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番外編

番外編 アッシュEND

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目を覚ましてからアッシュの様子がおかしい、起きた時はめちゃめちゃ喜んでくれたはずなのに最近よそよそしいというか、なんていうか、違和感がある。

もしかして、目が覚めた俺に興味なくなっちゃったとか?婚約破棄したいとか、そんな……ことないよな…。

正直子供の頃に決まった婚約、親同士が勝手に決めたとはいえ俺達は上手くやれてたと思う。
俺もアッシュもお互いに忙しい合間にも逢瀬を繰り返して距離を縮めて、本当に愛し合ってたはずなんだ。

でも、俺が起きるまでにリアルの時間は進んでるし、5年が経過してる、そうなると心変わりしてもおかしくないよな。

あまりにもアッシュがよそよそしくてマイナス方面に思考が働いて、どんどん気持ちが沈むばかりだ。
なんでアッシュは前みたいに俺と一緒にいてくれないんだろうか。

落ち込んでいた時にアッシュがリバーとなにやら楽しげなというか、アッシュが頬を染めながら話してるのを見てしまって俺は夢かと思いたかった。

だってなんであんな表情してるのか、理解できない。
あんな…恋してるみたいな、照れてるみたいな表情、俺にはよく見せてくれてた表情をリバーに見せるなんてなんで?どうして?と頭の中はぐるぐる回って、俺はその場を逃げ出して家に戻って自室に閉じこもった。




あんな表情見せられたら、応援するしかないよな。
リバーとは血縁関係でもあるから、茨の道だろうけど、なんでアッシュの愛がいつまでも俺にあるなんて思えたんだろ、5年という歳月があれば心変わりだってするよ。

俺がいない間きっとリバーが支えてくれたんだ、2人を応援しなきゃ…、大丈夫だ、俺、アッシュを自由にしてあげるんだろ?
俺から婚約破棄を申し出ないとな、アッシュは皇太子殿下だから簡単に自分からは責任感もあって破棄はできないはずだ。

破棄しようと考えていた俺の心を見透かしたのか、なんなのか、わからないけど、アッシュからその日に手紙が届いた。
明日会いたいという連絡だった。

タイミングがいいんだか、悪いんだか、気持ちに整理つく前に俺は一芝居をうたなきゃいけないのか。

大丈夫、俺ならできると気合を入れるために頬を叩いてよし!っと気合いを入れた。




翌日指定された所はアッシュの自室だった、久しぶりに訪れる王宮はとくに5年前と比べて大きな変化があるとかはなかった。
見知った光景だからこそ懐かしいし、俺からしたら夢を見ていた記憶が無いから昨日のことのような懐かしさを感じていた。

どんなに幸せな記憶を思い出そうとも、俺はこれからアッシュに婚約破棄を伝えなければいけない。
ちゃんと言えるのか不安になる気持ちに叱咤してアッシュの部屋の前まで来ると、1呼吸してから扉をノックする。

すると、中から愛しいアッシュの声が聞こえて、じわりと涙が浮かんできて慌ててグイッと涙を拭ってから扉を開いて中に入れば、そこにはアッシュとリバーの2人の姿があった。

嗚呼、今日の呼び出しは俺から言わなくてもよかったようだ。
婚約破棄で呼び出されたのか、バカみたいだな、俺。
王太子殿下だから自分から言えないだろうなんて、そんなわけないか。

「ユーリ実は…」

アッシュの言葉を遮るように俺は声をかぶせた。

「アッシュ俺さ、婚約破棄をしたいって伝えに来たんだ」

「は?」

アッシュから放たれた声とは思えないほどドスが聞いた低音ボイスにビクッと肩が跳ねた。
明らかに怒ってる、そういう雰囲気が醸し出されてるのを肌で感じて怖くて俯いて顔があげれない。

なんで、アッシュは怒ってるんだ?
だって、リバーがいるってことは婚約破棄するために俺呼んだはずだろ?
俺から切り出したんだから嬉しいはずだよな。

そう言葉はいくらでも浮かぶのに声に出せる雰囲気ではなかった。
とにかく怖い、凍てつくような突き刺さる視線を浴びて心の底から恐怖で体が自然と震える。

「ユーリ、冗談だよね?」

「…………」

「今なら冗談として許してあげるよ、ほら、ユーリいい子だから冗談だと言ってくれないかい?」

アッシュの手がするりと俺の顎を撫でて上を向かされると視線が絡み合って、その瞳には怒りがありありと浮かんでいてすげぇ怖い。

リバーは憐れむような目線を俺に向けてくるし、どうなってるんだこれ?

