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menu.7 愛のふくらみパンケーキ(3)
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リビングダイニングには、テレビのワイドショーの音が流れている。字幕で表示されている時間はもう9時過ぎだ。
顔を洗ってダイニングに着席した修一の目の前にあるのは、おしゃれなカフェのモーニングセットとでもいうようなメニューたちだ。
ふわりと分厚いメレンゲパンケーキ。半熟に輝く目玉焼き。焦げ目の化粧が美しいウィンナー。しゃっきりとしているリーフレタスサラダ。香ばしい湯気の立つコーヒー。艶めいたカットフルーツのヨーグルト和え。
パンケーキはふわふわでありながらほどよい子狐色に焼き上がっており、甘さも食事系パンケーキに丁度いい加減に調整されている。バターとメープルシロップのようにパンケーキに乗っている目玉焼きと共に切り分ければ、とろりと黄身があふれ出しパンケーキを彩った。
ウィンナーはフライパン底1㎜程度にお湯を入れ、茹で焼きにしたおかげでジューシーさが損なわれることなく、皮がバリッと仕上がる出来になっている。
コーヒーとヨーグルトは市販品だが、ドリップの仕方とフルーツのチョイスがそれぞれを格別のものにしていた。
情報番組のトピックスが次のものになった。しかし二人の興味をそそる話ではなく、奏太にしてみればこの時間帯は最早ラジオ感覚で聞き流してばかりだった。
昨晩から抱えたままの複雑な感情と目の前のおしゃれご飯を胃に収めたい食欲とが、修一の脳内で激しい戦乱を繰り広げている。そのせいで、本当に美味な食事なのにいまいち気分が乗り切れなかった。
最後のコーヒーを飲み下し、ため息をつく。
「ご馳走様……」
真正面で修一の様子を見ていた奏太は、どことなく落ち込んでいるようにも見える修一の様子を微笑ましく見ていた。
きっと、昨日の晩のちょっかいのせいでまた何か考え込んでいるんだろうな……、と思いながらも、奏太はそれを敢えて指摘する気にはならない。
「お粗末様ー」
そう明るく返事をし、自分の分の食器を下げてきた修一から受け取り、キッチンの片づけを行う。
数十分たった頃だろうか。不意に奏太のスマートフォンに着信が入る。
「電話? 誰だろ?」
蛇口を閉め手を拭きながら、奏太はダイニングテーブルに置いておいた自身のスマートフォンを手に取った。
「……神谷さん?」
奏太が首をかしげて呟いた言葉に、リビングで雑誌を読んで暇を潰していた修一が振り向く。
「もしもし」
その時には既に奏太は通話開始をタップしてスマートフォンをにあてがっていた。
はい……、はい……、と続く彼の相槌のトーンが徐々に下がっていく。
そして、ちらりと修一の方を見た後、こう電話口に告げる。
「……すみません、ちょっと待ってもらっていいですか?」
了承が得られたらしく、奏太はスマートフォンを顔から離し、保留をタップする。
操作が滞りなく行われたことを確認してから、彼は神谷刑事からの用事を伝え始める。
「……何か、青木組の顧問弁護士って人が修一くんに会いたいんだって」
「……は?」
青木組の顧問弁護士といえば傘下の組織として事務所ごと抱えていると聞いたことがある。
しかし何のために自分に会いたいのかそれが分からない。そもそも、もう青木組に関わりたくもないのに。
「神谷さんは、会うかどうするか? って。会いたくなかったら、自分が代わりに聞くしって」
「……」
にわかに修一の目つきが険しくなる。
修一自身としてはもう会いたくないし、縁も切りたい相手の身内のようなものだ。
彼の人生に消し去ることの出来ない黒い過去を植え付けた張本人の手先と考えられないこともない。
――吐き気がする。
ぐ、と腹に力を篭めた。奏太手製の朝食を戻すなど言語道断だった。
「……代役しろと伝えてくれ」
その回答に、奏太は当然だろうなと言いたげな顔をして頷いた。
「りょーかい」
奏太は保留を解除してから再びスマートフォンを顔にあてがい、話し始める。
