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menu.3 急展開のペペロンチーノ(3)
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「は?」
修一が瞠目する。
それはそうだろう。ヤクザに契約書一つでお前の行動はお咎めなしとしてやると言われれば、普通の一般人なら従ってしまう。
紫苑は、今日一番の深い深いため息をついた。
「……さすがにびっくりしたわよ。あの子の胆力どうなってるのか解剖して見てみたいぐらいだわ」
徐々に客が増えてきた。紫苑は入ってくる注文をこなしつつ話を続ける。
「『えー、いいんですかぁ~? “俺との接触を今後一切許さない”なんてこんな契約させて~。俺の料理食べさせたら修くんめっちゃいい顔しますよ~? 見たくないんですかぁ? 死んだ目がキラキラになって、ほっぺもちょっと血色戻って、小動物みたいにちまちま食べる、そんな可愛らしい感じの修くん見たくないんですかぁ~? 俺の接触だめ、って料理もだめってことですよね~? あーあ、勿体な~い、そんなかわいい感じの修くん見る機会なんて今のままだとないんじゃないんですか~? 勿体なーい』……って、青木サンのこと煽りやがったのよ、あのバカ」
手に取りかけたワイングラスを、修一は思わず落とすところだった。
「………………何してるんだ……」
思わずテーブルにうずくまって呻いてしまったのは仕方ない。
珍しく見えた彼のつむじを見下ろしながら、紫苑も同意した。
「ほんとに、こっちの寿命が縮んだわよ……。でも青木サン、なんかちょっとカナタのこと気に入っちゃったみたいで……。契約書にその場で何か書き加えてたのよね……」
「……追記した?」
「ええ……」
なんて書いたのかは分からないけど、と紫苑は漏らす。
「……でもアンタ、カナタの料理、めちゃくちゃ気に入ったんでしょ?」
「……ああ」
「……青木さん、カナタのことアンタ専属のお弁当係として利用するつもりかもしれないわね」
その言葉に、修一はハッとする。
「……そういえば、ここ1週間くらい、ガキどもの持ってくる食料がコンビニものじゃなくなっていたんだった……」
「は?!」
もしかして、という思いが二人の間で漂う。
「……もう、奏汰は体よく使われているのかもしれん」
「……えっ、待って、アンタ気づかなかったの?!」
修一は気まずげに目を反らす。
「……あの箱の中にいる間は、何を食っても同じと思っていたからな……」
それはあまりにも鈍感が過ぎやしないだろうか、と紫苑は思う。
普通、コンビニのおにぎりと手作りのおにぎりならば、まず包装から差があるだろう、と。
しかし修一は、青木の部下たちが持ってくる食べ物はすべて無機物だという前提で食べているので、既製品か手作りか、それどころかきちんと人間が食べられるものなのか、そんなのどうでも良かった。それ故の鈍りぶりだ。
「……アンタが昔から、あの組の関係者が一回でも関わった食べ物は全部おままごとセットの食べ物程度にしか認識出来なくなってるのは知ってたけど、まさかコンビニのおにぎりと手作りのおにぎりの違いも分からないアッパラパーになってるなんてね……」
「……言うな……」
紫苑は言葉通りの内容で心配し始めた。頭を抱えている友をカウンターから見下ろして、またため息をつく。
が、修一は奏太の作ったおにぎりを、いつも通り食品サンプル程度の感慨しか持たずに胃に押し込んでいたのかもしれないことを悟って今更打ちひしがれ始めているのだ。
「……もし、もし奏汰が直々に握った握り飯だったとするなら……、俺はなんという冒涜を……!!」
そう嘆き始めた修一を、紫苑は彼のつむじをゴリゴリと押したい衝動に駆られる。そっちの後悔か、と。
そんな二人の様子に、キッチンから裏メニューセットを持って出てきたスタッフが首を傾げている。
「……? ママぁ、シュウさんどしたの?」
「あ、ああ……気にしなくていいわよ」
早くそれ置きなさい、と促され、スタッフは身を起こした修一の席にワンプレートとフォークを置く。
紫苑のセンスで買い付けたプレートは全て絵柄が違う。今回のプレートは綺麗な浅葱色で花畑と空の風景を絵付けされた磁器だ。その中にペペロンチーノと付け合わせのサラダが添えられている。
せっかく出てきた料理に罪はない。修一はおとなしくフォークを持ってパスタを巻き取り始めた。
修一が瞠目する。
それはそうだろう。ヤクザに契約書一つでお前の行動はお咎めなしとしてやると言われれば、普通の一般人なら従ってしまう。
紫苑は、今日一番の深い深いため息をついた。
「……さすがにびっくりしたわよ。あの子の胆力どうなってるのか解剖して見てみたいぐらいだわ」
徐々に客が増えてきた。紫苑は入ってくる注文をこなしつつ話を続ける。
「『えー、いいんですかぁ~? “俺との接触を今後一切許さない”なんてこんな契約させて~。俺の料理食べさせたら修くんめっちゃいい顔しますよ~? 見たくないんですかぁ? 死んだ目がキラキラになって、ほっぺもちょっと血色戻って、小動物みたいにちまちま食べる、そんな可愛らしい感じの修くん見たくないんですかぁ~? 俺の接触だめ、って料理もだめってことですよね~? あーあ、勿体な~い、そんなかわいい感じの修くん見る機会なんて今のままだとないんじゃないんですか~? 勿体なーい』……って、青木サンのこと煽りやがったのよ、あのバカ」
手に取りかけたワイングラスを、修一は思わず落とすところだった。
「………………何してるんだ……」
思わずテーブルにうずくまって呻いてしまったのは仕方ない。
珍しく見えた彼のつむじを見下ろしながら、紫苑も同意した。
「ほんとに、こっちの寿命が縮んだわよ……。でも青木サン、なんかちょっとカナタのこと気に入っちゃったみたいで……。契約書にその場で何か書き加えてたのよね……」
「……追記した?」
「ええ……」
なんて書いたのかは分からないけど、と紫苑は漏らす。
「……でもアンタ、カナタの料理、めちゃくちゃ気に入ったんでしょ?」
「……ああ」
「……青木さん、カナタのことアンタ専属のお弁当係として利用するつもりかもしれないわね」
その言葉に、修一はハッとする。
「……そういえば、ここ1週間くらい、ガキどもの持ってくる食料がコンビニものじゃなくなっていたんだった……」
「は?!」
もしかして、という思いが二人の間で漂う。
「……もう、奏汰は体よく使われているのかもしれん」
「……えっ、待って、アンタ気づかなかったの?!」
修一は気まずげに目を反らす。
「……あの箱の中にいる間は、何を食っても同じと思っていたからな……」
それはあまりにも鈍感が過ぎやしないだろうか、と紫苑は思う。
普通、コンビニのおにぎりと手作りのおにぎりならば、まず包装から差があるだろう、と。
しかし修一は、青木の部下たちが持ってくる食べ物はすべて無機物だという前提で食べているので、既製品か手作りか、それどころかきちんと人間が食べられるものなのか、そんなのどうでも良かった。それ故の鈍りぶりだ。
「……アンタが昔から、あの組の関係者が一回でも関わった食べ物は全部おままごとセットの食べ物程度にしか認識出来なくなってるのは知ってたけど、まさかコンビニのおにぎりと手作りのおにぎりの違いも分からないアッパラパーになってるなんてね……」
「……言うな……」
紫苑は言葉通りの内容で心配し始めた。頭を抱えている友をカウンターから見下ろして、またため息をつく。
が、修一は奏太の作ったおにぎりを、いつも通り食品サンプル程度の感慨しか持たずに胃に押し込んでいたのかもしれないことを悟って今更打ちひしがれ始めているのだ。
「……もし、もし奏汰が直々に握った握り飯だったとするなら……、俺はなんという冒涜を……!!」
そう嘆き始めた修一を、紫苑は彼のつむじをゴリゴリと押したい衝動に駆られる。そっちの後悔か、と。
そんな二人の様子に、キッチンから裏メニューセットを持って出てきたスタッフが首を傾げている。
「……? ママぁ、シュウさんどしたの?」
「あ、ああ……気にしなくていいわよ」
早くそれ置きなさい、と促され、スタッフは身を起こした修一の席にワンプレートとフォークを置く。
紫苑のセンスで買い付けたプレートは全て絵柄が違う。今回のプレートは綺麗な浅葱色で花畑と空の風景を絵付けされた磁器だ。その中にペペロンチーノと付け合わせのサラダが添えられている。
せっかく出てきた料理に罪はない。修一はおとなしくフォークを持ってパスタを巻き取り始めた。
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