正直状況が飲み込めなくてマジで怖い、なんでアッシュがこんなに怒ってるのかなんて皆目見当もつかない。

「ユーリ、そんなに私と婚約破棄したいのかい?」

いつまでも冗談だと言わない俺に焦れたらしいアッシュの問いかけに、こくりと頷くとすぅと目が細められて表情が消えていくのは恐怖を煽るのには十分すぎるほどだった。

リバーがすぐそばで額を押さえてて、これって俺なんかやらかした感じなのかな?

リバーに助けを求めるように視線を向けてもリバーは俺を見てくれなくて、アッシュがリバーのほうを一瞥して口を開いた。

「リバー、頼んでいたものだけど、形は首輪に変えてくれないかい?」

「別に構わないけど、本気で首輪にするつもりなの?」

「もちろんさ、ユーリがどうしても私と婚約破棄したいようだから、閉じ込めてしまわないと…ね?」

まって、今なんといった?閉じ込めるとか物騒な単語が飛び出た気がするんだけど、どういうこと?

俺は意味がわからなくて混乱する頭で言葉がこぼれ落ちた、言わないでおこうと思ったのに。

「アッシュは俺に飽きたんじゃないの?」

「うん?」

「だって、アッシュ俺が起きてからよそよそしかったし…それに、俺見ちゃったんだ」

「なにを?」

「リバーと一緒にいるところ、その時アッシュが…」

「ああ!そういうことね、ほら、昨日のあれよ?あれを見られたんだわ、きっと」

「…ああ、そういうことか、なんだ、ユーリ嫉妬してくれたのかい?」

「は?いや、そうじゃなくて、俺はただ…」

「私の幸せを願って婚約破棄をしようとした、ってところかな、他人のことばかり考えるユーリらしいね、でも、その選択肢は愚かな行為だよ、私はユーリに飽きていない、リバーに恋してるなんて思われるなんて吐きそうだ、私があの時そのように見える表情をしていたと言うならそれは間違いなくユーリ、君のことを考えていたからだ」

「え?」

アッシュは何を言ってるんだろ、俺に対してよそよそしくて、まともに会話すらしてないのに俺の事を考えてたなんて、そんな嘘つかなくてもいいのにと思ってると俺の表情に信じてないってことが書いてあるんじゃないかってくらいわかりやすかったのか、アッシュが俺の事を抱きしめてきた。

「ほら、私の心臓の音を聞いて、凄くドキドキしてるんだ、久しぶりに目を覚ましたユーリを見て愛おしさが溢れ出して、どうしたらいいかわからなくなった、それで実は…」

「うん?」

アッシュがためてジーッと俺を見てきた、それから懐からなにやら取り出してきて、四角い小さい箱に首を傾げるとアッシュが蓋を開ければ、そこにはお揃いのシンプルな銀の指輪が入っていた。
大きさは少し違うようだけど、デザインはいたってシンプルだ、その2つの指輪の1つを俺の手を取ったアッシュが左手薬指にはめた。

ぴったりハマるその指輪に驚いて言葉を失ってるとリバーが楽しげに言葉を紡ぐ。

「それ、私が注文されて作ったのよ、こう見えても魔道具の1種なの、対のリングで愛が深ければ深いほど色々な恩恵を得ることが出来る指輪よ、また同じようなことが起きたら嫌だからって無理難題ふっかけるんだもの、大変だったのよそれ作るの」

「え、じゃあ、俺の」

「勘違いだよ、私がリバーを恋愛的な意味で好きになるなんて気持ち悪い妄想するのはやめてくれないか?私が愛してるのは5年前も今もずっとユーリだけだよ」

蕩けるほど甘ったるい声音でそう言われて、さらには愛されてる実感できるほど目は雄弁に語っていて疑ってしまった自分を恥じた。

おずおずとアッシュの袖を掴んで上目遣いで見つめる。

「ごめん、疑って……」

「疑われるようなことをした私にも非があるけど、5年間一途に目が覚めるのを待っていた私を疑ったのだから…」


──────覚悟は出来てるよね?

色香を放つ微笑みを浮かべたアッシュに5年間の間に見た目が少し大人びていたけど、それだけじゃなかったらしい。
俺を一途に待っていたはずなのになんで色気を身につけたのか、謎だけど、その色香にあてられて俺は潤んだ瞳で期待を込めて「手加減してね?」と言葉を紡ぐ。

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