9 / 9
人間が怖い錬金術師
しおりを挟む
二人に手紙を出した翌朝には、もう二人からの手紙が届いた。朝目覚めると、ベランダの手すりに私の白銀の鳥とユーリ様の鳥が仲良く並んでいた。機械じかけの鳥たちは、緊急性が高いときは寝ているときでも起こしてくるけれど、特に問題ない場合は大人しく待っているとても賢い子たちだ。
これまでで最速なんじゃないかしら、と思いながら、まずはコンラッド様の手紙から目を通す。
王都での捜査は秘密裏に進めるから心配いらない、前回みたいに一人で片付けてしまわないようにと書いてあって私は首を傾げる。
この間とは、ガーネット男爵たちの証拠をおさえ捕まえたことだろうか。おそらくそれで間違いないと思うけれど、あれは仕方がなかったのだ。気付いたときには売られてしまう段階で、止めていなければ発狂を促す石が世に出回ってしまうところだった。
相談する時間も策を練る時間もなくて、手っ取り早い方法で止めようと実力行使に出てしまった。コンラッド様の怪我をしたらどうするんだから始まり、淑女としても自覚が足りないとクライヴお兄様にも叱られた。
確かにそうだったのだけれど、実際のところ私は男で本当の淑女とは言えず、護身術どころかお兄様たちと一緒に鍛えていたので荒事にも対応できる。筋肉がつきにくい体質だから、ドレスを着てもしなやかな体つきにしか見えないのが幸いだ。
だからあれは仕方が無かったとしても、今後は緊急性がない限りしないと心に決めているので心配しなくても良いのだけれど。
とにかく王都のことはコンラッド様たちに任せよう。私はここでできることをする。
そして、大人しく順番待ちをしていたユーリ様の鳥から、首から提げている小袋を受け取る。開いてみると、今回の手紙は急いでいたのかいつもよりも細かくされておらず、それぞれの大きさも適当だった。珍しい、と思いながら指を鳴らし手紙の形に戻して読み進める。しかし、読んでいく内にユーリ様が気の毒になってしまい、私の眉も下がる。
ユーリ様の元に私の手紙を読んだコンラッド様とお兄様が突撃したらしく、人付き合いの苦手なユーリ様が二度と来ないようにいってくれと泣きついてきていた。どうやらガーネット男爵たちの話を根掘り葉掘り聞かれたようだ。どちらも王都にいるのだし情報源を直接訪ねた方が早いものね、とは思うものの、ユーリ様の性格で突然王子が研究室に乗り込んできたら卒倒するだろうなと想像がつく。あと、お兄様の圧が多分強かったのだと思う。あとでお詫びの品を贈ろうと思いながら手紙を閉じた。
青空が広がり今日も良い天気だ。
窓の外を眺めながらエミリアに着替えを手伝ってもらい、身だしなみを整える。耳は寝ているときも付けたままでいるので、位置調整と毛並みを揃えたりする程度で良い。耳は成長度合いで大きさが変わるから、その都度新しいものを作ってもらっている。尻尾は自前なのでそちらをブラッシングしたときに出た抜け毛や揃えた時に出た毛が材料だ。少しくたびれ気味なので、そろそろ新しいのを作ってもらわないといけないなあと考えながら、コンラッド様からもらったウエストバックを腰からさげた。
ガーネット男爵たちのことも気になるけれど、誘拐事件の方も気になる。どちらかと言えば私にできるのは誘拐事件の方だと思うので、教会に顔を出してみよう。あの三人のことも気になっていたし丁度良い。
「ねえ、今日は教会に行こうと思うのだけれど、レントンの予定は空いてるかしら」
「今日は非番ではありませんし、車も空いてます」
「そう、それならよかった。途中、街によってユーリ様にお詫びの品も買いたいの」
「あら、どうかされたんですか」
「コンラッド様たちが押しかけたそうよ。訪ねてくるのは絶対拒否ですって。かわいそうに、泣いてるわきっと」
