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第一章じーちゃんから貰った鍵

綺麗なお姉さんと可愛い女の子part4

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意識を手放している間、じーちゃんが夢枕に立った。
実際には浴衣を着崩して胡座をかきながら座っている。

『何だよ、じーちゃん、成仏してないのか?』

俺が訪ねると、

『バカ言うでないわ!!桜子が待っているのに、何が悲しくてさ迷わなきゃならんのじゃ!?』

『じゃあ、何で夢枕に何て立ってるんだよ…もしかして暇なのか?』

『アホ抜かせ、お前だけでは心許ないから、ブレスレットに残留思念として記憶を残したんじゃ』

『ああ、俺可愛いからな』

『……お前、つくずくわしの血を引いとるな』

生前繰り広げられていた物と全く同じテンションで俺達は会話していた。

『なあじーちゃん、ここは何なんだよ』

『平たく言うと異世界じゃな』

『随分ざっくり纏めたな……』

こんなところが俺とじーちゃんはそっくりだ。

『解りやすかろ?』

じーちゃんは浴衣がはだけた胸の下、脇腹辺りをボリボリとかきながら、ニヤリと笑った。
悔しいが様に成っている。

『まーな』

俺が認めると、だろ?…と言うような表情を見せた。
そう言えば……この人は、危なっかしいが、妙な色気と魅力が合って、敵も多いが見方も多かったのを思い出した。

『何で俺に鍵をくれたんだよ?』

まさかこんな曰く付きの鍵だとは思っていなかった、子供の頃のピュアな俺に言ってやりたい。
[お前、バカだね~]と

『誰でも良い訳じゃねーんだよ……それに……俺が、この世界にはいられなかったからだ』

真顔になり、何処か遠くを見詰める様にじーちゃんは言った。
皆までは言わなかったが、ばーちゃんと親父の事だろう。
レインが言っていた様にばーちゃんの病気の事も理由にあったのだろう。

『何で、退屈が死ぬほど嫌いなじーちゃんが退屈な現代に戻って来たんだよ?』

『待っててくれる奴がいた。…待たせている奴がいた。…俺にはあいつらより大事な者はいなかったからだ。…天秤に掛ける迄もない』

そんな所が……俺がじーちゃんを好きなところだ。

それからじーちゃんはこの世界の事を買い積まんで教えてくれた。

この世界は、俺達の暮らしている地球とは違うこと。
"心"の強さと精霊とが呼応して魔法が使えること。
心が強くないと、精霊の力に呑み込まれてしまって、精神が崩壊するらしい事。

それが、この世界の人達の特殊スキルで、じーちゃんは精霊に気に入られて強大な力を使えたらしいこと(自分で自分を最強とか言っているから、ちょっと信じられないよね。…話し半分で聞いておいた方が良い例)

この国はじーちゃんが精霊の力を借りて造り上げた事。

じーちゃんが作り上げた国の他にも他の奴が造り上げた国が有ること。
各国には行く事が出来るけど、悪意を持って侵入することが出来ない様に結界が張ってある事。

「で……こっからが本題だけど、俺が張った結界が壊れたけているんだよね」

「は!?…」

「いや、結構丈夫に造ったから大丈夫だった筈なんだけどな。…綻びが出て来てしまったらしい」

「いや、らしいって…」

「今張り直そうにも、俺…死んでるしね」

ニカッと笑われてもな。

「だから、お前に張り直して貰おうと思ってな」

「ん?……待てよ、じゃあ、じいちゃんは端から俺に全部を押し付けるつもりで鍵を渡したのかよ!?」

「いや、そこまで考えていた訳じゃないが、俺の他にこの世界に来れそうなのはお前だけだったからな。…現にそうなったろ?」

「信じらんねー、このじじい!!…俺の意志何て◎無視じゃねーか!!」

◇◇◇
何て俺が夢の中で、じーちゃんと口論していた頃、この異世界のこの国では、レインと宰相が1バトルを繰り広げていた。

「何故誠様に、力を使うように仕向けたのです!?…慣れていなければ、お倒れになる事くらい想像できた事でしょう!?」

「人聞きの悪いことを申すな。…あれは王様が望まれたこと……」

「誠様が望まれていたのは、その様な事では無かった筈です!!……他国への牽制に利用しましたね?」

「……さてな。…まあ、我が国があれほどの力を使える事を示せば、王が健在だとアピール出来る良い機会ではあったがな」

「!!」

◇◇◇
話は平行線で決着がつかず、レインは渋々引き下がった。
遣り方こそ汚いが、この国が措かれている状況を鑑みれば、宰相の立場では仕方がないと思えなくはない。
無いが、理性では仕方がなかったと納得してても感情が追い付いていなかった。
何故なら、誠はレインにとって、命の恩人足る龍人の孫。
レインが命に変えても守りたい人の血と能力と面影を受け継いでいる誠に感情移入してしまうのは、ある意味当然と言えた。

なら、今レインに出来るのは、消耗してしまった誠の精神力を少しでも元に戻す事だけだった。

レインは誠が寝ているやたら立派なベットに近付くと、小学生の見た目から、大人の美しい、むちっとした女性へと変化した。
本来なら、此方がレインの本当の姿だが、力を温存するため、敢えて子供の姿で生活していたのだ。

手を翳すと淡い光がレインの手から浮かび出し、その光が誠の頭から爪先まで包み込んだ。

どれ程、そうしていただろうか?
ゆっくりと、誠は目を覚ました。

「あれ?…じーちゃんは?…ってか、お姉さん美人だね、誰?」

「第一声がそれですか?…本当に龍人様にそっくり何ですから」

そう言ってレインは潤んだ目元を自身の手で拭ったのだった。
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