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一夜明けて
しおりを挟む朝日が差し込んで、その光にまぶた裏がチカチカして揺蕩う意識が徐々に浮上して目が覚めた。
囀る鳥の声が聞こえる爽やかな朝なのに私は頭がズキズキ痛むし、体の至る所が痛いし、腰が重いしで気分は最悪だった。
はぁ……とため息を零して上体を起こしたところで気づく、隣りで誰かが寝てることに、この部屋が見たことがない部屋だということに。
周囲を見渡すと自分の部屋より豪華なのが一目見るだけでわかるし、今の今まで寝ていたベッドもふかふかで雲の上に眠る気分はこんな感じかしら?と思うほどだ。
問題は隣りで誰かが寝てるということ、昨日は大親友の婚約式でしかも、親友は愛する人と婚約できたのだから、とにかく私のテンションは上がりっぱなしだった。
幸せそうな二人を見てると私まで幸せになれて、しかもしかもよ、私の大好きな推しがそのパーティに来ていたのだ。
親友の婚約者の彼は王宮騎士団に務めてるからか、騎士団長である私の最推し、アルベイン様も出席なさったというわけだ。
推しを間近で見れた私は気分は最高潮でお酒を飲みすぎた、親友のミイナが止めてくれたのについうっかりと…。
起きたら誰かも分からない人が隣りで寝ている、この現状に私は楽観的に考えるなんてできなかった。
仮にも伯爵令嬢だというのに酔っ払って見知らぬ誰かと一夜を共にしてしまったのは、さすがにまずい。
誰かわからない人ごめんなさい、私は逃げます。
と心の中で謝罪をして、ベッドからそろりと抜け出そうとした、その時伸びてきた腕が腰に回ってベッドの中に引きずり戻された。
え、と声を上げる暇もなく私は誰かわからない人の腕の中だ。
驚いて心臓がバクバクしてると頭上から降り注ぐ声には、聞き覚えがありすぎるほどあった。
低いけれど、心地がいい声、その声の持ち主に心当たりがあって、おそるおそると顔を上げて私の思考は停止した。
私の大好きな最推しのアルベイン様、その人だ。
状況把握はさっきしたつもりだったけど、予想外の人物が誰かも分からない人だった時の対処法なんて私にはわからないし、そもそも、アルベイン様は公爵様だ。
公爵様と一夜を共にしたなど、あってはならない、身分が違いすぎる。
アルベイン様が私の頬を撫でる表情が甘く蕩けるようで、嫌な予感が脳裏によぎった。
私は正直いえばなかったことにしたい、公爵様との繋がりを持てば家的には喜ばしいことだろうけど、私は推しとの関わりは一夜の過ちだけでいいのだ。
これ以上は過剰摂取で死んでしまう、アルベイン様が触れる頬が熱を帯びていく。
記憶にないはずなのに、なぜだか、体の奥が疼くようで戸惑ってるとアルベイン様が微笑んだ。
その微笑みは美しくて目眩がしそう。
「ルーナ、昨夜の君は情熱的だったというのに、今日の君は大人しいのだな?」
鼓膜擽る低く掠れた声音は色気を孕んでいて、これだけで妊娠してしまいそうだと思うほどだ。
そんな声音で私の名前を呼んでいただけるなんて幸せの絶頂ではあるのだけれど、どうにもこの甘ったるい雰囲気的に本当に嫌な予感しかしない。
「あの……アルベイン様?」
「ふっ、アルと呼んで欲しいと言ったはずだが?一夜明けたら魔法が解けてしまったのかな」
胸が騒ぐ、やばい気がする。
これ以上、アルベイン様の言葉を聞きたくないと本能が叫ぶ。
それでも、私はここから逃げ出すのはできない、アルベイン様の腕が腰に回ってて身動き1つできない。
彼はこの国最強の騎士様ですもの、そんな方に力で叶うわけもなく、混乱してるとアルベイン様は優しい雰囲気で話しかけてきた。
「昨夜、君に夢中で手加減ができなかったのを怒ってるのかな?」
終わったわ、これ完全に終わった。
アルベイン様の雰囲気手になぜか彼は私を気に入ったようだ。
どうしたらいいの?なんで私泥酔なんてしたのよ!昨日の私のバカ!
心の中でどんなに嘆いても現実は変わらない。
冷酷無慈悲と言われる彼が甘ったるい空気を纏って自分に接してくるファンサービス過多に気を失いそうだ。
「怒ったりしませんわ」
「それはよかった、ルーナに嫌われたくはないからね、それで今後のことだけど、早速今日私は君の父君に挨拶しに行こうと思うんだがかまわないかな?」
挨拶?あいさつ?あいさつとは??
頭の中が疑問でいっぱいになる、挨拶ってなんの?
この雰囲気的にそんなボケをかましたら怒られるのはわかってる、これは多分、婚約とか結婚とかその類の話しだと思う。
嫌な汗が背中を伝い流れる、そんなことされたら、私は逃げれない。
結婚とか交際とかそういうのはどうしても避けたい、遠くから見てる分には癒しであり、生きる活力だけど、もし万が一に一緒に暮らすことになって知らない一面を知って、その一面が私には受け入れ難いものだったら?
推しを嫌いになるとかは本当に避けたいのだ、ぶっちゃけてしまえば推しと婚約したり結婚したりするくらいなら、汚いオッサンと結婚した方がマシである。
そう思ってしまうくらいに私はアルベイン様に想いを拗らせていた。
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