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本編3章

キリヤとの出会いは意外な場所だった。

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アッシュが亡くなったからなのか、キリヤとの出会いが予定とは違ったものになった。

元々カナタより早く出会う予定だったのに、それがなくなったから、正直心配もしてたけど、まさかパーティーで出会うのが初対面になるなんて予想はしてなかったってマジで。

男に壁の花って使わない気はするけど、まぁ、壁と仲良ししてると近づいてきた男性がキリヤだった。

騎士団長の息子だから俺に挨拶しに来るのはなにも珍しいものではないけど、なんだろう、この違和感。

キリヤの眼差しがおかしい、記憶がある……というのとも違うような…?

「ユーリ、どうかしたのか?」

「……え?」

なんだ、なんで?今ユーリって、初めての出会いのはずなのに……、記憶あるってことか?
いや、でも、なんか目が違うんだよな、記憶があるとは違う気がするのにおかしい、どういうことだ?

じぃっとキリヤを見つめてると、首を傾げて俺の方を見てから、なにかに気づいたのか、クスッと笑って俺の頭を撫でてきた。
その眼差しはどこまでも優しくて愛おしむもので……、なぜそんな目をしてるのかわからない。

おかしい、前回の記憶があってもその前も記憶があってもキリヤは執着増し増しになってるはずだから、こんな穏やかな表情するわけないんだ。

なのに、キリヤからは慈しむような愛情しか感じられない、凄い穏やかな…記憶がないならないで、ユーリとこんなに馴れ馴れしく接してくるタイプではないはずなんだけど、初対面だし。

「ユーリ?」

「えっと、…キリヤ…さん、その、今日初対面ですよね?」

「あ、ああ、そうか、そうだな、……い…ば……だった」

なにか驚いたような表情をして、ぶつぶつと独り言を呟くキリヤに首を傾げた。

なんて言ってるのか最後の方がハッキリ聞こえない。

俺の方を見て微笑んだキリヤが「すまない、馴れ馴れしかったようだ、ユーリ様は…」

キリヤがパーティーの真ん中、男女1組になってダンスをしてるフロアの方を見て「踊らないんですか?」と言葉をかけられて、なんだろうか、無理矢理話題を変えられた感がするんだけど。

「踊りませんよ、ダンスはあまり得意では無いので」

嘘だけど、一応今の俺になってから3回目ともなればダンスは本当はそれなりに踊れる。
子供の頃からの教育として練習するからな、けど、今は踊りたい気分じゃないから踊れないことにした。

「そうですか、残念です、俺と踊っていただきたかったのに」

パチンとウィンクされるから、ちょっとだけ、本当にちょっとだけドキッとした。
キリヤってこんなことする奴だっけ?

知らないキリヤの一面に内心ドキドキしながらも、なんか変だ、なんかおかしい!?
なんだこれ、キリヤのこんなイベントシーン見たことないし、そもそも、キリヤってクールで堅物よりというか、真面目というか、そんなキャラ設定だったじゃん!?

なんで、こんなチャラい…んだ?

「ふふっ、ユーリ不思議そうな顔してるな、なにか気になることがあるのか?」

「……あっ、いや…うん、大丈夫…」

なんだろう、この既視感…おかしい、キリヤがチャラいなんて初めて見たはずなのに…。



帰り際にキリヤから後で読んで欲しいと手紙を渡された。

帰宅してそうそう自室に直ぐに戻って、中身を確認する。

何が書かれてるのか予想なんてできない、今日が初対面のはずだから恋文の可能性は低い。
となれば、なんだ?

手紙に書かれてる文字に目を走らせ、読んでいくと…目をゆっくりと大きく見開く。

手紙を持って、目眩がしてよろけて壁に手をつく。

「これは…」



ユーリ、君は今日が初対面と思ってるかも知れないが俺達はもっと前から出会っている。
ユーリが知る君より、俺のがユーリのことを知っている、この世界のこと、本当の君のこと。
この話を信じるなら………………。


最後がなぜだか、かすれて読めない。

俺より俺のことを知っている?
この世界のこと、本当の俺ってなんだ?

これは……キリヤの妄想なのか、それとも、本当に俺のことを知ってるってことか、でもそれならなぜ、何も言わなかったんだ、今まで……。

俺が記憶を取り戻す前の、俺の知らない俺はたしかにいる、それを知ってるって言うならキリヤはずっと記憶があったってことになる。

記憶があったのになぜ今更……?

わからない、これはなんだ、なんのフラグだ?

この手紙の最後の方は本当はなんて書いてあったんだ…。

本棚から日記を取り出して、日記の間に手紙を挟んで本棚に戻した。

こうすればもしかしたら、またループした時に次に持って行けるかもしれない。

最後なんて書いてあったのか、キリヤに聞かなければいけない、次会えるとしたらいつになるだろうか。

子供なのがなー、俺が学生になってればも少し自由に行動できるし、会えるのに…、もどかしい、キリヤがなにかを知ってるかもしれないのに、それを聞き出すことができないなんて。


手紙の続きはなんて書いてあったのか、知りたくて会おうとするのになぜだか会えない。

キリヤが騎士団長について遠征に行ってしまったり、俺が勉強のために王宮の図書館に出掛けてる間にキリヤが来たりと、とにかくすれ違って会えないまま、イタズラに時間が過ぎていくばかりだ。






そうして、気づいたら、俺はデスペア学園の入学パーティーに出席する歳になってしまった。

正直ここまで会えないなんて変だ、だってそうだろ?俺が手紙を貰ったのは本来の予定より会うのが遅れたといえ、あの頃はまだ10歳だぞ?
今16だから、6年なぜか会えなかったんだ。

さすがに今日はキリヤはこのパーティーに騎士団として来てるはずだから、会えるはずだと喜んではいたのだけれど、まためんどくさい事に宰相の息子だからという理由で俺は囲まれていた。

キリヤと話したいのになんでこうも色んな人が俺に寄ってくるんだよ、わかってたよ、わかってたけどさ、なかなか話しが終わらないし、最初の時はアッシュが登場したからその隙に離れるのができたけど、今回はアッシュはいない……となると、これ俺の周りから人がいなくならない?もしかして…。

内心困り果ててると、不意に後ろから手を引かれ体勢を崩して俺の手を引っ張った奴の胸の中にいた。

おそるおそる顔を上げるとリバーがいて、俺の心境としては目が点になった。
あくまでも心境としてはだが、だってそうだろ?
このパーティーでリバーとの会話イベントなんてのは存在してない、つまりこれはありえないのだ。

「すまないが、ユーリ様を借りていくよ」

「おお、おお、これはリバー様、承知しました、我々はまたの機会ということで」

「そうですな、またの機会ということで、ユーリ様今度は是非とも我が娘を紹介させていただきたい」

「ユーリ様、少ししかお話出来ませんでしたが、またお話がしたいですわ」

本当によく回る口だ、俺に媚びを売ってるのが見え見えすぎて気持ちが悪い。
曖昧に笑いかけてリバーに手を引かれるまま、その場を後にした。

リバーに連れていかれるままにバルコニーに顔を出すと、外の空気がうまい!
ほんっとこういうパーティーは大嫌いだし、苦手だ。

いい大人が子供に媚びるとかなにを考えてるのか理解できねぇし、気味が悪い。

心中荒んで毒づいてると、リバーがふっと隣で笑う。

俺そんなに表情に出てたのか、もしかして?

「ユーリ様、顔に出てますよ、そんなんじゃダメダメね、宰相の息子なんですから表情に出さないように気をつけなくちゃ」

「父の名誉を傷つけないため努力致します」

「ふっ、ふふっ、堅苦しい挨拶なんて私にしなくていいのよ、いくら王家の人間でも私には王位継承権はないもの」

「それならリバー様も私に様付けする必要はありません、私はあくまで宰相の息子というだけで私が偉いわけではないのですから」

「ふふっ、ユーリって面白い子ね、また会いましょう」

手をとられて、京紫の瞳と視線が絡まりあったままリバーの形の良い唇が手の甲にチュッと触れた。

ほんの一瞬の触れ合いだったのに、目が離せなかった。

なんだろう、リバーが凄くまともだ、記憶がやっぱりないのかな?

リバーはそのあと俺に背を向けて片手をあげ、ひらりと振ってからわかれた。

リバーとわかれたあと、キリヤを探したけど、見つけることができず結局今日も会えずに屋敷に帰宅することとなった。

6年もどうやったらすれ違い続けるんだよ。
普通ありえないだろ、でも、そんなありえないことが起きてる、つまりこれって誰かが望まないから邪魔されてるしか思えない。

一体誰が?そもそも、すれ違ってるだけだから本当に誰かに邪魔されてるわけでもないんだよな。
となると、この世界に神が存在するならその神様の意思ってことか?

ため息だけが静かな室内に響き渡る。
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