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Act.4 押しかけペットとグルシエス家中
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ふと、クリストファー様が深いため息をついた。
少し眉間に皺が寄っているその表情に、リアンがおずおずと訊ねる。
「……ままぁ、おこってる?」
すると、クリストファー様は、先ほどよりは穏やかな声で答えた。
「……怒ってはいないけど、なんで今日になるまでリアンは黙ってたのか、そして何で俺たち大人たちは気づかなかったのか、とは思ってるかな」
「……ごめんなしゃい……」
……謝った、ということは、クリストファー様の疑問の答えを、リアンは知ってるということか?
まあ、普通に聞き出してもこちらの納得いく答えが出てくるかどうかは分からないが……。
「……クリスおじさま」
アルフォンソ様がようやく呆然状態から抜け出されたようだ。
おずおずと、クリストファー様にご質問なさる。
「……このトリ……、ふつうのトリじゃないんですね?」
「……うん、そうなるね」
「そうですか。だってさ、ミハイル。このトリはかえないトリだよ」
「……うぅ~……」
アルフォンソ様に諭され、抱きかかえられたまましょんぼりとなさるミハイル様。
まあ仕方ございません。しばらくは家中の契約鳥形妖精でご納得くださいませ。
「……二人は遊んどいで。僕たちはちょっと用事が出来たから」
「はい」
すぐにでも報告する必要があると感じたのか、クリストファー様がアルフォンソ様とミハイル様に告げた。
アルフォンソ様は返答なされたが、ミハイル様はすっかりご機嫌を損ねたようで、護衛にしがみついたまま何もおっしゃらなかった。
アルフォンソ様が、チビ達二人とお手を繋がれて別邸の方面へと歩いていかれた。その後に護衛二人が続く。
「……さ、リアン、行くよ。その不思議生物たちも一緒にね」
「あい。みんな、おいでー」
さっきリアンを様付けしていたあたり、この不思議生物たちはリアンの言うことなら素直に聞くらしい。
リアンがシルクねずみを頭に乗せたままトカゲを抱え、ゼリー魚と小鳥は飛んでついてきた。
向かう先は、本邸の執務室だ。
***************
「……ふむ、なるほど。お前たち二人は、数日前からこのトカゲに見られていた感覚を覚えていた。が、害意はなかったので様子見していたところ、今日リアンを呼び水に三匹増えた……というところか」
本邸の執務室にて、顎をさすりながらそうおっしゃられたのはゲオルギオス様。
御館様は昨日から、奥様や親父、第二部隊、魔道部隊を率いて国境の確認に赴いておられる。
そのため、現在当家をまとめておられるのはゲオルギオス様だ。
「はい。このトカゲ……のようなものから、僕たちが感じていた気配と同じ<属性>を感じます」
「ふむ……」
クリストファー様の返答に、ゲオルギオス様はじっと不思議生物たちを見つめなさる。
リアンの頭の上にシルクねずみ、腕の中にトカゲ、両肩に小鳥と魚という布陣で、ゲオルギオス様をじっと見ている。
……おい不思議生物ども、なにゲオルギオス様のことを値踏みするような目で見てんだ? あ?
普通の生物じゃないことを差し引いても、失礼極まりねえなお前ら。
ゲオルギオス様が値踏みする分にはいいんだよ。グルシエス家の方々はこの領地、お家、民の安寧のために働いていらっしゃるのだから。
不審生物には厳しい目を向けないとな。
「……リアン。彼らはいつからここの屋敷にいたのか分かるかな?」
「……えっと……」
問われて、リアンは指を折って数え始めた。
1、2、……え、ちょっと待てよ、そんなに前からいたのか!?
「……12にち、くらいまえかなぁ」
「……そうか……」
思わず頭をお抱えになったゲオルギオス様。
そうですよね……俺も許されるなら頭を抱えたいです……。
そもそも、俺こそ真っ先に気づかなきゃいけない立場の人間なのに、12日間もこいつらが入り込んでるのに気づかなかったんだから……。
ああ、お前は何をしてたんだと言わんばかりの兄貴の視線が痛い……。
「こんなにも気づくのが遅れたのは、我々全員の落ち度だな……。というわけでディラン、必要以上に自らを責めるのは止めるように。もしやすると母上も気づいておらなんだ可能性もあったのだからな」
「はい……」
余りにも俺が胃痛を抱えてそうな顔をしていたのがお気になられたのか、ゲオルギオス様に慰めのお言葉をいただいた。
……とはいうものの、やはり俺にも立場というものがある。
最近気が弛んでいたのかもしれない。久しぶりに真剣での鍛錬でもするかな……。
『ハン、なんでぃなんでぃ。まるでオレらが悪人みてぇな言い草しやがってこんちくしょうが』
……あ? この物言いは……トカゲか?
少し身を乗り出して、俺の斜め前に立っているリアンの腕の中を見た。
トカゲは抱きかかえられたまま、まるで頬杖をついているように前足で顎を支えていた。……随分と人間くさい仕草だな……。
『第一、オレらは手前ェら人間なんぞ、てぇして興味もねぇんだ。オレらがわざわざコソドロみてぇに隠れながらこの小僧と小童を見張ってたのは、リアン様の安全のためでぃ』
……ほー? なるほど?
「……つまり、俺たちがリアンを何か利用しようとしないか見てたってことか?」
『そうでぃ』
俺の問いかけに、トカゲは居丈高に頷いた。
随分と心外なことを言われたもんだ。リアンが本当にグルシエス家に仇なす存在にならない限り、何もしないってのに。
『……ただなァ』
トカゲが見上げてきた。俺とクリストファー様を順番に視界に収めながら、ぶつぶつと言ってくる。まるで文句でも言うかのようだった。
『ここに住んでやがる人間のガキよりも、リアン様の方が出来たお方だからよぉ。手前ェらがリアン様に危害を加えようだァっつうことはなかったってェわけだ』
「当たり前だろ。何もしてない子供に攻撃を加えるほど、ここの人間は堕ちちゃいない」
俺の言葉に、ゲオルギオス様とクリストファー様が揃って頷かれた。
「そのような非道を働く者は我が家中にはおらん。もし新入りとして入ってきたとしても、適切な〝指導〟を入れるように徹底している」
「そうそう。口で分かってくれそうな人には言葉でもって、ちょっとばかり上には上がいるってことを分からせないといけない人には、実力行使をちょちょいとね」
少し眉間に皺が寄っているその表情に、リアンがおずおずと訊ねる。
「……ままぁ、おこってる?」
すると、クリストファー様は、先ほどよりは穏やかな声で答えた。
「……怒ってはいないけど、なんで今日になるまでリアンは黙ってたのか、そして何で俺たち大人たちは気づかなかったのか、とは思ってるかな」
「……ごめんなしゃい……」
……謝った、ということは、クリストファー様の疑問の答えを、リアンは知ってるということか?
まあ、普通に聞き出してもこちらの納得いく答えが出てくるかどうかは分からないが……。
「……クリスおじさま」
アルフォンソ様がようやく呆然状態から抜け出されたようだ。
おずおずと、クリストファー様にご質問なさる。
「……このトリ……、ふつうのトリじゃないんですね?」
「……うん、そうなるね」
「そうですか。だってさ、ミハイル。このトリはかえないトリだよ」
「……うぅ~……」
アルフォンソ様に諭され、抱きかかえられたまましょんぼりとなさるミハイル様。
まあ仕方ございません。しばらくは家中の契約鳥形妖精でご納得くださいませ。
「……二人は遊んどいで。僕たちはちょっと用事が出来たから」
「はい」
すぐにでも報告する必要があると感じたのか、クリストファー様がアルフォンソ様とミハイル様に告げた。
アルフォンソ様は返答なされたが、ミハイル様はすっかりご機嫌を損ねたようで、護衛にしがみついたまま何もおっしゃらなかった。
アルフォンソ様が、チビ達二人とお手を繋がれて別邸の方面へと歩いていかれた。その後に護衛二人が続く。
「……さ、リアン、行くよ。その不思議生物たちも一緒にね」
「あい。みんな、おいでー」
さっきリアンを様付けしていたあたり、この不思議生物たちはリアンの言うことなら素直に聞くらしい。
リアンがシルクねずみを頭に乗せたままトカゲを抱え、ゼリー魚と小鳥は飛んでついてきた。
向かう先は、本邸の執務室だ。
***************
「……ふむ、なるほど。お前たち二人は、数日前からこのトカゲに見られていた感覚を覚えていた。が、害意はなかったので様子見していたところ、今日リアンを呼び水に三匹増えた……というところか」
本邸の執務室にて、顎をさすりながらそうおっしゃられたのはゲオルギオス様。
御館様は昨日から、奥様や親父、第二部隊、魔道部隊を率いて国境の確認に赴いておられる。
そのため、現在当家をまとめておられるのはゲオルギオス様だ。
「はい。このトカゲ……のようなものから、僕たちが感じていた気配と同じ<属性>を感じます」
「ふむ……」
クリストファー様の返答に、ゲオルギオス様はじっと不思議生物たちを見つめなさる。
リアンの頭の上にシルクねずみ、腕の中にトカゲ、両肩に小鳥と魚という布陣で、ゲオルギオス様をじっと見ている。
……おい不思議生物ども、なにゲオルギオス様のことを値踏みするような目で見てんだ? あ?
