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menu.7 愛のふくらみパンケーキ(4)
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数日後の午後1時前。修一と奏太は開店前の【prism-Butterfly】にいた。
何故こうなったかというと、目の前の無表情な男が原因だった。
彼は青木組の顧問弁護士である。年の頃は不惑を超えているだろうか。十人並みの容姿ではあるが、極道の顧問弁護士をしているだけあって、油断ならない雰囲気をまとっている。
彼は青木に会うことを拒否し続ける修一に向かって、何故か取得していた奏太の携帯番号に電話をかけ「どうしてもあなたに直接お話したいことがあると言っているのです」と延々突きつけ続けた。
修一は最初不真面目に応対していたが、10分ほど話したところで無言で電話を切り着信をブロックした。
しかし相手は電話番号をいくつか変えしつこく電話をしてきたので、神谷に訴えた。警告されたのか電話はなくなったが、直接奏太のマンションに乗り込んできたのだ。
オートロックコンソールからの映像がインターフォンに送信され、映った男が弁護士と名乗り要件を告げるのを見て、修一は思わずモニターを殴り壊そうかと思った位だった。
あまりにもしつこいので、結局修一が折れた。これ以上奏太に迷惑をかける訳にもいかないというのも大きい。
面会にあたりいくつかの条件を突きつけ、今日を迎えたのだ。
「春川さんははじめましてですね」
奏太とは、彼と青木が契約書を交わした場面で同席していたので互いに見覚えはある。
弁護士は、こういう者です、と二人に名刺を渡してきた。それには弁護士事務所と〝矢野島 工〟という名が書かれている。
きちんと弁護士バッジも付けているが、修一はハナから偽造を疑っていた。黙って奏太からスマートフォンを借り、名刺と見比べながら何かを検索する。
しばらくして、隠す気のない舌打ちをしてスマートフォンの画面をそのまま奏太に返し、名刺は会談場所になっているソファー席の後ろに控えている神谷の方向にぞんざいに投げ捨てる。
その態度に矢野島は少々不愉快そうに眉間に皺を寄せたが、すぐに元の表情に戻って修一にこう言った。
「青木から、春川さんにこれを渡してくれと預かって参りました」
矢野島は言うと、書類ケースから一通の封筒をテーブルに置いて修一らの側に押し出した。
シンプルな長3号の封筒。青木が矢野島に頼んで用意してもらった封筒と便せんだった。
「……神谷、頼む」
修一は封筒に視線を合わせないようにしながら、背後にいる神谷に視線をやった。
神谷が動こうとすると、矢野島が慌てて止める。
「お待ちください。青木からは、まず春川さんに読んでほしいと言われているのです。他の方も読むにしても、まずは春川さんに、と」
どうかお願いします、と矢野島は頭も下げてきた。
だが修一にしてみれば、この場にいない青木の頼みを聞く義理などない。どうしたものかと眉間に皺を入れて考えていると、隣に座っていた奏太の手がひょいと封筒に伸びた。
全員――店を会談場所に使うならと同席を自ら申し出てきた紫苑とネイサンも――目を丸くした。
奏太は封筒と共に差し出された、ダガー型のペーパーナイフで事もなげに封を切って数枚の便せんを取り出す。
そして広げて黙読し、……苦笑した。その途中で紫苑あたりが慌ててつけたのか、店内の照明は全開になっていた。
封筒に納める時についた三つ折り線の通りに畳み直した白い封筒を修一に差し出し、奏太は言う。
「要約すると、修一くんとの愛人契約の切り方と、これまでの年月分のラブレターってとこだった」
ラブレター??? と神谷と、勝手に着いてきた井上が首を傾げる。
修一は奏太から便せんを受け取る。ラブレター部分は正直どうでもいいのだが、愛人契約については読んでおかなければならないだろうと感じたのだ。
便せんを受け取って、心を落ち着けるために呼吸を整える。
それから、ゆっくりとだが便せんを開いた。
何故こうなったかというと、目の前の無表情な男が原因だった。
彼は青木組の顧問弁護士である。年の頃は不惑を超えているだろうか。十人並みの容姿ではあるが、極道の顧問弁護士をしているだけあって、油断ならない雰囲気をまとっている。
彼は青木に会うことを拒否し続ける修一に向かって、何故か取得していた奏太の携帯番号に電話をかけ「どうしてもあなたに直接お話したいことがあると言っているのです」と延々突きつけ続けた。
修一は最初不真面目に応対していたが、10分ほど話したところで無言で電話を切り着信をブロックした。
しかし相手は電話番号をいくつか変えしつこく電話をしてきたので、神谷に訴えた。警告されたのか電話はなくなったが、直接奏太のマンションに乗り込んできたのだ。
オートロックコンソールからの映像がインターフォンに送信され、映った男が弁護士と名乗り要件を告げるのを見て、修一は思わずモニターを殴り壊そうかと思った位だった。
あまりにもしつこいので、結局修一が折れた。これ以上奏太に迷惑をかける訳にもいかないというのも大きい。
面会にあたりいくつかの条件を突きつけ、今日を迎えたのだ。
「春川さんははじめましてですね」
奏太とは、彼と青木が契約書を交わした場面で同席していたので互いに見覚えはある。
弁護士は、こういう者です、と二人に名刺を渡してきた。それには弁護士事務所と〝矢野島 工〟という名が書かれている。
きちんと弁護士バッジも付けているが、修一はハナから偽造を疑っていた。黙って奏太からスマートフォンを借り、名刺と見比べながら何かを検索する。
しばらくして、隠す気のない舌打ちをしてスマートフォンの画面をそのまま奏太に返し、名刺は会談場所になっているソファー席の後ろに控えている神谷の方向にぞんざいに投げ捨てる。
その態度に矢野島は少々不愉快そうに眉間に皺を寄せたが、すぐに元の表情に戻って修一にこう言った。
「青木から、春川さんにこれを渡してくれと預かって参りました」
矢野島は言うと、書類ケースから一通の封筒をテーブルに置いて修一らの側に押し出した。
シンプルな長3号の封筒。青木が矢野島に頼んで用意してもらった封筒と便せんだった。
「……神谷、頼む」
修一は封筒に視線を合わせないようにしながら、背後にいる神谷に視線をやった。
神谷が動こうとすると、矢野島が慌てて止める。
「お待ちください。青木からは、まず春川さんに読んでほしいと言われているのです。他の方も読むにしても、まずは春川さんに、と」
どうかお願いします、と矢野島は頭も下げてきた。
だが修一にしてみれば、この場にいない青木の頼みを聞く義理などない。どうしたものかと眉間に皺を入れて考えていると、隣に座っていた奏太の手がひょいと封筒に伸びた。
全員――店を会談場所に使うならと同席を自ら申し出てきた紫苑とネイサンも――目を丸くした。
奏太は封筒と共に差し出された、ダガー型のペーパーナイフで事もなげに封を切って数枚の便せんを取り出す。
そして広げて黙読し、……苦笑した。その途中で紫苑あたりが慌ててつけたのか、店内の照明は全開になっていた。
封筒に納める時についた三つ折り線の通りに畳み直した白い封筒を修一に差し出し、奏太は言う。
「要約すると、修一くんとの愛人契約の切り方と、これまでの年月分のラブレターってとこだった」
ラブレター??? と神谷と、勝手に着いてきた井上が首を傾げる。
修一は奏太から便せんを受け取る。ラブレター部分は正直どうでもいいのだが、愛人契約については読んでおかなければならないだろうと感じたのだ。
便せんを受け取って、心を落ち着けるために呼吸を整える。
それから、ゆっくりとだが便せんを開いた。
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