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menu.7 愛のふくらみパンケーキ(8)
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じっと、凪いだ目で見つめてくる修一に、奏太は過去のことを思い出すようにどこか遠くを見るように視線をそらした。
「……まあ、ね。俺だって、今までの人生でカノジョがいないワケじゃなかったんだよ。でも、修一くんが一番俺の料理を美味しそうに食べてくれたんだ。今までも俺の料理を美味しいって言ってくれた人は大勢いたよ。……でもね、」
奏太はそこまで言うと、リモコンに手を伸ばしてテレビを切った。しん……とした静寂が漂う。
「100%俺作の料理食べてるときの修一くん、性的興奮してる時みたいな恍惚とした顔するの、気づいてた?」
そう言われて、修一はきょとんとした。それから黙って首を横に振る。
「……奏太の料理がまずいわけがない。……ただ、最初にここに来たときに振る舞ってもらったお前の料理を食べているときは、この時間が永遠に終わらなければいいのに、とは思っていた」
修一は目を伏せる。あの時感じていたことを思い出そうと視線を落とした。
「料理の味がダイレクトに伝わったのは、心因性の味覚障害と診断されてから初めてだった。だし巻き卵もきんぴらも味噌汁も、全ての味を鮮やかに感じ取ることが出来たんだ。……それこそ、心も満たされたような気がして……」
そこで修一は言葉を切った。躊躇いがちに視線を彷徨わせ、それから意を決したように奏太を見た。
「……お前が、俺を恋人にすることのデメリットをなんとも思わないというのなら……」
その先は、奏太の唇によって塞がれたせいで言葉には出来なかった。
触れるだけのキス。すぐに離れた。
修一の両頬を両手で包み、奏太は自信に溢れた笑みを向ける。
「俺が修一くんじゃないとダメなんだよ。修一くんが俺の料理食べてるところをずっと見ていたいしね。それに顔もドタイプだし」
奏太の表情に夜の色が宿る。
ぞくりと、修一の胎が疼いた。
「好きだよ」
「……ぁ、」
もう、ダメだった。
奏太の欲を受け入れないという選択が、修一の中から消えていった。
「ん、……っ」
侵入してくる奏太の舌に応えるように自身の舌を絡める。頭の芯が徐々に痺れていく。
奏太の右手がうなじをくすぐり、左手が腰を抱き寄せる。意外と力強い手つきだった。
気づけば修一は夢中で奏太のキスを貪っていた。恍惚の声も自然にまろび出る。
奏太が、じゅ、と強く舌を吸ってから離れた。
「……あは」
修一の表情を見た奏太は、支配欲に染まった笑みを浮かべた。
首元まで興奮に染まり、目つきがとろんとしている。どちらのものか分からない唾液にぬれた唇が扇情的だ。
「気持ちよくないなんて言わせないよ、こんな顔して」
ぺとり、と修一の首筋に手を当てると、一瞬身構えるように強ばらせた。それでも抵抗はない。
頸動脈から伝わる鼓動がどく、どく、と早い。それがどうしても愛おしくなって、奏太はそこに唇を這わせる。
薄い皮膚を吸い、舐め、食む。その度にあがる吐息混じりの声が奏太の興奮を煽った。
じゅうっ、とひときわ強く吸って痕を残す。こんなに短くなった髪では隠そうにも隠せない。誰かのものだということは誰が見ても明らかになるのだ。
満足げな笑いを浮かべつつ身を起こすと、修一は右手の甲で口元を隠しながら顔を背けていた。だが、隠しきれない欲を孕んだ視線を送ってきている。
くす、と奏太はほくそ笑む。頬に手を添えて、こちらに顔を向かせた。
「……ベッド、行こうか」
まただ。また、あの雄の声。
ぞくぞく、と修一の全身が歓喜に犯される。
自分はこんなに浅ましい人間だったのかと思いながらも、奏太ならば自分を満たしてくれるだろうとも思う。
人間として当たり前にある欲を、全て奏太に満たしてほしい。
そういう思いが無意識に芽生えたのは昨晩触れられてから。それが意識上で芽吹いたのは、今さっき。
く、と修一は唇を引き結んだ。
今ここで抵抗すれば、奏太はやめてくれるかもしれない。少なくとも暴力と薬物を持ち出してまで監禁するような強引な手段は取らないと信じている。それぐらいの自由は与えてくれるとも。
だが。
修一はゆっくりと奏太に口づける。彼が自分からキスをしてきたことに奏太は瞠目した。
またゆっくりと離れる。それから、すがりつくように奏太に抱きついた。
「……俺を……お前の隣においてくれ……」
服越しに伝わる熱い体温に、奏太は一種の暴力的なまでの支配欲がすっと身を下げたのを感じた。
代わりにそこに座ったのは、番を慈しみ大事にして共に快楽の海に融け合いたいたいという愛欲の獣。
奏太は舌なめずりする。瞳孔が興奮で開いているのが自分でも分かるほどに、興奮していた。
奏太の嗜好にとっては造形美の頂点にいるような男が、自分の腕の中に収まっているのだから。
「……修一くん」
露わになっている耳元で囁く。
「俺、可愛さのあまり激しくしちゃうかもしれないけど、許してね?」
わざとおどけたように言うと、修一はくすりと笑った。身を離すと、潤んだ目のまま妖艶な微笑みで言った。
「俺の外側も内側も、全てを奏太で満たしてほしいんだ。……忘れていいと言ったのは、奏太だったろ? 忘れさせてくれ」
自分の下腹から胃のあたりまで、艶めかしい手つきでなぞりつつそう言う修一。その様を見せつけられた奏太はますます震えた。興奮のあまり、不穏な笑い声を漏らしてしまう。
「……アハ、ッハハ、……まさか修くんが誘惑してくれるなんて思ってなかったよ」
ソファーから立ち上がり、奏太は修一の手を取る。
二人は性急に奏太の寝室に向かう。ばたん、と閉じられたドアは、翌朝まで開くことはなかった。
続く
-------------------
これにて7話目の終了です。
次回はドアのしまった直後からになります。
二人が出会ってから一ヶ月、とうとうベッドインになります。
いちゃこらさせたいですねぇ……(思案顔)
「……まあ、ね。俺だって、今までの人生でカノジョがいないワケじゃなかったんだよ。でも、修一くんが一番俺の料理を美味しそうに食べてくれたんだ。今までも俺の料理を美味しいって言ってくれた人は大勢いたよ。……でもね、」
奏太はそこまで言うと、リモコンに手を伸ばしてテレビを切った。しん……とした静寂が漂う。
「100%俺作の料理食べてるときの修一くん、性的興奮してる時みたいな恍惚とした顔するの、気づいてた?」
そう言われて、修一はきょとんとした。それから黙って首を横に振る。
「……奏太の料理がまずいわけがない。……ただ、最初にここに来たときに振る舞ってもらったお前の料理を食べているときは、この時間が永遠に終わらなければいいのに、とは思っていた」
修一は目を伏せる。あの時感じていたことを思い出そうと視線を落とした。
「料理の味がダイレクトに伝わったのは、心因性の味覚障害と診断されてから初めてだった。だし巻き卵もきんぴらも味噌汁も、全ての味を鮮やかに感じ取ることが出来たんだ。……それこそ、心も満たされたような気がして……」
そこで修一は言葉を切った。躊躇いがちに視線を彷徨わせ、それから意を決したように奏太を見た。
「……お前が、俺を恋人にすることのデメリットをなんとも思わないというのなら……」
その先は、奏太の唇によって塞がれたせいで言葉には出来なかった。
触れるだけのキス。すぐに離れた。
修一の両頬を両手で包み、奏太は自信に溢れた笑みを向ける。
「俺が修一くんじゃないとダメなんだよ。修一くんが俺の料理食べてるところをずっと見ていたいしね。それに顔もドタイプだし」
奏太の表情に夜の色が宿る。
ぞくりと、修一の胎が疼いた。
「好きだよ」
「……ぁ、」
もう、ダメだった。
奏太の欲を受け入れないという選択が、修一の中から消えていった。
「ん、……っ」
侵入してくる奏太の舌に応えるように自身の舌を絡める。頭の芯が徐々に痺れていく。
奏太の右手がうなじをくすぐり、左手が腰を抱き寄せる。意外と力強い手つきだった。
気づけば修一は夢中で奏太のキスを貪っていた。恍惚の声も自然にまろび出る。
奏太が、じゅ、と強く舌を吸ってから離れた。
「……あは」
修一の表情を見た奏太は、支配欲に染まった笑みを浮かべた。
首元まで興奮に染まり、目つきがとろんとしている。どちらのものか分からない唾液にぬれた唇が扇情的だ。
「気持ちよくないなんて言わせないよ、こんな顔して」
ぺとり、と修一の首筋に手を当てると、一瞬身構えるように強ばらせた。それでも抵抗はない。
頸動脈から伝わる鼓動がどく、どく、と早い。それがどうしても愛おしくなって、奏太はそこに唇を這わせる。
薄い皮膚を吸い、舐め、食む。その度にあがる吐息混じりの声が奏太の興奮を煽った。
じゅうっ、とひときわ強く吸って痕を残す。こんなに短くなった髪では隠そうにも隠せない。誰かのものだということは誰が見ても明らかになるのだ。
満足げな笑いを浮かべつつ身を起こすと、修一は右手の甲で口元を隠しながら顔を背けていた。だが、隠しきれない欲を孕んだ視線を送ってきている。
くす、と奏太はほくそ笑む。頬に手を添えて、こちらに顔を向かせた。
「……ベッド、行こうか」
まただ。また、あの雄の声。
ぞくぞく、と修一の全身が歓喜に犯される。
自分はこんなに浅ましい人間だったのかと思いながらも、奏太ならば自分を満たしてくれるだろうとも思う。
人間として当たり前にある欲を、全て奏太に満たしてほしい。
そういう思いが無意識に芽生えたのは昨晩触れられてから。それが意識上で芽吹いたのは、今さっき。
く、と修一は唇を引き結んだ。
今ここで抵抗すれば、奏太はやめてくれるかもしれない。少なくとも暴力と薬物を持ち出してまで監禁するような強引な手段は取らないと信じている。それぐらいの自由は与えてくれるとも。
だが。
修一はゆっくりと奏太に口づける。彼が自分からキスをしてきたことに奏太は瞠目した。
またゆっくりと離れる。それから、すがりつくように奏太に抱きついた。
「……俺を……お前の隣においてくれ……」
服越しに伝わる熱い体温に、奏太は一種の暴力的なまでの支配欲がすっと身を下げたのを感じた。
代わりにそこに座ったのは、番を慈しみ大事にして共に快楽の海に融け合いたいたいという愛欲の獣。
奏太は舌なめずりする。瞳孔が興奮で開いているのが自分でも分かるほどに、興奮していた。
奏太の嗜好にとっては造形美の頂点にいるような男が、自分の腕の中に収まっているのだから。
「……修一くん」
露わになっている耳元で囁く。
「俺、可愛さのあまり激しくしちゃうかもしれないけど、許してね?」
わざとおどけたように言うと、修一はくすりと笑った。身を離すと、潤んだ目のまま妖艶な微笑みで言った。
「俺の外側も内側も、全てを奏太で満たしてほしいんだ。……忘れていいと言ったのは、奏太だったろ? 忘れさせてくれ」
自分の下腹から胃のあたりまで、艶めかしい手つきでなぞりつつそう言う修一。その様を見せつけられた奏太はますます震えた。興奮のあまり、不穏な笑い声を漏らしてしまう。
「……アハ、ッハハ、……まさか修くんが誘惑してくれるなんて思ってなかったよ」
ソファーから立ち上がり、奏太は修一の手を取る。
二人は性急に奏太の寝室に向かう。ばたん、と閉じられたドアは、翌朝まで開くことはなかった。
続く
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これにて7話目の終了です。
次回はドアのしまった直後からになります。
二人が出会ってから一ヶ月、とうとうベッドインになります。
いちゃこらさせたいですねぇ……(思案顔)
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