめ玉を横から奪われた。
 今度は誰って隣を見ると、どこから走ってきたのか肩で息をしている綾が居た。息きれてるなんて珍しい。

「えー、綾ちゃんってば、そんなに俺のあめ玉欲しかったー?」

 それは絶対に違うと思うけれど、私も首を傾げる。全速力で駆けつける程のこと?

「駄目だよ」
「なにがー?」
「この子は駄目」

 まったく話が見えない。何の話をしているのだろう。
 綾が洋介をなぜか危険だと思っているのは分かるけど、ただの人間じゃないの? 今まで特にあやしいところなんて無かったと思うし、綾が気に入らないという雰囲気は出していたけど接点だって今までなかった。ただ席が前後になっただけ。

「とにかく駄目」
「……そう。ざんねーん」

 がっくりと肩を落として、洋介は綾からあめ玉を回収する。そのあめ玉はなんなの? 害のあるものだったというのだろうか。
 おかしいことはもう一つある。私たちの様子がおかしかったのに、誰も気にした様子がなかった。綾が何かしたんだろうけれど、そんな大掛かりなことをしてまで本当になんだというのだろう。
 綾に尋ねようとしたけれど、張り詰めた空気に私は言葉を失う。またね、と私に抱きついてから去って行ったから、綾は私に怒っていた訳じゃないんだろうけれど。
 結局、私は綾にも洋介にもあめ玉のことを聞くことができないまま、まだ続く鎌鼬三兄弟の得意気な話を聞いたのだった。

 それからというもの、綾は休み時間の度に私の元へ来るようになった。しかし、洋介の正体は未だに聞けないでいる。聞ける雰囲気ではないのだ。綾も交えて変わらぬ関係を続けているけれど、困ったことになったな。
 私は憂鬱な気分を少しでも散らすために、深いため息を吐いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...