86 / 108
Act.11 リアンと共に
10
しおりを挟む
「……私も、ネレンミア殿には個人的な恨みを少々抱えておりました。ですが、それは全て私の実力不足が原因のもの。私の恨みは、今この場での戦いで晴らしました。それよりも、教団騎士団の団長であるこの方が、呪術で本人の意思が消されてここに置かれていたことのほうが問題です」
「は!? どういうことよ!!」
俺たちの会話を聞いていたのか。正直、ちょっとだけ意外だった。
俺がネレンミア殿の体を教皇の上からどけたときに、彼の元に駆け寄っていた聖女マキナに、俺は向き直って言う。
「聖女様に申し上げます。何故ネレンミア殿が呪法と思しき術をかけられ、この地に留め置かれていたのか、その理由をお知りになりたくはありませんか」
こう訊いてみると、彼女はこくこくと頷いた。
「当然でしょ!? エイギルさんにそんな無体を強いたのがコイツだったとしたら、ぶん殴るだけじゃ足りないわよ!! そのためにはきちんと尋問しなきゃね!!」
ばしん、と自分の杖を片手に打ち付けて吠える聖女様。
……うーん。平民としては、こういう聖女様も逞しく、平民目線で親しみやすいんじゃないかな? 俺は割と好ましい部類だ。
ぐるぐると、手首を回して杖をぶん回しているクリストファー様に向き直る。
「どうでしょうか、クリストファー様。あなた様の、彼らへの恨みも殺意も深いのは十分に理解しています。ですが、ここは私と聖女マキナ様の意を汲んではいただけませんでしょうか」
「……時と場合によっては殺すからな」
……参ったな。まだクリストファー様はネレンミア殿や教皇への殺意をなんとか出来かねるらしい。
ならば。
「それは、精霊の方々に判断してもらってもよろしいのではないかと存じます」
「……へえ。誰に判断してもらうの?」
おっ、声音と口調が元に戻った。いけるな。
「それは決まっています」
俺は大樹を見上げた。【照明魔法】と<魔法素>に照らされ、仄かな輝きを纏う世界樹を。
「世界樹の精霊、ユグドラシルとその子ですよ」
俺がそう言った途端、パァァ……、と急に大樹が輝き出した。
何ごとかと騎士殿たちが、動けないネレンミア殿と、彼に回復魔法をかけ始めた聖女マキナを守るように、二人の前後を取る。
だが警戒する必要はない。何故なら――……。
『警戒するな、人の子らよ』
大樹から声が聞こえる。その声で聖女は警戒を解いたようだ。
「安心して、このお声はユグドラシル様だわ!」
回復魔法を維持しながら聖女マキナが騎士殿たちに声をかけた。騎士達はハッとして剣を納め、その場に跪いた。
クリストファー様も倣って跪いたので、俺も同様にしておく。
光が収束していく。リアンが俺たちの前に現れた時よりも柔らかい光なのに、どうしてかあの時のことを思い出した。
光が人間大に収束していく。ふと、「おお……!」という声が聞こえた。
「ユグドラシル様……!」
あ、起きたのか、教皇猊下。
光の収束が終わる。爪先からふわりと光がほどけていく。
『人の子らよ、面を上げよ』
その声で、俺たちは顔を上げた。
世界樹の前に、ユグドラシルが顕現していた。その腕の中には、次代のユグドラシルであるリアンが抱えられている。
(……あれ?)
俺は内心で小首を傾げる。チラリとクリストファー様を伺うと、俺にほんの少しだけ戸惑ったような視線を向けてきた。
だって、ユグドラシルと一緒に顕れたリアンの姿は、どう見てもグルシエス邸にいた頃よりも成長していたんだから。
(……見た目的に、5、6歳、くらいか……?)
乳児と幼児の狭間の、あのちょっとスラリとし始めてくる頃合いから、より腕も脚も伸びて少しだけお兄さん……お兄さん? めいている。
ふと、ユグドラシルと視線があった。ばちっと。確実に。
『ディラン、久しいな。クリストファーは初めてか』
「え、あ、はい……」
「お、お初にお目にかか、り、ます……?」
思わずどもってしまった。
クリストファー様に至っては、なんて受け答えしたらいいのか分からなくなったようだ。
そんな俺たちの反応に、ユグドラシルは微笑ましいものを聞いたとばかりの顔をした。
『よいよい。楽に喋るといい』
くすくすと笑うユグドラシルと、ペッカペカにご満悦なリアン。
許可は下りたが、流石にイフリートたちのようにざっくばらんには話せないと判断したようだ。クリストファー様はユグドラシルに対して丁寧な言葉遣いを貫くようだ。
「……もったいないお言葉です。精霊ユグドラシル」
『……むう』
そうやってむくれると、やっぱりリアンの親だけあって、よく似ているなぁ……。
と思っていると、蔦でグルグルに縛り上げられているはずの教皇が吠えてきた。
「ユグドラシル様!! こやつらに慈悲など不要!! 今すぐこの蔦をお外しください、私自ら成敗を」
「うるさい」
不機嫌な幼子の声と共に、ぎゅるるるっ!! と蔦が教皇の口を塞ぎ首に巻き付いた。
信じられないと言わんばかりに目を剥いている教皇に、リアンはぞっとするほど冷たく言い放つ。
「死にたくなければ黙っていろ、不愉快だ」
「は!? どういうことよ!!」
俺たちの会話を聞いていたのか。正直、ちょっとだけ意外だった。
俺がネレンミア殿の体を教皇の上からどけたときに、彼の元に駆け寄っていた聖女マキナに、俺は向き直って言う。
「聖女様に申し上げます。何故ネレンミア殿が呪法と思しき術をかけられ、この地に留め置かれていたのか、その理由をお知りになりたくはありませんか」
こう訊いてみると、彼女はこくこくと頷いた。
「当然でしょ!? エイギルさんにそんな無体を強いたのがコイツだったとしたら、ぶん殴るだけじゃ足りないわよ!! そのためにはきちんと尋問しなきゃね!!」
ばしん、と自分の杖を片手に打ち付けて吠える聖女様。
……うーん。平民としては、こういう聖女様も逞しく、平民目線で親しみやすいんじゃないかな? 俺は割と好ましい部類だ。
ぐるぐると、手首を回して杖をぶん回しているクリストファー様に向き直る。
「どうでしょうか、クリストファー様。あなた様の、彼らへの恨みも殺意も深いのは十分に理解しています。ですが、ここは私と聖女マキナ様の意を汲んではいただけませんでしょうか」
「……時と場合によっては殺すからな」
……参ったな。まだクリストファー様はネレンミア殿や教皇への殺意をなんとか出来かねるらしい。
ならば。
「それは、精霊の方々に判断してもらってもよろしいのではないかと存じます」
「……へえ。誰に判断してもらうの?」
おっ、声音と口調が元に戻った。いけるな。
「それは決まっています」
俺は大樹を見上げた。【照明魔法】と<魔法素>に照らされ、仄かな輝きを纏う世界樹を。
「世界樹の精霊、ユグドラシルとその子ですよ」
俺がそう言った途端、パァァ……、と急に大樹が輝き出した。
何ごとかと騎士殿たちが、動けないネレンミア殿と、彼に回復魔法をかけ始めた聖女マキナを守るように、二人の前後を取る。
だが警戒する必要はない。何故なら――……。
『警戒するな、人の子らよ』
大樹から声が聞こえる。その声で聖女は警戒を解いたようだ。
「安心して、このお声はユグドラシル様だわ!」
回復魔法を維持しながら聖女マキナが騎士殿たちに声をかけた。騎士達はハッとして剣を納め、その場に跪いた。
クリストファー様も倣って跪いたので、俺も同様にしておく。
光が収束していく。リアンが俺たちの前に現れた時よりも柔らかい光なのに、どうしてかあの時のことを思い出した。
光が人間大に収束していく。ふと、「おお……!」という声が聞こえた。
「ユグドラシル様……!」
あ、起きたのか、教皇猊下。
光の収束が終わる。爪先からふわりと光がほどけていく。
『人の子らよ、面を上げよ』
その声で、俺たちは顔を上げた。
世界樹の前に、ユグドラシルが顕現していた。その腕の中には、次代のユグドラシルであるリアンが抱えられている。
(……あれ?)
俺は内心で小首を傾げる。チラリとクリストファー様を伺うと、俺にほんの少しだけ戸惑ったような視線を向けてきた。
だって、ユグドラシルと一緒に顕れたリアンの姿は、どう見てもグルシエス邸にいた頃よりも成長していたんだから。
(……見た目的に、5、6歳、くらいか……?)
乳児と幼児の狭間の、あのちょっとスラリとし始めてくる頃合いから、より腕も脚も伸びて少しだけお兄さん……お兄さん? めいている。
ふと、ユグドラシルと視線があった。ばちっと。確実に。
『ディラン、久しいな。クリストファーは初めてか』
「え、あ、はい……」
「お、お初にお目にかか、り、ます……?」
思わずどもってしまった。
クリストファー様に至っては、なんて受け答えしたらいいのか分からなくなったようだ。
そんな俺たちの反応に、ユグドラシルは微笑ましいものを聞いたとばかりの顔をした。
『よいよい。楽に喋るといい』
くすくすと笑うユグドラシルと、ペッカペカにご満悦なリアン。
許可は下りたが、流石にイフリートたちのようにざっくばらんには話せないと判断したようだ。クリストファー様はユグドラシルに対して丁寧な言葉遣いを貫くようだ。
「……もったいないお言葉です。精霊ユグドラシル」
『……むう』
そうやってむくれると、やっぱりリアンの親だけあって、よく似ているなぁ……。
と思っていると、蔦でグルグルに縛り上げられているはずの教皇が吠えてきた。
「ユグドラシル様!! こやつらに慈悲など不要!! 今すぐこの蔦をお外しください、私自ら成敗を」
「うるさい」
不機嫌な幼子の声と共に、ぎゅるるるっ!! と蔦が教皇の口を塞ぎ首に巻き付いた。
信じられないと言わんばかりに目を剥いている教皇に、リアンはぞっとするほど冷たく言い放つ。
「死にたくなければ黙っていろ、不愉快だ」
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない
時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。
通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。
黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。
騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない?
◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。
◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる