6 / 9
子どもたちのお願い
しおりを挟む
私が笑い声の響く庭へと戻ると、子どもたちが集まってくる。
三人がうまく輪に入れているかが気になっていたけれど、一番心配だったカイラもグレンの後ろから出て子どもたちと少しずつ会話できているようだった。
「むずかしいお話、おわったー?」
「えぇ。皆仲良く遊べていたようね」
「もちろん!」
胸を張る子どもたちの頭を、ひとりずつ撫でていく。撫でられると気持ちよさそうに耳を震わせるのが可愛い。
グレンの頭を撫でると不服そうに見つめてきた。でもやめません。それもまた可愛いし、今だけだから。
ここにいれば衣食住の心配は不要だ。健やかに育って欲しいと思う。
大きくなって様々な職業について働くこの子たちを見たい。その頃には、色々な自由が利くようになってれば良いのだけれど。
そんなことを考えていると、五歳になる少年、ネロに指を軽く掴まれる。この子は、私みたいな錬金術師になりたいと言っている子だ。膝を折り、ネロと視線を合わせて尋ねる。
「どうしたの」
「あのね、お願いがあるんだ。ボク、お姉ちゃんのれんきんじゅつが見たい」
「わたしもー!」
ネロのお願いに便乗した子どもたちが口々に声を上げる。
この頃の子どもたちには、魔法も錬金術も不思議でたまらないものに見えるに違いない。実際に私もこの頃の年齢の時はそう思っていた。幼い頃から力は使えていたけれど、いつもうまく制御できずに暴発ばかりさせていてよく泣いていたのを覚えている。自分の思うように力を使える人たちが、とても素敵な存在に見えた。私もこの子たちにそう見えているなら、過去の自分に胸を張れそうだ。
「絵本でも読もうと思ってたけれど。そうね、今日はネロの願いを叶えましょうね」
子どもたちを見渡しながら告げれば、躊躇いがちにレイラが声を上げる。
「さっきのきれいな鳥さんみたいなの?」
「少し違うわ。けれど、ビックリするかもしれない」
楽しみだね、とこっそりレイラに耳打ちするカイラが微笑ましい。
私はいつも腰にガンホルダーを改造して卑金属の粉を持ち歩いている。普段はこの粉を適量使い、歯車や螺旋などを作ったりしていた。それを子どもたちに見せてやると喜ぶのだ。
材料を取り出し、集まった子どもたちの前でその粉を混ぜる。そして、子どもたちに告げる。
「一緒に数字を数えてね。大丈夫? いち、に、さん、よ。いくわよー」
「いち、に、さん!」
期待と緊張が入り交じった表情で子どもたちが数えるのに合わせ、指を鳴らす。乾いた音が響くと、目の前で歯車がテーブルに転がった。
一瞬の静寂の後、歓声が上がる。
「粉、消えちゃった!」
「今日は歯車だった!」
「ねねっ、もう一回やって!」
できあがったのはたかが歯車一個。それでも子どもたちにとっては、不思議で夢のような出来事なのだろう。口元に笑みが浮かぶ。
「そうね、次は何にしようかしら」
「では、私のためにペーパーナイフを」
背後から聞こえた声に、私は大きく肩を震わせ振り返った。そこにいるのは、私を驚かせてご満悦な表情のコンラッド様だ。
「もう、そうやっていつも揶揄うんですもの」
「怒った顔も可愛いよ」
ね、と子どもたちに同意を求めないで欲しい。そして皆も頷かないで欲しい。
何も言えなくなった私は、頬を赤く染めたまま準備を始める。
コンラッド様に差し上げるのなら、精巧な作りにしたいというこだわりがある。思い描くのは柄に飾り模様のついたペーパーナイフ。ありきたりな発想だけれど、空を飛ぶコンラッド様には墜ちないように翼を授けたい。
「ではコンラッド様のご要望で、ペーパーナイフを作ります。さっきのかけ声を覚えてるかしら?」
「だいじょーぶー!」
元気な答えが返ってきたので、私は再び声をかける。
子どもたちに混じってコンラッド様の声が聞こえるけれど、私は先ほどのイメージを脳内に描き指を鳴らした。
先ほどよりも少し時間がかかる。それでも数秒なのだけれど、細かい装飾を刻んだせいだ。
テーブルに音を立てて落下した二本のペーパーナイフを見て、子どもたちは飛び跳ねる。歯車の時より賑やかだ。
柄の部分をそれぞれ片翼にし、二つ合わせると一対の翼になるようにした。
「コンラッド様、お揃いのペーパーナイフに致しました」
「それは、誰と誰の」
「コンラッド様と私……と言いたいところですが、コンラッド様とお兄様に差し上げます」
二人にはいつも無事に帰ってきて欲しい。背を預けられる親友だ、と言っている二人にこそ、このペーパーナイフは相応しい。
私は満足そうにペーパーナイフから視線を苦笑気味のコンラッド様に移し、柔らかく微笑みかけた。
三人がうまく輪に入れているかが気になっていたけれど、一番心配だったカイラもグレンの後ろから出て子どもたちと少しずつ会話できているようだった。
「むずかしいお話、おわったー?」
「えぇ。皆仲良く遊べていたようね」
「もちろん!」
胸を張る子どもたちの頭を、ひとりずつ撫でていく。撫でられると気持ちよさそうに耳を震わせるのが可愛い。
グレンの頭を撫でると不服そうに見つめてきた。でもやめません。それもまた可愛いし、今だけだから。
ここにいれば衣食住の心配は不要だ。健やかに育って欲しいと思う。
大きくなって様々な職業について働くこの子たちを見たい。その頃には、色々な自由が利くようになってれば良いのだけれど。
そんなことを考えていると、五歳になる少年、ネロに指を軽く掴まれる。この子は、私みたいな錬金術師になりたいと言っている子だ。膝を折り、ネロと視線を合わせて尋ねる。
「どうしたの」
「あのね、お願いがあるんだ。ボク、お姉ちゃんのれんきんじゅつが見たい」
「わたしもー!」
ネロのお願いに便乗した子どもたちが口々に声を上げる。
この頃の子どもたちには、魔法も錬金術も不思議でたまらないものに見えるに違いない。実際に私もこの頃の年齢の時はそう思っていた。幼い頃から力は使えていたけれど、いつもうまく制御できずに暴発ばかりさせていてよく泣いていたのを覚えている。自分の思うように力を使える人たちが、とても素敵な存在に見えた。私もこの子たちにそう見えているなら、過去の自分に胸を張れそうだ。
「絵本でも読もうと思ってたけれど。そうね、今日はネロの願いを叶えましょうね」
子どもたちを見渡しながら告げれば、躊躇いがちにレイラが声を上げる。
「さっきのきれいな鳥さんみたいなの?」
「少し違うわ。けれど、ビックリするかもしれない」
楽しみだね、とこっそりレイラに耳打ちするカイラが微笑ましい。
私はいつも腰にガンホルダーを改造して卑金属の粉を持ち歩いている。普段はこの粉を適量使い、歯車や螺旋などを作ったりしていた。それを子どもたちに見せてやると喜ぶのだ。
材料を取り出し、集まった子どもたちの前でその粉を混ぜる。そして、子どもたちに告げる。
「一緒に数字を数えてね。大丈夫? いち、に、さん、よ。いくわよー」
「いち、に、さん!」
期待と緊張が入り交じった表情で子どもたちが数えるのに合わせ、指を鳴らす。乾いた音が響くと、目の前で歯車がテーブルに転がった。
一瞬の静寂の後、歓声が上がる。
「粉、消えちゃった!」
「今日は歯車だった!」
「ねねっ、もう一回やって!」
できあがったのはたかが歯車一個。それでも子どもたちにとっては、不思議で夢のような出来事なのだろう。口元に笑みが浮かぶ。
「そうね、次は何にしようかしら」
「では、私のためにペーパーナイフを」
背後から聞こえた声に、私は大きく肩を震わせ振り返った。そこにいるのは、私を驚かせてご満悦な表情のコンラッド様だ。
「もう、そうやっていつも揶揄うんですもの」
「怒った顔も可愛いよ」
ね、と子どもたちに同意を求めないで欲しい。そして皆も頷かないで欲しい。
何も言えなくなった私は、頬を赤く染めたまま準備を始める。
コンラッド様に差し上げるのなら、精巧な作りにしたいというこだわりがある。思い描くのは柄に飾り模様のついたペーパーナイフ。ありきたりな発想だけれど、空を飛ぶコンラッド様には墜ちないように翼を授けたい。
「ではコンラッド様のご要望で、ペーパーナイフを作ります。さっきのかけ声を覚えてるかしら?」
「だいじょーぶー!」
元気な答えが返ってきたので、私は再び声をかける。
子どもたちに混じってコンラッド様の声が聞こえるけれど、私は先ほどのイメージを脳内に描き指を鳴らした。
先ほどよりも少し時間がかかる。それでも数秒なのだけれど、細かい装飾を刻んだせいだ。
テーブルに音を立てて落下した二本のペーパーナイフを見て、子どもたちは飛び跳ねる。歯車の時より賑やかだ。
柄の部分をそれぞれ片翼にし、二つ合わせると一対の翼になるようにした。
「コンラッド様、お揃いのペーパーナイフに致しました」
「それは、誰と誰の」
「コンラッド様と私……と言いたいところですが、コンラッド様とお兄様に差し上げます」
二人にはいつも無事に帰ってきて欲しい。背を預けられる親友だ、と言っている二人にこそ、このペーパーナイフは相応しい。
私は満足そうにペーパーナイフから視線を苦笑気味のコンラッド様に移し、柔らかく微笑みかけた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
彩雲華胥
柚月なぎ
BL
暉の国。
紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。
名を無明。
高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。
暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。
※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。
※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。
※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる