上 下
6 / 62
本編1章

2度目の眠りから目が覚めて

しおりを挟む


キリヤの腕から脱出できなくて結局気づいたら二度寝していた。
起きた時にはキリヤはすでに隣にいなくて仕事に行ったのだろうと理解出来る。
騎士団副団長が休めるはずないしな。

欠伸をしながら背伸びをして目覚めは悪くなく、スッキリしてるからこれからのこと、いますでに起きていることを整理しようと立ち上がって本棚に隠しておいたノートを取り出して机に向かう。

椅子に座ってまずは…うーん、たぶん全員が2週目以降なこと、それからリバーは妄想ストーカーで原因を作ったのはキリヤであること。

キリヤとリバーは学生時代からの付き合いがある、その頃から俺の自慢をしててその結果話を聞いてるだけだったはずのリバーはどうやら俺に好意を抱いてリバーの中では恋人になってるということ。

浮気がとか言われたからこれはほぼ間違いない。

キリヤもたぶん俺と恋人と思ってる、兄として慕っていただけのはずなんだけどなー。
推しなのもあって嫌われたくないし、ヤンデレになってほしくないし、恋愛フラグ避けたかったから。

こっちがなぜこうなったのかっていうとたぶん俺が主人公を忠実に再現していたからだと思う。
可愛い顔してキラキラと自分を見てくる相手がいたら勘違いするか、かわいこぶりっこを頑張ってした結果だな、ははっ、主人公の本来の設定とか無視して記憶戻った時からじょじょに態度を変えて素になりゃよかった。

今更後悔してもどうにもならないが少なくとも可愛いタイプのままでいるのを避ければみんなとの恋愛フラグを折れたかもしれない。

あと、もう1つ重要なのが俺も2週目以降の可能性についてだ。
記憶はないけれど、その可能性がある。

俺自身も2週目以降ならみんながそうなのも納得出来る、といっても小説や漫画の部分の設定とか知らんからそっちの可能性も否定はできない。

たしかめるために死ぬ訳にもいかないしな、もし2週目以降なら死ねばリセットされて人生やり直されるかもしれない。
俺の読みが外れてた場合はそのまま死ぬことになるし、そう考えるとこれは最終手段だな、誰かのヤンデレEND見たら死ぬことになるか。

リバーなら殺されることがほとんどだけど、他は主人公を監禁したり薬漬けにしたり精神も一緒に壊そうとしたりとかなんかそんなんばっかだしな。

キリヤの初回ヤンデレENDは比較的軽いんだよな、ただ、監禁されて首輪に鎖で繋がれてるだけでもう大丈夫だとか言われて抱きしめられて終わる感じだった。

周回を重ねるとちょっと重くなるんだけど、それでも、キリヤはずっと主人公の味方でもあったからな、ある種の純愛だと俺は思ってる。

ハピエンルート前の最後のヤンデレENDは家族も使用人も全員殺されて返り血を浴びたキリヤに抱きしめられてこれで大丈夫だ、俺が守ってやるからなって抱きしめられるんだよ。
主人公が家のために婚約決まりそうになった時にキリヤが全部ぶっ壊したんだよな。

そのせいで主人公は心を病むんだけど、それを嬉しそうに世話をするキリヤがいて幸せそうに微笑む2人で終わり…リバーとキリヤルートは比較的軽いものだ。

他がな、本当にありえないくらいにあたおかだからなー。



うーん、次は王子か、王子はぶっちゃけこの作品のメインキャラだけどぶっ飛んでヤバいやつの一人でもあるんだよな。

王子は自分の立場を利用して誰も逆らえないし、王様は親バカすぎて息子がすることを放置してるし、なんならアッシュの味方だ。
王子の初回ヤンデレは俺を受け入れないなら壊せばいいとかいって無理矢理自分の権限使って主人公と結婚してそっから監禁、主人公を快楽堕ちさせんだよな。

ただの肉便器みたいにされた主人公がご主人様のモノを美味しそうに咥えこんで自分で腰振ってみたいな終わり方だった、初回はまだマシで問題は周回を重ねると最終的には公開プレイされる。

場所も全部おかまいなしで校庭、教室、屋上とか色んなところで主人公をみんなの前で犯して性欲処理として扱うし、けど、それは酷く歪んだ執着からくるんだよ。

誰にも渡さないって独占欲からみんなに見せつけてSEXする、んで、最後にはもう抵抗もなんの気力もない主人公が王子と結婚式挙げるんだけどその神聖な儀式でも王子は主人公をぐちゃぐちゃに犯してみんなに見せつけるし、ほら、みんなに見られて嬉しいだろ?って囁くんだ。

プライドもなにもない、粉々に精神は壊されて嬉しいって泣きながらこたえてみんなもっとみてぇ♡ってなってる主人公を見て俺ちょっと苦しかったし、アッシュなにやってんだよ!って怒りすら覚えたのは記憶に新しいが実際は俺って死んでから何年経過してんだろ。

俺はどうもこっち系のヤンデレは微妙らしい、王子のハピエンルートも見たのは見たし見るまで頑張ってやったけどそこまでの価値があったか?とも思った。
ハピエンルートだと王子と主人公はやっぱり結婚してて王子は王様として主人公と結婚するために古臭い形式を変えようと頑張った。
今までは王様の子供が跡を継ぐ形だったものを国民が投票してってやつだ、現代の選挙だな、あれに形式を変えたんだ。
まあ、そこは評価できるけど、でも、それまでの過程がなー、複雑な気持ちになったことだけは覚えてる。
なんせアッシュは自分の権力使ってどのルートでもヤンデレは結婚はしてるんだよ、ユーリと。
結婚して一応自分のモノにした癖に自分を愛さないユーリが気に入らないとか、愛想を振りまくのが気に入らないとかでひどいことをするからな。
これのせいでハピエンルート見てもなんだかなっていう後味が正直微妙だった。

で、問題児は義弟のカナタだ、こいつはかなり最初からぶっ飛んでたし、色々とひどかったから思い出しくない。
あの子は王子とは別の意味でめちゃめちゃやばいからな。

最終的には主人公の眼球えぐり出して自分もえぐり出して眼球交換して、これでずっと一緒だよ兄さんって笑うカナタはまじ怖い、恐怖ものだったわ。

シエルもマシそうに見えて実はそうでもねぇし、シエルの最後はなー…腕も足も切り落とされて目の前で美味しそうに食べられる…うん、自分の肉を食べられた主人公の気持ちは味わいたくないな。

両手両足を失った主人公をそれはそれは愛おしそうにしてたけど、結局あんなの生きるオナホと一緒じゃん!
俺は愛を感じられるヤンデレが好きだ、あれはなんかちょっと違うっつうか俺の好みとは違うんだよ。
自分の愛だけを押し付けて主人公の気持ちガン無視なのがな、俺的には共依存とかそっちが好きだから、結局惜しいなって感じがした。

といってもたぶん俺のやり込みがまだ足りてなかったんだよな。
噂では共依存ルートもあったらしいし、ハピエンルートのさらに先があってハピエン後のデータを引き継いでプレイすると共依存ルートも見れるとかだったか、たしか。

ハピエン全部回収したら共依存クリアしてそっから小説や漫画を読もうと思ってたのにな…………あれ、俺そういやなんで死んだんだ?

まっ、いいか、そこは思い出してもいい事なさそうだ。

ノートを閉じてまた本棚に戻すと椅子に座って考える、これから自分はどうするのが正解なのか。
死ぬのは出来れば避けたいし、みんなヤンデレも避けたい。

全員ヤンデレになったら取り合って殺しあったりすんのかな……、それはなんかやだな。
いくらゲームの世界だからって今俺はこの世界に転生して生きてるわけだし、誰か死ぬのはみたくない。



朝食食べて今日も学校には行かなければいけない。
リバーに会うのは憂鬱だし、嫌だけど、こればっかりは学生の身だからどうにもできない。

親に訴えるという手段はもちろん考えたが無理だ、なにより証拠がない。

それにリバーは王家の人間だ、本人もそれは公表してないし、王家も公表してないが間違いなく王家の人間だから訴えればきっと面倒なことになる。

前世の記憶を思い出したからって今の両親を家族を使用人達を大事にしないわけじゃない。
家のために結婚とかそういうのだって覚悟してるくらいには今世の家族も俺にとっては大事で、だからこそ王家の人間を訴えるなんてできるわけがない。

万が一にも訴えたせいで宰相という役職を父親が失う可能性だってあるわけだし、結局のところ主人公ってなにされても泣き寝入りしかできないんだよな。

カナタが相手の場合自分を責めるし、キリヤのときも自分を責めてた、アッシュの時はくそ親バカ国王のせいで泣き寝入り、リバーの時も同じく泣き寝入り、シエルのときも自分を責めてたから泣き寝入りするか、自分が悪いって落ち込むの2択…。

