耳なし錬金術師の遠吠え

黒鉦サクヤ

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子どもたちのお願い

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 私が笑い声の響く庭へと戻ると、子どもたちが集まってくる。
 三人がうまく輪に入れているかが気になっていたけれど、一番心配だったカイラもグレンの後ろから出て子どもたちと少しずつ会話できているようだった。

「むずかしいお話、おわったー?」
「えぇ。皆仲良く遊べていたようね」
「もちろん!」

 胸を張る子どもたちの頭を、ひとりずつ撫でていく。撫でられると気持ちよさそうに耳を震わせるのが可愛い。
 グレンの頭を撫でると不服そうに見つめてきた。でもやめません。それもまた可愛いし、今だけだから。
 ここにいれば衣食住の心配は不要だ。健やかに育って欲しいと思う。
 大きくなって様々な職業について働くこの子たちを見たい。その頃には、色々な自由が利くようになってれば良いのだけれど。

 そんなことを考えていると、五歳になる少年、ネロに指を軽く掴まれる。この子は、私みたいな錬金術師になりたいと言っている子だ。膝を折り、ネロと視線を合わせて尋ねる。

「どうしたの」
「あのね、お願いがあるんだ。ボク、お姉ちゃんのれんきんじゅつが見たい」
「わたしもー!」

 ネロのお願いに便乗した子どもたちが口々に声を上げる。
 この頃の子どもたちには、魔法も錬金術も不思議でたまらないものに見えるに違いない。実際に私もこの頃の年齢の時はそう思っていた。幼い頃から力は使えていたけれど、いつもうまく制御できずに暴発ばかりさせていてよく泣いていたのを覚えている。自分の思うように力を使える人たちが、とても素敵な存在に見えた。私もこの子たちにそう見えているなら、過去の自分に胸を張れそうだ。

「絵本でも読もうと思ってたけれど。そうね、今日はネロの願いを叶えましょうね」

 子どもたちを見渡しながら告げれば、躊躇いがちにレイラが声を上げる。

「さっきのきれいな鳥さんみたいなの?」
「少し違うわ。けれど、ビックリするかもしれない」

 楽しみだね、とこっそりレイラに耳打ちするカイラが微笑ましい。
 私はいつも腰にガンホルダーを改造して卑金属の粉を持ち歩いている。普段はこの粉を適量使い、歯車や螺旋などを作ったりしていた。それを子どもたちに見せてやると喜ぶのだ。
 材料を取り出し、集まった子どもたちの前でその粉を混ぜる。そして、子どもたちに告げる。

「一緒に数字を数えてね。大丈夫? いち、に、さん、よ。いくわよー」
「いち、に、さん!」

 期待と緊張が入り交じった表情で子どもたちが数えるのに合わせ、指を鳴らす。乾いた音が響くと、目の前で歯車がテーブルに転がった。
 一瞬の静寂の後、歓声が上がる。

「粉、消えちゃった!」
「今日は歯車だった!」
「ねねっ、もう一回やって!」

 できあがったのはたかが歯車一個。それでも子どもたちにとっては、不思議で夢のような出来事なのだろう。口元に笑みが浮かぶ。

「そうね、次は何にしようかしら」
「では、私のためにペーパーナイフを」

 背後から聞こえた声に、私は大きく肩を震わせ振り返った。そこにいるのは、私を驚かせてご満悦な表情のコンラッド様だ。

「もう、そうやっていつも揶揄うんですもの」
「怒った顔も可愛いよ」

 ね、と子どもたちに同意を求めないで欲しい。そして皆も頷かないで欲しい。
 何も言えなくなった私は、頬を赤く染めたまま準備を始める。
 コンラッド様に差し上げるのなら、精巧な作りにしたいというこだわりがある。思い描くのは柄に飾り模様のついたペーパーナイフ。ありきたりな発想だけれど、空を飛ぶコンラッド様には墜ちないように翼を授けたい。

「ではコンラッド様のご要望で、ペーパーナイフを作ります。さっきのかけ声を覚えてるかしら?」
「だいじょーぶー!」

 元気な答えが返ってきたので、私は再び声をかける。
 子どもたちに混じってコンラッド様の声が聞こえるけれど、私は先ほどのイメージを脳内に描き指を鳴らした。
 先ほどよりも少し時間がかかる。それでも数秒なのだけれど、細かい装飾を刻んだせいだ。
 テーブルに音を立てて落下した二本のペーパーナイフを見て、子どもたちは飛び跳ねる。歯車の時より賑やかだ。
 柄の部分をそれぞれ片翼にし、二つ合わせると一対の翼になるようにした。

「コンラッド様、お揃いのペーパーナイフに致しました」
「それは、誰と誰の」
「コンラッド様と私……と言いたいところですが、コンラッド様とお兄様に差し上げます」

 二人にはいつも無事に帰ってきて欲しい。背を預けられる親友だ、と言っている二人にこそ、このペーパーナイフは相応しい。
 私は満足そうにペーパーナイフから視線を苦笑気味のコンラッド様に移し、柔らかく微笑みかけた。
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