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シエル番外編
初めての感情
しおりを挟む教会に来てから半年ほどが経過した。
最初はどうなるかと思ったが、持ち前の運動神経や物覚えのよさが発揮されて、エセ神父が出す課題を次々とクリアしていく。
ただ、どうしても、まだ直らないのもがあった。
言葉使いだ。紳士的に相手に接することを覚えるのは重要だと教えられて、言葉使いを綺麗にする練習してるけど、そんな簡単に直るわけがない。
スラム街で生きてきたような俺が簡単に紳士になれたら苦労しねぇよって、悪態をつけば怒られる日々。
そんな日々の中で、一応王都のデカい教会だからか、貴族連中も顔を見せることが多い。
その中で1人、俺より2つ下とかいう子供、その子供を一目見て、時間は止まったかと思った。
ピンクブロンドの髪、毛先は赤みがかってて、琥珀色の大きなクリクリした目、今にもこぼれ落ちそうなその瞳と目が合った瞬間、俺は息を飲んだ。
ゴクリとガラにもなく緊張して、スロモーションのようにも感じた。
その子が瞬きして、視線を逸らすことなく俺を見てる。
口を開きかけた、その時、その子は一緒に来ていた父親らしき男性と教会を出ていってしまった。
声をかけることもできなかった、あの子の姿は脳内に焼きついて、その日は眠れなかった。
翌朝
教会の外で掃き掃除をしてると、昨日のあの子がまた父親に連れられて教会に来た。
目が合うと、今度は微笑まれて、男性に声をかけてから俺のところにかけてきた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「君はここに住んでるの?」
「……まぁ、はい」
愛らしい見た目にあった、鈴を転がしたような可愛い声に、俺の心臓はなぜだか騒がしくなる。
頬がぽっぽっぽっと熱く火照って、いつもは饒舌なのに今日に限って俺の口は固く閉ざして、ぽつり、ぽつりとしか返事をすることができなかった。
なんで自分がこんなに戸惑ってるのか、理由がわからない。
貴族相手に今更緊張するとも思えない。
困惑してる俺を他所に、その子は「僕の名前はユーリって言うの、お兄ちゃんの名前は?」と聞かれた。
「……シエルだよ、ユーリ」
ユーリ、ユーリ、ユーリ、可愛い響きに心の中で幾度か呼んでみる。
俺に名前を呼ばれただけなのに、嬉しそうにはにかんで笑うユーリは愛らしい。
天使だと思った。ころころと表情が変わって、孤児の俺にも屈託のない笑顔を向けてくれた。
孤児仲間は普通に接してくれても、やっぱり、俺達はどこか異質なようで街に出かけると眉を顰める大人がいたり、俺達を見るだけで逃げる同じくらいの子だっている。
王都だからか、裕福な人間が多い。その中で、いくら戦争がほとんどの原因とはいえ、孤児は珍しいから。
そんな視線を気にしたことなんてなかった俺だけど、こうして孤児であることを気にせずに接されると、どうにもむず痒くて、よくわからない感情が溢れ出して、叫びたい気持ちでいっぱいだった。
「ねぇ、聞いてる?」
「あっ、悪い、聞いてなかった」
ユーリがなにか話してたみたいで、声をかけられて我に返って、謝罪を述べる。
それに対してユーリは「もう、しかたないな」と頬を膨らませて拗ねてるようだ。
表情1つ、仕草1つをとっても、ユーリは可愛い。
あざといはずの仕草や表情をしても、それが変に嫌な感じがしないのは不思議だ。
シスターがすると寒気がするのに……。
「ねえねえ、また遊びに来たらさ、今度はどこか遊びに行こうよ? お父さんも許してくれると思うんだ」
「それは無理じゃねぇの? ユーリ貴族の息子だろ? 貴族の息子が孤児と遊ぶなんてねーだろ」
「僕のお父さん、そんなことで差別しないもん!」
ますますふくれっ面になるユーリがおかしくて、くすくす笑ってると遠くから、男性の呼ぶ声が聞こえてユーリが「あ、帰るみたい、またね!」と手をブンブン振って、男性の元に駆け寄って帰っていた。
残された俺は、なんだか、さっきまでの騒がしさが嘘みたいで、ぼんやりと箒を動かして掃除を続ける。
結局この日も俺は明日また会えるんだろうか、それとも、明日は来ない? とソワソワしてなかなか寝付けず、でもそんな事を考えてる自分に寒気がして、布団に潜り込んで無理矢理眠ることにした。
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コメントありがとうございます!
そうだったんですね、最初から各キャラの裏側など細かな設定はありまして、ユーリくんも主人公でありながら、謎が多いと思うので彼の掘り下げもあります。
記憶の混乱と精神的に追い詰められてるのもあり、ユーリくんも現実とは少しだけ違います。
そこらへんを楽しんでいただけたらなと思います。
コメントありがとうございます!
お久しぶりです、また時間がとれるようになったので、この作品でパロ書いてみるのもありだなって思い立ちまして🤣
マネージャーとしては、どうなんだ?って仕事をしそうですww
ゆう脳だけどユーリは絡みNG俳優になりそうですね、俳優として、ある意味致命的な😂
toraさんも寒暖差が厳しいので、体調にはお気をつけください。
ありがとうございます(*´ω`*)