本当にお気の毒、と溜息を吐くと、エミリアも苦笑する。私がしばらく王都に居たときにエミリアもついて来てくれていて、ユーリ様に会ったことがあるのだ。
ユーリ様の見た目は猫耳を持つ線の細い儚げな美青年なのだが、口を開けば研究のことを早口でまくし立てる専門家気質だ。金髪の長い髪を後ろで一つに結び、憂いを称えた青い瞳が美しいとまで言われているのに、話し始めた途端に雰囲気が変わるためそれに皆が引いてしまう。そして本人は皆のそんな態度に悲しみ、人間不信に陥っているらしい。自分ではコントロールが利かないし、悲しくても本人に直す気がないため私のできることはない。
私も他人が少し怖いけれど、おそらく怖さの質が違う。
エミリアも小さくため息を吐きながら言葉を紡ぐ。
「あの方ならそうですね。泣いてるでしょうね」
「周りには邪魔されるのが嫌いと言ってるけれど、人間嫌いどころか人間怖いーですものね。女性から人気もあるけれど、人間が怖いなら仕方ないわね」
そうなると、私は人間にカウントされていないのかもしれない。面白い方だから私は別にそれでも良いのだけれど、女性からの嫉妬の感情が煩わしいとは思う。弱みを見せるのは良くないと、人間が怖いということは公にしていないからそんなことになっているのだけれど。ただ、私は王子という婚約者がいる身だし、ユーリ様がただの友人だとお兄様たちも広めているので陰口をたたく人も少ない。少ないけれど、嫉妬の感情は隠せないから仕方ないのだろう。あと、私は本当は男なので、本当なら嫉妬の対象にもならないと思うのだ。見た目だけは公爵令嬢なので仕方がない。
いくら考えても仕方のないことは置いておいて、私は今日の予定を立ててエミリアに告げる。
「朝食を食べて温室の確認をしたら、街へ出るとレントンに伝えておいて」
エミリアは頷いて私を見送った後、レントンの元へと向かうのだろう。私は朝食を食べるために食堂へと向かった。
これまでで最速なんじゃないかしら、と思いながら、まずはコンラッド様の手紙から目を通す。
王都での捜査は秘密裏に進めるから心配いらない、前回みたいに一人で片付けてしまわないようにと書いてあって私は首を傾げる。
この間とは、ガーネット男爵たちの証拠をおさえ捕まえたことだろうか。おそらくそれで間違いないと思うけれど、あれは仕方がなかったのだ。気付いたときには売られてしまう段階で、止めていなければ発狂を促す石が世に出回ってしまうところだった。
相談する時間も策を練る時間もなくて、手っ取り早い方法で止めようと実力行使に出てしまった。コンラッド様の怪我をしたらどうするんだから始まり、淑女としても自覚が足りないとクライヴお兄様にも叱られた。
確かにそうだったのだけれど、実際のところ私は男で本当の淑女とは言えず、護身術どころかお兄様たちと一緒に鍛えていたので荒事にも対応できる。筋肉がつきにくい体質だから、ドレスを着てもしなやかな体つきにしか見えないのが幸いだ。
だからあれは仕方が無かったとしても、今後は緊急性がない限りしないと心に決めているので心配しなくても良いのだけれど。
とにかく王都のことはコンラッド様たちに任せよう。私はここでできることをする。
そして、大人しく順番待ちをしていたユーリ様の鳥から、首から提げている小袋を受け取る。開いてみると、今回の手紙は急いでいたのかいつもよりも細かくされておらず、それぞれの大きさも適当だった。珍しい、と思いながら指を鳴らし手紙の形に戻して読み進める。しかし、読んでいく内にユーリ様が気の毒になってしまい、私の眉も下がる。