(……あの男は、逮捕されてなお俺を縛り付けたいのか)
ぐる……、と修一の心中に黒いモノが渦巻く。
噛みしめた唇がぶつりと切れ、血が滲んだ。
顔を洗ってダイニングに着席した修一の目の前にあるのは、おしゃれなカフェのモーニングセットとでもいうようなメニューたちだ。
ふわりと分厚いメレンゲパンケーキ。半熟に輝く目玉焼き。焦げ目の化粧が美しいウィンナー。しゃっきりとしているリーフレタスサラダ。香ばしい湯気の立つコーヒー。艶めいたカットフルーツのヨーグルト和え。
パンケーキはふわふわでありながらほどよい子狐色に焼き上がっており、甘さも食事系パンケーキに丁度いい加減に調整されている。バターとメープルシロップのようにパンケーキに乗っている目玉焼きと共に切り分ければ、とろりと黄身があふれ出しパンケーキを彩った。
ウィンナーはフライパン底1㎜程度にお湯を入れ、茹で焼きにしたおかげでジューシーさが損なわれることなく、皮がバリッと仕上がる出来になっている。
コーヒーとヨーグルトは市販品だが、ドリップの仕方とフルーツのチョイスがそれぞれを格別のものにしていた。
情報番組のトピックスが次のものになった。しかし二人の興味をそそる話ではなく、奏太にしてみればこの時間帯は最早ラジオ感覚で聞き流してばかりだった。
昨晩から抱えたままの複雑な感情と目の前のおしゃれご飯を胃に収めたい食欲とが、修一の脳内で激しい戦乱を繰り広げている。そのせいで、本当に美味な食事なのにいまいち気分が乗り切れなかった。
最後のコーヒーを飲み下し、ため息をつく。
「ご馳走様……」
真正面で修一の様子を見ていた奏太は、どことなく落ち込んでいるようにも見える修一の様子を微笑ましく見ていた。
きっと、昨日の晩のちょっかいのせいでまた何か考え込んでいるんだろうな……、と思いながらも、奏太はそれを敢えて指摘する気にはならない。
「お粗末様ー」
そう明るく返事をし、自分の分の食器を下げてきた修一から受け取り、キッチンの片づけを行う。
数十分たった頃だろうか。不意に奏太のスマートフォンに着信が入る。
「電話? 誰だろ?」
蛇口を閉め手を拭きながら、奏太はダイニングテーブルに置いておいた自身のスマートフォンを手に取った。
「……神谷さん?」
奏太が首をかしげて呟いた言葉に、リビングで雑誌を読んで暇を潰していた修一が振り向く。
「もしもし」
その時には既に奏太は通話開始をタップしてスマートフォンをにあてがっていた。
はい……、はい……、と続く彼の相槌のトーンが徐々に下がっていく。
そして、ちらりと修一の方を見た後、こう電話口に告げる。
「……すみません、ちょっと待ってもらっていいですか?」
了承が得られたらしく、奏太はスマートフォンを顔から離し、保留をタップする。
操作が滞りなく行われたことを確認してから、彼は神谷刑事からの用事を伝え始める。
「……何か、青木組の顧問弁護士って人が修一くんに会いたいんだって」
「……は?」
青木組の顧問弁護士といえば傘下の組織として事務所ごと抱えていると聞いたことがある。
しかし何のために自分に会いたいのかそれが分からない。そもそも、もう青木組に関わりたくもないのに。
「神谷さんは、会うかどうするか? って。会いたくなかったら、自分が代わりに聞くしって」
「……」
にわかに修一の目つきが険しくなる。
修一自身としてはもう会いたくないし、縁も切りたい相手の身内のようなものだ。
彼の人生に消し去ることの出来ない黒い過去を植え付けた張本人の手先と考えられないこともない。
――吐き気がする。
ぐ、と腹に力を篭めた。奏太手製の朝食を戻すなど言語道断だった。
「……代役しろと伝えてくれ」
その回答に、奏太は当然だろうなと言いたげな顔をして頷いた。
「りょーかい」
奏太は保留を解除してから再びスマートフォンを顔にあてがい、話し始める。
(……あの男は、逮捕されてなお俺を縛り付けたいのか)
ぐる……、と修一の心中に黒いモノが渦巻く。
噛みしめた唇がぶつりと切れ、血が滲んだ。
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