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menu.5 心癒やすコンソメスープ(1)
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神谷の計らいで、修一と奏太は覆面パトカーで最寄りの総合病院に搬送された。
修一が何よりも優先した奏太の容態は、当直医の所見によると額周辺のひっかき傷と耳の擦り傷は消毒と軟膏、念のために数日ガーゼを貼り合わせておくぐらいの手当で済む軽傷だった。
踏まれた腹に関しては、修一が目を見張ることになる。なんと奏太は服の下に胸部と腹部兼用のインナープロテクターを仕込んでいたのだ。これは機動隊に所属している修一と神谷の同期同班である人物が、あらかじめ井上と共に上官に掛け合い借用許可が下りていたという。どれだけ警視庁と新宿署は今回の案件に本気を出していたんだ……と修一はその場でめまいを起こしかけた。そして、青木を挑発するような物言いを繰り返していたのは、手応えでプロテクターを着用していることを悟らせないためだったのか……、としたくない納得もした。
ともかく奏太は、プロテクターの防御力と必死で腹筋に力を篭めていたことが合わさり、幸いにも内臓破裂は起こしていないようだった。打撲のレベルは軽度とは口が裂けても言えるものではないが、仮に内蔵が破裂していたとしたら今頃けろりとした顔をしていられないはずだ、というのが医師の見立てだ。
念のため翌日の診療時間内にCTスキャンやエコーなどの検査をした方がいいだろう、という当直医の意見で、明日奏太は再びこの病院を受診することが決まった。その結果で入院するかどうかが決まるだろう。
だが、専門が外科ではない当直医だったものの、人間の容態を看ることには長けている医者だ。微かな奏太の脂汗を見咎め、看護師と2人がかりで湿布と包帯で彼の腹部をがっしりと固めていた。腹部広範囲にアザが出来ていたのだから、当然の処置とも言えよう。換えの湿布と包帯も処方される。
ひとまずの診断が決して悪いだけの結果ではないことに、修一は捜査の必要経費として会計する神谷と奏太の背を見ながら、ひっそり胸を撫で下ろしていた。
もし奏太に何かあれば、彼の両親、友人、仲間、そしてチャンネルのファンたちに申し訳がたたない。
ファンがもし今日のことを聞きつけたとしたら、きっと奏太をこんなことに巻き込んだ自分に怒りの矛先が向くだろう。それは甘んじて受けるつもりだ。制裁や報復がどのようなものであっても、その全てを受け入れる。裏社会の人間の暴力を、身に受けたことはなくとも見聞きはしてきたのだから、それらに釣り合うだけの暴力を身に受けてから死ななければならないだろう。
鬱々とした目で嗤っていると、その表情が見えたらしい奏太がむすりとした顔で修一の肩口をバシンと叩いた。
「ちょっと修一くん、何か変なこと考えてないだろうね?」
「痛いぞ奏太」
「答えになってないんだけど!」
どこかの何かが壊れたままの笑みで答える修一に剣呑なものを覚えた奏太は、困ったような顔をして神谷を見上げる。
すると神谷は苦笑して、修一の肩を叩いた。
「あんまり佐々木さんを怖がらせるなよ。お前のためならって危険地帯にわざわざ飛び込んできたんだ。本当なら、俺たち警察に丸投げしてくれていい案件だったのに」
それを聞いて、修一の表情が不機嫌そうなものになった。
「……そうだ、何故奏太は俺にわざわざ接触するような真似をしたんだ。奴らから、俺のことは説明されていたはずなのに……」
その答えは今ここで口にしていいものなのか。奏太は神谷に視線を向ける。
神谷は「うーん」と少し考え、「ま、いいか」と自分の中で結論を出したように呟く。
「俺の裁量で教えられることは教えてやるか。モヤったままだと、お前なにしでかすか分からんしな」
