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番外編
第1話 出会い
しおりを挟む「ねぇねぇ、こんなところでなにしてるの?」
俺に話しかけてきた子供を見た。
俺が魔王の子供であると、理解してるのか、理解していないのか、阿呆みたいな面で俺を見ている。
そのキラキラとした視線が鬱陶しくて、一瞥しただけで無視を決め込むことにした。
「ねぇってば、きこえてるよね? さっきこっちみたもん」
「……」
ねえねえとうるさい、声を奪ってやろうかと手を動かした時、頭上からげんこつが降ってきた痛みに頭を押えてうずくまる。
「いっ!?」
「ヴィルが話しかけているというのに、なぜ答えてやらん?」
頭上から聞こえてきた声は、クソ親父の声で「うるせぇ! なんで俺がガキの相手しなきゃなんねぇんだよ!」と言い返せば、またげんこつが降ってきて殴られた。
俺と親父のやり取りを見て、目をまん丸くして驚いてるヴィルに舌打ちをこぼす。
顔は可愛い……とは思うが、どこか、魔族らしからぬポヤポヤした雰囲気とか、関わり合いたくない。
ハーフなのは知ってるが、ここまで魔族っぽくないと本当にハーフなのかも疑いたくなる。
淫魔と人間のハーフっていうのも珍しい。淫魔は性欲が強い。当然と言えば当然だが。
そういう種族なのだから当たり前だ、その淫魔が一人の人間だけで足りるというのが、どうにも不思議だ。
母親が淫魔だから、こいつが人間のわけがないのは頭では理解してても、雰囲気が魔族らしからぬから、人間と錯覚してしまう。
ため息を吐き出して、嫌々ながら声をかける。
「おい、ヴィル」
「なぁに?」
「……無理だ、こいつと仲良くするなんて」
俺は小さく呟いた。なんだ今の返しは? 媚びるような甘ったれた声……と、そこまで考えて、そうか、これが淫魔の血なのか?
甘えるのは淫魔の本能だから、そう考えれないこともない。
だとしても、無理だ。俺は媚びてくるような奴と仲良くなれるほど、できた悪魔じゃない。
俺に話しかけられたのが、嬉しいのか、瞳をキラキラに輝かせて期待に満ちた俺を見てくるのやめろ!
胸がザワザワして落ち着かない、イライラする。
クソ親父が見てなければ、無視するものを、なんでわざわざ監視してんだよ。うぜぇ……。
額に手を当て、目眩がしそうなほど苦手な相手に、どう接したらいいかわからない。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「……なんでもない」
お兄ちゃんと呼ばれて、ぴくりと肩が跳ねる。
視線を向ければ、今度は心配そうに俺を見てくるヴィルに、小さく言葉を返して、また視線を逸らした。
どうしたらいいかわからない。俺より小さい子供、俺より弱い子供をどう扱うのが正解なのかわからないでいた。
そしたら、一匹のスライムがヴィルに近づいて、ぴょんぴょんとヴィルの前で飛んだり跳ねたり踊ったりしてみせた。
すると、ヴィルは最初こそ驚いてた様子だが、ぱぁっと花が咲きほこるような笑顔を浮かべて、きゃっきゃっとはしゃぐ。
「ねぇねぇ、僕と遊ぼうよ、ルシフェル様のことなんて放っておいてさ」
「でもぉ……」
「ルシフェル様はヴィルとは遊べないよ、見た目は子供でも中身は大人顔負けの頭脳してるし」
「頭脳?」
「頭がすっごくいいんだよ」
理解してるのか、理解してないのか、ヴィルが俺の事を見てくる目はキラキラとしてて、やめろ、その目でみるな!
と叫びたくなる。畏怖の念を込めた目をされることはあるし、このスライムのように命知らずな魔物もいる。
だが、あんなキラキラとした純粋な目で見られることはない。経験したことがない目を向けられると、なんと言い表せばいいか、わからない感情に苛まれることなる。
この時の俺は自分のこの感情に名前をつけれずにいた。
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