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menu.6 寄せ鍋の香りは心ほぐしの香り(1)
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日光が傾き街が宵に染まり始める頃合い。
台所で昆布と鰹節、煮干しの入った鍋の面倒を見ている奏太。
作業台で野菜を刻んでいるゆーご――本名、東条裕吾。
そして、しらたきを一口大に結ぶ作業に勤しんでいるまっちゃん――本名、松田嘉一。
『奏汰のcookin'ちゃんねる』メイン出演者が勢揃いで鍋の準備をしている場面を、修一は置きっぱなしになっている動画撮影用リングライトの位置からじっと見つめていた。
その姿には、先ほどまでとはベクトルの違う熱量が籠もっている。
(……やり辛ぇ……)
ぎゅっ、としらたきを千切れない程度に、それでも八つ当たりのように縛り上げながら、嘉一は心中で嘆く。
その原因である人物はリングライトの横で爛々とこちらを見つめているし、原因を連れ込んだ戦犯は鼻歌を歌いながら出汁を抽出している。
どうしてこうなった、と嘉一はため息をつきながら次の白滝を縛りあげる。ぎゅっと。
裕吾と嘉一は、病院からの帰宅後、奏太によって修一と引き合わせられた後のクレープ会にも参加させられていた。
二人ともたまたま今日は在宅で作業をしていたから良かったものの、予定が入っている日だったらどうするつもりだったんだ、と嘉一に怒鳴られる奏太だったが、逆に挑発的な笑みを返す。
「ハァ? 俺がリーダーなんだから三人分のスケジュール把握してて当然だろーがバカかよ」
ちなみに、奏太は多少雑に扱ってもいいと認定した人物には口調が雑になる。動画内ないし修一相手には、かなり分厚く猫を被っているのだ。
嘉一は嘉一ですぐに心の導火線に火がつくタイプなので、この奏太のこの一言ですぐに口喧嘩が勃発するところだった。
それをキャンセルしたのは、二人の横から聞こえてきたあられもない吐息だった。
「ん、ふふぅ……」
漏れ聞こえてきた恍惚のため息に、裕吾も含めた三人はその発生元を見る。
自分たちよりも頭一つほど背の高い陰鬱な男が、奏太が焼いて盛り付けもしたチョコバナナクレープを咀嚼している。最初に挨拶したときは暗い仏頂面をしていたはずだが、今やその面影はどこにもない。むしろ、クレープを食べているはずなのに夜のベッド内での行為を連想させる顔つきだった。
180㎝近い男が、奏太が手際よく丸めてクッキングシートで包んだクレープを、目を潤ませ頬を赤らめ恍惚としながら、幼い少女のようにちまちまと囓っている。
その光景に思わずめまいがした嘉一は、奏太の襟首を掴み裕吾の方に自分ごと近寄る。
「おいどうなってんだコイツ!! 何だあの顔!!」
一応小声に抑えたが、その声はどう聞いても悲鳴の類いだった。
しかし奏太はそんな友人の訴えなどどこ吹く風で、デレッとした顔をする。
「可愛いでしょお~? 修一くんって、俺のこと大好きすぎて、俺の料理食べるとああなっちゃうんだよねぇ~」
「……」
その発言に、嘉一はチラリと修一を見やる。
クレープは残り4分の1もない。それに気づいてきたのか、徐々に修一の雰囲気が悲壮感漂ってきた。
「しゅ~う~い~ち~く~ん。おかわりするぅ~?」
チョコバナナとホイップクリームにも負けない甘ったるい声で訊ねる奏太。
すると修一が、ぱっと目を輝かせた。
「シャインマスカット」
「いいよぉ~!」
言うや否や、奏太は撮影でも見せたことのない手際でマスカットを二つにスライスし始める。
ちなみにこれは後々アップ予定の動画撮影のために買っておいたものだ。
それを修一が食べたいと言った、その一点のみで惜しげもなく使う奏太の神経を、嘉一はつい疑ってしまう。
「……こ、この色ボケ野郎……!!!」
「まあまあまっちゃん」
ぽん、と裕吾が彼の肩を叩く。
「材料なんて、また買えばいいんだよ」
「ゆーご……」
「奏太の自腹で」
にこりと笑いながらそう言う相棒に、嘉一は思わず笑ってしまう。
裕吾もそれなりに腹は立てていたようだ。
「そりゃあ怒りたくもなるでしょ。元から歌舞伎町やら二丁目やらに入り浸ってたかと思えば、一ヶ月前から急に遊びがなりを潜めた上に、今回の警察沙汰だよ。そんで連れて帰ってきたのが彼。何かあったとしか思えないでしょ」
「……このバカは、それを俺らに教えるつもりがあるんだかな」
「さあ……」
