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menu.5 心癒やすコンソメスープ(7)
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音が止み、奏太がソファに戻ってくる。奏太は修一の隣に座った。とすん、という軽い衝撃が左隣からやってくる。
その温もりと、胃に少しでも物が入ったことで体は落ち着いたのか、修一はぽつりぽつりと、これまで許されなかった心情を吐露し始める。
「……俺の父も元々警察官でな。自然と俺も、幼児の頃から憧れのようなものを持つようになった。だから警官になると決めてからはその進路に向けて邁進した。警察学校に合格したときと、卒業後正式に配属先が任命された時は本当に嬉しかったんだ……。……だからこそ、俺は自分がヤクザ者に拉致監禁され慰み者にされたことが理解出来なかったししたくもなかった。何故俺なんだ、何故、何故……とな」
「……そっかぁ」
「そもそも、男にレイプされるということが当時の俺には未知の出来事すぎて、理解を拒んだというもの正しいな」
「……そっか」
「……散々怒鳴ったし、懇願したし、最終的には泣き喚きもした。家に帰せ、解放しろ、と何度も何度も……。だが、奴はその度に俺に薬を盛り、拘束を増やし、朦朧とした俺をレイプしたんだ……。何日たったか分からなくなった頃、俺は連中の息のかかった病院に入院していた」
「入院?!」
そこで奏太は目を剥く。まさかそこまでボロボロにされていたとは思っていなかったのだ。
紫苑もその時期のことについては奏太には話さなかった。
少しばかり大きい反応に、修一は苦笑するしかなかった。
「どうやら俺は薬と過度の快楽で、何かしらの精神疾患を患っていたらしい。今でもカウンセリングに行っている」
「……そっか……」
「でもな」
そこで、修一はソファに座ってから初めて奏太の方を向いた。その顔には、穏やかな笑顔が浮かんでいる。
修一が意図してのものではない。完全に無意識だった。
「奏太の動画を始めてから、いい方向に気持ちが上向きになりましたね、と医者からもお墨付きが出たんだ」
「えっ」
「俺にとって、奏汰の動画はそれほどの価値があるものなんだ。消されれば、この世に価値など無いと、本気で思えるくらいにはな」
「……それって、」
俺自身のことは、どう思ってるの? と奏太が口にする前に修一が言葉を続ける。
修一は先ほどまでの表情がどこにいったのか、暗い顔をして俯いている。
「……本来、俺はもうお前に関わるつもりはなかったんだ」
「えっ」
「お前のためだと思ってだ。帰ってから自分の選択ミスを何度後悔したか分からん。……青木は、俺をナンパした人間を許すような奴ではないと、分かっていたはずなのに」
「……それは、俺もぐいぐい行ったから」
「青木は翌日にはお前が何者か調べを付けていたんだ。……いつでもこいつを消せるんだぞ、そう脅してきた」
「……」
「だから俺は、一ヶ月奴に全力で媚を売っていたんだ。……お前の動画さえあれば、俺は生きていける」
床に視線を落としたままだったが、修一はうっすらと笑っていた。その姿を見て奏太はとてもたまらなくなる。
修一は一見落ち着いているように見える。だがその根底には、青木から強いられた生活で無理矢理貶められた自己評価と、自己防御により凝り固まった認識での自嘲が見え隠れしている。
そのことについて、神谷は修一が見ていないところで奏太にひっそりと漏らしていた。
拉致される前は口調こそ大して変わらんがもっと溌剌とした奴だった、と。
つまり、それが修一の本来の性格だったのだろう。
その修一がここまで暗く陰鬱な雰囲気を醸し出していることに、奏太は改めて青木のやり口を許せなかった。
いくら彼が暴力団幹部で修一が元警官だったとはいえ、もう少しやり方があっただろう。
そう思うからこそ、奏太は思う。
(……ああ、修一くん、可哀想)
すっかり黙りこくってしまった修一を注意深く観察しながら、奏太はひっそり息を吐いた。
(修一くんの扱い方間違えたおバカさんに見せつけるワケじゃないけど、大丈夫だよおーぎさん)
幸い、自分はインターネット環境と動画撮影機材さえあれば広告収入で生きていける。そこに修一が1人加わっても、大丈夫なくらいには貯金はある。
脳内で計算し、奏太は大丈夫と踏んだ。
もし国内で生きていくのが難しければ、しばらく海外に逃げてもいい。その間に警察には頑張ってもらわないと。
奏太は決意する。
最初は興味本位から近づいたが、今は修一のことを隅々まで知り尽くしたいと思っていることは本当だ。
心のうちから性感帯まで、修一の全てを知りたい。そして、彼の細胞をすべて自分の作った料理から摂れた栄養素だけで構成したい。
奏太は今まで動画配信者として炎上しない程度に出会いとワンナイトラブを満喫してきたが、ここまで1人に執着するのは初めてだった。
(ちゃんと俺が修一くんのこと愛していくからね。だから、修一くんの身柄を裏社会から返してもらう)
不意に、修一がびくりと肩を揺らす。
奏太が自分の手を握ってきたからだ。
「……画面越しなんて言わずに、間近で俺のこと見ててみたくない?」
「……な、んだと……?」
「俺たち、きっと両思いになれるよ」
そう言い、奏太は修一の手をいったん離すとやや動揺しているような彼の両腿にまたがる。そうしないと奏太が修一を見上げることが出来ないのだ。