ユーリ様の元に私の手紙を読んだコンラッド様とお兄様が突撃したらしく、人付き合いの苦手なユーリ様が二度と来ないようにいってくれと泣きついてきていた。どうやらガーネット男爵たちの話を根掘り葉掘り聞かれたようだ。どちらも王都にいるのだし情報源を直接訪ねた方が早いものね、とは思うものの、ユーリ様の性格で突然王子が研究室に乗り込んできたら卒倒するだろうなと想像がつく。あと、お兄様の圧が多分強かったのだと思う。あとでお詫びの品を贈ろうと思いながら手紙を閉じた。
青空が広がり今日も良い天気だ。
窓の外を眺めながらエミリアに着替えを手伝ってもらい、身だしなみを整える。耳は寝ているときも付けたままでいるので、位置調整と毛並みを揃えたりする程度で良い。耳は成長度合いで大きさが変わるから、その都度新しいものを作ってもらっている。尻尾は自前なのでそちらをブラッシングしたときに出た抜け毛や揃えた時に出た毛が材料だ。少しくたびれ気味なので、そろそろ新しいのを作ってもらわないといけないなあと考えながら、コンラッド様からもらったウエストバックを腰からさげた。
ガーネット男爵たちのことも気になるけれど、誘拐事件の方も気になる。どちらかと言えば私にできるのは誘拐事件の方だと思うので、教会に顔を出してみよう。あの三人のことも気になっていたし丁度良い。
「ねえ、今日は教会に行こうと思うのだけれど、レントンの予定は空いてるかしら」
「今日は非番ではありませんし、車も空いてます」
「そう、それならよかった。途中、街によってユーリ様にお詫びの品も買いたいの」
「あら、どうかされたんですか」
「コンラッド様たちが押しかけたそうよ。訪ねてくるのは絶対拒否ですって。かわいそうに、泣いてるわきっと」
本当にお気の毒、と溜息を吐くと、エミリアも苦笑する。私がしばらく王都に居たときにエミリアもついて来てくれていて、ユーリ様に会ったことがあるのだ。
ユーリ様の見た目は猫耳を持つ線の細い儚げな美青年なのだが、口を開けば研究のことを早口でまくし立てる専門家気質だ。金髪の長い髪を後ろで一つに結び、憂いを称えた青い瞳が美しいとまで言われているのに、話し始めた途端に雰囲気が変わるためそれに皆が引いてしまう。そして本人は皆のそんな態度に悲しみ、人間不信に陥っているらしい。自分ではコントロールが利かないし、悲しくても本人に直す気がないため私のできることはない。
私も他人が少し怖いけれど、おそらく怖さの質が違う。
エミリアも小さくため息を吐きながら言葉を紡ぐ。
「あの方ならそうですね。泣いてるでしょうね」
「周りには邪魔されるのが嫌いと言ってるけれど、人間嫌いどころか人間怖いーですものね。女性から人気もあるけれど、人間が怖いなら仕方ないわね」
そうなると、私は人間にカウントされていないのかもしれない。面白い方だから私は別にそれでも良いのだけれど、女性からの嫉妬の感情が煩わしいとは思う。弱みを見せるのは良くないと、人間が怖いということは公にしていないからそんなことになっているのだけれど。ただ、私は王子という婚約者がいる身だし、ユーリ様がただの友人だとお兄様たちも広めているので陰口をたたく人も少ない。少ないけれど、嫉妬の感情は隠せないから仕方ないのだろう。あと、私は本当は男なので、本当なら嫉妬の対象にもならないと思うのだ。見た目だけは公爵令嬢なので仕方がない。
いくら考えても仕方のないことは置いておいて、私は今日の予定を立ててエミリアに告げる。
「朝食を食べて温室の確認をしたら、街へ出るとレントンに伝えておいて」
エミリアは頷いて私を見送った後、レントンの元へと向かうのだろう。私は朝食を食べるために食堂へと向かった。
0
お気に入りに追加
9
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる