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menu.3 急展開のペペロンチーノ(1)
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修一が奏太の家に行ってから一ヶ月。その間、修一は全力で青木に媚を売っていた。
普段絶対しないような手淫に口淫、体位までして、必死に奏太を見逃すように懇願した。
未だにセックスの最中以外は常通りの能面を崩さないとはいえ、従順な態度を示してきた修一に青木は気を良くする。
気を良くしたからこそ、多少は修一の頼みを聞いてやろうかという情けも生まれる。
結果、無事に『奏汰のcookin'ちゃんねる』は更新が続いている。
そのことに修一は涙が出るほど安堵していた。欠片ほどにしか残っていない、成人男性というアイデンティティによるプライドを手放したくない彼にしては、本当に珍しく、安堵が隠しきれなかった。
それが1DK換算の狭い一室に、ありとあらゆる所に仕掛けられた盗聴器と監視カメラで筒抜けだったとしても構わなかった。
せいぜい、奏汰が自分の命綱なのだと認識すればいい、と思っているのだ。
そんな、檻の中に引きこもっている生活を続けていれば、いい加減気を揉んでいた紫苑から鬼のような着信が来るのは必然と言えよう。
『紫苑 17:45
紫苑 17:43
紫苑 17:42
紫苑 17:40
紫苑 17:39
紫苑 17:35
青木 剛 17:28
紫苑 17:27
紫苑 17:24
紫苑 17:22
紫苑 17:21
紫苑 17:19
紫苑 17:16
紫苑 17:13
紫苑 17:12
紫苑 17:10
紫苑 17:09
紫苑 17:06
紫苑 17:04
紫苑 17:03
紫苑 17:00
紫苑 16:57
紫苑 16:55
紫苑 16:53
紫苑 16:52
紫苑 16:49
紫苑 16:47
紫苑 16:45
紫苑 16:44
紫苑 16:41』
……と、合間に青木の着信がかいま見えるものの、ほぼ紫苑からの着信で履歴表示が一杯になってしまうほどだった。
「……面倒くさい彼女気取りの女か、あいつは」
その実態は“1ヶ月も顔見せないでどこほっつき歩いてんのよどっかで野垂れ死んでんじゃないわよね?!”ということなのだが。
電気もつけず、暗い部屋の中で、修一はベッドに丸くなりながらその着信履歴を眺めていた。するとまたスマートフォンが鳴り始める。
ここ1ヶ月でうんざりするほど見慣れた番号。これ以上はさすがに鬱陶しいな、と思った修一はたっぷり10秒放置してから応答をタップした。
『あっ、やっと出たわねアンタ!! この1ヶ月何してたのよ!!』
「うるさいな……」
応答した瞬間にそう怒鳴った紫苑。思わず修一は眉をしかめて、スマートフォンをスピーカー対応にする。
『うるさいってどういうこと?! こちとらダチを心配してやってるってのに、なによその言い草はぁ!!』
大体メール一つだけ寄越してあと全無視なんて……、と説教が続きそうだったので、修一はうんざりしながらも口元に笑みが出来る。
お前は彼女面した女を通り越して口うるさい母親か何かか、と言いたくなるが、純粋に自分を心配してくれているのだと分かってもいるのだ。
互いに、一番精神がささくれ立っているときにそれとなく支え合った仲だ。普段はなんだかんだと言いあいながらも、一定の信頼は抱いている。
だからこそ、修一はあるメールを紫苑に送っていた。
「……谷崎」
『あ゛ぁん?!』
立石に水と言わんばかりのお説教をキャンセルするために、あえて彼女の本名を口に出す。
案の定、ガラの悪い声がスピーカーから飛び出してきた。
更にボルテージの上がった文句が出てくる前に、修一は先んじて口を出す。
「メールの件はどうなった」
すると、しん……とスマートフォンから一瞬の沈黙が漂う。
それから微かにため息をついたと思しき音が聞こえてきた。
『……アンタ、ごはんちゃんと食べてんの?』
「は?」
いきなり別の方向に飛んだ話に、修一は眉根を寄せる。
『話を聞きたきゃ、店に来なさい!』
普段絶対しないような手淫に口淫、体位までして、必死に奏太を見逃すように懇願した。
未だにセックスの最中以外は常通りの能面を崩さないとはいえ、従順な態度を示してきた修一に青木は気を良くする。
気を良くしたからこそ、多少は修一の頼みを聞いてやろうかという情けも生まれる。
結果、無事に『奏汰のcookin'ちゃんねる』は更新が続いている。
そのことに修一は涙が出るほど安堵していた。欠片ほどにしか残っていない、成人男性というアイデンティティによるプライドを手放したくない彼にしては、本当に珍しく、安堵が隠しきれなかった。
それが1DK換算の狭い一室に、ありとあらゆる所に仕掛けられた盗聴器と監視カメラで筒抜けだったとしても構わなかった。
せいぜい、奏汰が自分の命綱なのだと認識すればいい、と思っているのだ。
そんな、檻の中に引きこもっている生活を続けていれば、いい加減気を揉んでいた紫苑から鬼のような着信が来るのは必然と言えよう。
『紫苑 17:45
紫苑 17:43
紫苑 17:42
紫苑 17:40
紫苑 17:39
紫苑 17:35
青木 剛 17:28
紫苑 17:27
紫苑 17:24
紫苑 17:22
紫苑 17:21
紫苑 17:19
紫苑 17:16
紫苑 17:13
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紫苑 17:10
紫苑 17:09
紫苑 17:06
紫苑 17:04
紫苑 17:03
紫苑 17:00
紫苑 16:57
紫苑 16:55
紫苑 16:53
紫苑 16:52
紫苑 16:49
紫苑 16:47
紫苑 16:45
紫苑 16:44
紫苑 16:41』
……と、合間に青木の着信がかいま見えるものの、ほぼ紫苑からの着信で履歴表示が一杯になってしまうほどだった。
「……面倒くさい彼女気取りの女か、あいつは」
その実態は“1ヶ月も顔見せないでどこほっつき歩いてんのよどっかで野垂れ死んでんじゃないわよね?!”ということなのだが。
電気もつけず、暗い部屋の中で、修一はベッドに丸くなりながらその着信履歴を眺めていた。するとまたスマートフォンが鳴り始める。
ここ1ヶ月でうんざりするほど見慣れた番号。これ以上はさすがに鬱陶しいな、と思った修一はたっぷり10秒放置してから応答をタップした。
『あっ、やっと出たわねアンタ!! この1ヶ月何してたのよ!!』
「うるさいな……」
応答した瞬間にそう怒鳴った紫苑。思わず修一は眉をしかめて、スマートフォンをスピーカー対応にする。
『うるさいってどういうこと?! こちとらダチを心配してやってるってのに、なによその言い草はぁ!!』
大体メール一つだけ寄越してあと全無視なんて……、と説教が続きそうだったので、修一はうんざりしながらも口元に笑みが出来る。
お前は彼女面した女を通り越して口うるさい母親か何かか、と言いたくなるが、純粋に自分を心配してくれているのだと分かってもいるのだ。
互いに、一番精神がささくれ立っているときにそれとなく支え合った仲だ。普段はなんだかんだと言いあいながらも、一定の信頼は抱いている。
だからこそ、修一はあるメールを紫苑に送っていた。
「……谷崎」
『あ゛ぁん?!』
立石に水と言わんばかりのお説教をキャンセルするために、あえて彼女の本名を口に出す。
案の定、ガラの悪い声がスピーカーから飛び出してきた。
更にボルテージの上がった文句が出てくる前に、修一は先んじて口を出す。
「メールの件はどうなった」
すると、しん……とスマートフォンから一瞬の沈黙が漂う。
それから微かにため息をついたと思しき音が聞こえてきた。
『……アンタ、ごはんちゃんと食べてんの?』
「は?」
いきなり別の方向に飛んだ話に、修一は眉根を寄せる。
『話を聞きたきゃ、店に来なさい!』
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