8 / 9
機械じかけの鳥
しおりを挟む
先延ばしにしたレントンからの忠告を聞き、その気持ちは受け止めたものの、私はつい反論してしまった。
心配してくれる気持ちはありがたいし、言いたいことも分かるのだけれど素直に頷くことができない。
貧しい者たちが盗みを犯さなければならなくなっているのは、そこを統治しているカーシュ公爵家の責任だ。本来ならばそんなことをしなくても良い暮らしを送れるようにするのが私たちの役目。
もちろん他の選択肢もあった中、その選択肢を選んでしまったのはその者たちの落ち度だけれど、だからといって見捨てる理由にはならない。ましてや子どもたちなんて選択肢など無いに等しいのだから。
昨日のことはカーシュ公爵家の私がやることに意味があるのでは、と言ったらレントンは黙ってしまった。やり込めたかったわけではないので申し訳ない気持ちになったけれど、私は間違ったことは言っていないと思う。
解放された私は侍女のエミリアを連れて、温室兼作業場へとやってきていた。ここでは私が錬金術で使用する植物などを栽培したり、温室の一角にある作業場で研究を行っていた。
国に仕える錬金術師には王都に作られた研究室が与えられるけれど、私はそれを辞退している。権力争いに巻き込まれるのはコンラッド様の婚約者としても避けなければならないし、堅苦しいのは性に合わないからだ。
私はのんびりとここでお茶を飲みながら研究したり、現場に出ている方がいい。
先程のことを思い出しながらため息を吐いていると、エミリアに笑われる。エミリアは紺色の髪を肩口で揃えた、笑顔の優しい可愛らしい女性だ。仕事はできるし、世の中の動きに敏感なところも素敵だと思う。小さい頃からの付き合いなのでエミリアとは秘密を共有しているし、本音を話せる気の置けない友人だった。
「レントンさんの気持ちも分かりますよ。たまに私も同じことを思いますから」
「待ってちょうだい。エミリアからも同じ話をされるのはたまらないわ」
「しませんよ。気持ちはわかるって話です。でも私はシルヴィア様のしたいことも分かりますから」
応援してしまいますよね、と微笑まれる。温かい言葉に少し照れながら、目の前の薬草を摘む。摘んだばかりの薬草は、独特の香りを放ち鼻をくすぐる。むず痒さを感じながら必要数を摘み振り返ると、テーブルの上に金属でできた機械じかけの鳥が一羽とまっていた。
換気口から入ってきたのだろう。この鳥は友人である錬金術師との連絡に使っている。
友人であるユーリ様は、私と同じように変人扱いされている錬金術師で、研究を邪魔されるのが死ぬほど嫌いなので誰とも連まないと豪語している。でも何故か私とは気があったので、研究結果の発表や王都で聞く噂話などをよく私にしてくる愉快な人物だった。
「あら、ユーリ様からのお手紙ですわね」
「何かあったのかしら。……これ、前より細かくなってるわ。あの方は本当に何をしているのかしら。暇なの……」
鳥が持ってきた小袋を開けると、キメの細かい粒子が溢れ出る。私が妖精の目で崩れたものを前と同じ状態に戻せることを知っている彼は、毎度挑戦するように手紙を粒子状にして寄越すのだ。万が一誰かに見つかったとしても、ここまで細ければ私以外に復元できる者はいないので、安心できる連絡手段だった。
ただし、手紙が届くたびに難易度が上がる。暇なのかとツッコミを入れてしまうのも仕方がない。
ちなみに、私からの手紙は彼に渡している私の魔力を込めた石以外では読めないように細工してあるので、こちらも安全だった。
彼がここまで手間をかけて細かくしたことに苦笑しながら、苦労することなく細かな粒子を手紙の形へと戻す。紙の状態になったそれを眺めれば、王都にいる錬金術師たちの間でよからぬものを作っているものがいるらしいとの話だった。
「またガーネット男爵たちなの……」
「懲りませんね。この間も怒られてましたよね」
「だいぶ絞られたはずだけれど……」
お金に目が眩み、先日発狂させる石を開発して摘発されている。発想力はあるため、国民のためにその力を使用するならと錬金術師の地位を剥奪されていなかった。しかし、実際は手元においておいたほうが、監視しやすいからだろうと私たちは見ている。
「他人を操る石ねぇ……軍事運用されたら怖いわね」
手足となる者にその石を与え、自分の思うまま操る。色仕掛けやスパイ活動も行えるし、危ないと思ったらその人物だけ切り捨てることも簡単に違いない。自分の意志に関係なく、特攻を仕掛けさせ自爆させることだって可能だ。
「……ガーネット男爵ならやりかねないわ。完成間近なのもまずいわね」
「完成間近って、この間もその状態でどこかの組織に持ちかけてませんでした?」
「そうなの。ただ、前より嫌な予感がするのよね。コンラッド様に頼るのは申し訳ないのだけれど、また男爵たちが何かしそうな時は連絡をと言われているから……」
エミリアはその瞬間、私の両手を握り言う。
「絶対にコンラッド様にご相談を。シルヴィア様が一人で行動されたら悲しみますし、胃痛で倒れておしまいになるかも」
「まさか、そんなわけ」
あります、と食い気味に言われ、私は素直に頷いた。エミリアの真顔がとても怖い。
私は早速ユーリ様にもっと詳しいことが分かれば教えてほしいと手紙を綴り、コンラッド様にも手紙を認めた。どちらも私の魔力でなければ読めない仕掛けを施す。
そして、ユーリ様へは先程の鳥に、コンラッド様へは私の作り出した白銀の鳥に渡す。
どちらも一声鳴き、温室を旋回してから飛び立っていった。
