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本編1章
真実を知っても。
しおりを挟む1人寝室のベッドの上で頭を抱えていた。
さっきの護衛の人達の会話が頭をぐるぐると巡って、どんなに打ち消したくても消せない会話、本当にあれは現実で起きたことなのか。
アッシュが自分に見せていた表情も優しさも全てが作り物だったなんて思いたくないのに……。
気が重い、今日はアッシュと会う約束がある日だ、いつもなら嬉しかったし幸せだった。
今日ばかりは顔を会わせたくない…、どうしたらいいかわからない。
なんでこうなってしまったんだろうか、俺はここに来てからたしかに幸せだったんだ。
また俺の感情を無視してレイプされることがない、それがどんなに俺にとって幸せだったか、その幸せが一瞬に崩れたのはアッシュから4人の話を聞いてからだ。
あれから俺は幸せになっていいのかわからなくなった、俺がもっとしっかり対策とか考えて恋愛フラグを折ることができてれば……そう思うとダメだったんだ。
ゲームの中でキリヤが死ぬルートなんてなかったのにキリヤは死刑にされた、それがどうしても俺は割り切れなかった。
俺と出会わなければ、俺がもっと上手くやってフラグを折ることが出来ればキリヤは今でも生きてたし、俺のいい兄ちゃんポジにいたかもしれない。
そう思うと悲しくて辛くて泣いたあの日、あのときずっと優しくしてくれたアッシュの姿は作りもので……アッシュが全て仕組んだことなのか?
今までの優しさも全て見せかけで、俺を依存させるためにしてたことなんて……信じたくないのに、頭から離れない。
アッシュに芽生えてしまった俺の中の愛情と、罠にはめたアッシュへの憎しみがまざりあって溶け合う。
ドロドロとした感情が俺の中を渦巻いて、ひとつの結論を導き出した。
俺は幸せになるべきじゃない、そう思ってたし、もっと早く死ねばよかったんだと最近では考えるようになった。
俺が死にさえすれば、みんなの人生は狂わなかった…。
と、ぼんやりと考えてると、いつの間にか約束の時間になっていたのか、扉がトントンとノックされて「どうぞ」と声をかければ姿を現したのはアッシュだった。
アッシュはいつもと変わらない様子で優しく微笑みながら、俺に近づいてきてベッドに腰をおろした。
本当にアッシュが全てを仕組んだとはおもえないほどに、変わらない様子だ。
俺の頭を優しく撫でる手も、愛おしそうに俺を見る瞳も、なにもかも変わらない…。
「ユーリ、また考え事かい?ユーリのせいじゃないんだよ、ユーリが気に病む必要はないさ」
「うん…」
アッシュは勘違いしてるようだ、俺が最近じゃキリヤ達のことを思って塞ぎ込んでるから。
ちょうどいいと思った、勘違いしてるのなら、その勘違いを利用しようと口を開いた。
「あのさ、アッシュ…、近くに大きな湖あるよね?あそこに遊び行きたいな、たまには外でデートしたい!」
俺は精一杯笑顔を作ってアッシュの腕に腕を回して顔をのぞき込むと、アッシュが蕩けるような笑みを浮かべて甘ったるく「いいよ」と返してくれた、それはどこか恍惚としていて艶を含んでいた。
アッシュにデートを申し込んだからか、護衛はなしだった。
まあ、近くの湖でのデートだし、そもそも、もう俺を脅かす存在はいないのだから、護衛はつけなくても問題ない。
2人きりでのデート、これはチャンスではあるけれど、俺はまだ行動するのは早いと思ってる。
チャンスは1度きりだ、1回失敗したら二度とそのチャンスは巡ってこない、そんなことはわかりきっている。
だからこそ、俺は暫くは普通に婚約者でいることに決めた、今思えば婚約が俺とアッシュの間で交わされただけなのを疑うべきだったんだ。
本来なら親がでてくるはずだ、けど、あの日申し込まれて俺は頷いて、それでそのままあっさり婚約が決まったんだ。
父が許したにしても俺に会いに別荘に来ないことを気にするべきだったんだ。
でもなんで、国王陛下は俺との婚約を許したのだろうか、罪人の息子ってことになる、宰相でありながら謀反に加担した犯罪者の息子、どう考えてもおかしい。
普通なら息子の時期国王の伴侶が俺なのは反対するはず……、まさか、いや…でも……。
ちらりと隣を歩くアッシュを見ても、いつもと変わらない様子だ、でも、もし、俺の考えが正しいなら国王陛下は生きていても操り人形になってるのでは?
カナタは人を壊す薬を作れるはずだ、意志をぶっ壊して自分で考えることをできなくして…、その薬を国王陛下に使ってる可能性があるのでは?と脳裏に浮かんだ恐ろしい考えにぶるりと震えた。
「ユーリ、寒いのかい?」
「う、うん、ちょっとだけ…肌寒いかも…?」
心配そうに俺を見つめる瞳はどこでも優しい、騙されたらいけないと心中自分に喝を入れて、曖昧に返事をしながら歩みを止めて湖のほうに近づく。
水面に映る自分の姿にため息が自然ともれた。
「ユーリ、また余計なことを考えてるだろう?」
「ごめん…」
「またキリヤ達のことかい?」
「うん、そんなところ…」
水面に映る自分をぼんやりと眺めてると、アッシュが「ねぇ、ユーリ、ユーリは死にたいのかい?」と俺の考えを見透かしてるような言葉が紡がれた。
俺はたしかに死にたい気持ちがある、でもそれは自己満であることは理解してるし、俺が死んだからって死んだ人は生き返らないのも知ってる。
だから、死のうとか考えてたわけじゃなかったんだ、けど、今は違う!
今はアッシュへ復讐することが目標になった。
ゆるりと頭を振って、アッシュの方に顔を向けると微笑む。
「ううん、死にたいとは思ってないよ、アッシュがいるからね(生きてるからね)」
「そう…、ならいいんだけどね、どうしてもユーリが死にたくなったら私に教えてほしいな」
「え?」
「一緒に死んであげるよ…」
まさかの言葉だった、一緒に死んであげる…、なら今すぐ…いやダメだ、これは俺をからかってるのか、試してるのか、相手の本心が見えない。
ふっと口元をゆるめて「ふふっ、なにいってるの、アッシュ」と言葉を紡ぐ。
アッシュが何を考えてるのか分からない以上は、すぐに乗っかるのは得策じゃない。
油断させて、俺を信用しきったところで……。
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