46 / 59
menu.7 愛のふくらみパンケーキ(4)
しおりを挟む
数日後の午後1時前。修一と奏太は開店前の【prism-Butterfly】にいた。
何故こうなったかというと、目の前の無表情な男が原因だった。
彼は青木組の顧問弁護士である。年の頃は不惑を超えているだろうか。十人並みの容姿ではあるが、極道の顧問弁護士をしているだけあって、油断ならない雰囲気をまとっている。
彼は青木に会うことを拒否し続ける修一に向かって、何故か取得していた奏太の携帯番号に電話をかけ「どうしてもあなたに直接お話したいことがあると言っているのです」と延々突きつけ続けた。
修一は最初不真面目に応対していたが、10分ほど話したところで無言で電話を切り着信をブロックした。
しかし相手は電話番号をいくつか変えしつこく電話をしてきたので、神谷に訴えた。警告されたのか電話はなくなったが、直接奏太のマンションに乗り込んできたのだ。
オートロックコンソールからの映像がインターフォンに送信され、映った男が弁護士と名乗り要件を告げるのを見て、修一は思わずモニターを殴り壊そうかと思った位だった。
あまりにもしつこいので、結局修一が折れた。これ以上奏太に迷惑をかける訳にもいかないというのも大きい。
面会にあたりいくつかの条件を突きつけ、今日を迎えたのだ。
「春川さんははじめましてですね」
奏太とは、彼と青木が契約書を交わした場面で同席していたので互いに見覚えはある。
弁護士は、こういう者です、と二人に名刺を渡してきた。それには弁護士事務所と〝矢野島 工〟という名が書かれている。
きちんと弁護士バッジも付けているが、修一はハナから偽造を疑っていた。黙って奏太からスマートフォンを借り、名刺と見比べながら何かを検索する。
しばらくして、隠す気のない舌打ちをしてスマートフォンの画面をそのまま奏太に返し、名刺は会談場所になっているソファー席の後ろに控えている神谷の方向にぞんざいに投げ捨てる。
その態度に矢野島は少々不愉快そうに眉間に皺を寄せたが、すぐに元の表情に戻って修一にこう言った。
「青木から、春川さんにこれを渡してくれと預かって参りました」
矢野島は言うと、書類ケースから一通の封筒をテーブルに置いて修一らの側に押し出した。
シンプルな長3号の封筒。青木が矢野島に頼んで用意してもらった封筒と便せんだった。
「……神谷、頼む」
修一は封筒に視線を合わせないようにしながら、背後にいる神谷に視線をやった。
神谷が動こうとすると、矢野島が慌てて止める。
「お待ちください。青木からは、まず春川さんに読んでほしいと言われているのです。他の方も読むにしても、まずは春川さんに、と」
どうかお願いします、と矢野島は頭も下げてきた。
だが修一にしてみれば、この場にいない青木の頼みを聞く義理などない。どうしたものかと眉間に皺を入れて考えていると、隣に座っていた奏太の手がひょいと封筒に伸びた。
全員――店を会談場所に使うならと同席を自ら申し出てきた紫苑とネイサンも――目を丸くした。
奏太は封筒と共に差し出された、ダガー型のペーパーナイフで事もなげに封を切って数枚の便せんを取り出す。
そして広げて黙読し、……苦笑した。その途中で紫苑あたりが慌ててつけたのか、店内の照明は全開になっていた。
封筒に納める時についた三つ折り線の通りに畳み直した白い封筒を修一に差し出し、奏太は言う。
「要約すると、修一くんとの愛人契約の切り方と、これまでの年月分のラブレターってとこだった」
ラブレター??? と神谷と、勝手に着いてきた井上が首を傾げる。
修一は奏太から便せんを受け取る。ラブレター部分は正直どうでもいいのだが、愛人契約については読んでおかなければならないだろうと感じたのだ。
便せんを受け取って、心を落ち着けるために呼吸を整える。
それから、ゆっくりとだが便せんを開いた。
何故こうなったかというと、目の前の無表情な男が原因だった。
彼は青木組の顧問弁護士である。年の頃は不惑を超えているだろうか。十人並みの容姿ではあるが、極道の顧問弁護士をしているだけあって、油断ならない雰囲気をまとっている。
彼は青木に会うことを拒否し続ける修一に向かって、何故か取得していた奏太の携帯番号に電話をかけ「どうしてもあなたに直接お話したいことがあると言っているのです」と延々突きつけ続けた。
修一は最初不真面目に応対していたが、10分ほど話したところで無言で電話を切り着信をブロックした。
しかし相手は電話番号をいくつか変えしつこく電話をしてきたので、神谷に訴えた。警告されたのか電話はなくなったが、直接奏太のマンションに乗り込んできたのだ。
オートロックコンソールからの映像がインターフォンに送信され、映った男が弁護士と名乗り要件を告げるのを見て、修一は思わずモニターを殴り壊そうかと思った位だった。
あまりにもしつこいので、結局修一が折れた。これ以上奏太に迷惑をかける訳にもいかないというのも大きい。
面会にあたりいくつかの条件を突きつけ、今日を迎えたのだ。
「春川さんははじめましてですね」
奏太とは、彼と青木が契約書を交わした場面で同席していたので互いに見覚えはある。
弁護士は、こういう者です、と二人に名刺を渡してきた。それには弁護士事務所と〝矢野島 工〟という名が書かれている。
きちんと弁護士バッジも付けているが、修一はハナから偽造を疑っていた。黙って奏太からスマートフォンを借り、名刺と見比べながら何かを検索する。
しばらくして、隠す気のない舌打ちをしてスマートフォンの画面をそのまま奏太に返し、名刺は会談場所になっているソファー席の後ろに控えている神谷の方向にぞんざいに投げ捨てる。
その態度に矢野島は少々不愉快そうに眉間に皺を寄せたが、すぐに元の表情に戻って修一にこう言った。
「青木から、春川さんにこれを渡してくれと預かって参りました」
矢野島は言うと、書類ケースから一通の封筒をテーブルに置いて修一らの側に押し出した。
シンプルな長3号の封筒。青木が矢野島に頼んで用意してもらった封筒と便せんだった。
「……神谷、頼む」
修一は封筒に視線を合わせないようにしながら、背後にいる神谷に視線をやった。
神谷が動こうとすると、矢野島が慌てて止める。
「お待ちください。青木からは、まず春川さんに読んでほしいと言われているのです。他の方も読むにしても、まずは春川さんに、と」
どうかお願いします、と矢野島は頭も下げてきた。
だが修一にしてみれば、この場にいない青木の頼みを聞く義理などない。どうしたものかと眉間に皺を入れて考えていると、隣に座っていた奏太の手がひょいと封筒に伸びた。
全員――店を会談場所に使うならと同席を自ら申し出てきた紫苑とネイサンも――目を丸くした。
奏太は封筒と共に差し出された、ダガー型のペーパーナイフで事もなげに封を切って数枚の便せんを取り出す。
そして広げて黙読し、……苦笑した。その途中で紫苑あたりが慌ててつけたのか、店内の照明は全開になっていた。
封筒に納める時についた三つ折り線の通りに畳み直した白い封筒を修一に差し出し、奏太は言う。
「要約すると、修一くんとの愛人契約の切り方と、これまでの年月分のラブレターってとこだった」
ラブレター??? と神谷と、勝手に着いてきた井上が首を傾げる。
修一は奏太から便せんを受け取る。ラブレター部分は正直どうでもいいのだが、愛人契約については読んでおかなければならないだろうと感じたのだ。
便せんを受け取って、心を落ち着けるために呼吸を整える。
それから、ゆっくりとだが便せんを開いた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。

僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる