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本編2章

初登校

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予想はしていた、していたけど、腫れ物を触るみたいに俺に接してくるクラスメイト達、どこか遠巻きに見てくる人たちもいて気分は悪かった。

それでも、耐えれたのはシエルがそばにいてくれたから、シエルはデスペア学園にもついてきてくれた。

それが俺の心の支えにもなっている、アッシュは当然ながら俺が学園に来たことでクラスに会いに来た、こちらも予想通りだ。

手紙を返してないのに学園に来たから、少し怒ってる様子だ、にこやかに笑ってるのに目が笑ってない。

「なぜ、手紙を返してくれないのか、聞いてもいいかい?」

「……あっ、と、それは……」

「はぁ、ユーリ、君は私の婚約者であることを少しは自覚してくれないか?それとも、私では不満があるのかな?」

何か言わなきゃとは思う、不満があるというよりは怖いだけだし、本当の意味でアッシュのことを理解したら怖くなった。

俺以外をなんとも思ってないことが、誰が死のうと悲しまないことが、だから、俺はアッシュが怖い。

怖いけど、正式な婚約者であるから逃げるのもできない、頭ではわかってるのに……。

「ユーリ様落ち着いてください、大丈夫です、私がそばにいますから」

シエルが俺の肩に触れて耳元で囁いてきて、その声を聞いたら心が穏やかになった。
大丈夫だ、ちゃんと話せる、アッシュを見て微笑んで口を開いた。

「ごめんな?そんなつもりはなかったんだ、アッシュに不満なんてあるわけないだろ、ただ、その…自分の中でまだ気持ちに整理がついたわけじゃないんだ…、それで、手紙に何を書けばいいのかわかんなくなちまってさ…本当にごめん、アッシュには先に連絡するべきだったよな」

「………今週からデートは再開でいいかい?ユーリが眠ってる間、それから目を覚ましてからもユーリがまだ不安定だったから、デートができてなかっただろう」

「そう…だね、うん、それでいいよ、でも、遠出は無理かも」

「無理はさせないさ」

微笑んでくれてるけど、心の底から怖いと感じた。
目の前にいるアッシュはアッシュじゃないと俺の心が叫んでるからだ。

もう俺はなにもわからない、自分の気持ちを信じればいいのか、なにを信じればいいのか、あの日記だって本当に本物なのかもわからない。

だってそうだろ?なんで前回気づかなかったのに今回は気づいたんだかわからないんだ。

あれだけ目立つのに……ゲーム内なら隠しアイテムとかあるのは当然だけど、そんなに見落とすものだろうか?

ズキンと頭が痛んで、こめかみをおさえてため息をつく。

アッシュが俺の様子を見て気づいたのか、優しく俺の頬に触れて額をコツンと重ねてきた。

たしかに感じるはずの温もりにもゾワッと悪寒が走って、ひゅっと喉が鳴る。

「…ひっ、…………」

「ユーリ、私に触られるのが怖いのかい?」

「そ、そんなことない……よ」

震える声でなんとか返して無理矢理微笑むけど、きっと下手くそな笑顔だ。

嗚呼、こんなんじゃ気づかれる、俺がアッシュを怖がってることに。

瞳を細めたアッシュの瞳に一瞬だけ、ほんの一瞬だけ不穏な色が見えた気がした。



デスペア学園に登校した日の夜、俺は人に見られ続けたこととアッシュに対して疲れきったからか、早くに眠りについた。

頭の中では、ほんの一瞬だけ寂しそうにしたシエルがチラついていたからなのか、夢にシエルが出てきた。

なにもない真っ白な空間、そこにシエルはいた。
ただ、寂しげな表情で上を見ていたシエルが俺に気づいて俺の方に視線を向けた。

「ユーリ様、どうしたのですか?」

「え?」

「傷ついたような表情していますよ、なにかおつらいことでも?」

「…………シエルが……」

「私が?」

「悲しそうだったから…、昼間はごめんな」

「…ああ、仕方ありませんよ、ユーリ様はアッシュ様と婚約してるのですから…私のことは気にせず仲良くしてください」

突き放すようなその言葉にグッと手を握りしめた。
自分はなにも言う資格はないのはわかってる、それでも、俺は………。

シエルと夢でもこうして会えるのが嬉しかったんだ、現実でも一緒にいれて、夢でも会えて、もう自分がなにを考えてるのか、何を感じてるのかもわからないから…。

自分の感情が正しいのか、それすらもわからない。

アッシュのことは好きだった、愛してた、……はずだったのに、目の前でシエルが死ぬのを見て、それをアッシュが笑ったのが頭にこびりついて離れなくて、ただそれだけで、自分の気持ちが揺らいでしまった。

わかってたことのはずなのに、そういう奴だって、でも、それを正しくちゃんと理解してなかった。

俺の前ではずっと優しかったから、結局上辺しか見てなかったんだ。
アッシュのことをちゃんと知ろうとしなかった、そう思うのにそれすらも正しいのかわからない。

だって、俺の心はアッシュはそういう奴じゃないって激しく訴えるから……。

シエルに抱いている今の感情だって、あやふやでたしかな形じゃないけれど、それでも、シエルのことを好きだと思う。

でもそれってさ、目の前で死なれたから、強烈な印象を残されたから、吊り橋効果?的な感じじゃないのかとも思うんだ。

いや、違うか?でも、まぁ、多分感覚的にはそんな感じな気もする。

俺は前回は一緒に死ぬくらいには、アッシュのことを好きだったはずなのに今はシエルのが好きってそんなのおかしいじゃないか。
心変わり激しくね?これも、ゲームの主人公だからってこと?

嗚呼、それとも……、本当にこの世界はゲームなのかな。
自分で考えて動いてるつもりでいるけど、違うのかな、この感情もゲームだからプレイヤーによって作られたとか?

なにもかもがわからない、なにもわからないんだ。

俯いて何も言わない俺の元に近づいてきたシエルの手が伸びてきて、優しく抱きしめられた。
夢の中でなら感じる事ができる、シエルの温もりに涙が溢れ出した。

「ユーリ様、すいません、意地悪しすぎました」

「うん……」

「ユーリ様、本当は嫌です、ユーリ様が私以外とデートするなんて…私の事だけを見ていてほしい」

「俺だって……」  

「でも、それは無理なことです、ユーリ様は生きていて、私は死んでますから…、私にはユーリ様を連れ去ることはできません」

「…………………」

俺が生きてるから…、俺はシエルにすべてをあげることができない…、そうか、そうだよな。

俺が生きてるから…、ドロリと思考は溶けだして、シエルの言葉を何度も、何度も、何度も、頭の中で繰り返した。

シエルは死んでて、俺は生きてる、だから、俺たちは本当の意味で結ばれることなんてできない…。


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