ユーリがいい子すぎていまさら泣けてくる。


なんてこんなこと考えてる場合じゃなかった!
時計をちらっと見れば時間はすでに7時をまわっていて、急いでご飯を食べて向かわないと遅刻する。
さすがに昨日の今日で遅刻は目立ちすぎるから勘弁してほしい。

制服に着替えて準備してから急いでダイニングルームに行き、すでに準備をすませて食事をしていたカナタと目が合った。

「お兄様、珍しいですね、お寝坊ですか?」

「あー…、起きてはいたんだけど読書してたら時間が過ぎてたんだ」

「そうですか…」

いつもと様子が違うカナタに首を傾げる。
なんか今日はいつもと違って素っ気ない、なぜだ?

俺を見ようとしないのも変だ、いつもならもっとニコニコ笑顔を見せてくれてたはずなのに……。

「カナタどうかしたの?」

「なにがですか?」

トゲがある声音にビクッと肩が揺れる。
突き刺さるような冷たい眼差し……嫌な予感がする。
この目はカナタがヤンデレゲージ溜まっていくとする表情だ。
昨日までは普通だったのになんで急に??

意味がわからなくて混乱する頭で必死になにかを言おうと考えても思いつかず口をはくはくとあけたりしめたりするだけだった。

「お兄様、顔色が優れないようですがどうかなさいましたか?」

「…な、なんでもないよ、大丈夫…」

心配そうな表情をしているのにどこか冷たさを感じるその表情にぞわりと背筋に悪寒が走る。

危険だ、これ以上ここにいるのはと本能が警報を鳴らすのに身動きひとつできない。

瞬きもできずただ、カナタを見ているとふわっと優しく微笑まれた。

「お兄様、怯えてるのですか?僕に…」

「……そんなことないよ、カナタに怯えてるなんて…」

ありえないと言う言葉は目の前までフォークが迫った恐怖で声に出せず飲み込まれた。

眼球に刺さる寸前で止められたそれにゴクリと喉を鳴らした。

カナタのヤンデレ具合はかなり進行してるようだ。

フォークがすっと引いてニコニコといつもと変わらない愛らしい笑顔を向けてくれるカナタに恐怖した。
どんなに可愛い顔しても今のカナタはもう可愛いだけの弟じゃないんだと現実が襲ってくる。

「ふふっ、お兄様よく悲鳴あげなかったですね、冗談ですよ、お兄様のこと大好きですからそんなひどいことしません、安心してくださいね?」

「……カナタがそんなひどいことすると思ってないからね…、カナタ信じてるよ」

嗚呼、上辺を滑ってる気がする。
俺の言葉なんてカナタにはきっと届いていない、その証拠にずっとカナタは僕に憎悪と愛情を向けてるからだ。

透き通るような青い瞳がいつもより色濃くなってくもって見える。

笑顔を繕いながら心中は穏やかな朝とは言えなかった。
食事をしても味なんてわからなくてただ食べなければと食べたに過ぎない。

終始ニコニコと僕を見ているカナタが不気味で怖くてこれからは家の中でも休まる場所がないんだなと覚悟するしかなかった。





入学パーティーで目立って、さらには翌日途中でいなくなって早退…そんな目立つ行動してればそりゃあさ、こうなるのわかってたけど突き刺さる視線がつらい。

好奇心で見られてるのがわかる、不躾な視線に文句言いたくても言うのもできない。

ため息をついて俯いてると影が落ちてきたのと教室が騒がしくなってるから、なんとなく相手は予想出来た。

正直顔を上げたくないという気持ちが強いが、そういうわけにもいかずおそるおそる上をむくと不機嫌な表情をしたアッシュがそこにはいた。

「ユーリ、なぜ、私のところに来ない」

「……えーっと、それはどういう意味でしょうか?」

「はぁ…、婚約者に会いにこないとは貴様は薄情なのか」

婚約者…、はて、婚約者とは?
そんな話しを父からされた記憶なんてない。
となると、アッシュが言ってるのは幼少期に約束したことだと思うがあの時のアッシュは女の子の服装をしていた。
これを利用すれば結婚の約束をなかったことにできるんじゃないか?と考えて首を傾げてアッシュを見つめた。

「父からそのような話しは伺っておりませんが、それに皇太子殿下はいずれはこの国を背負って経つ身、男と婚約など許されるはずがありません」

アッシュとは幼少期に1回絡んだだけでそれ以降はここに入学するまで絡みはない、アッシュの腹違いの兄とは一応面識はあるんだけどな。
宰相という父の立場もあってか、パーティーに呼ばれた時に。
その頃のアッシュは女の子として育てられて病弱な娘設定がされてたから、たまにパーティーにちらっと顔を見せるだけだった。