両肩に手を置かれたあたりで、我に返ったように修一が口を開く。
「な、なにを、っ?!」
その温もりと、胃に少しでも物が入ったことで体は落ち着いたのか、修一はぽつりぽつりと、これまで許されなかった心情を吐露し始める。
「……俺の父も元々警察官でな。自然と俺も、幼児の頃から憧れのようなものを持つようになった。だから警官になると決めてからはその進路に向けて邁進した。警察学校に合格したときと、卒業後正式に配属先が任命された時は本当に嬉しかったんだ……。……だからこそ、俺は自分がヤクザ者に拉致監禁され慰み者にされたことが理解出来なかったししたくもなかった。何故俺なんだ、何故、何故……とな」
「……そっかぁ」
「そもそも、男にレイプされるということが当時の俺には未知の出来事すぎて、理解を拒んだというもの正しいな」
「……そっか」
「……散々怒鳴ったし、懇願したし、最終的には泣き喚きもした。家に帰せ、解放しろ、と何度も何度も……。だが、奴はその度に俺に薬を盛り、拘束を増やし、朦朧とした俺をレイプしたんだ……。何日たったか分からなくなった頃、俺は連中の息のかかった病院に入院していた」
「入院?!」
そこで奏太は目を剥く。まさかそこまでボロボロにされていたとは思っていなかったのだ。
紫苑もその時期のことについては奏太には話さなかった。
少しばかり大きい反応に、修一は苦笑するしかなかった。
「どうやら俺は薬と過度の快楽で、何かしらの精神疾患を患っていたらしい。今でもカウンセリングに行っている」
「……そっか……」
「でもな」
そこで、修一はソファに座ってから初めて奏太の方を向いた。その顔には、穏やかな笑顔が浮かんでいる。
修一が意図してのものではない。完全に無意識だった。
「奏太の動画を始めてから、いい方向に気持ちが上向きになりましたね、と医者からもお墨付きが出たんだ」
「えっ」
「俺にとって、奏汰の動画はそれほどの価値があるものなんだ。消されれば、この世に価値など無いと、本気で思えるくらいにはな」
「……それって、」
俺自身のことは、どう思ってるの? と奏太が口にする前に修一が言葉を続ける。
修一は先ほどまでの表情がどこにいったのか、暗い顔をして俯いている。
「……本来、俺はもうお前に関わるつもりはなかったんだ」
「えっ」
「お前のためだと思ってだ。帰ってから自分の選択ミスを何度後悔したか分からん。……青木は、俺をナンパした人間を許すような奴ではないと、分かっていたはずなのに」
「……それは、俺もぐいぐい行ったから」
「青木は翌日にはお前が何者か調べを付けていたんだ。……いつでもこいつを消せるんだぞ、そう脅してきた」
「……」
「だから俺は、一ヶ月奴に全力で媚を売っていたんだ。……お前の動画さえあれば、俺は生きていける」
床に視線を落としたままだったが、修一はうっすらと笑っていた。その姿を見て奏太はとてもたまらなくなる。
修一は一見落ち着いているように見える。だがその根底には、青木から強いられた生活で無理矢理貶められた自己評価と、自己防御により凝り固まった認識での自嘲が見え隠れしている。
そのことについて、神谷は修一が見ていないところで奏太にひっそりと漏らしていた。
拉致される前は口調こそ大して変わらんがもっと溌剌とした奴だった、と。
つまり、それが修一の本来の性格だったのだろう。
その修一がここまで暗く陰鬱な雰囲気を醸し出していることに、奏太は改めて青木のやり口を許せなかった。
いくら彼が暴力団幹部で修一が元警官だったとはいえ、もう少しやり方があっただろう。
そう思うからこそ、奏太は思う。
(……ああ、修一くん、可哀想)
すっかり黙りこくってしまった修一を注意深く観察しながら、奏太はひっそり息を吐いた。
(修一くんの扱い方間違えたおバカさんに見せつけるワケじゃないけど、大丈夫だよおーぎさん)
幸い、自分はインターネット環境と動画撮影機材さえあれば広告収入で生きていける。そこに修一が1人加わっても、大丈夫なくらいには貯金はある。
脳内で計算し、奏太は大丈夫と踏んだ。
もし国内で生きていくのが難しければ、しばらく海外に逃げてもいい。その間に警察には頑張ってもらわないと。
奏太は決意する。
最初は興味本位から近づいたが、今は修一のことを隅々まで知り尽くしたいと思っていることは本当だ。
心のうちから性感帯まで、修一の全てを知りたい。そして、彼の細胞をすべて自分の作った料理から摂れた栄養素だけで構成したい。
奏太は今まで動画配信者として炎上しない程度に出会いとワンナイトラブを満喫してきたが、ここまで1人に執着するのは初めてだった。
(ちゃんと俺が修一くんのこと愛していくからね。だから、修一くんの身柄を裏社会から返してもらう)
不意に、修一がびくりと肩を揺らす。
奏太が自分の手を握ってきたからだ。
「……画面越しなんて言わずに、間近で俺のこと見ててみたくない?」
「……な、んだと……?」
「俺たち、きっと両思いになれるよ」
そう言い、奏太は修一の手をいったん離すとやや動揺しているような彼の両腿にまたがる。そうしないと奏太が修一を見上げることが出来ないのだ。
両肩に手を置かれたあたりで、我に返ったように修一が口を開く。
「な、なにを、っ?!」
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