ひとまず、と神谷は清涼飲料水の自動販売機が設置してある方向を、親指で指した。
「なんか飲んで落ち着け。な?」
修一が何よりも優先した奏太の容態は、当直医の所見によると額周辺のひっかき傷と耳の擦り傷は消毒と軟膏、念のために数日ガーゼを貼り合わせておくぐらいの手当で済む軽傷だった。
踏まれた腹に関しては、修一が目を見張ることになる。なんと奏太は服の下に胸部と腹部兼用のインナープロテクターを仕込んでいたのだ。これは機動隊に所属している修一と神谷の同期同班である人物が、あらかじめ井上と共に上官に掛け合い借用許可が下りていたという。どれだけ警視庁と新宿署は今回の案件に本気を出していたんだ……と修一はその場でめまいを起こしかけた。そして、青木を挑発するような物言いを繰り返していたのは、手応えでプロテクターを着用していることを悟らせないためだったのか……、としたくない納得もした。
ともかく奏太は、プロテクターの防御力と必死で腹筋に力を篭めていたことが合わさり、幸いにも内臓破裂は起こしていないようだった。打撲のレベルは軽度とは口が裂けても言えるものではないが、仮に内蔵が破裂していたとしたら今頃けろりとした顔をしていられないはずだ、というのが医師の見立てだ。
念のため翌日の診療時間内にCTスキャンやエコーなどの検査をした方がいいだろう、という当直医の意見で、明日奏太は再びこの病院を受診することが決まった。その結果で入院するかどうかが決まるだろう。
だが、専門が外科ではない当直医だったものの、人間の容態を看ることには長けている医者だ。微かな奏太の脂汗を見咎め、看護師と2人がかりで湿布と包帯で彼の腹部をがっしりと固めていた。腹部広範囲にアザが出来ていたのだから、当然の処置とも言えよう。換えの湿布と包帯も処方される。
ひとまずの診断が決して悪いだけの結果ではないことに、修一は捜査の必要経費として会計する神谷と奏太の背を見ながら、ひっそり胸を撫で下ろしていた。
もし奏太に何かあれば、彼の両親、友人、仲間、そしてチャンネルのファンたちに申し訳がたたない。
ファンがもし今日のことを聞きつけたとしたら、きっと奏太をこんなことに巻き込んだ自分に怒りの矛先が向くだろう。それは甘んじて受けるつもりだ。制裁や報復がどのようなものであっても、その全てを受け入れる。裏社会の人間の暴力を、身に受けたことはなくとも見聞きはしてきたのだから、それらに釣り合うだけの暴力を身に受けてから死ななければならないだろう。
鬱々とした目で嗤っていると、その表情が見えたらしい奏太がむすりとした顔で修一の肩口をバシンと叩いた。
「ちょっと修一くん、何か変なこと考えてないだろうね?」
「痛いぞ奏太」
「答えになってないんだけど!」
どこかの何かが壊れたままの笑みで答える修一に剣呑なものを覚えた奏太は、困ったような顔をして神谷を見上げる。
すると神谷は苦笑して、修一の肩を叩いた。
「あんまり佐々木さんを怖がらせるなよ。お前のためならって危険地帯にわざわざ飛び込んできたんだ。本当なら、俺たち警察に丸投げしてくれていい案件だったのに」
それを聞いて、修一の表情が不機嫌そうなものになった。
「……そうだ、何故奏太は俺にわざわざ接触するような真似をしたんだ。奴らから、俺のことは説明されていたはずなのに……」
その答えは今ここで口にしていいものなのか。奏太は神谷に視線を向ける。
神谷は「うーん」と少し考え、「ま、いいか」と自分の中で結論を出したように呟く。
「俺の裁量で教えられることは教えてやるか。モヤったままだと、お前なにしでかすか分からんしな」
ひとまず、と神谷は清涼飲料水の自動販売機が設置してある方向を、親指で指した。
「なんか飲んで落ち着け。な?」
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