「……覚えていないのか?子供の頃、私と結婚の約束をしたはずだ」

「子供の…頃ですか?子供の頃たしかに結婚の約束をした女の子ならいましたが、男の子とはした覚えはありませんね」

眉間にシワが寄って険しい表情するアッシュとそれに対して素っ気ない態度を取り続ける僕、完全に見世物だ。

緊迫した空気が流れてるのがわかる。
誰もなにも言えないのだろう。

いまにも泣きそうな苦しそうな表情をするアッシュに罪悪感を覚えるが、ここで情を見せたらたぶんめんどい事になるのは明白だ。

キッパリと貴方と結婚の約束した覚えはないと言っておかないと、できればそれでアッシュが諦めてくれたらいいんだけどな。

じぃとアッシュから視線を逸らすことなく見つめてれば揺れ動く空色の瞳には薄い膜がはられてキラキラと輝いていた。

アッシュが瞬きをすれば一雫の涙が頬を伝い落ちる。
綺麗だと思った、本当に。
泣かせてしまった罪悪感で胸が締め付けられる、心苦しい。

「……その女子が私だと言っても信じてくれないのか?」

迷子の子供のような頼りない声音で呟かれた言葉にグッと言葉が詰まる。

どうしよう、アッシュがあの女子だってことは知ってる。
知ってるけど、それを認めたら…ヤンデレルートに入りそうだよな。

「……そう言われましても、僕も子供でしたので記憶が朧気でよく覚えてないのです、天使様に会ったという印象のが強くて…」

「…そうか、なら、信じてもらえるよう努力するのみだ、私はユーリ、君を諦めるつもりはない、王族を理由に私を振るのはなしにして欲しい、君だけを思い続けていた私をちゃんと見てくれ」

ぐっ、なんだこれなんだこれ、なんでアッシュこんなに普通なんだ?
さんざん主人公に酷いことをした男だとわかってるのに…、眉尻下げて悲しげに微笑まれると胸が苦しい。

騙されたらダメだ、絆されたらダメだ、というか、俺男興味ないって!
なのになんで…、こんなに胸が苦しくなるんだよ!
これ絶対主人公が影響してる気がする、どんだけ優しいんだよユーリ。

こくりと頷けばアッシュが大輪の花が咲き誇るような満面の笑みを浮かべるから、ぐぅっと胸を押さえて天を仰ぐ。

なんかキリヤ達の行動理解したかも、これか、内側からこう萌えてしかたなくて感情が昂る感じ、可愛いと叫びだしくなるような…。

アッシュの心配そうな顔が目に入って、そんな目で俺を見ないでくれ、結局のところ自分に向けられる表情でも萌えるんだということがわかった。

アッシュな、外見だけは好きなんだよ、推しはキリヤだけど。
あのぶっ壊れ具合がなければ好きだった可能性だってある、なんせパッケージのアッシュに一目惚れして買ったんだから。


アッシュとはとりあえず、友人と言った形になった。
ちゃんと私を見てほしいという言葉にあるように、避けるのはなし、友人としてそばに居る間はなにもしないとアッシュは誓ってくれた。

で、ここまではめでたしめでたしで終わったんだけど、どうもシエルが騒ぎを聞いて、俺の様子を見に来たようで俺とアッシュが話してるところを聞いたみたい。

帰りの様子がおかしくて話を聞き出したらこうだった。
だからって、なんでそんな様子がおかしいのか?と不思議に思ったから聞かなきゃ良かったのに俺は聞いてしまったんだ。

「シエル、なんでそんな変なの?僕なにかした?」

「いえ、ユーリ様はなにも…」

「ふぅん…、シエルなにかあったら僕にちゃんと相談してよ」

これは大事だからな、相談してもらえない間にヤンデレ化が進んでとか困る。

そのつもりで声をかけたのも悪化させたようで俺は今、自室でシエルに押し倒されていた。

部屋に戻ってきてすぐにシエルに中に押し込まれて、そのままベッドに押し倒されるとか、どういう状況だよ。

切なげに歪んだ表情が痛々しくて、ああ、また選択を自分は間違えたんだとこの時気づいた。

抵抗すればシエルはヤンデレ度が上がるよな、どうするのが正解だ?

困惑気味な表情でシエルの次の行動を待つことにした。
下手に動いて煽るのは得策じゃないと思ったからだ。

「主にこのような感情を持つのはいけないことだと知っています、ユーリ様はいずれは家を継いでどこかの令嬢様と結婚するべき人だとも…頭ではわかっていても心が悲鳴をあげるのです!ユーリ様を誰にも渡したくないと……」

シエルの瞳から涙が溢れて俺の顔に落ちてくる。
俺も泣いてるように見えるのかな、シエルの涙が俺の頬を伝って流れる。

シエルの切実な叫びにどうしたらいいか、わからない。
受け入れるのは正直できない、俺は同性愛者でもなければシエルにそのような感情も持ち合わせてはいないから。

シエルの頬に触れて目尻の涙を拭う。

「…ありがとう、好きになってくれて…でも、ごめん、僕はいずれは結婚しなければいけない…シエルの気持ちにこたえてあげるのはできないんだ…」

困ったように微笑みながらできるだけ優しく意識して語りかける。
シエルのヤンデレ度を刺激しないように…、シエルの涙はますます溢れて俺の顔をびしょびしょに濡らしていく。

嗚咽をもらして泣く姿は心にくるものがあった、こんなに泣かれるなんておもわなかった。

これ、何周目なんだろ、こんなに泣かれるなんてかなり好感度が高い気がする。

震えるシエルの手が俺の首に触れた、シエルのエンディングの中で殺されるのはなかったはずだけど、俺殺されるのか?

もしそうなら、俺が知ってるゲームとは世界観が違うんだな。

シエルの腕に触れて真っ直ぐに見つめる。

瞳の中には戸惑いや躊躇がみてとれるから、きっと止めることができるはずだ。

「シエル、こんなことしてシエルは後悔しない?」

「ひっ、くっ…うぅ…私は…、私には…無理です…」

手が離れてシエルは俺の上を退いた。
無理矢理犯されるとかもなしに解放されるなんて、ちょっと予想外だったけど、シエルがベッドに座って項垂れている。

「私は…私は、ユーリ様になんてことを……」

ふらふらと立ち上がって部屋を出ていこうとする様子はさすがにおかしい、シエルが自殺するルートはなかったはずだけど、この世界が似てるだけなら可能性は否定しきれない。

咄嗟にシエルの腕を掴んで引き止めた。

「シエル、待って…」

「ユーリ様…」

いまにも死にそうな表情で俺を見るシエルを放っておくことなんてできなくて、シエルを引き寄せて抱きしめていた。

後頭部に手を回して落ち着かせるようぽんぽんと優しく叩く。

「シエル、落ち着いて、僕はシエルに好かれたことに嫌悪感なんてないんだから…ただ、僕は長男だから、結婚の自由はないんだ…家の利益になるよう相手を選んで結婚するべきだとも思っている、シエルの気持ちは受け取ってあげることはできないけど…返すつもりもないよ、僕のことを好きな気持ちはそのまま持っておいてよ、シエルが誰か僕以外を好きになれるまで…ね?」

「……ユーリ様は残酷です、私に好きでいろって言うんですか、叶わない恋をし続けろと…」

「うん、残酷なことを言ってるのはわかってるつもりだけど、シエルは僕専属の執事だ、シエルは僕のモノなんだからシエルの命は僕のだよ、死ぬことは許さない」

「……………はい、…ユーリ様……」

泣きながらも顔を上げて微笑んでくれて、ホッと胸を撫で下ろす。
自分の知ってる人が死ぬのは無理だ。
前世で遊んだゲームに似ているだけで違う世界ならば、なおさらだ。

シエルはシエルしかいないのだから、死なせたくはない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大親友に監禁される話

だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。 目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。 R描写はありません。 トイレでないところで小用をするシーンがあります。 ※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

【R18】【Bl】R18乙女ゲームの世界に入ってしまいました。全員の好感度をあげて友情エンド目指します。

ペーパーナイフ
BL
僕の世界では異世界に転生、転移することなんてよくあることだった。 でもR18乙女ゲームの世界なんて想定外だ!!しかも登場人物は重いやつばかり…。元の世界に戻るには複数人の好感度を上げて友情エンドを目指さなければならない。え、推しがでてくるなんて聞いてないけど! 監禁、婚約を回避して無事元の世界に戻れるか?! アホエロストーリーです。攻めは数人でできます。 主人公はクリアのために浮気しまくりクズ。嫌な方は気をつけてください。 ヤンデレ、ワンコ系でてきます。 注意 総受け 総愛され アホエロ ビッチ主人公 妊娠なし リバなし

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...