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第一章じーちゃんから貰った鍵

無謀な賭け

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「じーちゃん!!」

俺はブレスレットの中にいる思念体のじーちゃんに話し掛けた。
傍目には、ブレスレットに話し掛ける変な奴に見える事だろう。

『どうした?………誠』

ブレスレットから浮かび上がる小さなり○ちゃん人形サイズ。人影は俺と白にしか見えない。
もしかしたら、じいさんが見せよう思ったら見える事も出来るのかも知れないが、そこは俺がそうこう言う事でも無いから黙っている。

「風の精霊を体内に取り込みむってどーやるんだ!?」

『………』

俺は黙り混むじーちゃんに少し苛立ちを覚えた。
何か?…お前偉そうに言ってもそんな事も知らねーの?ってのか!?
と言われている様で(←被害妄想)ムカついてくる。

「だって仕方がないじゃないか、生まれてこのかた風を体内に取り組もう何て深呼吸以外した事がないんだからさ!!」

逆ギレ、半ギレ何ギレと呼ばれてもどうでも良いが、解っているなら時間が無いんだから教えて欲しい。

『当りだ……』

驚いた表情を見せて何も話さないじいさん。

「はああ!?何がだよ!?」

マジ切れした俺に答えたのは白だった。

『深呼吸するように中に取り込むんだ………心で念じながらな』

持つべき者は優れた聖霊だ。

「白…………解った……やってみる」

『誠……体内に取り入れると言う事が何を意味するかを理解しておいた方がいい』

白は黙って俺を見詰めてくる。

その外見から、どう見ても獲物を見付けて睨んでいる様にしか見えないが、誠は聖霊である白の感情だけは間違える事はなかった。
まあ、若干人間相手には読み違える事は有るのだが……。

「どう言う事だ?」

『火災の際の煙を吸い込む事は自殺行為だろう?………又、毒ガスを体内に吸い込んでも死に至る。………それと病んだ精霊を体内に取り組む事は同じなのだ。………毒でしかない』

白が教えてくれた事実、それはただ辛いとか苦しいと言う漠然んとした物ではないリアルさがより恐怖を煽ってくる。
もしかしたら、白はそれを見越して、俺を考え直させる為に教えてくれている節さえあった。

誠は白を真っ直ぐに見詰めて、今の気持ちを打ち明けた。

「それでも………俺はやらずにする後悔だけはしたくない」


誠は白に思いの丈をぶつけると、何度か深く深呼吸し目を閉じて少しの間瞑想した。

そして思いっきり風を吸い込んだ。
『俺の中で暫し休んでくれ』と言う想いを込めて。

少しずつ体内に風の精霊が入ってくる。
だから、どれ程風の精霊が苦しんでいるかが、嫌でも解ってしまう。

『苦しい』
『助けて』
『治して』
『いっそ………』

風の声が誠の心を締め付ける。
誠自身辛いのだが、風の声が意識が失いそうなのを引き留めた。
意識が失くなっては風を取り込めない。
でも誠自身もとても苦しかった。

……ごめんな。………辛いよな。
俺が馬鹿なばっかりに、関係のないお前達迄傷付けちまった。

誠は体内に入ってくる風の精霊に語りかけ続けた。

やがて……力尽きた誠は意識を手離した。
倒れ込む誠を慌てて空が抱き止めた。

白が自分の背に乗せるように促すが、勿論空には白の声が聞こえない。
仕方なく、白は空の精神に直接話し掛けた。

『誠を我の背に乗せるのだ』
「!!!」

驚いたのは空だ。
本来神に等しい聖霊の声を聞くことが出来るのは限られている。
一番上位の神官長か、契約をした者。
それでも………実際に聞こえる相手とすら出会った事などないし、そんな相手は知らない。
唯一知っているのは、この国を作った王である誠の祖父、龍人だけだった。
それも龍人事態が神として崇められている程の雲の上の存在だ。
空がパニックになっても仕方がない事だった。

『何をしている、早くせぬか』

白の容姿で睨み付ければ、ビビってフリーズしてしまうのは当然だった。
だが、そこは若くとも死線を潜り抜けてきた空だ。固まる事なく誠を白の背に跨がせた。
事の次第を見守っていたレインが白に近寄り、大人化すると誠に癒しの魔法を掛けようとする。

『止めぬか……癒しの魔法は効かぬし、そなたの命を奪うぞ?』

白は声を聞こえなくさせておく事事態が面倒になり、レインの精神に語りかけた。

「!!!」

レインもとても驚いたが、そこは空より経験を積んだ大人なレインだ。
何とか堪え白に訴えた。

「ですが…………ですが、其では誠様は!?」

『誠の精神と身体の強さにかけるしかない……』

歯痒いのは白とて同じ。
それを感じたレインは黙るしかなかった。

その状況を黙って見ていた龍人がおもしろしうに白にだけ解る声で話し掛けてきた。

『何だ……随分丸くなったじゃなえーか?』

『……煩い』

『天下の白ともあろう者が、契約者以外に声を聞かせる何てな………何が起こるか解んねーもんだな』

龍人がそう言うのも無理はなかった。
昔の白は気位が高く絶対に他を受け入れない孤高の聖霊だったのだから……。
それは龍人の力を持ってしても、覆る事はなかった。

『誠が大事に思う者達だ………問題無かろう?』

『ほう…誠の為ね』

龍人にすら出来なかった事を誠は本人の意思とは裏腹に簡単に突破してしまう。
龍人が息子ではなく、誠を自身の後継者にした要因だった。
だからこそ…誠ならと、龍人は賭けに出たのだ。
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