二人は、ピンクな雰囲気をまき散らしながら二つ目のクレープを口にしている修一と、そんな修一を砂糖菓子のような視線で見つめている奏太を見、同時にため息をついた。
台所で昆布と鰹節、煮干しの入った鍋の面倒を見ている奏太。
作業台で野菜を刻んでいるゆーご――本名、東条裕吾。
そして、しらたきを一口大に結ぶ作業に勤しんでいるまっちゃん――本名、松田嘉一。
『奏汰のcookin'ちゃんねる』メイン出演者が勢揃いで鍋の準備をしている場面を、修一は置きっぱなしになっている動画撮影用リングライトの位置からじっと見つめていた。
その姿には、先ほどまでとはベクトルの違う熱量が籠もっている。
(……やり辛ぇ……)
ぎゅっ、としらたきを千切れない程度に、それでも八つ当たりのように縛り上げながら、嘉一は心中で嘆く。
その原因である人物はリングライトの横で爛々とこちらを見つめているし、原因を連れ込んだ戦犯は鼻歌を歌いながら出汁を抽出している。
どうしてこうなった、と嘉一はため息をつきながら次の白滝を縛りあげる。ぎゅっと。
裕吾と嘉一は、病院からの帰宅後、奏太によって修一と引き合わせられた後のクレープ会にも参加させられていた。
二人ともたまたま今日は在宅で作業をしていたから良かったものの、予定が入っている日だったらどうするつもりだったんだ、と嘉一に怒鳴られる奏太だったが、逆に挑発的な笑みを返す。
「ハァ? 俺がリーダーなんだから三人分のスケジュール把握してて当然だろーがバカかよ」
ちなみに、奏太は多少雑に扱ってもいいと認定した人物には口調が雑になる。動画内ないし修一相手には、かなり分厚く猫を被っているのだ。
嘉一は嘉一ですぐに心の導火線に火がつくタイプなので、この奏太のこの一言ですぐに口喧嘩が勃発するところだった。
それをキャンセルしたのは、二人の横から聞こえてきたあられもない吐息だった。
「ん、ふふぅ……」
漏れ聞こえてきた恍惚のため息に、裕吾も含めた三人はその発生元を見る。
自分たちよりも頭一つほど背の高い陰鬱な男が、奏太が焼いて盛り付けもしたチョコバナナクレープを咀嚼している。最初に挨拶したときは暗い仏頂面をしていたはずだが、今やその面影はどこにもない。むしろ、クレープを食べているはずなのに夜のベッド内での行為を連想させる顔つきだった。
180㎝近い男が、奏太が手際よく丸めてクッキングシートで包んだクレープを、目を潤ませ頬を赤らめ恍惚としながら、幼い少女のようにちまちまと囓っている。
その光景に思わずめまいがした嘉一は、奏太の襟首を掴み裕吾の方に自分ごと近寄る。
「おいどうなってんだコイツ!! 何だあの顔!!」
一応小声に抑えたが、その声はどう聞いても悲鳴の類いだった。
しかし奏太はそんな友人の訴えなどどこ吹く風で、デレッとした顔をする。
「可愛いでしょお~? 修一くんって、俺のこと大好きすぎて、俺の料理食べるとああなっちゃうんだよねぇ~」
「……」
その発言に、嘉一はチラリと修一を見やる。
クレープは残り4分の1もない。それに気づいてきたのか、徐々に修一の雰囲気が悲壮感漂ってきた。
「しゅ~う~い~ち~く~ん。おかわりするぅ~?」
チョコバナナとホイップクリームにも負けない甘ったるい声で訊ねる奏太。
すると修一が、ぱっと目を輝かせた。
「シャインマスカット」
「いいよぉ~!」
言うや否や、奏太は撮影でも見せたことのない手際でマスカットを二つにスライスし始める。
ちなみにこれは後々アップ予定の動画撮影のために買っておいたものだ。
それを修一が食べたいと言った、その一点のみで惜しげもなく使う奏太の神経を、嘉一はつい疑ってしまう。
「……こ、この色ボケ野郎……!!!」
「まあまあまっちゃん」
ぽん、と裕吾が彼の肩を叩く。
「材料なんて、また買えばいいんだよ」
「ゆーご……」
「奏太の自腹で」
にこりと笑いながらそう言う相棒に、嘉一は思わず笑ってしまう。
裕吾もそれなりに腹は立てていたようだ。
「そりゃあ怒りたくもなるでしょ。元から歌舞伎町やら二丁目やらに入り浸ってたかと思えば、一ヶ月前から急に遊びがなりを潜めた上に、今回の警察沙汰だよ。そんで連れて帰ってきたのが彼。何かあったとしか思えないでしょ」
「……このバカは、それを俺らに教えるつもりがあるんだかな」
「さあ……」
二人は、ピンクな雰囲気をまき散らしながら二つ目のクレープを口にしている修一と、そんな修一を砂糖菓子のような視線で見つめている奏太を見、同時にため息をついた。
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