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本編完結編
キリヤ兄さんが学園に来た。
しおりを挟む今日は朝から兄弟喧嘩に巻き込まれて大変な思いをしたけれど、それ以上に疲れることが増えた。
王宮騎士団副団長にして、僕を可愛がってくれてるキリヤ兄さんが特別講師として学園に来たからだ。
しかも、今日だけという訳ではないらしい、毎日はさすがに無理だけど時間ある時に不定期という形にはなるが特別講師として、どうやら剣術を教えに来てくれるんだとか。
キリヤ兄さんの鬼のような剣術授業に体はズタボロで疲れすぎて机に突っ伏してると、教室内がなんだか騒がしい。
なんだろうと顔を上げるとキリヤ兄さんが僕の前まで来て「少しいいか?」と話しかけてきた。
なんだか、断れる雰囲気じゃなかったから、こくりと頷くとついてくるように言われて僕はキリヤ兄さんのあとを歩きながら今は物置部屋になってる空き教室に来た。
すると、振り返ったキリヤが切なげに顔を歪めて涙を流した、頬を伝う涙に驚いて慌ててキリヤ兄さんの頬に触れる。
「ど、どうしたの?」
「やっと……会えた……」
「へ?」
キリヤ兄さんの言ってる意味がわからなかった、やっと会えたって何?
たしかに最近は兄さん忙しそうで頻繁に会ってはいないけど、だからって泣くほどのことじゃない。
なのでなんで兄さんは泣いてるんだ?
掬っても掬っても溢れ出る涙に困惑してると、肩を掴まれて真っ直ぐ見つめられた。
「ユーリいいか、今日家に帰ったら天井をしっかり見てなさい、そこにユーリの求めるものがあるはずだから」
「求めるのって…」
カタッと音が聞こえてバッと音がするほうに顔を向けると教室の扉が開いて、キリリクがそこにはいた。
キリリクが突き刺すような冷たい眼をキリヤ兄さんに向けていて、初めて見るその顔に背筋がぞくりとして冷たいものが込み上げるような変な感覚に陥って、体がかすかに震える。
「人の婚約者をこんな人気のないところに連れ込んで、王宮騎士団はいつから不貞を働くようになったんだ?うん?」
「私はそんなつもりはないです、ユーリは弟のように可愛がってるだけなので…」
「ほぉ…、今日はそういうことにしておいてあげるよ、でも、次また変な行動をとったら覚悟しておくように私の婚約者に手を出すのは何人たりとも許さない」
「かしこまりました、それでは私はこれで」
キリヤが離れる際に視線で言っていた、さっきのことを忘れるなと。
家に帰ったら天井をか、天井なんて寝る前にいつも見てるけど、なにかあるのだろうか?本当に。
それでも、今は信じるしかない、キリヤ兄さんが無駄なことを言うわけがないし、キリリクに目をつけられても伝えたかったことのはずだから。
キリヤ兄さんが部屋から出ていくとキリリクが僕に近づいてきて抱きしめられた。
「心配したんだ、キリヤが君とどこかへ行ったと聞いたから」
「ふふっ、何を心配する必要があるの?僕とキリヤ兄さんはそんなんじゃないよ」
すりっと僕より大きな体で擦り寄ってくるキリリクがどうしようもなく可愛くて頭を撫でる。
そうしたら、キリリクがその手に擦り寄って甘えてくるから猫や犬みたいだなと思った。可愛い。
帰宅して直ぐに僕は自室にこもって、天井を見上げた。
キリヤ兄さんの話しでは天井になにかあるはずだけど、特に変わったところは見られない。
なんだろうか?
キリヤ兄さんが僕をからかう理由はないし、そう考えるとなにかあるはずなんだよな。
そう考えて、天井をじっと凝視してると魔法陣が浮かび上がってきて見ることができた。
おそらくあの魔法陣は認識阻害がかけられてることに気づいて、浮遊の魔法で浮かび上がって魔法陣に触れてみる。
これだけでは何も起きないらしい、魔力を込めると魔法陣が光だして、とくになにか起きたということはなかった。
でも、光ったのだからなにか変化あるはずだ、この魔法陣が認識阻害がかけられていたなら、きっと変化したところにもそれがかけられてるとか、なにかあるはずだ。
部屋中くまなく探しても見当たらず頭を悩ませる。
魔法陣はたしかに発動した、この部屋以外に変化が?
いや、その可能性は低いはずだ。
もし変化が起きてるなら騒ぎになってもおかしくないし、なんの騒ぎになってないことを考えるとこの部屋に何かしら隠されてるはず。
うんうん頭を悩ませて、そうだ!本棚の裏とか、ベッドの下とか、普段人が目にしない場所の可能性もあるのか。
そう思えば、まずはベッドの下を覗き込んでみるがそれらしきモノはなかった。
なにもない綺麗な空間しかない、本棚の裏は重力変化の魔法で本棚を軽くして覗いて見たがハズレだ。
「うーん、あとは……あっ、待てよ、ベッドの裏はどうだろうか」
もう一度ベッドを覗き込んで、ベッドを見上げれば「あった!」魔法陣がたしかにそこにはあって触れた瞬間、僕は自分の部屋から知らない部屋に飛ばされていた。
本棚が沢山あって辺り一面本だらけの知らない場所に「ここはどこだ?」とぽつりと言葉がこぼれた。
帰る方法はたぶんあるだろうけど、なんでこんなに本がたくさん……。
僕は本が好きだ、兄さんが言っていたのはこのことなのか?
本好きな僕ならこれを見たら喜ぶと思って。
本を1冊手にとって中をパラパラとめくっていくと、ピタッと手が止まった。
だって、これ、日記だ。
僕が書いた、覚えがない日記だった。
書かれてる文字は間違いなく僕のものなのに、なんで、記憶にないんだ?
そもそも、またダメだった、ループした、どうしたらこの偽物の世界から抜け出せるんだ?
とか書かれていた。
偽物の世界って何?ループって何?
わからないことばかりで頭が理解するのを拒んでるのか、考えることを拒否してるのか、頭が仕事してくれない。
頭は真っ白で浮かぶのはただの疑問だった。
なんで?どうして?どういうこと?
そんなことばかりが頭の中をグルグルと巡って、僕は体が震えていた。
だって、この日記の言う通りなら…………キリリクは本来存在しない人になる。
現実の世界にはキリリクという存在はいなかったと書かれていた。
あれは誰だ?とも、自分の記憶が操作されて作り替えられていく、その前にどうにかしなければって…。
混乱する頭がクラクラしてよろけて手をついた本棚、その本棚だけがほかの本棚より立派で、そこにどうしても惹かれる本があった。
胸がざわつく、この本をとったら全てが変わるようなそんな気がして。
ごくりと喉を鳴らして本に触れると本が勝手に浮かんで、パァーっと周りを照らして、それからその本は僕の胸に吸収された。
本の形をとっていたそれは、どうやら俺の記憶だったらしい。
俺の記憶を封印したモノ、それが今の本だった。
吸収したことで全てを思い出した、キリリクは俺がいた世界には存在しないこと。
俺のリアルの体はどうなってるか知らないが、ここは俺のいた世界でもなければ転生したわけでもないことを。
偽物の世界だ、なにもかもが本物に近い偽物の世界、唯一この世界で違うことをあげるなら、攻略対象とされていたキャラ達だ。
あんな酷いことを俺にするとは思えない、みんな優しくて俺の大好きな人達を侮辱する行為に怒りがふつふつと湧いてきた。
キリリクは存在しない、そう考えると犯人は多分あいつだ。
俺を呪った魔女、あれがアイツの正体だろう。
「ふっ、ふふっ、まさか俺の婚約者になるなんてな、なにがあったかまではわからないがいい度胸だ、俺の大事な人達を侮辱し続けたことを後悔させてやる」
さぁ、どう反撃してやろうか、あいつが作った世界とはいえおそらく全部を把握してるわけじゃない。
把握してるなら記憶を封印した俺の隠し部屋を壊すかなにかしてるはずだ。
わざわざ取り戻す必要性なんてないのだから。
キリリクが認識できないことはある。つまりそういうことだ。
それならそれを利用して俺は記憶が戻ったことを隠して、今まで通り婚約者を演じてやるさ。
キリヤは本物だったことを考えれば、おそらくなんらかしらの手立ては準備できてるはずだ。
だから俺に記憶を取り戻させようとした、ただ、なんでこのことを知ってるのかは謎だが。
「まぁ、細かいことはいいか」
キリリクへの反撃とここをどうやって出ることになるのか、キリヤに聞いてみないとな。
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