心配してくれる気持ちはありがたいし、言いたいことも分かるのだけれど素直に頷くことができない。
貧しい者たちが盗みを犯さなければならなくなっているのは、そこを統治しているカーシュ公爵家の責任だ。本来ならばそんなことをしなくても良い暮らしを送れるようにするのが私たちの役目。
もちろん他の選択肢もあった中、その選択肢を選んでしまったのはその者たちの落ち度だけれど、だからといって見捨てる理由にはならない。ましてや子どもたちなんて選択肢など無いに等しいのだから。
昨日のことはカーシュ公爵家の私がやることに意味があるのでは、と言ったらレントンは黙ってしまった。やり込めたかったわけではないので申し訳ない気持ちになったけれど、私は間違ったことは言っていないと思う。
解放された私は侍女のエミリアを連れて、温室兼作業場へとやってきていた。ここでは私が錬金術で使用する植物などを栽培したり、温室の一角にある作業場で研究を行っていた。
国に仕える錬金術師には王都に作られた研究室が与えられるけれど、私はそれを辞退している。権力争いに巻き込まれるのはコンラッド様の婚約者としても避けなければならないし、堅苦しいのは性に合わないからだ。
私はのんびりとここでお茶を飲みながら研究したり、現場に出ている方がいい。
先程のことを思い出しながらため息を吐いていると、エミリアに笑われる。エミリアは紺色の髪を肩口で揃えた、笑顔の優しい可愛らしい女性だ。仕事はできるし、世の中の動きに敏感なところも素敵だと思う。小さい頃からの付き合いなのでエミリアとは秘密を共有しているし、本音を話せる気の置けない友人だった。
「レントンさんの気持ちも分かりますよ。たまに私も同じことを思いますから」
「待ってちょうだい。エミリアからも同じ話をされるのはたまらないわ」
「しませんよ。気持ちはわかるって話です。でも私はシルヴィア様のしたいことも分かりますから」
応援してしまいますよね、と微笑まれる。温かい言葉に少し照れながら、目の前の薬草を摘む。摘んだばかりの薬草は、独特の香りを放ち鼻をくすぐる。むず痒さを感じながら必要数を摘み振り返ると、テーブルの上に金属でできた機械じかけの鳥が一羽とまっていた。
換気口から入ってきたのだろう。この鳥は友人である錬金術師との連絡に使っている。
友人であるユーリ様は、私と同じように変人扱いされている錬金術師で、研究を邪魔されるのが死ぬほど嫌いなので誰とも連まないと豪語している。でも何故か私とは気があったので、研究結果の発表や王都で聞く噂話などをよく私にしてくる愉快な人物だった。
「あら、ユーリ様からのお手紙ですわね」
「何かあったのかしら。……これ、前より細かくなってるわ。あの方は本当に何をしているのかしら。暇なの……」
鳥が持ってきた小袋を開けると、キメの細かい粒子が溢れ出る。私が妖精の目で崩れたものを前と同じ状態に戻せることを知っている彼は、毎度挑戦するように手紙を粒子状にして寄越すのだ。万が一誰かに見つかったとしても、ここまで細ければ私以外に復元できる者はいないので、安心できる連絡手段だった。
ただし、手紙が届くたびに難易度が上がる。暇なのかとツッコミを入れてしまうのも仕方がない。
ちなみに、私からの手紙は彼に渡している私の魔力を込めた石以外では読めないように細工してあるので、こちらも安全だった。
彼がここまで手間をかけて細かくしたことに苦笑しながら、苦労することなく細かな粒子を手紙の形へと戻す。紙の状態になったそれを眺めれば、王都にいる錬金術師たちの間でよからぬものを作っているものがいるらしいとの話だった。
「またガーネット男爵たちなの……」
「懲りませんね。この間も怒られてましたよね」
「だいぶ絞られたはずだけれど……」
お金に目が眩み、先日発狂させる石を開発して摘発されている。発想力はあるため、国民のためにその力を使用するならと錬金術師の地位を剥奪されていなかった。しかし、実際は手元においておいたほうが、監視しやすいからだろうと私たちは見ている。
「他人を操る石ねぇ……軍事運用されたら怖いわね」
手足となる者にその石を与え、自分の思うまま操る。色仕掛けやスパイ活動も行えるし、危ないと思ったらその人物だけ切り捨てることも簡単に違いない。自分の意志に関係なく、特攻を仕掛けさせ自爆させることだって可能だ。
「……ガーネット男爵ならやりかねないわ。完成間近なのもまずいわね」
「完成間近って、この間もその状態でどこかの組織に持ちかけてませんでした?」
「そうなの。ただ、前より嫌な予感がするのよね。コンラッド様に頼るのは申し訳ないのだけれど、また男爵たちが何かしそうな時は連絡をと言われているから……」
エミリアはその瞬間、私の両手を握り言う。
「絶対にコンラッド様にご相談を。シルヴィア様が一人で行動されたら悲しみますし、胃痛で倒れておしまいになるかも」
「まさか、そんなわけ」
あります、と食い気味に言われ、私は素直に頷いた。エミリアの真顔がとても怖い。
私は早速ユーリ様にもっと詳しいことが分かれば教えてほしいと手紙を綴り、コンラッド様にも手紙を認めた。どちらも私の魔力でなければ読めない仕掛けを施す。
そして、ユーリ様へは先程の鳥に、コンラッド様へは私の作り出した白銀の鳥に渡す。
どちらも一声鳴き、温室を旋回してから飛び立っていった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる