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Act.11 リアンと共に

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「……私も、ネレンミア殿には個人的な恨みを少々抱えておりました。ですが、それは全て私の実力不足が原因のもの。私の恨みは、今この場での戦いで晴らしました。それよりも、教団騎士団の団長であるこの方が、呪術で本人の意思が消されてここに置かれていたことのほうが問題です」
「は!? どういうことよ!!」

 俺たちの会話を聞いていたのか。正直、ちょっとだけ意外だった。
 俺がネレンミア殿の体を教皇の上からどけたときに、彼の元に駆け寄っていた聖女マキナに、俺は向き直って言う。

「聖女様に申し上げます。何故ネレンミア殿が呪法と思しき術をかけられ、この地に留め置かれていたのか、その理由をお知りになりたくはありませんか」

 こう訊いてみると、彼女はこくこくと頷いた。

「当然でしょ!? エイギルさんにそんな無体を強いたのがコイツだったとしたら、ぶん殴るだけじゃ足りないわよ!! そのためにはきちんと尋問しなきゃね!!」

 ばしん、と自分の杖を片手に打ち付けて吠える聖女様。
 ……うーん。平民としては、こういう聖女様も逞しく、平民目線で親しみやすいんじゃないかな? 俺は割と好ましい部類だ。
 ぐるぐると、手首を回して杖をぶん回しているクリストファー様に向き直る。

「どうでしょうか、クリストファー様。あなた様の、彼らへの恨みも殺意も深いのは十分に理解しています。ですが、ここは私と聖女マキナ様の意を汲んではいただけませんでしょうか」
「……時と場合によっては殺すからな」

 ……参ったな。まだクリストファー様はネレンミア殿や教皇への殺意をなんとか出来かねるらしい。
 ならば。

「それは、精霊の方々に判断してもらってもよろしいのではないかと存じます」
「……へえ。誰に判断してもらうの?」

 おっ、声音と口調が元に戻った。いけるな。

「それは決まっています」

 俺は大樹を見上げた。【照明魔法】と<魔法素マナ>に照らされ、仄かな輝きを纏う世界樹を。

「世界樹の精霊、ユグドラシルとその子ですよ」

 俺がそう言った途端、パァァ……、と急に大樹が輝き出した。
 何ごとかと騎士殿たちが、動けないネレンミア殿と、彼に回復魔法をかけ始めた聖女マキナを守るように、二人の前後を取る。
 だが警戒する必要はない。何故なら――……。

『警戒するな、人の子らよ』

 大樹から声が聞こえる。その声で聖女は警戒を解いたようだ。

「安心して、このお声はユグドラシル様だわ!」

 回復魔法を維持しながら聖女マキナが騎士殿たちに声をかけた。騎士達はハッとして剣を納め、その場に跪いた。
 クリストファー様も倣って跪いたので、俺も同様にしておく。
 光が収束していく。リアンが俺たちの前に現れた時よりも柔らかい光なのに、どうしてかあの時のことを思い出した。
 光が人間大に収束していく。ふと、「おお……!」という声が聞こえた。

「ユグドラシル様……!」

 あ、起きたのか、教皇猊下。
 光の収束が終わる。爪先からふわりと光がほどけていく。

『人の子らよ、面を上げよ』

 その声で、俺たちは顔を上げた。
 世界樹の前に、ユグドラシルが顕現していた。その腕の中には、次代のユグドラシルであるリアンが抱えられている。

(……あれ?)

 俺は内心で小首を傾げる。チラリとクリストファー様を伺うと、俺にほんの少しだけ戸惑ったような視線を向けてきた。
 だって、ユグドラシルと一緒に顕れたリアンの姿は、どう見てもグルシエス邸にいた頃よりも成長していたんだから。

(……見た目的に、5、6歳、くらいか……?)

 乳児と幼児の狭間の、あのちょっとスラリとし始めてくる頃合いから、より腕も脚も伸びて少しだけお兄さん……お兄さん? めいている。
 ふと、ユグドラシルと視線があった。ばちっと。確実に。

『ディラン、久しいな。クリストファーは初めてか』
「え、あ、はい……」
「お、お初にお目にかか、り、ます……?」

 思わずどもってしまった。
 クリストファー様に至っては、なんて受け答えしたらいいのか分からなくなったようだ。
 そんな俺たちの反応に、ユグドラシルは微笑ましいものを聞いたとばかりの顔をした。

『よいよい。楽に喋るといい』

 くすくすと笑うユグドラシルと、ペッカペカにご満悦なリアン。
 許可は下りたが、流石にイフリートたちのようにざっくばらんには話せないと判断したようだ。クリストファー様はユグドラシルに対して丁寧な言葉遣いを貫くようだ。

「……もったいないお言葉です。精霊ユグドラシル」
『……むう』

 そうやってむくれると、やっぱりリアンの親だけあって、よく似ているなぁ……。
 と思っていると、蔦でグルグルに縛り上げられているはずの教皇が吠えてきた。

「ユグドラシル様!! こやつらに慈悲など不要!! 今すぐこの蔦をお外しください、私自ら成敗を」
「うるさい」

 不機嫌な幼子の声と共に、ぎゅるるるっ!! と蔦が教皇の口を塞ぎ首に巻き付いた。
 信じられないと言わんばかりに目を剥いている教皇に、リアンはぞっとするほど冷たく言い放つ。

「死にたくなければ黙っていろ、不愉快だ」
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