普通の生物じゃないことを差し引いても、失礼極まりねえなお前ら。
ゲオルギオス様が値踏みする分にはいいんだよ。グルシエス家の方々はこの領地、お家、民の安寧のために働いていらっしゃるのだから。
不審生物には厳しい目を向けないとな。
「……リアン。彼らはいつからここの屋敷にいたのか分かるかな?」
「……えっと……」
問われて、リアンは指を折って数え始めた。
1、2、……え、ちょっと待てよ、そんなに前からいたのか!?
「……12にち、くらいまえかなぁ」
「……そうか……」
思わず頭をお抱えになったゲオルギオス様。
そうですよね……俺も許されるなら頭を抱えたいです……。
そもそも、俺こそ真っ先に気づかなきゃいけない立場の人間なのに、12日間もこいつらが入り込んでるのに気づかなかったんだから……。
ああ、お前は何をしてたんだと言わんばかりの兄貴の視線が痛い……。
「こんなにも気づくのが遅れたのは、我々全員の落ち度だな……。というわけでディラン、必要以上に自らを責めるのは止めるように。もしやすると母上も気づいておらなんだ可能性もあったのだからな」
「はい……」
余りにも俺が胃痛を抱えてそうな顔をしていたのがお気になられたのか、ゲオルギオス様に慰めのお言葉をいただいた。
……とはいうものの、やはり俺にも立場というものがある。
最近気が弛んでいたのかもしれない。久しぶりに真剣での鍛錬でもするかな……。
『ハン、なんでぃなんでぃ。まるでオレらが悪人みてぇな言い草しやがってこんちくしょうが』
……あ? この物言いは……トカゲか?
少し身を乗り出して、俺の斜め前に立っているリアンの腕の中を見た。
トカゲは抱きかかえられたまま、まるで頬杖をついているように前足で顎を支えていた。……随分と人間くさい仕草だな……。
『第一、オレらは手前ェら人間なんぞ、てぇして興味もねぇんだ。オレらがわざわざコソドロみてぇに隠れながらこの小僧と小童を見張ってたのは、リアン様の安全のためでぃ』
……ほー? なるほど?
「……つまり、俺たちがリアンを何か利用しようとしないか見てたってことか?」
『そうでぃ』
俺の問いかけに、トカゲは居丈高に頷いた。
随分と心外なことを言われたもんだ。リアンが本当にグルシエス家に仇なす存在にならない限り、何もしないってのに。
『……ただなァ』
トカゲが見上げてきた。俺とクリストファー様を順番に視界に収めながら、ぶつぶつと言ってくる。まるで文句でも言うかのようだった。
『ここに住んでやがる人間のガキよりも、リアン様の方が出来たお方だからよぉ。手前ェらがリアン様に危害を加えようだァっつうことはなかったってェわけだ』
「当たり前だろ。何もしてない子供に攻撃を加えるほど、ここの人間は堕ちちゃいない」
俺の言葉に、ゲオルギオス様とクリストファー様が揃って頷かれた。
「そのような非道を働く者は我が家中にはおらん。もし新入りとして入ってきたとしても、適切な〝指導〟を入れるように徹底している」
「そうそう。口で分かってくれそうな人には言葉でもって、ちょっとばかり上には上がいるってことを分からせないといけない人には、実力行使をちょちょいとね」
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